「…ふん。やる気は充分みたいだな。次の修行は組み手だ。いよいよ……お待ちかねの実戦形式でな…!」
そう言ってヤムチャがシュッ、シュッっとパンチを繰り出しながら笑う。釣られてかマーリンもにやりと笑った。
確かに超サイヤ人との差はあるが、それでも以前とは比較にならないほどのパワーアップを果たしたのだ。その自分の力を早く試して見たいのか、少女はウズウズとしている様子だった。
「…と、その前に一応場所を変えるか」
マーリンを伴って、先日出来たばかりのクレーターに移動する。言うまでもなく、先日マーリンが作ったクレーターだ。そこに10メートルほど距離を置いて、改めて二人が対峙する。いわばこの直径200メートルほどのクレーターの内側が、特設リングという訳だ。
一応スカウターをセットし、マーリンがヤムチャの戦闘力を測定する。ヤムチャ自身の修行の成果もあるのか、数値は以前より少し上の、40000弱を表示していた。しかしそれでもマーリンとは2倍以上の差である。
「…そのままでいいのか? カイオウケンとやらはどうした。わたしを鍛えてくれるんじゃないのか?」
少し拍子抜けした少女が問う。しかしヤムチャはそれを飄々と受け流す。
「…お前なんか、今のままでも充分だぜ。……ま、やってみりゃ判るさ」
「なに……? 何だと……?」
どこか挑発めいた言葉を投げかけられ、少女の心にしばらく灯ることのなかった黒い炎が、再びくすぶる。
「……後悔、するなよ…」
ズゴゴゴゴゴ………
…再び大地が震えだす。マーリンの身体から、すさまじいエネルギーが放たれる。
そして…震えが収まると同時に、少女の身体が跳ねた。
瞬時にヤムチャとの距離をゼロに詰め、その至近距離からエネルギー波を放つ。地球に来る前の星で、最後だと思っていたサイヤ人を屠った、マーリンの得意技である。
しかし。
ドオッッ・・・ォォンンッッ……!
「なっ……!」
その得意の技は、虚しく空を切っただけだった。外れたエネルギー波が大地を大きく揺らし、砂が舞い上がる。
「…悟空も言ってたけど、そんな攻撃じゃ俺たちは捉えられないぜ」
外れたエネルギー波が作る濛濛たる砂塵の中、どこからかヤムチャの声だけが響く。とっさにスカウターを操作するマーリンの頭に一瞬、孫悟空との戦いがよぎる。
「…上かッ……!」
スカウターの捉えた反応に向けて、すかさずエネルギー波を放つ。しかし反応は消えたが手応えは無い。
「くっ……」
この星の戦士は戦闘力を自在にコントロールして、スカウターでは捉えきれない。そうヤムチャに聞かされ、実際に今もそのことを見せつけられ、もう十二分に理解しているつもりの少女ではあったが、染み付いた習性が何度も何度もスカウターを操作させる。
「だめか…。やはり、この砂塵が消えるのを待つか…」
反応が消えたままのスカウターにため息を漏らし、マーリンは目視で戦う事にした。そのためには砂塵が収まるまで待ち、その後の戦い方も少し考えなければいけない。さっきような大きな範囲のエネルギー波ではまずい。細く細く絞った、レーザーのように鋭く速いエネルギー波でなければ、ヤムチャは捉えられないだろう、と。
そしてようやく砂塵が収まり始めると、なんとヤムチャはクレーターの端で……、ごろりと横になっていた。
「く…、…ふざけているのか……っ」
マーリンの心の黒い炎がめらめらと燃える。ここまでバカにされてはタダでは済ませられない。殺意に満ちた力がじわりと身体の芯から湧き上がる。
そしてすっと手を伸ばし、その指から…フリーザが使っていた、『デスビーム』によく似た、細く引き絞ったエネルギー波を放った。
…ズビュウゥゥゥッッ!!
…いわゆる水鉄砲は、穴が小さいほうが良く飛ぶ。それと同じ原理で、細く収束されたエネルギーはスピードも速く、威力に優れている。
少女的にはいちおう死なない程度には抑えておいたつもりのエネルギー波だったが、それでも直撃すれば、今のヤムチャにとっては大変なことになりかねない、危険な光の矢が男を襲う。
しかし。
「おっ、これはなかなかの攻撃だな」
そう言って、ヤムチャは事も無げにその光の矢を軽々かわす。
「……っ!!??」
信じられない、と言ったマーリンをよそに、ヤムチャは相変わらず寝転がったまま、ほんのわずかに体をずらし、光の矢をかわしていく。
「ッッ………!!」
続けざまに何度もそのエネルギー波を放つが、そのたびにかわされ続ける。呆然とするマーリンにヤムチャが声をかける。
「どうしたぁ!? もう終わりか?!」
「~~~~~~ッ!!」
次の瞬間、マーリンのすぐ後ろにヤムチャがいた。
「っな??!! え、……ッ??!!」
「…とりあえず一本な」
ぱこん。
……まさに、目にも止まらない神速だった。
訳の分からないうちに軽くその頭を小突かれ、マーリンはへなへなとその場にしゃがみこんでしまった。
「どうして…。そんな馬鹿な………」
あの時の恐怖の記憶が脳裏に蘇り、少女はそう声を絞り出すのがやっとだった。孫悟空というサイヤ人と戦った時と同じく、自分の攻撃がまったく通用しない現実に、少女は愕然としていた。それどころか、動きを目で追うことすら出来なかったのだ。以前よりも圧倒的にパワーが増したというのに。
いや、どれだけパワーが増しても、敵を捉えられなければ、当たらなければ意味はないのだと、当たり前ともいえる事実を改めて突きつけられ、マーリンは唇を噛むしかなかった。
「…だから言っただろ? お前のその程度の力じゃ、この半分でも多すぎるぐらいさ。俺がもし本気でお前を倒すつもりだったら、さっきのでお前の頭は吹っ飛んでるぞ」
そうヤムチャが静かに語りかける。
怒りか屈辱か、身体を振るわせる少女にヤムチャが静かに続ける。
「だいたい、どうして気功波ばかりに頼る? もっと立体的に攻撃を組み立てないと簡単に読まれちまうぞ?」
「……………」
しばらく黙って下を向いていたマーリンだったが、ややあってようやく顔を上げ、驚くべき告白をするのだった。