Saiyan killer   作:北江

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10話、悪夢

 

「わめくな…。…今から教えてやる…」

 

 そう言ってヤムチャは立ち上がると、マーリンにスカウターの起動をうながした。

「…さっき悟空も言ってたけどな、その機械は俺たちにはあんまり意味が無いんだ。ちなみに今の俺の数字はいくつになってる?」

 

 ピピピ…としばらくして、スカウターがおよそ38000の数値を表示する。少し落ち着いたものの、まだ目は真っ赤なままのマーリンが、言われるままそれを告げる。

「…よし、じゃあよーく見てろよ」

 そう言うとヤムチャは、見るからにだるそうなポーズで、壁に寄りかかった……。

 

「…………!!??」

 しかし次の瞬間、マーリンは目を疑った。みるみるうちにスカウターの数値がどんどん減少していったのだ。30000…25000…10000…5000…。

 信じられない、と言う風な表情で、少女はスカウターに釘付けになっていた。

 

「ふぅ…。今の俺の数字はいくらだ?」

「……せ…、…戦闘力…たったの…177…だと…?」

「まぁ限界まで下げればほとんどゼロにも出来ると思うけど、これでも充分だろ。判ったか? 俺たちはその戦闘力ってヤツをコントロール出来るんだ」

 

 呆然としながらマーリンがつぶやく。

「し…信じられない…。確かに戦闘力をコントロールできる種族がいる事は聞いた事はあったが、ここまで変化させられるなんて…」

「それでも事実は事実だ。つまり、お前がその機械で見ていた悟空の数字は、まるでデタラメだったって事さ」

 

「…で、でも! あいつはサイヤ人だ! 地球人のお前がコントロール出来るとしても、サイヤ人にそんな真似が…そんな事ができるなんて聞いたことがない! おかしいだろう!!」

「…別におかしくはないさ。これは武術の技だからな…。学べば誰だって出来るようになる」

 

「………ブジュ…ツ……? なんだそれは…」

 また良く判らない単語が出てきたとマーリンは思った。しかもその少し前から、ヤムチャの発言は彼女にとっては意味不明、理解不能すぎるものだった。

 自分のつけている翻訳機は、高額な代金と引き換えにした分、そうとう高性能なもののはずなのだが、あるいはやはり、故障してしまったのかとマーリンは思った。しかしそんな少女の疑念をよそに、ヤムチャは腕組みして少し間を置いて続けた。

 

「ん…、武術ってのはな…、どう言ったらいいかな…、…己の精神と肉体を研磨・鍛錬し、宇宙との合一を目指す……ってな話もあるが、要はケンカのやり方、だな」

「………?…」

 

「…で、俺と悟空はもともとその武術の同門だった。だから俺に出来る事は、あいつにだって出来るって訳さ」

「…………」

「…もっとも、それも昔の話だ。今のあいつは、もうそう言う次元じゃない。お前も見ただろ?」

 

 

 何を……、と言いかけたマーリンの脳裏に、ふとなぜか霞む視界の中で見えた、まばゆいばかりの金色の戦士が浮かぶ。

 

「…今の悟空は伝説の超サイヤ人なんだ。勝てるヤツなんてこの世には存在しねぇよ…」

「……な、…す、超サイヤ人…だと??!! ま、まさか…!!!」

 

 続くヤムチャの言葉に、少女の顔が色を失う。地球に来る前に倒したサイヤ人が言っていたことは本当だったのか、と一瞬マーリンは愕然としたが、驚くべき点はそれだけではない。

 

「い……、いや、まさか…、あのサイヤ人が…超サイヤ人だと…? だったらもしやあの時に…最後に見たあの戦士は……」

「…あぁ、超サイヤ人に変身すると髪が金色になるんだ。色々知ってそうなくせに、肝心なとこは知らねぇんだな、お前」

 

「………く……っ……」 

 

 あれが、あれこそが超サイヤ人…。野蛮で知性の欠片も無いようなサイヤ人の変身とはにわかには信じがたい美しさだった。

 だが、それでもサイヤ人を一瞬でも美しいなどと感じた自分にこそ、マーリンは怒りを覚えた。その上ヤツは自分を見逃したのだ。おそらくは殺す価値もないと判断して。

 

 …それは少女にとっては最大級の侮辱だった。

 

 下を向き、唇をかみ締めるマーリンに構わず、ヤムチャが話を続ける。

「…まぁ話を戻すとだな。超サイヤ人になった悟空は、あのフリーザすら倒しちまったんだ。俺やお前程度にどうにか出来るような相手じゃないんだよ」

 

「…い、今なんと言った!? ふ、フリーザを…倒しただと!!??」

 

 またしてものヤムチャの衝撃の発言に、唖然とした表情を浮かべながらマーリンが顔を上げた。

 

