「ま……、まさか……」
…予知能力の存在はマーリンも聞いた事がある。もっとも、胡散臭い眉唾な、戦場でよくある幽霊を見たとかの類の噂話としてだが。
しかし、それならば自分の攻撃がまったく当たらなかったことも当然である。
「い、いや…しかし。……そうか…、なるほどな」
まさかこの星の戦士はそんなものまで使えるのか、と少女は驚き、そして、ようやく納得した。しかし続くヤムチャの言葉に、また更に衝撃を受ける。
「……何か勘違いしてないか? 俺が言ってるのは別に超能力の類じゃないぜ。単にお前の攻撃がわかり易いってだけの事だ」
「……は……?」
その言葉に驚くと同時に、軽くカチンとも来る少女だった。この技はモーションも少なく、撃つタイミングを盗まれる事など、そうは無い。ヤムチャの言っている事はめちゃくちゃなのだ。
「予知能力ではない…だと? わたしの攻撃が…分かりやすい…だと?」
「そうだ」
憤慨し、それをぶつけるマーリンだったが、しかしヤムチャは全く動じない。
「馬鹿な…そんな事はありえない!」
「そう思うんなら何度でも試してみな。ただし、今度はちゃんと…『本気』で当てるつもりでな…!」
「…………ッッ……!」
先程の自分の心の中を見透かしたようなヤムチャの言葉に、思わずマーリンの顔が赤く染まる。確かにさっきはヤムチャの身を案じて、狙いを腕にした。しかし、そのことまでをズバリと言い当てられしまい、少女は激しく動揺してしまった。
「…ほら、ここだここ。こんだけ的がデカけりゃ、いくらお前でも外しようがないだろ」
そう言ってヤムチャが自分の胸をバンバンと叩く。
「………ぐ…くっ…」
マーリンとしても、そこまで言われた以上は、もう後に引けなかった。次は当てる…。そう決意して、改めて少女が定めた狙い……その指の先には、ヤムチャの心臓があった。
ギュ…ヴァッッ…………!!!
再びヤムチャを襲う光の矢。しかし、彼はほんの少し身体をずらして、軽々とそれを避けてしまった。
「…な…、くぅっ…………ッ!!」
焦る少女が矢継ぎ早に光の矢を放つ。だが、ヤムチャはそれらの全てをほんの少しの動作でかわし続けていく。
…20発ほど撃ったところで、ようやくマーリンが腕を下ろす。これ以上はいくらやっても無駄だと理解したのだろう。ぎりぎりと歯軋りしながら、ヤムチャに食って掛かる。
「どういう事だ…早く説明しろ!!」
半ば逆ギレ気味に少女が叫ぶ。予知能力であろうが、あるいは未知の力であろうが、いずれにせよ、自分の攻撃が完璧に避けられ続けたのだ。憤懣やる方ないと言った表情だった。
「まったく…それが人に教えを請う態度かよ…」
ヤムチャも半ばあきれながら、それでも説明を始めた。
「…いいか? 何度も言ってるように、俺たちは相手の気を捉える事が出来る。これはつまり、相手の状態も判るってことだ。気の高まりがどこに集中しているかで、次の行動もある程度予測できるってことだ」
「………? …もう少し分かりやすく説明しろ……!」
「…そうだな。例えて言えば、離れた場所で腕だけに気を集中してれば、気功波を撃つつもりだってってのは、子供でも判る話だろ?」
「…う…、な…なるほど…。…しかし、あの技は今のお前の戦闘力では、それが判ってても避けられるレベルでは無いはずだ…!」
「確かにな。見て避けてたんじゃ間に合わないさ。だから、俺はお前の撃つ瞬間の気を読んで、事前に身体を動かしてたってことだ」
事も無げにそう語るヤムチャ。しかし、マーリンには何を言っているのかよく判らない様子だ。
頭の中で?マークが乱舞してそうな少女に、ヤムチャはもはや何度目だったか覚えていない大きなため息を、またひとつ重ねたのだった…。
「……要するにだ、お前はその技はスキが少ないと思ってるかもしれないが、俺たちから見たらバレバレなんだよ。撃つ瞬間は指先に気が集中するからすぐ判るし、どこを狙ってるのかも指が指す向きが教えてくれる」
「……な……」
「だから俺は撃たれる寸前に、お前の狙いからちょっとだけ身体をずらしておいた。それがお前からすれば、避けたように見えたってことだ」
淡々とそう語るヤムチャだったが、マーリンからすれば到底信じがたい話だった。まだ超能力、予知能力のほうが真実味があるとさえ思われたほどだ。
「…そ…そんな事が…。…戦いの最中にそこまで冷静に相手を見れると言うのか…」
「それをするのが武術だ。力任せの戦いじゃ、いくらパワーがアップしても、悟空はおろか、俺すら倒せやしないぜ」
「…………ッッ……」
男の語る『武術』の奥深さに、マーリンはただ圧倒された。そんな少女に、軽い調子でヤムチャが話を続ける。
「ま、そういう訳で、今日からの修行はその辺も踏まえて俺と組み手だ。気は全開でも構わないけど、気功波の類は一切禁止な。自分の五体のみで俺にぶつかってこい!」
「…ぇ…………」
まさかの、思ってもみなかったヤムチャの内容の修行に、マーリンがあわてて異議を唱える。
「え…ちょ…ちょっと待ってくれヤムチャ…。だからわたしは格闘などした事は無いし…その…身体に触れたり…触れられたりは…」
だが少女の抗議、懇願に、にやりとヤムチャが哂う。
「…つまらない心配するな。お前が俺に触れるなんて当分は無理! それに俺に触られたくないなら、必死に避ける練習にもなって一石二鳥だしな! はははははっ!」
「……………」
そう言ってヤムチャは馬鹿笑いする。始めの方こそしおらしく聞いていたマーリンだったが、だんだんと腹が立ってきたようである。
ヤムチャもだいぶマーリンの扱い方を心得てきたようだ。この少女をやる気にさせるには、怒らせるのが一番だと判った上で、あえて挑発めいた言葉を口にしているのだから。
「……いいだろう…。…だが今の言葉…、すぐに後悔させてやる……!」
そう言って。マーリンはぎゅっと拳を握り締める。確かに格闘の経験はほとんど無いが、そうやって戦う戦士の姿は何度も見ている。それに相手はヤムチャでサイヤ人ではないのだ。拳程度が一瞬触れるぐらいなら、どうと言う事は無い。
だから大丈夫…、いける…。マーリンはそう自分に言い聞かせた。
ズゴゴゴゴゴ……
三度、荒野に激震が走った。フルパワーを開放したマーリンの、そのエネルギーが激しく大地と大気を震わせる。
そしてパワーを全開放したマーリンが、ぐっと腰を落とす。今まさに獲物に飛び掛らんとする獣のように、静かに力を溜めているのだ。そして、一瞬の間をおいてそれが弾けた。
ボゥッッッ!!
空気を切り裂き、少女の身体がまっすぐにヤムチャに迫る。そしてそのまま……ヤムチャの顔面に拳を振り抜いた。
ガッ……!!!!