湯からあがったヤムチャが、とん、と池の淵のたき火の傍に降り立った。木の枝に掛けておいた道着はすっかり乾いていた。
ついでにマーリンの服も洗って、そばで乾かしていたのだが、見つからないところを見ると、すでに着替えているのだろうとヤムチャは思った。
…かさり
ふいに茂みから音がした。道着に腕を通し、いつも通りの格好に戻った男が振り向くと、やはりいつも通りの格好のマーリンの姿があった。
先程のことを引きずっているのかいないのか、表情からは伺えなかった。
「………っ…」
あんなことの後で、どう声をかけたらいいのか。ヤムチャは口を開きかけるも、言葉に詰まってしまう。それでもどうにか言葉をひねり出す。
「……なぁ、そういえば食料って…どうなった?」
「……あ……」
男の言葉に、一気に少女の顔からさあっと血の気が引いていく。
「…あ、……す、すまない。そ、その……。さっきの湯があまりに気持ちよくて……、ここに来た本来の目的をすっかり失念していた……」
「……は……」
「ほ、本当にすまなかった! い、今から必ず見つけるから…許して欲しい」
泣きそうな顔で許しを請うてきた少女に、思わずヤムチャは苦笑してしまった。許して欲しいのはこっちの方だと言うのに。だから。
「…いや、いいって。だったら今から一緒に探すとするか。その方が効率もいいしな」
「え…、い、いいのか……? ありがたい申し出だが…しかし…」
「いいからいいから。よし、じゃあさっそく行くとするか」
「え、あ、ま、待ってくれヤムチャ…!」
そう言うとヤムチャは焚き火を消し、振り向きもせずに歩き出した。あわててマーリンがその後を追う。
そうして、さほど広い、というほどでもないオアシスのあちこちを、二人は
手分けして食べられそうなものを探しはじめた。
マーリンはというと、やはり慣れていないので苦労しているようだった。
「…ヤムチャ、これはどうだ?」
「そいつはダメだ。毒キノコだな」
「……では、これはどうだ?」
「…食えなくはないけど、あんまり旨くないんだよな…、その野草は」
「むむむ……、なるほど……」
さすがにこの手の仕事はヤムチャの方に一日の長がある。落ち込んではいても、目ざとく鼻を利かせては、果物や野草、大きな池にいた魚などを捕まえ、たちまちのうちに袋をいっぱいにしていく。マーリンもヤムチャからアドバイスをもらいながら、少しづつ慣れてきた。そして、まるで宝探しをしているかのようなこの作業が、だんだんとマーリンは楽しくなってきたようだった。
「…! ヤムチャ! 少し離れた場所に生命反応がある! 先に行くぞ! はははっ!」
「え、あ、あぁ…」
スカウターに現れた反応を捉えた少女が、言うが早いか、たっと風のように駆け出していった。
切り替えが早いのか、それとも本当にさっきのことは、それほど気にしていないのか。男は一人、うじうじ悩んで、罪悪感を覚えた自分がただの馬鹿に思えたのだった。
「…よっと。…まぁこんなもんかな。マーリン! そっちはどうだ?!」
自分も気持ちを切り替え、周辺の食物をあらかた集め終えた男が声をかけると、100メートルほど離れた場所から、マーリンの声が返ってきた。
「問題無い! 今捕らえた! 少し小さいが止むを得ま………っ!?」
…ドンッッ……ッ!!
ヤムチャの声に答えた瞬間、不意を突かれたマーリンは突然、地面に転がされた。何かにぶつかられたようだが、手にした獲物はそれでも離さない。
「ちっ……なんだ…?」
すばやく体勢を整え起き上がると、そこには一頭の、先ほど捕らえたのと大きさこそ格段に大きいが、同じ動物がいるのを目にした。そして、今しがた自分を転がしたのもこの動物だと認識する。
「…ふん。…しかしちょうどいい。こいつも捕らえるか」
そう言って少女はにやりと嘲った。さすがに持ってきた袋には入りそうに無い。ではバラバラにしていくつかに分けて、あるいは何回か往復して持って帰ろうか…。
などとあれこれ考えるマーリンの左腕に、ふいに鋭い痛みが走った。
「………ッッ??!!」
先ほど捕らえた獣…イノシシのような動物が、マーリンの腕に小さな牙を突き立てていた。
「こっ……こいつ……!!」
とっさに腕を振って、その獣を払いのける。その時、かすかな気の乱れを感知したヤムチャがマーリンに駆け寄ってきた。
「どうした? って、で……デカイな……! このイノシシ……!」
このオアシスのどこに潜んでいたのか、優に体長5メートルを超す巨大イノシシにヤムチャが驚く。しかし。
「…問題無いと言ったはずだ。帰りの荷物が少し大きくなるに過ぎない」
そう言ってマーリンが冷酷そうな笑みを浮かべる。たかが獣に傷付けられ、プライドをも傷付けられたのか、その目はサイヤ人を追い詰めた時のそれと、よく似た光を放っていた……。