 それもそのはずで、惑星戦士でフリーザの名を知らぬものなど存在しない。むろん少女も知っている。それどころか、ほんのわずかな間だが、フリーザ軍に所属していた事もあったのだ。

 それゆえフリーザの力がどれほどのものなのか、痛いほど知っているマーリンからすれば、ヤムチャの言葉は到底信じがたいものだった。

 

「そんなバカな…。確かフリーザは……ナメコ星だかナマコ星に出かけ、そこで運悪く星の爆発に巻き込まれて、瀕死の重傷を負ったと聞いていたが…」

「…ナメック星な…。確かに星は爆発したが、その前に悟空にボコボコにされちまってたんだよ。ちなみにフリーザもその父親も、両方もう死んでる」

 

 ややこしい事になりそうだったので、ヤムチャはベジータやトランクス、悟飯ら他のサイヤ人の事は言わずに、結果だけを伝えた。

 

「…そういうことだから、判ったらあきらめて、さっさと地球から出て行くんだな」

「………………」

 

 …次から次へと衝撃的な事実を告げられ、マーリンの視界が、意識がぐにゃりと歪む。あまりに信じがたい話の連続に、自分はいま悪い夢でも見ているのではないかとさえ少女は思った。

 

 フリーザの戦闘力が53万だと言うのは、少女の界隈では有名な話だ。しかも本当はそれ以上の力を隠し持っている、という噂もあったほどなのだ。

 そのフリーザを倒したとなると、超サイヤ人の戦闘力はそれ以上…、事によると100万以上かもしれない…ということになる。

 

 知らなかったとはいえ、なんと無謀な戦いを仕掛けたのかと、今更ながらにマーリンは身震いした。思い返すだけでも冷や汗が出る。確かにそれだけの差があれば、自分の必殺技…ファイナル・グランスピアードの直撃を受けても無傷に違いないだろう。恐竜に蚊が刺した程度と、なんら変わらないだろう。

 

 ゾッ、とイヤな汗が身体中から吹き出すのを止められない。止まらない。かたかたと身体の震えも止まらない。

 だが、聞かずにはいられなかった。意を決し、少女はヤムチャに問うた。

 

「…お前は…その超サイヤ人が戦うところを見た事があるのか…?」

「ん…、まぁ一応はな」

「だったら判るだろう…。その超サイヤ人とは…、…一体いくらぐらいの戦闘力なんだ…!?」

 

 ふいに突拍子も無いことを聞かれ、ヤムチャが困った表情を浮かべる。

「…そう言われてもなぁ…。その戦闘力…ってのもよく判らないし…」

「だいたいでいい! お前の戦闘力は38000だ! そのお前の何倍強いのかで考えろ!」

 そう言われて、ヤムチャは何やらぶつぶつと言いながら考え込む。

 

 しばらくして。

 

「…はっきりとは言えないけどな…」

「判ったのか!? で、いくらだ!?」

 

「たぶん5000000…500万はあるな。少なくとも」

 

「は…? …ご……、ごひゃ……くまん……?」

 

 想像以上の…現実離れした数字を挙げられ、そのまま少女は何も言わず……その場にばたりと倒れた。

 

「またか…こいつ、気絶癖でもあるのか? まぁいいや。もう遅いし、このまま放っておこ」

 念のため、小汚い毛布をマーリンにかけると、ヤムチャもごそごそと寝袋に入る。明日も修行なのだ。人造人間とやらが相手の戦いまで、もうあと2年もない。

 

「まったく…面倒な事に巻きこまれちまった…」

 

 

 

 

 ……また夢を見ていた。少女の遠い遠い記憶の夢。

 誰かの声が聞こえる。…おそらくは少女の母親と、男の声。

 

 

 

「…わざわざ休暇まで使って探しに来てやったんだぜ? いいかげんにあきらめて、俺と一緒に来るんだな。もちろんガキはどっかの星にでも捨てるけどな…。 くっくっくっ!」

 

「…さ、触らないでっ! 無礼な…っ!」

 

「はぁ…? おいおい、お前まだ自分の事をお姫様とでも思ってんのか? まったくおめでたい女だが……そうでなくちゃ面白くねぇ……!!」

 

 ビリ、ビリ、ビリ

 

 目の前で母親の服がただの布切れになっていく。そしてあらわになる。白い白い肌が。

 赤銅色に焼けた男の肌が、余計にその白さを際立たせる。その白さがまぶしくて思わず目をつぶった。再び世界が音だけになる。

 母親の何かのうわごとのような声、そして合間に響く叫び声。その間、ずっと続く男の獣じみた呼吸音だけが部屋に満ちていく。怖い。怖い。

 

 だから少女は耳も塞いだ。そして世界からは…何もなくなった。

 

 

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