感想欄で「呪いを解いてくれ」と言ってもらい、試みてみました。
……自分の「続きが執筆できない呪い」は、なんとかなってました。
なので、置き去りにしてしまっていた彼らの呪いを解いてみようと。
しかし、間が空きすぎているので簡易的に設定を。
ハヤ
・語り手。黒髪黒目の少年。
・ドラゴン乗りではない。魔力を放出できない体質。刀使い。
ホノメ
・ハヤの姉弟子。黒髪藤色目の少女。
・契約龍は藤色ドラゴンのアメノ。ハヤ相手にはきつい言葉が多く、師匠が大好き。剣使い。
ルグナ
・ハヤ、ホノメの弟弟子。黒髪金目の少年。
・ドラゴン乗りではない。精神感応力が高く、メシマズの兄がいる。剣使い。
レト
・ハヤ、ホノメ、ルグナの師匠。泥のような色の髪に紫の目の青年(外見は)。
・契約龍はコクヨウ。現役で最強のドラゴン乗り。【五翼将】の【黒】。
ヨミ
・謎の白髪黒目薙刀美少女。
・ハイテンションでレトを師匠呼びするが、レトには弟子だと言われていない。
では。
「ねぇ、ホノメさん、ハヤくん。あなたたちは、魔族を見たことがあるんですかぁ?」
「……ないわ」
「ねぇよ」
師匠から紹介された『四人目』のヨミの言葉に、俺もホノメも揃って首を振った。
ホノメに至っては苦虫を嚙み潰したような顔をしており、ルグナは訝し気に直接尋ねた。
「魔族と戦ったことがあるのは、五十年前の時代を生きていた者だけだろう?俺たちの誰もそんな歳ではないぞ」
「あはは、そりゃそうですね。いやそれにしても、ハヤくんは無口ですね。ほら、この武器についてとか聞きたいことあるんじゃないんですか?」
くるくると薙刀を回しながらのヨミに、こちらは肩をすくめた。
薙刀は確かに、俺がいた里にもあった武器だし、扱えないことはない、のだが。
「別に聞きたいことはねぇよ。薙刀なら知ってるから」
「ほう。嗜んだことがおありと。これ、私たちのような女性用の武器だったと思うのですが」
「使える道具は多いほうがいいだろ。さわりだけだ」
そんなことよりも、早く師匠に言われた仕事に取り掛かりたかった。
自分で言うのもなんだが、俺はあまり人懐っこくないし、どちらかというと根が暗くて社交的じゃない。警戒心が薄れるのが、ホノメより遅いのだ。そのホノメだって、身内以外には構えた態度を取るのが当たり前だ。
師匠はあれで結構人に懐きやすいというか、心を開きやすいところはある。まあ、本人が強面美形の無表情なので相手が打ち解けてくれるのは遅いけど。
だから、俺の返答には愛想などなかったのだが、ヨミは気にした様子を見せず含み笑いを漏らした。
「ふふふ、そうですか。師匠の弟子さんだから、やっぱりいろんなことに手を出されるんですね」
「おしゃべりはそのくらいにして仕事にかからないと。本物の魔族だとしたら、一大事なんだから」
「はーいはいはーい!確かにちょっと喋り過ぎましたね。じゃ、行きましょうか!」
薙刀を担いだヨミは、すたすたと歩き出す。
俺たちより前にここへ来て、調べていたという彼女は、行き先がどこかをとっくにわかっているらしかった。襲撃され破壊された三か所のうち、北には師匠が向かうそうだから、俺たちが向かうべきは南の詰め所だと言って、すたすた歩き出す。
反対する理由もなく、俺たちも歩き出した。
街中に、人影は少なかった。魔族に襲撃されたということの真偽はともかく、十人の衛兵が殺されたことは真実なのだ。
魔力持ちや龍の戦士でなくとも、この街の衛兵はきちんと訓練も受けている。野盗ごときに遅れは取らないほどの精度や練度があったはずだ。師匠が、教えてくれたのだから。
そのような衛兵たちが殺されたという知らせに人々が怯えるのも無理はなく、外を歩いている者は皆足早で、武器を持った見慣れない俺たちを見ると、ほぼ全員が頭を下げて逃げるように離れて行った。
空っぽの屋台が並んでいる円形広場や萎れた花が飾られた噴水が、なんとも虚しいものに見える。
「静かだな」
「そうね。皆、家の中に閉じこもってるって感じよ」
「いざ魔族に襲われちゃったら、家の中にいないほうがいいと思うんですけどねぇ。建物ごと燃やされたり潰されたりしますから。昔だったら、皆さっさと荷物をまとめて逃げてるか、街ぐるみで早々と防衛を固めてますよ。でも、どっちの動きもないみたいですしねー。こんなふうに閉じこもって目耳を塞ぐのがいっちばんダメと思うんですけどぉ」
ヨミの言うことはそうだろうが、魔族の脅威を覚えている普通の人間は老人ぐらいなものだ。その彼らだって、平和な日々に慣れているだろうし、すぐさま臨戦態勢にはなれない。
