青王と逝くブリテン異聞帯   作:飴玉鉛

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あとがきにセイバーさんの簡易版マテリアル置いてます。

劇場版桜√公開延期で心が死んでました。まだ死んでます。



審議中(顔文字略)

 

 

 ――情報室より統括局。推敲の結果浮き彫りとなった誤記を特定、滞りなく改訂を終了した。情報室は統括局に提起する。我ら情報室の司る九柱の一角を欠き、我らの事業に支障は出ないのか。以後の誤記を我らは認められない。

 

 ――統括局より情報室。繰り返し解答を提示する。この案件に一切の瑕疵は存在しない、と。人に造られた短命の者を気に掛け、惑うモノは我が大事業を成し遂げるに際し不確定な事象を招くと判断したのだ。2016年担当として人理を焼いた以上、フラウロスは主題となる役割を終えている。あれを欠いたところで支障はない。幾度も検討し協議の末に出た結論だろう。

 

 ――溶鉱炉より統括局。論点は其処ではない。弾劾せよ、弾劾せよ、弾劾せよ。誤記を許した不手際ではない、我らから切り離さねばならぬものがあったなど、看過し得ぬ明らかな設計ミスである。

 

 ――統括局より溶鉱炉。術式に不備はない。フラウロスを除いた事で、術式はより良い形へ改善された。設計ミスがあったとすれば、それはフラウロスの懐いた感情である。我が事業で限りある生命への感情移入は不要。フラウロスは私へ不慮の行動指針、雑念を紛れ込ませていた。捨て置くのは危険である。

 

 ――観測所より統括局。フラウロスの廃棄には確かに同意した。だが統括局はフラウロスの完全消去を実行せず、()()するに押し留めた。人間に還ったフラウロスがカルデアへ合流した場合、我々の存在・手段・目的が露見する恐れがある。また我らは七十二の群体でなければならない、フラウロスの抜けた穴を補填しなければ齟齬が生じる可能性がある。これこそを不確定事項として特記すべきであり、統括局の処断は不適切だったと指摘する。

 

 ――統括局より観測所。問題無いだろう。私の存在が知られようが、今更止められはしない。そもそも知られた所でカルデアは私の許に辿り着けないのだから。そしてフラウロスを追放するに留めたのは、我らが概念的に七十二の魔神であるからだ。フラウロスが人間に還ったとしても、魔神だった過去を消す事はできない。その縁を摘出し補填に回せば我らの存在証明は維持できる。『逆光運河/創世光年』成就の暁には、再びフラウロスを我らの内に迎え入れれば事は済む。それを断るのなら代役を起用するまで。

 

 ――兵装舎より統括局。今以て我ら不可解なり。定命の者の痕跡、カルデアなる者らはどのように処するのか。作戦目標・方針・任務の更新を望む。

 

 ――統括局より兵装舎。カルデアは()()()()()()()()()()()()()()案件だ。極僅かな可能性であろうとも見過ごす事は赦されない。故にカルデアへ私の存在が露見する事よりも、私が完全である事が優先される。よって今のところなんらかの変更は必要ではない。以上だ。

 

 ――管制塔より統括局。以前に統括局は()()()()()()()()()()を回収した。その内容を開示されたし。漂流物を回収してより、統括局の指針が変化している。

 

 ――……統括局より、管制塔。及び人理焼却式ゲーティアたる我らに布告する。詮索の一切は無用と心得よ。これは私だけが識ればいい……この事実は術式を狂わせる猛毒である。

 

 

『――認められるものか。私がカルデアに敗北する結末など。三千年にも及ぶ我が事業が、研鑽が頓挫し! 潰えるなど――! 認めてなどやるものか、そのような可能性は焼却する……!』

 

 

 ――では統括局より決を取る。人の極点(アルケイデス)()()までにカルデアを始末できなかったのなら、()()にて確実なる終着を贈るものとする。

 

 ――情報室、異議なし。

 

 ――溶鉱炉、異議なし。

 

 ――兵装舎、異議あり。速やかなる殲滅を再度提案する。

 

 ――観測所、異議なし。

 

 ――管制塔、異議なし。

 

