Saiyan killer   作:北江

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11話、真実

 

 …ズズズズズズ………ゴゴゴゴゴ…………ッッ………

 

 …こつん……っ

 

 

「……ん………っ……」

 

 地鳴りのような低い響きと、大気と大地の振動、そしてそれらが引き起こしたのか、頭に降ってきた小さな石のかけらが、マーリンを現実に引き戻す。

 

 

「……? ……ここは…」

 

 小汚い毛布を除け、ゆっくりと身体を起こしながら辺りを見回す。見慣れた場所ではない。でも確かに見覚えのある、岩をくり抜いて作られたと思しき洞窟の中。

 地球に来てから何度目かの目覚めだったが、今度は少女に混乱は無かった。

 

 そうだ。ここはヤムチャと言う地球人の……男の隠れ家だ。

 

 

「………?」

 

 だが辺りを見渡しても、この洞窟の主たるヤムチャの姿が見当たらなかった。振動の事も気になった少女は、用心深く外へ出る事にした。

 

「…………ッッ…!!」

 表に出てみると、どうやらそのヤムチャは修行の真っ最中のようだった。スカウター無しでも感じられるほどのエネルギーの高まりが、大地を大きく揺らし続けていた。

 

 ピーッピーッピーッ!

 

 ふいにスカウターがけたたましい音を立てて勝手に起動した。あまりに危険なほどの戦闘力を感知すると、自動で立ち上がるような設定なのだろう。切ることも出来たが、興味半分でマーリンが横目で表示された数値を確認する。だがそこには、またしても彼女の想像を超える数値が表示されていた。

 

「な……、せ……戦闘…力…、じゅ……15万………!?」

 

 とてつもない数字に、マーリンが絶句する。

 …こんな戦闘力の持ち主は、フリーザ以外では見た事も聞いた事も無かった。かつてのフリーザ軍のナンバー2、フリーザ一族を除く実質宇宙ナンバーワンとの呼び声も高い、ギニュー特戦隊の隊長、ギニューでさえ、噂によれば12万がやっとだと言うのに。

 

 

 ヤムチャの信じがたい実力に、思わず息を呑む少女。しかしそれはもう一つの信じがたい事実を受け入れざるを得ないことと同義だったからだ。

 ヤムチャは言っていた。超サイヤ人は次元が違う。自分では絶対に勝てない……と。

 これほどの実力を誇る男であっても、絶対に勝てない、次元が違うと断言される超サイヤ人…。

 

 …マーリンは自分を取り巻く現実を再認識すると、またも気が遠くなりかけた。

 

 

 

「……よう! もしかして起こしちまったか?」

 と、マーリンに気がついたヤムチャが声を掛ける。

「いや…わたしの方こそ邪魔したようだ。すまない…」

 

 ここに来てから、ずいぶんと謝罪の言葉を口にしている事に、少女はふと気付いた。面白い事ではないはずだが、しかしなぜか悪くない気分だった。

 

「ああ、でももう少しで終わるから。そしたらメシにしよう。仕込みはたっぷりしてあるから安心しろよ! はははっ!」

 そう言うとヤムチャの体を包む光が、さらに激しさを増していく。

 

 

「ぐぐぐッ……ぎぎ………」

 うめき声を上げながら、光の中心でヤムチャは、必死に何かに耐えていた。スカウターの数値はすでに25万を超えている…。

 

「…………ッッ……」

 

 全く底の知れないヤムチャの力に、ただただ呆然とするマーリンだった。

 自分と戦った時も、まるで本気では無かったのだと、改めて少女は思い知った。

 昨日聞いた話は、率直に言って到底信じがたいものばかりだった。あるいはヤムチャは自分を騙そうとしているとしているのかもしれない、とも、翻訳機が故障してしまったとも考えたこともあった。

 

 しかしこれほどの力の持ち主である男が、自分を騙していったい何の得があるのか。そう思うと、昨日ヤムチャが語った全てが本当のことなのだと、少女は自然に受け入れられたのだ。

 

 だからこそ、これも改めてマーリンは感じた。この男は決して自分の「敵」ではないのだと。

 

 

 

「……はぁぁぁ…。…やっぱまだ7倍はきついな…。使いこなせるのはせいぜい5倍まで……ってとこか」

 