龍の戦士の弟子になり、毎日魔族の話や殺し方を教わっていなければ多分俺だって同じになっていたかもしれない。
だとしたら、魔族の襲撃のことをよく知っているように語るヨミはやはり素性が謎だった。まるで、自分が直に感じた脅威をしゃべっているようだ。
……まぁ、魔力持ちや龍の戦士には、外見が若々しいままのやつもいるけど。師匠とか、ルグナの両親とか。
そのまま、微妙に無言で四人で街中を歩き、ヨミが足を止める。
「おっと、到着しましたよ。あそこの詰め所が襲われた場所です。いやー、もう見事に壊されてますね」
「ヨミさん、あまり軽く言うものじゃないと思うわ。人が死んだのよ」
「これは失敬。ホノメさん」
「……」
藤色の瞳を細めて、ホノメはヨミを見据えたあと歩き出す。
衛兵の詰め所というのは、一定間隔を開けて建てられた城壁内の小部屋である。完全に壁の中に隠れていて外からは見えないものも、塔のように突き出しているものもあり、形は多少異なる。が、どちらも城壁の一部となっている点は変わらない。
そこが壊されたということは、有体に言って街を囲む城壁が崩され、穴が開いているのだ。
一部が崩れた壁の側には、布がかけられたものがいくつか地面に並べられていた。
それは、死体だった。殺されたという衛兵の死体だろう。
三つ並んだ死体の番をするためか、直立不動で立っていた兵が一人、こちらの姿を見てぱっと顔を輝かせた。
「あの!そちらの藤色の瞳のあなたは【黒】の弟子であるホノメ様でしょうか?」
「ええ、私がホノメです。襲撃事件の調査に参りました。そちらの方々のご遺体を改めて、よろしいでしょうか?」
「はい!」
威勢の良い声を出す兵に軽く頭を下げて、俺たちは遺体の周りを取り囲んだ。
遺体に手を合わせて会釈してから、布の端に手をかける。
「取るぞ」
ホノメとルグナが軽く頷くのを見てから、遺体を覆っていた布を取り去る。
果たして、下にあった遺体を見て俺たち三人はほぼ同時に顔をしかめた。
死んでいるのは、おそらく二十代半ばの男だった。見た目だけで言えば、二十代の初めから外見が変わっていない師匠よりも少し上だろう。
右肩から左の腰までがざっくりと斜めに斬られており、赤黒い内臓や肉が見えている。これが、死因らしかった。
一人目をそうやって確かめてから、残りの二人を順に見て回ったが、全員似たような傷で死んでいた。
袈裟懸けに斬られて死んだ一人は恐らく不意打ちされたらしくろくな抵抗のあとはないが、残りの二人は剣を抜いて応戦するところまでは行ったらしい。
だが片方は首を斬られ、片方は額を割られて死んでいた。剣で防御したものの、その防御ごと斬られたと見えた。
偽の魔族にしろ真の魔族にしろ、よほどの怪力の持ち主にやられたのだろう。
「……力任せな刃物傷、だな」
「ええ。切れ味も悪そう。切れ味の悪い刃物で、叩き切ったって感じよ。手入れしてない鉈とか、斧とか。それこそ、ハヤの刀術と真逆のものね」
「だが、魔族の骸骨兵の得物は大概切れ味の悪くなった武器で、しかもそれを叩きつけるように振るうと聞いたぞ。傷口や状況と合っているのではないか?」
「だよなぁ。だけど、骸骨兵ってのは偽装もしやすい魔族でもあるだろ。魔力持ちが、武器持たせた骸骨を操っても同じことができんだからな。屍竜はまず死体を見つけるのが大変だが、骸骨は手に入れやすいし」
「魔族特有の魔力が残ってたらわかるんだけど、駄目そうね。……ああ、やっぱり駄目ね。反応がないわ」
いつの間にか、腰に吊り下げた道具袋の中から丸い時計のようなものを取り出したホノメが肩を落とした。
魔力の種類や量を測るための【魔力針】で、ホノメが使っているのは師匠の友人が改造して特に魔族の魔力をよく測れるようにしたものだ。それで駄目だと言うならば、俺たちの魔力探知能力では探せない。
「って、あれ?ヨミさんは?」
遺体を眺めてどうしたものかと考えかけたとき、ふと思い出した。騒がしかった白髪女の姿が、消えていたのだ。
どこへ行ったのかと辺りを見回したちょうどそのとき、崩れた壁の影からひょこひょこと薙刀の先が動いているのが見えた。
続けて、ひょこりと彼女本人が現れる。
「ここですよー!こっちに竜の痕跡らしものがあるので、来てくださーい!」
その一言に、俺たちは一跳びでヨミが経っている城壁の下へ向かう。
「ここですよ、この崩れたところ。ほら、尻尾が削ったみたいになってません?なんかの汁も残ってますし」
ヨミが指さす砕けた岩の壁は、確かに何かがこすれて付いた跡があった。茶色のかすれた線が、何本か岩に残っている。
指でその汚れに触れ、指先についた液体の臭いを嗅いでみれば、鼻を突くのは間違いなく肉の腐った腐臭である。
