Saiyan killer   作:北江

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22話、動揺

 

「……わたしは…接近戦…と言うか、いわゆる格闘…というのは苦手なんだ…。…だから今までにそういう戦いをした事は…ほとんど無い……」

「…………は…?」

 

 少女の告白に、思わずヤムチャは自分の耳を疑った。しかし、これまでのマーリンの戦いを思い返してみると、確かに格闘戦はほぼ皆無だったように思える。

 

「…に、苦手って…どうしてだよ…」

 混乱しながらヤムチャがマーリンに答えを求める。しかしヤムチャにしてみれば、無理もない話なのだ。あれだけの戦闘力を持ちながら、格闘戦が苦手で、その経験がほとんどないなど、あまりに彼ら地球の戦士、武道家の常識から外れているのだから。

 

 それとも、もしかしたらおかしいのは自分たちの方で、宇宙ではそういう戦い方が普通なのだろうか…、などと唸りながら考えるヤムチャに、しょんぼりとしながらマーリンがぼそぼそと先を続けた。

 

「…前にも言ったと思うが…、わたしは身体に触れられる事が苦手なんだ…。だから…そういう距離で戦う事はしてこなかったんだ…。…する必要もあまり無かったし…」

 

「……………」

 続く少女の言葉に、さらに唖然とするヤムチャ。確かに以前、それで突き飛ばされた事を思い出す。そして、それならば少女の身体が戦士とは思えないほどの細身であった事も納得がいく。肉体を鍛える事に否定的だったのもうなずける話だ。

 

「…じゃあ…、…今までずっとお前は…気功波だけで戦ってきたってのか…?」

「…そうだ。…それに例え拳だけでもサイヤ人などに触れるのは、わたしにとっては不快以外の何ものでも無かったから……」

「…………」

 

 言われてみれば、理解できなくはない話でもあるが、それでもこれは問題…いや、大問題だとヤムチャが焦る。地球の戦士相手にそんな戦い方では、到底誰にも…、自分はもちろん、クリリンや天津飯はおろか、チャオズやヤジロベーにさえ勝てないだろう。

 ましてや悟空には……。

 

「…………ッ…」

 しばらく沈黙が両者の間に横たわるが、マーリンが唐突にそれを破る。

 

「そんなことよりも…お前は嘘をついたな、ヤムチャ。謝罪してもらおうか…」

 

 本当に唐突で意味不明のマーリンの言葉に、またもヤムチャが呆然とする。

 

「は…? な…なんで……?」

「…お前はそのままでわたしの相手をすると言ったにも関わらず、密かに戦闘力を上げてわたしを翻弄したのだろう。お前はずるい男だ…」

 恨みがましい視線でヤムチャを射るマーリン。あわててそれをヤムチャが否定する。

 

「…おいおい、変なこと言うなよ。俺はそんな事してないぞ…」

「とぼけても無駄だ…。…お前たちが自在に戦闘力を操れる事を教えてくれたのは、ヤムチャ、お前だ。あのソン・ゴクウのように、お前はスカウターでは捉えられない一瞬一瞬で戦闘力を跳ね上げて、わたしの攻撃をかわしていたのだろう…!」

 一気にそうまくし立てる。40000と81000と言う2倍以上の差があるにも関わらずの、さっきのあの結果を理解するには、それしか少女は思いつかなかった。

 

「……はぁぁ………」

 ぼりぼりと頭をかきながら、やれやれと言った風情でヤムチャが口を開く。

 

「…ほんとに判ってねぇな…。ま、そこんところも重ねて教えてやるか…」

 そう言ってマーリンから5メートルほど離れてから、彼女に命令する。

 

「そこからさっきの技を撃ってみろ。加減なんかしなくていいからな!」

「なっ……」

 そう言われても、とっさにためらうマーリンだった。この距離でさっきの技が直撃すれば、当たりどころによっては本当に命を落としかねない。

 彼女の心の黒い炎はすでに収まっている。更にはマーリンにとってヤムチャは命の恩人であり、今は武術の師匠でもある。そのヤムチャを殺しかねない攻撃を当の本人から要求され、少女は激しく動揺する。

 

「………っ」

 とはいえヤムチャの腕は戦った自分がよく知っている。相変わらずスカウターが示すヤムチャの戦闘力に変化はないが、おそらくは避けてくれるだろうと信じられる。

 

 しかし…万が一の事態が、最悪のケースが起こる想像に不安が拭えない。

 

「…さっさと撃て! 日が暮れちまうぞ!!」

 どうするべきか答えが見出せないマーリンに、重ねてヤムチャが早く撃てと急かす。

 

「…くっ………!」

 

 やむを得ず意を決し、少女は指をヤムチャに向けエネルギーを集中した。

 …狙いは腕だ。万が一当たったとしても、ここなら命に別状は無い。そう思いながら。

 

 キュ…ヴアッ…!!

 

 マーリンの指先から、光の矢がほとばしる。しかし、心の震えが手にも伝わったのか、わずかに狙いがそれ、ヤムチャのわき腹をかすめていった。だが男は微動だにしていなかった。

 

「……ほ……っ…」

 当たらなかった事に安堵したマーリンだったが、まったくかわす動作も、避けようともしなかった男の様子に、逆に不安が増していく。やはりこの距離でかわす事は、いくらヤムチャでも無理なのでは…と。

 

「ヤ…ヤムチャ…本当に大丈夫なのか…?」

 そう言って、マーリンが暗にこの訓練の中止を求める。しかし、ヤムチャの答えは少女の予想を完全に超えていた。

 

「ん? あぁ、今のは避けるまでも無かったからな。撃つ前から外れる事は判ってたからな」

 

「…な………に……………?」

 

 

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