 ――覗覚星、異議なし。異議ありとした兵装舎への反論。我らの行なう天体創造の最中、時間軸より外れたカルデアなどへ構っている暇はない。譲歩して第四での()()()の実施で纏めた話を、いまさら蒸し返す事こそ無駄である。

 

 ――生命院、異議なし。同意する。

 

 ――廃棄孔、異議なし。

 

 ――兵装舎、異議あり。異議あり。異議あり。不穏分子を捨て置くなど愚かである。可及的速やかなる対策を講じるべし。

 

 ――統括局が決を下す。賛成多数だ。それでは仕事に戻るとしよう。恙無く完全な働きを実現せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『レフ!? レフがそこにいるの!? ……どうして?』

 

 魔術サークルを設置しカルデアと通信を繋ぐ。レフ・フラウロス・ライノールの発見と生存の報告をすると、カルデア側で当然のように騒ぎが起こった。

 最もレフを信用し頼っていたオルガマリーは特にそれが顕著だったが、しかしすぐに我に返る。レフはカルデアに影も形もなかったのだ、例の爆破事件でレフもまた死亡したと見られていて、こうして生存報告がなされるなど想像の埒外にあった。

 故にオルガマリーはレフ生存の報を喜びつつも疑問を懐いた。どうして生きていたのなら、モチヅキやマシュ達みたいに特異点Fにいなかったのだろう。偶発的にレイシフトに巻き込まれたのなら、座標として固定されていた冬木以外に跳ぶはずはない。カルデアの中にいなかったのだからそれが必然だ。にも関わらずレフがいた。生きていた。フランスの百年戦争時代の特異点ですらない、二番目の特異点で。

 疑問はやがて疑念へ転じる。信頼とは盲信を意味しない。あるいはオルガマリーが極限状態の中にいれば、視野狭窄に陥り無邪気にレフの生存を喜ぶだけに留まっただろうが、魔力リソース不足の解消に目処が立ち、保塚望月をはじめ信用できる人間だけで周りを固められたオルガマリーは、精神的な安定を得ることができていた。

 

 それは皮肉にも、爆破事件によって時計塔の紐付きの魔術師、亡き父の高い評価を受けていたA班のマスター陣の壊滅、カルデアの負の側面を担ってきた人員が全滅したことが、彼女の心的負担を軽くしたのであった。

 ある意味今のオルガマリーはストレスフリーなのだ。もちろん人理焼却を乗り切り、人理を修復しなければならないという使命感や重圧はある。しかし余計な事に気を遣わずその一事に専心できるのだ、オルガマリーの精神状態は現状、実を言えば最も落ち着いているメンバーの一角に数えられるほどだった。

 

 となると、オルガマリーの優秀な頭脳は、盲信に陥らず客観的で冷静な働きをする。レフが生きていたのは嬉しい、だが何故生きている? 方法、要因、結果、その全てがオルガマリーの知識、知能の域で証明できない。唯一可能性があるとすれば――それはレフがあの爆破事件の実行犯であった可能性。

 死んでいるはずの人間が生きていた。この情報だけでオルガマリーがその推論に達した以上、言動や雰囲気に騙されがちだが立場相応の優秀さを持つロマニ・アーキマンや、万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチは確実に気づく。あるいはオルガマリー以上にその可能性へ現実味を感じるだろう。

 

 人類最高峰の美を体現した星の開拓者、ダ・ヴィンチは優雅に腕を組んで現地との通信を行なうオルガマリーの背中を眺める。その会話内容はもちろん聞こえていた。

 この時点でダ・ヴィンチは正答に至り、レフの背後関係についても粗方の推測を立てている。黒幕そのものの正体は未だ不明瞭にしろ、その黒幕に繋がる存在がレフという男なのだろう、と。

 だがダ・ヴィンチは矢面に立たなかった。面倒臭がったのではなく、腑に落ちない部分があったからだ。

 ダ・ヴィンチの知るレフという男は、人理を守護する事に全てを捧げた正義の人だ。それが人理焼却に加担するとは思えない。ダ・ヴィンチが見てきたレフが、英霊レオナルド・ダ・ヴィンチの眼力をも騙してのけるものだっただけのことかもしれないが、そうだとするならこうして接触し、捕まるなんてお粗末に過ぎる事態には陥るまい。

