しばらくして、マーリンの気を辿ったヤムチャもオアシスに到着した。
「おーい、マーーリーン! どこだー?!」
そう声を掛けながらさくさくとオアシスの中をヤムチャが歩く。割とすぐ近くに少女がいることは気配で分かっているが、何かトラブルが起きたとか、焦りのようなものは気からは感じ取れない。
「……?」
食料が見つからなかったのなら、もうちょっとぐらいはうろたえていても不思議ではない。しかしマーリンから感じられる気は、むしろリラックスしているかのように穏やかだ。
調達が上手くいったのか。しかしそれならいつまでもウロウロとしているのも変である。かすかな異変…異常をヤムチャは予感する。そして、ふと男は更なる異変に気付いた。
…ここがオアシスだとしても、荒野にしては何か妙に湿度が高い上、煙のようなものも見えるのだ。
その時、ぱしゃっと水が跳ねる音がした。
「あぁ! ヤムチャか! いいところに来た! お前もどうだ?!」
そう言いながら…マーリンが夜の空に姿を現し、ヤムチャの眼前に降り立った。
しかし…しかも一糸纏わぬ姿で。
「……!!!!!??????」
まったく想像も予想もしていなかった状況に、ヤムチャはあやうくひっくり返りそうになったが、すんでのところで踏みとどまる。
「お……おま…、…な…何………してる……?」
「ん? ああ、手ごろな大きさの池があったのでな。エネルギー波で水を加熱し、温水にした。それでその温水に浸かっていたんだが、お前もどうだ? なかなか気持ち良いぞ?」
全裸のまま、仁王立ちでマーリンが得々と説明を続ける。
「…最初はそのまま入ろうと思ったんだ。顔や髪を流したかったからな。しかし、水が冷たかったので、少し暖めてみたら…これが実に心地よかったんだ! お前もきっと気に入るに違いない! さぁ、こっちだヤムチャ!!」
まるで世紀の大発見をしたように、目を輝かせながら少女が力説する。しかしヤムチャはそんなマーリンを直視しないように、あさっての方向を向いたままである。
「わ…わかった…から…、とりあえず服を…着てくれ…」
そう声を絞り出すしか、ヤムチャにはできなかった。ブルマとの生活でだいぶ慣れたとは言え、それでもこの男には刺激が強すぎたようだ。ふいに、つつ、と顔を覆う指の隙間から鼻血が垂れてきた。
「何を言っている…。服など着ていてはあの心地よさは味わえないぞ…っ?! どうしたヤムチャ! 敵か! 攻撃を受けていたのか!?」
ヤムチャの鼻血を勘違いしたマーリンが、あわててスカウターを起動させる。
例え真っ裸でもスカウターだけは決して手放さない少女に、なかば呆れながらヤムチャは大きく息を吸い込んで…叫んだ。
「……い、いいから服を着ろって言ってんだ! このバカ女ーーーっ!!!」
ひゅうう……ううう……っ……
……ちゃぷ…ちゃぷ…
「…ふぅ…。確かにいい湯だな、こりゃ……」
湯煙の隙間から見える、夜空に輝く満天の星星と月を眺めながら、ヤムチャがそうひとりごちる。肌を刺すような夜の荒野の冷気が火照った身体に心地いい。これこそ露天風呂の醍醐味と言えよう。
「だから言っただろう。これほどの愉悦はそうは無いぞ」
少し離れた所から、ぱしゃぱしゃと言う水音と共に楽しげな少女の声も聞こえてくる。
そんなマーリンに、あんな不味い宇宙食しか食ってこなかったお前が愉悦云々言っても説得力ないぞ、と心の中で密かにツッコむヤムチャだった。
……結局、どう言ってもヤムチャの真意を理解出来ないマーリンから、逃げるように後ずさる途中で、運悪く別の池にはまってしまったヤムチャはずぶ濡れになってしまったのだった。服を乾かす間、仕方なく即席の温泉に浸かる事にしたヤムチャだったが、今となってはまんざらでもないようだ。
時折吹く風が湯煙を押し流す。そしてその度に少女のほんのりと赤く染まった白い肌が見え隠れする。あわててヤムチャは上を向く。
『…こんなガキんちょに何を…。お、俺はロリコンじゃねえぞ…』
そうぶつぶつ言いながらも、さっきのマーリンの身体が脳裏から離れない。
戦闘服の上から見ても細かったが、裸になるとそれはより顕著だった。とても幾多のサイヤ人を葬ってきたとは思えない華奢な体つき。腕も足も。恐らくは10代半ばぐらいなのだろうが、同年代の地球の少女と比べても、あまり発育がいいとは思えない。特に若い頃のブルマと比べたら雲泥の差だ。
『い……いやいや! そう言うことでもなくて…!!』
ぶんぶんと頭を振り、焼きついた記憶を追い出す。とっさに上を見ながら必死に違う事を考える。
「…マーリン、お前、どの辺から来たんだ? お前の生まれた星は?」
見上げた満天の星空の光景に、そんな言葉がヤムチャの口をついて出た。
「わたしの星は…ここからでは遠すぎて見えない…。そうだな…方向で言えば、お前たちがアルフェラッツと呼んでいる星の、そのずっとずっと向こうにある」
ヤムチャからは見えないが、星空を見ながら、わずかに少女の表情が曇る。
「…もっとも、見えたとしても無意味だがな。もうとっくの昔に消滅してしまった…。あと500万年もすれば、ここからでもその最後の光ぐらいは見えるかもしれないが…な」
「あ…の…その…、すまない。悪い事聞いちまったな……」
バツが悪そうに謝るヤムチャ。ざぁ…っとマーリンが立ち上がりながら、別に構わない、もう終わったことだ、とだけ答えた。いつもとさほど変わらないトーンで。
しかしその声は、かすかに震えているようにも聞こえた。
「………ッッ……」
それでヤムチャはようやく理解した。おそらく彼女の星はサイヤ人に滅ぼされたのだろう、と。無神経にも故郷の話を振った、さっきの自分を蹴り飛ばしたい衝動に男は駆られた。
この少女の尋常ではないサイヤ人への憎しみを考えれば、それぐらいのことは想像できたはずなのだ。なのに……。
…己のうかつさ加減に、ヤムチャは自分自身に怒りと情けなさを覚えた。そして、なるほど、こんな事だから愛想を尽かされるのだと男が自嘲する。
ざぶんと頭まで湯に浸かり、しばらくしてからヤムチャも湯から上がったのだった。
いわゆる温泉回でした。
まぁヒロイン一人とオッサン一人の混浴がそうなのか、と言われると怪しいところではありますが……(汗