 朝の修行がようやく終わったようだ。完全に普通の状態に戻ったヤムチャが、独り言を言いながらマーリンの方へ歩いてくる。そして、そんなヤムチャを少女が真剣な表情で見つめている。

 

「な…なんだよ。俺、何か変か?」

「…いや、本当にお前はすごい男なのだと…改めて感服していた。わたしもこれまでいろいろな星に行ったが、お前ほどの男は見た事が無い」

 

 自身のこれまでの経験を元に、少女が率直な感想を口にする。しかし、男はあっさりとそれを否定する。

 

「…そんな事ねぇよ。これでも仲間内じゃ弱い方なんだぜ、俺」

「……………は……っ…?」

 

 この星の異常ぶりを散々見てきて、もう大抵の事では驚かないつもりだったマーリンもさすがに目を丸くする。

「な…んだと…? お前が…弱い…? あの超サイヤ人以外にも、お前ほどの男でも勝てない相手が…この星にいると言うのか……?」

 

 唖然とするマーリンに構わず、洞窟の方へすたすた歩きながらヤムチャが答える。

「まぁな。ベジ…は置いといて、ピッコロには絶対勝てそうに無いし、悟飯も…ちょっとヤバそうだな。クリリンと天津飯も正直難しそうだから、ヤジロベーと餃子ぐらいか。俺が勝てそうなのって」

 

「……………」

 

 …宇宙の無法者どもはどこにでも現れる。例えそれが辺境のこんな星であっても。そしていつか来るであろう、まだ見ぬそいつらに少女は軽く同情した。そして宇宙は本当に広い、とも。

 

 

「……ま、そうは言っても、悟空とは次元が違うって点では、俺もそいつらもどんぐりの背比べなんだけどな」

 

 

 洞窟内に戻り、朝食の準備をしながらヤムチャが話を続けた。確かに昨日のヤムチャの話の通りなら、50万でも100万でも超サイヤ人には遠く及ばない事に変わりは無い。

 戦闘力500万以上……。想像すら出来ない領域に、その男は存在する。

 

 

 

「…ほら。食えよ」

「…あぁ、いただこう」

 

 手慣れた様子で朝食の準備を済ませたヤムチャが、マーリンに器を差し出した。手渡された器からは昨日のものとは少し違うようで、不思議な匂いを漂わせていた。それでもマーリンは迷う事無くスプーンを口に入れる。

 

「~~~~~~っ~~~………」

 

 再び訪れる至福の時。昨日の鍋は辛かったが、今日のはなんと甘い味付けだった。マーリンにとっては嬉しい不意打ち、と言う奴だろうか。また身体をぐらぐら揺らしながら、一心不乱にスプーンを口に運ぶ。

 

「朝は糖分を補給するのが一番らしいんでな。果物をベースに仕立ててみたんだけど…、…どうだ? いける?」

 

 今はそんな事に口を使ってる場合じゃないと言わんばかりに、マーリンは一言も発さずスプーンをくわえたまま、ぶんぶんと首を縦に振る。

 

「そっか。初めて作ったにしちゃ上出来なのかな…。じゃあ俺も…」

 そう言うとヤムチャもスプーンを口に運んだ。

 

 

「……おぇ…っぷ……」

 

 一口食べた瞬間に、ヤムチャが顔を歪めた。甘い、いくら何でも甘すぎるのだ。

 いろいろ放り込んだ果物のバランスを取るため、蜂蜜を入れすぎたのがまずかったのか。それとも隠し味のつもりで入れた唐辛子のせいで、甘さが強調され過ぎてしまったのか。とにもかくにも激甘だ。不味いとは言わないが、到底おいしく出来ているとも言い難い代物だった。

 

「おい…マーリン…。これ……、美味いか?」

 

 何を言ってるのか、という表情で、少女がこくこくと頷く。むろんスプーンはくわえたままだ。

「そ、そっか…。俺は…もういいわ。良かったら全部食ってくれ」

 

 

 

 …その後、鍋からダイレクトに食べ始めるマーリン。口に運ぶのもちまちましたスプーンではなく、おたまだ。鍋を抱えておたまをずるずるとすする姿は、何か鬼気迫るものがあった。気で両足を包み、そのまま鍋をがっちり固定し、熱を遮断しながらモリモリ食べる。

 

「はふ…はふ! ふむー! むふー!! んぐっ! うんぐっ!!」

「……………」

 