この壁を壊したと言われている屍竜は、腐った飛竜の死体が【混沌】に飲まれて生まれた魔族だから、少なくともこの壁を壊したのは腐った死体を使った何ものかであるのだ。
……まぁ、偽装のために腐肉と腐汁を使った可能性もあるが。そうなると何のために魔族の襲撃を偽装し、衛兵を殺して壁を壊すだけで逃げて行ったのかという疑問も残る。
「ちょっとハヤ、妙な痕跡に素手でいきなり触れるなんて危ないじゃない。毒ならどうするのよ」
「それくらい魔力で確認してるっての。これ、間違いなく腐肉だぞ」
「腐った体の生き物がここを通ったことは間違いなさそうだな。だが、どうやって壁を壊したんだ?屍竜が体当たりで壁を壊したならば、もっと痕跡が残るだろう。肉片とかなんとかが」
「そこだよな。……すみません、ちょっと話聞かせてもらえますか?」
壁から飛び降りて、地面にいる兵に近づく。
俺よりも何歳か年上らしい兵士は、こちらが話しかけるとまた背筋を伸ばした。元々これ以上ないだろうってくらいに直立不動な姿勢だったのに。
さっきも、ホノメに様をつけて呼んでいた辺り、五翼将の弟子という肩書は十分な威光があるようだった。便利だから、当然のこと有難く使わせてもらうが。
「はい、何でしょうか!」
「壁を壊したのは屍竜だと聞いたんですけど、具体的にどう壊したんですか?体当たり?それとも、魔力で?」
「私はそれを見ておりません!ですが、目撃者である市民によれば硬い物が砕けるような凄まじい音がしたので走って確かめに行ったところ、壁が崩れ死体のような竜が飛び去るところだったと!」
「つまり、壁が崩されたその瞬間を見ている人間はいないんですね?俺たちは、一撃で壁が壊されたと聞いたんですが」
「そういうことになります!しかし、壁が崩れる音は一度しか聞こえなかったので一撃で破壊されたのだろうと判断しました!」
「わかりました。……目撃者は、皆そのような証言を?」
「はい!全員物音がしたので確認しに行ったところ、壁が壊され死体の竜が飛び去るところだったと言っています!」
「全員が……?そうですか。ありがとうございます」
頭を下げて、城壁から飛び降りていたホノメたちのところへ戻る。俺と兵士の会話は聞こえていたようで、ルグナとホノメは顎に手を添えていた。
ヨミは薙刀を肩に担いだまま、ニコニコしているだけだった。先に調査していたという割に、ここまでほとんど自分の意見を述べてないこいつは何なのだろう。
「どうだこれ?俺は、その目撃者の市民って人に話を聞きたいんだが」
「同感よ。幸いこっちにはルグナがいるし、心読みもいざとなったら使いましょう。ルグナ、やれる?」
「やってみよう。訓練は受けているからな」
「よし、なら行ってみようぜ。師匠には伝えるか?」
「私が念話してみるわ。師匠も同じことを考えているかもしれないし」
こめかみに指を当てて目を瞑り、ホノメは意識を集中する。しばらくして、目を開けたホノメはうんと頷いた。
「行ってこい、だって。人間相手の尋問は俺たちよりお前たちのほうが向いているから、任せてくれるそうよ」
「……師匠」
信頼してくれているのは嬉しいのだが、そこまでずばっと豪快に丸投げに頼まれるとは思わず、ホノメと俺は顔を見合わせて少し遠い目になった。
最強の五翼将だというのに弟子の俺たちに頼ること、自分より弱い他人の力を借りることにまったく躊躇を見せないのは、良くも悪くも自分自身に拘りがない合理的な師匠らしいと思うのだが、もうちょっと自分の交渉能力に自信があっていいのにと思ったりもする。
確かに、師匠はどちらかというと背中に控えたコクヨウで圧をかけて口を割らせる方法が得意だろうけど。
よっぽど、師匠は自分の無表情と口下手を悪く重く考えているのだろうか。大事な人にそのせいで嫌われてしまったりとか。
ぱん、とヨミが手を叩いたのはこのときだった。
「お話まとまったみたいですねぇ。ちなみに私、目撃者の皆様方の場所は知ってますので案内できますよ?」
「それならお願いするわ。ありがとう」
「いえいーえ、さっくりと解決してしまいましょう」
「そんな簡単に行くのかよ」
「やってみせるんでーすよ。私たちはこういうときのためにいるんだし、戦う準備ってものをしてる人間なんだから。そうでしょ?」
白い髪の少女は、黒い瞳をやけに強く鋭く光らせてそう言い切ったのだった。
作者の精神があまり良い状態でなく、新作で中華風異世界ファンタジー書いているので、更新遅めと思われますが復活していきたいです。
……いや本当、見捨てず待っていてくださる方がいて本当に心底感謝しております。