「…で、復活したピッコロ大魔王ってのを倒すために、俺と武天老師様はだな……」
「……ふん、それで?」
「…と、マジュニアってのは実はピッコロ大魔王の生まれ変わりだったんだ。クリリンも善戦はしたんだが、結局はやられちまった」
「……!! そ、そうなのか…、だがクリリンという男も中々だな…くぅぅ……」
「…嫌な予感がしてたんだ。だから俺はクリリンに代わってサイバイマンと戦ったけれど、奴らの卑怯な罠にかかって…」
「~~~~っ!!! まったく卑怯な! しかし、やはりお前はすごい男だ!! それで! それからどうした!」
…最初は胡散臭そうな面持ちでヤムチャの語り事を聞いていたマーリンだったが、次第次第に引き込まれていった。目を輝かせ、ふんふんと相槌を打ったり、先を急かしたりする様は、まるで絵本をせがむ子供のようだ。
悟空との出会い、修行の日々、天下一武道会、ピッコロ大魔王との死闘、サイヤ人の襲来、ナメック星への旅と、そこでのフリーザとの戦い…。
何度か休憩や修行をはさみ、その度に少女は不機嫌になったが…、太陽が西に傾く頃になって、ようやくその語り事が終わろうとしていた。
「…とまぁ、そんなこんなで、フリーザは父親ともどもあの世に行ったと言う訳さ。そんで俺たちは、2年後に現れるらしい、人造人間って奴らと戦うために修行してるって訳」
「………っっ…ふぅ……ぅぅ……」
最後の最後まで、どうにかベジータや悟飯、そしてトランクスといった、他のサイヤ人の事に触れないようにヤムチャが話し終えた。それには相当骨が折れたが、何とかバレずに済んでいるようだ。マーリンはというと、はぁぁぁ…、と大きな息を吐きながら、『物語』の余韻にひたっていた。
「…さて。これで判っただろ? 確かに悟空はサイヤ人だけど、俺たちの仲間で何度も地球の危機を救った、誰よりも立派な地球人なんだ。地球を支配してるどころか、罪の無い人を殺した事もない、まっとうな人間なんだよ」
「…………ッッ……!!」
しかし最後のヤムチャの言葉で、冷水を浴びせられたようにマーリンは急速に現実に引き戻された。
…ヤムチャの語ってくれた物語を聞き終えた今だから分かる。もし今の話の通りなら、ソン・ゴクウという戦士は確かに素晴らしいとマーリンは思った。私利私欲のために拳を振るわず、どんな強敵にも怯まずに挑み、乗り越え、そして殺さない。
今までカネのため、そして憎しみにまかせて力を振るい続けてきた自分の方が、よほど冷酷で残忍な…薄汚い獣に思えたほどだった。
「…………」
先程までの興奮も余韻も吹き飛んだ少女はうつむき、ただ唇を噛み締めるしかなかった。
「まぁ、そういう事だから、悟空を殺すって考えは捨てて、さっさと地球から出て行くのが一番だと思うぜ? それか、もう宇宙にサイヤ人はいないんだろ? だったら後はのんびり地球で暮らしていいんじゃないか?」
「………え……?」
ふいに掛けられた、男の思ってもみなかった提案にマーリンが目を丸くする。
「ここで…? この星で…地球で…、お前と一緒に………?」
「…は……? ばっ…! 俺には彼女がちゃーんといるっての! まぁ…最近はちょっと色々あるけど…」
予想外の少女の言葉に、今度はヤムチャが動揺する番だった。しかし、それを気付かれないように立ち上がると、鍋の方へ向かい、何やらごそごそとし始めた。
「…おい、悪いんだけどさ、ちょっと食料を調達してきてくれ」
背を向けたまま、ヤムチャがマーリンに声を掛ける。
「……え? ……え?」
「ここから西に150キロほど行った所にオアシスがある。そこで適当に果物とか魚とか捕まえてきてくれ。俺は他にやる事があるし」
気分的には最悪な上に、急に思ってもみなかった『仕事』を振られ、少女はあからさまに困った表情を浮かべた。
「い、いや……、急にそう……言われても…、わたしには何がいいのかも判らないぞ…」
「食えそうなら何でもいいって。誰かさんのせいで食料がすっからかんなんだ。おまけにその誰かさんには家もぶっ壊されてるんだし、せめてそれぐらいはしてもらわないとな」
