思っても見なかった少女の言葉に、さすがにヤムチャも驚く。
「…なん…だと? まさかお前…、まだ悟空を殺す事をあきらめて無かったのか?」
思わず体を起こし、憮然とした表情の男が、マーリンを問い詰める。
「…確かに、その気持ちが無いと言ったら…嘘になる…。…ヤツがサイヤ人である以上、その気持ちを消す事はわたしには難しい…」
「……ふざけるなよ。…出ていけ。さっさとここから……」
「待って! 最後まで聞いてくれ! ヤムチャ!」
「……ッッ……」
あるいは実力行使をも辞さない、という態度で立ち上がりかけた男に、マーリンが必死の声を上げる。その声と真剣な面持ちに、立ち上がりかけたヤムチャは再び地面に腰を落とした。
「…どういうことだ?」
「…わたしは…サイヤ人が憎い。お前も薄々は気づいているかもしれないが、わたしの母星は…奴らに滅ぼされた…」
「…………」
「…だからサイヤ人への憎しみだけはどうしようもない。でも…、あの男がもしサイヤ人でなければ…尊敬に値する素晴らしい戦士だとも思った…。その気持ちも…本当なんだ…」
訥々と少女が続ける。一生懸命に言葉を選び、様々に紡ぎながらそれをヤムチャに投げかける。
マーリンの真意が掴めないでいるヤムチャは、ただ黙って聞くしかなかった。
「だからわたしは…どうすればいいのか判らなくなった。…わたしはお前が言っていたように、確かに頭はよくない。そう自分でも思う。だから間違った選択なのかもしれないが…、わたしはヤツともう一度、戦いたい…と思ったんだ………!」
「…………」
「…どうしてそう思ったのかは自分でもよく分からない。でもそれは…! サイヤ人としてのヤツを殺したいという気持ちからじゃない! …きっとわたしは……あらゆるサイヤ人を超えた戦士、超サイヤ人であるソン・ゴクウをさらに超えるために……戦いたいんだ!」
焚き火に照らされ、少女の影がゆらゆらと揺れる。
「………」
しばらく黙って聞いていたヤムチャが、不意にぼそりと口を開いた。
「……だから武術を習いたいのか…?」
「そうだ…。ブジュツとやらは、学べば誰でも出来るようになるのだろう?」
「………」
「……今のわたしの力では超サイヤ人には遠く及ばない…。挑んだとしても、昨日と同じ結果だろう。戦いにすらなり得ない………」
無念そうな表情で少女が答える。昨日の無様な自分の姿を思い出しているのか、それともあまりの力の差を想像しているのか、かすかに身体が震えていた。
「…だから、勝ちたい…などとは、今のわたしにはおこがましくて到底言えない。だからそうは言わない。でもせめてヤツと戦えるだけの力が欲しい……。お願いだヤムチャ…わたしに力を貸してくれ………!」
「……………」
少女の言葉に、ヤムチャはしばらく考え込んでいた。だがすぐに結論など出せるはずも無い。やおら立ち上がると、ごそごそと寝袋を取り出した。そしてそれをマーリンに渡した。
「………?」
「…今日はお前が使え。もう遅い…話はまた明日な」
そう言って代わりに小汚い毛布にくるまると、またごろりとヤムチャは横になった。
話しかけようとしても、それを許さない空気をまとった男の様子に、仕方なくマーリンも寝袋にすっぽりと収まった。実際のところ、少女のまとう戦闘服は温度調節機能もあり、何も無くとも問題はないのだが、不思議な暖かさ…物理的な温度以上の暖かさが彼女を包んでいく。
ふっ、と自分のものとも、寝袋のものとも違う匂い…ヤムチャの匂いがマーリンの鼻をくすぐる。しかし不快ではなかった。
心と身体を満たしていく暖かなものに包まれながら、ゆっくりと少女も眠りに落ちていった。