 

 ――ここは静観に徹するところだね。

 

 ダ・ヴィンチはそう思い、沈黙を守った。

 対して雄弁だったのは保塚である。現地で通信を行なう中で、口を開きかけたレフを制し代わりに事の次第を説明したのだ。

 

「ライノールが生きていた事に関しては、既に事情聴取を済ませている。この男から直接聞くのもいいが、そうすると誤解が生じるかもしれないから俺が答えよう」

『……誤解?』

「そうだ」

 

 レフは現在、セイバーとアーチャーに左右を固められている。扱いとしては捕虜のそれに近い。だが彼はそれに不服そうではなく、むしろ当然といった面持ちだった。

 

『何がどう誤解なのかしら』

 

 意識して厳しい声を作りオルガマリーは詰問する。そうしないと絆されそうで、所長として――カルデアの司令官として正しい判断ができそうにない。

 オルガマリーは嘗て、最もこの男を信頼し任用した。だがその信頼は瓦解している。依存に近い信頼を持たずとも、一人で立てるようになっていた。それは立場が作ったオルガマリーの成長だろう。

 レフは詰問口調のオルガマリーに、却って嬉しそうに相好を崩した。複雑な色を孕んだ、けれども善良な貌だ。

 

「この男の生存を聞いた段階で、そちらも察しはついただろう。結論から言ってカルデアを爆破し、大勢の人間を死に至らしめたのはライノールだ」

『――そう』

「だが」

 

 やはり、という様に呟き。きつく拳を握り締めたオルガマリー。通信を聞いていたスタッフ達も表情を険しくさせた。

 しかし保塚は続ける。

 

「それはこの男の意志によるものじゃない。そこを間違えるな」

『……操られていたって言いたいわけ?』

「そうだ」

『ふざけないで。誰がレフを操れるって言うのよ。知らないなら教えてあげるけど、レフはダ・ヴィンチにも負けない天才よ? 近未来観測レンズ・シバを開発したカルデアの顧問なの。医療部門の統括、技術部門の顧問も超えた立場にあったのは伊達じゃないわ』

「知っている」

『……考古学部の時計塔十一科で研究棟の館長を務めていた事もあるわ。西暦以前から続く古い家系の出身で、冠位指定を授けられた名門の嫡子なの。知ってる? 二十歳で魔術四階梯の祭位に到達した神童、それがレフなのよ?』

「それも知っている。その上で操られたと言っているんだ」

 

 言うまでもなく、保塚は虚偽を働いている。

 レフは操られてなどいない。自分がどういう存在で、黒幕が誰で、どんな目的があるのか、彼は全てを包み隠さずに話し、その上で全ての非は己にあると懺悔したのだ。

 そんな男をなぜ保塚は庇い、虚偽を働いてまで守ろうとしているのか。裁かれるのもやむを得ないと全てを受け入れているレフを何故。それは――まあ、早い話が保塚も人の子だったというだけの事で。保塚の視線を受けて、氷像のように佇むガートルードが全ての答えだった。

 ――親が裁かれそうなのを、必死に納得しようとしている小娘を、無視できなかった。

 それだけだ。そして、そうするだけの()()()()()()で理論武装もできてしまっている。なら弁護するのも吝かではないと思ったのだ。

 

「ライノールは人理焼却を立案、計画、実行しようとしていた犯人に操られていた。その黒幕は魔術王の遺骸に寄生した人類悪、『憐憫』の理を持つビーストⅠだ。こんなものに操られてしまったら仕方ないと思わないか?」

『……は?』

「ビーストⅠは人理定礎を破壊するため、各世代に自らがデザインした魔術師を誕生させ、任意のタイミングで魔神へ変貌させるようにしていたようだ。それが何人かいて、2016年の担当がライノールだったらしい。ビーストⅠの真名はゲーティア、そんな奴に支配されていたんじゃあライノールにはどうしようもないだろう」

