Saiyan killer   作:北江

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15話、母子

 

「……まずはお前からだ…」

 そう言って、マーリンが改めて巨大イノシシと対峙する。

 少女の身体に凶暴なエネルギーが充満していく。むろんフルパワーには遠く及ばないが、それでも溢れるほどのエネルギーが、びりびりと大気が震わせる。

 そのまま、す…、っと少女が一歩を踏み出そうとした瞬間。

 

「…マーリン。…そいつらは見逃してやろう」

 突然、ヤムチャがそれを制止するような言葉を発した。しかしマーリンには意味が分からない。

 

「…何を言っている…。これはチャンスではないのか。こいつらを捕らえれば、当分食料には困らないはずだ」

 そう口では言ったものの、マーリンの本心はそこには無かった。

 …傷付けられた怒り、無様に地面に転がされた怒り。そうした感情だけが、今の彼女を支配していた。どう切り刻んでやろうか…どう苦しませながら殺してやろうか…。そんな事だけをマーリンは考えていた。

 

 だが、続くヤムチャの言葉が、その少女の心に冷水を浴びせ掛ける。

 

「…そいつらはたぶん親子だ。お前が小さい子供の方を捕まえたんで、あわてて母親が飛び出してきたんだろう」

「………ぇ……」

 

 男の言葉に、はっ、としてマーリンがイノシシたちに向き直る。見れば子供イノシシは母親イノシシに守られるように隠れて、がたがたと震えていた。

 動物は相手の力に敏感だ。臨戦体勢のマーリンを見て、母親もわずかにその巨体を震わせている。絶対に勝てない事は承知しているのだろう。それでも母イノシシは気丈にも、一歩も引こうとしていない。

 

「………っ……」

 どこかで見たような光景。いつか見たような光景。記憶の中の母親と巨大イノシシが、記憶の中の自分と子供イノシシが重なる。そして今の自分と重なるのは…。

 

「わた…し…、…わたしは……っ…」

 

 …視界がぐにゃりと歪んでいく。そのまま地面にマーリンは座り込んでしまった。

 

 

 放心したままの少女を置いて、イノシシの母子はそのまま逃げるように去っていった。ややあって、マーリンの後ろに立ったヤムチャが声をかける。

 

「…まぁ、肉が食えないのは残念だったけど、ああ言うのは仕方無いさ。ほら、いつまでも座り込んでないで、そろそろ戻ろうぜ」

「…ぇ、…あ、あぁ……、そ……そうだな……。すまない……」

 ようやく我に帰ったマーリンは小さくうなずくと、のろのろと立ち上がる。

 

「ッあ……っ…!!」

「…おっと、大丈夫か……?」

 

 と、立ち上がりかけたところでマーリンの身体がぐらりと揺れた。足がもつれたのか、バランスを崩し、倒れそうになったところをヤムチャがとっさに支えた。

 

「ッ………!!!」

 

 ドンッ……!!

 

 

 瞬間、まるで電気でも流されたように、猛烈な勢いでマーリンがヤムチャを突き飛ばした。何が起きたのかと、地面に尻餅を着きながらヤムチャはぽかんとする。

 しかし、マーリンの方も困惑した表情を浮かべていた。そしてしどろもどろになりながら謝罪する。

 

「あ…? あ……の…その…、…す…済まない…。でも…身体に触れられるのは……好きじゃないんだ…。いや…その……、慣れていないと言うか…、…と…とにかく済まなかった…。悪気は無いんだ……」

 

 まるで今にも泣き出しそうな顔のまま、少女がそう必死に釈明する。一方でヤムチャはヤムチャで『裸を見られるのは平気なくせに、少し触れられただけでこんな大騒ぎなんて、やっぱりオンナノコってワケワカンナイ』

 

 ……などと、呑気な事を考えていた………。

 

 

 

 ともあれ、肉以外は大量の食料を手にした二人は隠れ家の洞窟に戻ると、少し遅めの夕食を取り、その後でヤムチャは外で軽く修行で汗を流した。それを見ながらマーリンは、ずっと密かに考えていたことを、この男に打ち明けるのを決心した。

 

「ふぅ…さて、ちょっと早いけどそろそろ寝るか…」

 夕方の過酷な修行が響いているのだろう。久しぶりに入った風呂で少しは癒されたものの、やはり体力は相当に消耗している。身体は正直に休息を求めていた。

 大きく伸びをしながらヤムチャが眠そうに洞窟に戻ると、待ち構えていたようにマーリンが声を掛けた。

 

「…トレーニング、シュギョウとやらは順調なのか? ヤムチャ」

「ん…、まぁ順調…、と言いたい所だけど、なかなか難しいな。なにせ人造人間とやらはフリーザ以上の化け物らしいからなぁ…。それに時間もないし……」

 そう言ってため息を一つつくと、ごろりと横になる。男の言葉に一瞬表情が険しくなったマーリンだったが、そのままじりじりとヤムチャににじり寄る。そして真剣な表情で…切り出した。

 

「…ヤムチャ。お前は今朝、自分を大した事が無いと言っていたが、それは間違いだ。お前が宇宙でも指折りの、一流の戦士である事はわたしが保証する」

「…なんだよ、やぶから棒に。おだてたって何にも出ないぜ?」

 

 気のないヤムチャの返事に、一瞬、ぐっ、と詰まりそうになったが、少女が何とか先を続ける。

 

「……そのお前を、ヤムチャという男を本物の戦士と見込んで頼みがある。ブジュツとやらをわたしに教えて欲しい……!!」

 

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