キィィィィン…!
真っ赤な隕石にも見えるそれが、地球の大気を引き裂いていく。しかし、なるべく人気の少ないところを選び、微調整しているかのように、「それ」は落ちているようだった。
……ドォォン!!!!
少しして「それ」が地表に激突し、周辺の空気を震わせた。「着陸」、とはとうてい言えないような乱暴な到着である。その新しく生まれたクレーターの中、そして中心にある、半ば地面に埋没しているポッドから、のそり、と一人の少女が姿を現した。
「……ここが…地球か…」
最後のサイヤ人と思って追い詰めた戦士の、最後の言葉からたどり着いた、銀河の外れの辺境の惑星だった。しかし少女からするとどうにも違和感がぬぐえない。
「おかしい…。…本当にここにいるのだろうか……。ここは…あまりにもこの星はきれい過ぎる…」
サイヤ人は破壊と殺戮を好む戦闘民族だ。当然、送り込まれた星は徹底的に蹂躙され、街も自然も破壊し尽くされる。伝説の超サイヤ人、などという話は信じていなかったが、それにしてもサイヤ人がいる星とは少女には思えなかった。
「…わたしが来る前に、この星の住人が駆逐したのだろうか? とりあえず調べてみるか…」
そう言って耳に掛けてある機械に指を伸ばす。フリーザ軍のものとは少し形が違うが、どうやら『スカウター』らしい。
「…目立った戦闘力の持ち主はいない…。ましてサイヤ人に対抗できそうなレベルでは到底ない…」
そう少女が独りごちた次の瞬間、ふいにけたたましい警報音がスカウターから発せられた。
「…!! せ、戦闘…力……38000!? バカな…!!…」
少女が驚くのも無理は無い。こんな戦闘力は通常のサイヤ人のレベルからはあり得ない数値だからだ。いや、宇宙全体からしても、30000を超える戦闘力の持ち主など、そうはいない。
「そんな…。まさか……まさか本当に…超サイヤ人なのか………」
……少女の顔から、どんどんと色が失なわれていく。
しかしそれも当然のことだった。宇宙中に散らばったはぐれサイヤ人をことごとく倒してきた、この少女の戦闘力でさえ3万を少し超える程度なのだ。おおよその目安として、戦闘力が3割違えばまず勝てないレベルで、2割違ってもほとんど勝ち目は無い。ゆえに、今スカウターが捉えている相手に、少女はほとんどの確率で勝てないのだ。
先日の戦士は3000ほどで、サイヤ人としては平均レベルだったが、今回の『敵』は明らかに異常なパワーなのである。
「…でも…行かなきゃ…」
サイヤ人たちの蛮行は何度も見てきた。負ければどうなるのか…振り払えない光景が脳裏を幾度もかすめるが、少女はそれでも立ち上がった。
「これが最後の戦い…。母さん…わたしを……守って…」
近づくにつれ高まる恐怖を押し殺しながら、スカウターの捉えた座標に少女が警戒しながら接近する。周囲はありがたい事に、見渡す限りの荒野だった。これならばこの星の住人に掛ける迷惑も最低限で済むと、ほんのわずかに少女は安堵した。
「…この辺りのはずだが…」
数秒後、目視距離にまで達した事をスカウターが知らせる。地上を見ると一人の男が何やら動いていた。少女には判らなかったが、いわゆる「独闘」……、一人での格闘訓練の最中だった。
…どうやらスカウターは装備していないようだ、と少女は認識した。もしあるのなら、とっくに自分の接近に気がついているはずで、何らかの対応をするはず。しかしこの男からはまったくそうした素振りも気配もなかった。
そこまでを把握した少女が、男に気付かれないように、そっと地上に降りる。
「はいはいはい~~~っ!!はいッ!!はいッ!!!」
荒野に男の掛け声がこだましていた。上空からでは判らなかったが、間近で見るその動きのキレ、そしてその力は確かにすさまじいものがあった。思わず少女の身体がぶるっと震える。
「戦闘力38142……間違い無い。この星の平均値を大きく超える戦闘力とサイヤ人の特徴の黒髪、…尻尾が見当たらないが…服に隠しているのか…? いや…しかし…」
何か言葉にならない違和感はあるが、最終的にはサイヤ人に間違いない、と少女は判断した。であるならば、あとはどう戦うかだ。
しばらく考えた後、やはり奇襲しかないと少女は思った。真正面から仕掛けても、これだけレベルが違えば勝負にはならないのだ。
「…よし…行こう…!」
作戦とその段取りを考え終え、意を決し、大きく息を吸い込む。そして少女は、持てる戦闘力の全てを解放した。
「はぁぁぁぁぁっ!!!!!」
……ズ……ヴォオォォッッ!!!
次の瞬間、少女を中心に半径100メートルが蒸発した…!
そしてエネルギーを放出しながら、スカウターで敵の動向を探る。どうやら動かずに耐えているような動きを、少女はスカウターから読み取る。
いくらレベルが上の相手でも、この攻撃をまともに食らってはしばらくは動けないはず。そう読んだ少女は素早く次の行動に移る。
「…はッ!! はッ…!!」
不意打ちの次は舞台作りだ。相手に接近しながらエネルギー弾で地面を撃ち、大きく砂塵を巻き上げる。
スカウターを持っていないのならば、これで目視で戦う事も出来なくなる。仮に強大なパワーでエネルギー波で反撃されたとしても、めくら撃ちではさほど怖くは無いのだ。
男のいる所まで約50メートルまで近づくと、ようやく相手が動いたのが見えた。何が起きたのか理解できず、しきりに周りをきょろきょろしているのが見て取れた。しかし残念ながらダメージはほとんど無いようだった。
「さすが…。でも……これで…!!」
そう言いながら少女が両手に力を込める。距離は10メートルほどだ。
砂塵に身を隠しながら走り、己が必殺技の有効射程に入ったのを確認して、それを放つ体勢に入った瞬間、しかし少女は信じられないものを見た。