「う…ぐ……っっ……」
そこまで言われては、さしもの少女も反論できなかった。しぶしぶ承諾したマーリンは意識を切り替え、ふわりと夕日を背に浮かび上がり、洞窟を後にした。
「あ…あいつ…。何て事言いやがるんだ…」
マーリンの気が完全に遠ざかった事を確認すると、ようやくヤムチャは真っ赤な顔をあげたのだった。
「…む、見つけた…。…あれか」
ヤムチャに指示された方角を飛んでいくと、目の前にそれなりの規模の水をたたえたオアシスを発見したマーリンが、独りごちながら降り立った。想像していたよりもはるかに大きなオアシスだった。
まずはスカウターで確認する。この星ではあまり意味がないと教えられはしたが、いくつもの戦いを潜り抜けてきた彼女にとって、それでも一応周囲をチェックしないと不安なのである。
遠くの方で巨大なパワーをいくつか捉えたが、おそらくヤムチャが言っていた仲間のものだろうと無視して、オアシス周辺に範囲を集中する。
「…ふむ。どうやら小動物がいくつかいる程度だな…」
辺りの安全を確認し、さくさくと草を踏みしめながら歩き始める。中心に大きな池があり、他にもいくつか小さな水溜りのような池と、それを囲むように木々が生い茂っている。崩れかけた建物の廃墟もあるが、今は無人のようだった。
その池のほとりに立つと、澄み切った水をなみなみとたたえているのが見えた。沈みかけた太陽と入れ替わるように、昇りゆく月に照らされ、きらきらとした光を放っていた。
「……っっ…」
そう言えばこの星に…地球に来てから、マーリンは自分がほとんど水を飲んでいない事に気付いた。そう思うと無性に喉が渇いてきた。
思わず腕を伸ばし、少女が両手で水をすくう。例によってすぐ横には解毒剤を置き、万一の事態に備えながら、ゆっくりと両手を口に運ぶ。
ごくり、と喉を大きく鳴らしながら、少女がすくった水を飲み込んだ。いつも飲んでいる純水とは違って、ほんの少し甘い気がした。しかし危険なものが混入している気配はない。
そこまでを把握すると、マーリンは首を伸ばし、直接池から水を飲み始めた。甘くてひんやり冷たい水をがぶがぶと喉に流し込む。
「……ふぅ…」
ようやく落ち着いて、水面から口を離すと、少女はふと自分の顔がゆらゆらと水面に映っていることに気がついた。
…ふと見れば昨日、散々泣き喚いてそのままの顔だ。涙の跡やら目ヤニやらで実にひどい顔である。口元にもごしごし拭っただけでは取れなかった食べカスが残っている。あまりのみっともなさに、自分でも呆れてしまう。
おまけに昨日の戦いで砂や埃にまみれた髪もばっさばさだ。そう思うと段々と身体も気持ち悪くなってきた。さすがにこれは帰る前に、何とかした方がいいとマーリンは思い始めた。
一方ヤムチャは、先ほどの動揺を振り払うかのように修行に専念していた。限界を超える8倍界王拳に、彼の肉体が悲鳴を上げる。
…ズゴゴゴゴゴゴ……ッッ……!!
ずきん…! どくん………!!!
「んぎぎぎっ……っくそ…っ! いてぇぇぇ…! こんなんで戦うなんて………出来る訳ねぇだろうがぁぁぁ……!!!」
逆ギレしながら、なおもヤムチャは8倍を維持する。すこしづつでもこうやって身体を慣らさなければ、いつまでたっても限界は超えられない。そう信じて身体を痛めつける事だけが、今の彼に出来る全てだった。
「……はぁ…、はぁ…はぁ………」
ようやく大地と大気の震えが収まる。ヤムチャの全身にとてつもない疲労感が漂い、身体中の節々を痛みが襲う。さすがにちょっと無理しすぎたかな…と思った。
「…そう言やあいつ、まだ帰ってきてないのか…」
すっかり日が落ち、辺りは夕闇に包まれ始めていた。あれから軽く2時間は経っている。気を探ってみると、例のオアシスから動いてはいないようだ。何かトラブルか、あるいは食料が見つからず、途方にくれているのか。
「…ち。仕方無いな…。迎えに行ってやるか…」