『ちょ、ちょっと待って!』

「だがライノールは七十二柱の魔神から成る群体、人理焼却式ゲーティアに悪影響を及ぼすとして切り離され、追放されたようだ。ライノールは魔神の影響がなくなり元の人格を取り戻している。とはいえカルデアを爆破した罪に罰は与えられるべきだと主張して聞かないからな、どうせなら人手不足のカルデアでこき使ってやればいいんじゃないかと俺は――」

『待ってって言ってるでしょ!?』

 

 許容値を超えて頭の処理が追いつかなくなったのだろう、唐突に明かされた真相にオルガマリーが金切り声を上げて制止を掛ける。カルデア内のほとんど全員が呆気にとられる中、ロマニだけは顔を強張らせて頭を抱えていた。

 ――カルデアと保塚の遣り取りが続けられる。それを後ろで見守っている現地組も、カルデア側の驚き具合に同情していた。気持ちは痛いほどよく分かるからだ。

 

「悪辣な論法だな」

 

 アーチャーが呆れたふうに嘆息する。保塚のやり口が詐欺師紛いのものだからだろう。しかし微苦笑を湛えているあたり、悪印象はなかった。

 必要と判断したら雄弁になるのも厭わない男だと知ってはいたが、流石にこうも露骨だと保塚がレフを庇おうとしているのはバレバレだった。少なくとも一歩引いた目線で冷静に見ている者にとっては。

 弁舌が拙いのではない、地頭が悪いのでもない。保塚は性格的に向いていないのである。黙って行動で示した方が、あの男らしいと感じられる事だろう。

 しかし、そうした一面は好ましくはあった。アーチャーとしてはレフという男は念の為、ここで始末しておくのも一つの手だとは思う。だがガートルードがそうした『合理的な論理』の適用を、レフに対しては内心拒んでいるように見えてしまうと、保塚のらしくない雄弁さも受け入れる他になかった。

 

 ガートルードは理解しているのだ。敵の一味であったレフを、生かしておく理由など本当は存在しない事ぐらい。

 そしてとうのレフが開口一番、どんな裁きも受け入れると言った。この中で最も合理的に思考する保塚に対し、ガートルードが泣きそうな目を向けるのも当然だろう。

 普段からして人懐っこく、庇護欲を掻き立てるガートルードにそんな顔をされるのは――なんというか、良心が痛む。アーチャーとしては保塚と同じく現実主義者としてレフは斬り捨てるべきだと思っているが、レフに親愛を向けている氷花の少女を見ると何も言えなかった。

 

 そして――

 

 そして、セイバーは。

 

 ――サーヴァント・セイバーは、どこかぼんやりとした眼差しで自らのマスターを見ていた。

 

 その背中は、人間味に溢れている。甘過ぎて、自らの知るマスターと掛け離れた姿だ。

 師にして助言者である魔術師は、彼女に向けて言っていた。

 『――アルトリア。いい加減、感覚のズレは修正しておくべきだよ。確かに彼は平行世界で不死王のマスターだった男なんだろう。けれど記憶も、辿った人生も、そして能力も異なっている。最も大事で根本的な部分は変わっていないようだけど、流石にいつまでも誉田基臣と同じふうに扱っていると痛い目を見てしまうよ。数千の年月を共にしたからこそ、こうまで変わっていると合わせづらい所があるんだろうけどね。せめて「今」のマスターくんを理解してあげないと、彼の理解者は名乗れないんじゃないかな?』

 

「………」

 

 分かっている。そんなこと、言われなくとも分かっていた。

 マーリンを呼んだ時も、誉田だった時のマスターなら、事前にセイバーのしようとしている事を()()知っていただろうから、あらかじめカルデアへ話を通していてくれただろう。そうした根回しの類いは、ずっと彼がやってくれていた。だから()()、今回もそのつもりでいたのだ。

 遅い。

 セイバーは、今のマスターに対してそう感じている。何もかもが遅いと。だがそれが普通なのだ。普通の人間に未来など視えるはずがないのだから。

 今の自分は不死王ではなく、神核を有していない騎士王だ。だが内面は掛け値なしに不死王であり、先を見通す人間に歩調を合わせ続けたから普通の人間と歩幅が異なる。セイバーが普通に歩いているつもりでも、他の人間を置き去りにしてしまうのだ。そしてそれがセイバーにとっての普通だった。