 そんな少女の姿を保存食の干し肉をかじりながら眺めるヤムチャは、実に失礼な事を考えていた。

 

 

 

『こいつ…もしかして自分もサイヤ人なんじゃないのか……?』

 

 と…。

 

 

 

 

 

 そしておよそ半時……。

 

 

 

 ……からん……っ…

 

 

「ふぅぅぅ……っ……」

「……おかしい…、いや、それって変だろ…」

 

 昨日のたっぷり2倍はある量を平らげ、満足そうな表情のマーリンとからっぽになった鍋を交互に眺めながらヤムチャがつぶやく。少女の細い身体のどこに収まったのか、今度はヤムチャが呆然とする番だった。

 

 しかし、そんな少女の姿を改めてよく見てみると、本当に細い体をしていることにヤムチャは気がついた。筋肉は最低限、骨格もどちらかといえば華奢な方で、とてもあれだけの戦いが出来る戦士とは思えないほどだ。

 

 その細い身体にちょこんと乗っている部分も、よくよく見れば案外可愛らしい顔立ちのようにも思える。肩甲骨のあたりで無造作に切り揃えられ、あちこちはねているプラチナブロンドがよく似合っている、とも。

 

 だからこそ、見れば見るほど、こんな少女が何故……とヤムチャは思う。うーんと一人で唸っていると、無遠慮な視線に気づいたマーリンがじろりと睨み返す。

 

「な…なんだ。わたしの顔に何かついているのか?」

「…口の周りに思いっきりな…」

 

 ヤムチャの言葉にあわててごしごしと腕で汚れを取るマーリンに、男は大きなため息を付いたのだった。

 

 

 

 …そうしてお腹も膨れ、人心地ついたマーリンが、そう言えば、と話を切り出してきた。

「……昨日はいろいろと貴重な情報を教えてくれた事に感謝する。しかし、一番肝心なところをまだ聞いていなかった。それについても説明をしてもらえないか?」

 

「ん? なんだ?」

「…例の超サイヤ人の事と、この星の事だ。つまりこの星…地球はあのソン・ゴクウという超サイヤ人が支配しているのだろう? なのに、なぜこの地球は荒廃もせずに存在しているのだ」

 

 サイヤ人は血と殺戮を好む戦闘民族だ。ましてや伝説の超サイヤ人ともなれば、それはなおの事だろう。マーリンの疑問は常識からすればもっともな話である。

 

「支配…って、別に悟空はそんな事はしてないぞ」

「……は? い、いや、そんなはずはないだろう。ヤツは超サイヤ人なんだろう? だったら…」

「…だから違うんだよ。なんせあいつはイイ奴だからな」

「……? イイヤツ……? なんだ、どういうことだ? あのサイヤ人が…サイヤ人が人間的に…人格的に優れているとでもいうのか? 冗談にしても笑えないな…」

 

 一瞬、またもマーリンはスカウターと兼用となっている翻訳機が故障したのかと疑った。マーリンの知るサイヤ人とは、下劣で下等で、他の種族に比べて戦闘力以外には何の美点も長所もない、人間と言うよりはむしろ獣に近い生き物なのだ。

 そんなサイヤ人が「人間的に優れている」などという発言は、なにかの間違いか、悪い冗談にしか聞こえなかった。

 

 …だがしかし。そう口では否定してみたものの、同時に別の感覚も、マーリンの中から浮かび上がっていた。

 相対した時の雰囲気、実際に手合わせをした感触、そして今のこの状況を考えると、確かに昨日のヤツは、普通のサイヤ人とはどこか異質だったことは否定できない。

 何よりも、それがもし本当なら、この星の状況もうなずけるのだ。

 

 …翻訳機越しのヤムチャの言うことは俄には信じがたいものだったが、頭から否定できるものでもなかった。だからマーリンはこう言うしかなかった。

 

「……教えてくれ、ヤムチャ。いったいあのサイヤ人は何者なんだ……」

「……ん、…そうだな……」

 

 

 しばらく考えていたヤムチャは、やがてゆっくりと口を開き、マーリンに語り始めた。悟空と、自分を含めたその仲間たちによる、空前の冒険譚を。

 

 

 

 …自分のカッコ悪い部分に、若干の脚色を加えて…。

 

 

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