…かちゃ……
…ずず……ずずず……
翌朝、どこか気まずい雰囲気の中、それまで無言のまま朝食を取っていたヤムチャがふいに、ゆっくりと口を開いた。
「……昨日の話だけどな……。…教えてやっても…いい……」
瞬間、それまで黙々とスプーンを口に運ぶだけだった少女の顔がぱっと輝いた。
「……!! 本当かヤムチャ!!」
しかし、そんな少女の様子など無視するように、ヤムチャが厳しい表情のまま続ける。
「…ただし…、…いくつか条件がある。それが守れるなら、だ」
「…まず、俺の言う事は絶対に守る事。修行のやり方に文句をつけたり反論はダメだ。質問は構わないけど、それに答えるとも限らないからな」
男の言葉に、うんうんとマーリンがうなずく。
「それと…、もし万が一にでも悟空に勝てそうになっても、絶対に殺さない事。どうだ? 守れそうか?」
「………ッ……」
2つめの条件に、一瞬だけ身体がぴくりと反応したものの、少し間を置いてからはっきりとマーリンが答える。
「……問題無い。そのふたつだけで……いいんだな?」
「ああ、それを守れるって約束できるなら、お前に協力してやる。まぁほとんど無駄だとは思うけどな……」
「……!! 感謝するぞヤムチャ!!」
まるで今にも踊りだしそうな表情のマーリンだった。しかし今の少女の心には、修行の事よりもヤムチャの協力を得られる、という事の方が重要だったのかもしれない。
朝食を済ませると、さっそくヤムチャはマーリンを連れて洞窟を後にした。荒野の中でも比較的開けた場所に着くと、少女の方に向き直って口を開いた。
「よし、それじゃ今日からさっそく修行するぞ。あらかじめ言っておくけど、もし俺が見切りをつけたら、その時点で修行は終わりだ。俺も自分の修行をしなくちゃいけないんだからな」
男の言葉に、マーリンがこくりと頷く。
「…わかった。それで……どう言うトレーニングをするんだ?」
そう言いながら、これからのすさまじい修行を想像したのか、無意識の内に少女の身体からエネルギーが溢れ出す。
「……あー、落ち着け。気…力を抜け」
そう言って、ヤムチャが近くに転がっていた石をひとつ、ひょいと持ち上げると、それをマーリンに手渡した。
「…そいつを割ってみろ。腕力だけでな」
「…………?」
ずしりとした、石と言うよりは岩の欠片を手渡され、マーリンがぽかんとした表情を浮かべる。
「…早くしろ。時間がもったいない」
「……ッッ…、あ…あぁ、わ…かった…」
そう急かされ、少女があわてて石に視線を戻す。ヤムチャの意図など判らないまま、とりあえず言われた通りに最大限にエネルギーを抑え、右腕を振り上げ左手に持った石に叩きつけた。
「……つりゃあぁっっ!!」
…ぺきっ…
「いっ……た……ぁ……」
悲鳴とも、うめき声ともつかない声を上げながら、マーリンが目に涙を浮かべた。そして…石はびくともしていなかった。痛みに思わず石を落とし、右手を押さえていた。
そしてその様子を見ながら、やっぱり……とヤムチャは思っていた。
…この少女は気…エネルギーの量こそ凄まじいものの、肉体そのものは普通の…例えばその辺を歩いている地球の女の子とも大差無いのだ。おそらく、持って生まれたそのエネルギー、パワーだけで、今まで戦い抜いてきたのだろう、と。
右腕に走る激痛に、思わず座り込んでしまったマーリンにヤムチャが声を掛ける。
「マーリン…、お前、今まで戦い方は誰に習ったんだ?」
「……誰かに教えてもらった…というのは、ほとんど無い…。他の戦士の戦いから見様見真似で覚えたというか……」
「……やっぱりそうか……」
いまだ涙目のままの少女の答えに、そして予想通りの答えに、ヤムチャがため息をつく。これは本当に基礎の基礎から始めないとな…と、もうひとつ大きなため息をついた。
「…よし、じゃあまずは肉体の鍛錬からだ。その場で腕立て100回!」
「………は……?」
「は? じゃないぞ。ほら、さっさと立て!」
「……ま、待ってくれ。そんな訓練は必要無いだろう…。そんなことより戦闘力をコントロールする技を教えてくれ…!」
理不尽とも言えるヤムチャの命令に、少女が不服の声を上げる。しかし。
「必要が有るか無いかは俺が決めることだ。俺の言う事には絶対従う事だったはずだぞ。…嫌なら修行はここまでだ」
「ぅ、うぅ………」
そう言えばそんな約束だったことをマーリンは思い出した。仕方なくのろのろとうつぶせになり、姿勢をとる。
「よーし。いーち、にー…」
ヤムチャの掛け声に従って、何度も腕を曲げ、伸ばしていく。何でこんな事に……と、早くも少女は修行を申し出た事を後悔したのだった……。