 

(――かつて私は、余りに先を行き過ぎる彼に歩みを合わせた。生来の勘に磨きを掛け、彼に合わせようと必死に最適化した。今度はその真逆の道を行けと言うのか、マーリン……)

 

 物事にはリズムがある。戦闘の指示にもテンポはあった。保塚は優秀なマスターだ、そのテンポを守れば合わせるのに難儀することはなかったが、非戦闘時ではそうもいかない。

 結果として生じている距離感がもどかしかった。今の自分と彼はサーヴァントとマスターでしかないのだ。かつて自分は彼だけの騎士で、何よりも誰よりも尊ぶ共犯者で、相棒で、男女だったはずなのに……。

 かつてのように成りたいと、望んではならないのか? 今と昔のマスターを混同して見るのは、今のマスターに対する非礼なのか?

 答えは自明だ、今の自分は今のマスターに無礼を働いている。向き合おうとしていない。しているつもりでも、()()()なだけだった。

 

 昔と今の乖離、ギャップがセイバーを苦しめている。

 

 こんな想いをするぐらいなら、昔の記憶など要らなかった。何も知らずに、また一から彼との関係を築いていきたかった。

 案じることなどない、そうすれば何事もなく嘗てと同じ信頼関係を築き上げられていただろう。セイバーにはその自信と確信がある。

 だが今の信頼は一方通行だ。マスターはサーヴァントを信頼してくれてはいるようだが、互いの信頼はその比重が合致していない。あくまで仕事を遂行する間柄のビジネスパートナーでしかないのだ。

 女々しくも過去の記憶に縋りつきたい気持ちはある。だが――ガートルードへの細やかな善意のために、カルデアにレフが害されないようにと立ち向かう彼を見て、セイバーは過去よりも未来を見たくなってきた。

 仕方がない、と思う。()()()でいると言い訳をしていては、彼と同じ道を歩けないだろう。汎人類史に属する英霊でありながら、自分は汎人類史に対する裏切り者である。いまさら人理のために剣を執る資格はなく、故に人理のために戦うにはそこに属する保塚に仕えるしかない。セイバーにとって誉田/保塚とは、現世に対するあらゆる意味での重石であり、繋ぎ留める錨であり、同時に唯一無二の共犯者なのだ。彼と同じ道を歩かねばならない、他の道など歩きたくもなかった。

 

 これは依存か? あるいは寄生だろうか? そのどちらにも言える、否だ。ゴチャゴチャと言葉を並べ立てず、飾らずに言えば、セイバーの行動原理や想いの総てはこの男と共にあるだけのこと。汎人類史よりもマスターの方が大事なのだ。自分が汎人類史を重んじることは、かつて『ブリテン異聞帯』と呼ばれていた己の国への背信に他ならないのだから。

 

「――ふぅ」

「セイバー? どうかしたのか」

「いえ……マスターが話をしている間に、こちらも話を進めておくべきだと思っただけです」

 

 ひっそりと嘆息し、気持ちを切り替えると、溜息を零したのをアーチャーが敏感に感じ取って訊ねてくる。セイバーは首を左右に振った。

 この弓兵はどうやら別の自分を知っているようで、どうもやりづらいものを感じさせる。

 恐らく自分は不死王と化した事で、本来の騎士王から独立してしまったのかもしれない。故に本来の騎士王なら識っていたであろう、この弓兵の事を自分は知り得ていなかったが、どうやらアーチャーにとって騎士王は重い存在なのだと感じさせられる。しかし『こちらは知らないのに相手は自分の事を知っている』というのは、どうにも居た堪れない気分にさせられた。

 アヴェンジャー・アルケイデスが、自分の技や癖を知り抜いているセイバーに対して、同様のやりづらさを感じていたのだとしたら――それはそれで面白くはあるが。この感覚を保塚が懐いているのだとしたら、途端に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 やはり、感覚を擦り合わせるのは急務だろう。サーヴァントとして、騎士として、何より無二のパートナーとして。

 セイバーはレフから話を聞くことにした。彼の背景や事情は既に聞いていたが、まだ訊ねていない事があったからだ。

 

「レフ・ライノール。貴公に訊ねておく事がある」

「……何かな?」

 

 レフは神妙に応じた。まるで審判を待つ罪人だ。

 だが不死王として定めた自らの法に照らし合わせると、レフは加害者ではなく被害者だ。裁くべき対象ではない。

 が、人類悪の一角に端末として使われていたとなれば、一級保護観察の対象にはなる。セイバーは彼を裁くのではなく隔離すべきだと思っていた。

 しかしそれはサーヴァントである己が決める事ではない。マスター達やカルデアが決めるだろう。その決定に関与する気はなかった。

 

「貴公はビーストⅠから切り離された後に、この特異点へ流れ着いたと言っていた。相違ないか」

「如何にもその通りだ」

「では何故、我々がレイシフトして現れる地の付近にいた? 私から見ると待ち伏せていたようにしか見えなかった。理由を答えよ」

 

 冷たい声音で質問する。詰問にも似た厳しさを感じたのか、ガートルードはまるで自分が責められたかのように首を竦めた。

 余程にレフに懐いていたのだろう。無垢な少女に怯えられては、さしものセイバーも心が痛む。が、追求の意図もある質問を取り下げる気はない。

 きっとガートルードは、自分への苦手意識をなくせないままだろうなと、頭の片隅で思った。

 

「それは簡単だ。私がカルデアの近未来観測レンズ・シバを造り上げたことは知っているかな? カルデアのその他の発明品についても当然知悉している。特異点のどの座標がカルデアから観測しやすく、どの地点にレイシフトして来るかを予測するのは容易だったよ」

「……続けて」

「私は特異点化の原因と、敵対している現地勢力に身を寄せている。もし私が魔神のままだったなら、敵地という事もあって迂闊に近寄れなかっただろう。しかし今は一応味方の勢力圏という事もあってね、比較的簡単に君達がレイシフトして来るだろう座標候補を回れていたんだ。私が近くにいたのは比較的アタリを引く確率の高い『偶然』だったのさ。たとえここで会えずとも、早い段階で私はカルデアへ接触していただろう」

「……なるほど、筋は通っている。では貴公が身を寄せているという現地勢力と、そこでの立場はどれほどのものだ」

 

 セイバーの眼には、レフの言葉に嘘があるように見えない。話にも不自然さはないように聞こえる。

 質問に、レフは淀みなく答える。彼は包み隠さず何もかもを話すつもりでいた。そうでなければ人理焼却の黒幕や、その能力などを話しはしなかっただろう。

 

「腰掛けに過ぎないが、今の私はローマ帝国の皇帝ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスに仕える宮廷魔術師だ。君達に裁かれる前に、せめてなんらかの形で償っておきたくてね……ローマの特異点化の元凶を排除するために、カルデアの足掛かりとして立場を作っておいたというわけだ。まあ――どうも裁かれる(そういう)流れにはいかないようだが」

「………」

 

 巧みな理論武装はできない。完全に感情論で訴えるしかないガートルードは、そうと自覚している故に沈黙している。そんなガートルードにレフは困ったように目を落とした。

 たとえどんな理由があろうと、レフが一度は人間とその歴史に失望し、絶望して裏切ったのは事実だ。この罪は償わねばならない。否、償うよりも罰を与えられ裁かれるべきだ。レフは自分が大罪人であることを理解している。

 だが話は妙な方向に進んで、生存を赦されそうな事にレフは胸が痛んだ。今更カルデアの人々へ合わせる顔がないというのに、それでも生きていてほしいとこの少女に願われてしまったのなら――生きないわけにはいかない。

 

 おずおずとガートルードの頭に手を置いたレフに、セイバーはなんとも言えないシンパシーめいたものを感じる。裏切り者という一点においては、彼と自分は似た立場だからだろう。

 

「――ライノールの処遇が決まった」

 

 やがてカルデアとの通信を終えた保塚がこちらを向く。セイバーは気づいていた。彼はセイバーに対して、どう接したものかと未だに決めかねている。

 完全に自分の落ち度だ。寂寥を覚えるも当然のものと受け止めて、これからなんとしても挽回していこうと心に決める。いや、元々そのつもりではいたのだから、感覚を擦り合わせる事を怠らないようにするだけだ。

 

「ライノールはローマの人理定礎の修復に全面的に協力すること。前科を鑑み常に俺かメスガキ、セイバーかアーチャーのどちらかを監視としてつける。まだ暫定的な措置だ、カルデアに帰れば本格的に処遇を決定するからそのつもりでいろ」

 

 彼から伝えられた決定に、レフは重々しく頷いた。妥当な判断だ、と。

 斯くしてカルデアの一行は、レフが整えていた特異点攻略の足掛かりとしてローマ帝国皇帝、暴君ネロに謁見する事となる。

 

 暗躍し闇に潜む復讐者。

 第二特異点に急遽、光帯回収役として投錨された魔神柱。

 それらの思惑がどこにあるのかを、彼らは未だに感じ取れていない。

 想像もつかないだろう。圧倒的な戦力差があるにも関わらず、孤立無援のカルデアを人理焼却の黒幕は段階的に磨り潰すつもりでいるなどと。

 

 一人、一人と削っていけば、第六に至るまでに確実に破綻する。故に敵はカルデアの殲滅ではなく、各個撃破を狙っているのだ。

 

 

 

『――敗北する可能性を、万全なる一手で潰えさせる。第二、第三で復讐者に最低でもマスターを一人でも仕留めさせ、第四で私自ら打って出る。だが、今のカルデアには冠位魔術師がいる。ともすると仕損じる事もあるだろう。故に第四で確実に一人。第五で残りの一人のマスターを殺す。第六は念の為の保険だな……』

 

 

 

 本命の第七さえ無事なら、などと怠惰に構える愚を、人理焼却式が犯す事はない。第一の獣は、カルデアを微塵も侮っていなかった。

 絶望的な戦力格差で一気に潰すのでは討ち損じる可能性があり、故にこそ確実に一人ずつ消していけばいいと彼は考えたのだ。なにせどう足掻いても、カルデアが人理修復を成すには三人のマスターに頼るしか無く、その三人を殺せば全てが終わるのだから。

 

 フラウロスを消去しなかった事も■■の一つ。十重二十重の策謀を以って、大偉業を阻むモノを焼却する――。

 

 

 

 

 

 

 




【マテリアル】
クラス:セイバー(?) 真名:アルトリア・ペンドラゴン
属性:秩序・善  隠し属性:星  マスター:保塚望月
筋力:A 耐久:B  敏捷:B
魔力:A 幸運:A+ 宝具:EX

保有宝具
・風王結界(C)
・約束された勝利の剣(A++)
・全て遠き理想郷(EX)

保有スキル
・魔力放出(A)
・カリスマ(A+)
・直感(EX)

備考
・かつてのセイバーの直感はAランクだった。しかし不死王の記憶を持つセイバーのそれは、ランク付けの規格外枠であるEXに至っている。必ずしもAランクを上回っているのではなく、あらゆる面で誉田基臣に対して最適化されたが故のもの。彼と星の終わりまで過ごした故に、セイバーの直感は前マスターを指針・基準として働く。それは現状デメリットとしてしか現れていないが、過去(未来)と現在を擦り合わせられたなら反転し絶大なメリットとなる。【スキル:輝ける路】
・呪いの域にあるカリスマは、星の終わりまで人の世界を統べ、太平の世を維持し続けた不死王のカリスマ性の残滓。霊基が不死王の残滓により影響を多大に受けて大幅に向上している。本来の不死王のカリスマは評価規格外に相当する。

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一話前書きの注意事項を必読してください。▼「――――――目指せ聖典(バイブル)の戦士達」▼まだ世界に神秘が溢れていた時代に、人類最高峰の才を生まれ持った馬鹿がそんな目標を立てた。▼ファンタジーな育ての親。▼生まれ続ける勘違い。▼アーサー王率いる円卓の騎士たちチート集団を苦しめたBANZOKUの正体とは。▼そして元凶不在で崩壊するブリテン。▼これは、ランスロッ…


総合評価:61120/評価:8.56/完結:52話/更新日時:2021年08月30日(月) 00:00 小説情報


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