……ガッッッ!!!
見様見真似で繰り出したものではあったが、それはマーリンが持てる戦闘力の全てを集約させて放ったパンチだった。しかも以前から得意としていた、凄まじい速さの踏み込みによって倍化されたその拳は、今のヤムチャ程度なら粉々になってもおかしくない威力だった。
そして、少女の手には確かな感触があった。しかし。
…その一撃はヤムチャには届いていなかった。
「ぐ……ぅっ……、くくっ……」
またしても信じられないものを見ていると言う風に、マーリンが目を大きく見開いていた。
自らが放った拳の先にあったのは、鼻の折れた男の顔面でも、何もない空間でもなく、満々だった自信を平然と受け止めているヤムチャの片手だった。
「…さすがに痛ぇな…。……思ったよりはやるじゃないか」
苦笑いしながらヤムチャがそう少女に声をかける。その言葉で、はっとマーリンが我に返る。
「くっ…………!!」
あわてて少女が拳を引っ込め、後ろに飛び退った。
「…………」
また少しの距離を置き、じり、じり、と機会をうかがうように、少女が男の立っているところを中心に、円を描くように回る。
さすがに同じような状況が何度も続いたせいで、マーリンの混乱や焦りは以前より少なかった。
…この手の戦いはヤムチャの方が自分よりも格段に慣れている。そんな事は判っていたはずだ。今更いちいち驚く事ではない…、例えそれが倍以上の戦闘力を誇る、自分渾身の一撃であっても…と。
男の周りを回りながら冷静に次の一手を考える少女に、ヤムチャがアドバイスを送る。
「…今の一撃も悪くは無いけどな、格下相手には通じても俺たちには無駄だ。そんなに最初から拳と足に気を集中してたら、突撃しますって言ってるようなもんだからな」
マーリンのパンチを受け止めた右手をさすりながらヤムチャが続ける。
「それとお前の動きは直線的過ぎる。何度も言ってるけど、パワーだけで俺たちに勝つのは無理だぜ。まぁ、10倍ぐらい違えば話は別だけど、お前の今の力程度じゃあな…」
「……っち…ッ」
男の、あからさまな上から目線なアドバイスに軽くムカつきながらも、それでもマーリンはそれを心に留める。
確かにパワーは今の自分の方が上であっても、技術はヤムチャの方がずっとずっと上なのだ。驕りや慢心は捨ててかからねば、再び無様な姿をさらす事になる。
そしてマーリンは方針を変える事にした。今の自分ではまともにやっても攻撃は当たらないだろう。であるならば、さっきの攻撃や、孫悟空との戦いの時のように、相手を倒したりダメージを与えることを考えるのではなく、まずは『一撃』を軽くとも確実に当てようと考えた。
しかも、自分から攻撃を当てられるなどとは夢にも思ってもいないだろうヤムチャにとっては、また、それだけの実力もあるヤムチャからすれば、例え軽い一発でも入れられては相当に悔しいはずだ、とも。
…ぎりぎりと歯噛みするヤムチャの顔を一瞬想像して、思わず少女の顔がにやける。
バッシーンッッ………!!!
「……ッッッっ……ッ??!!」
だが次の瞬間、そんな願望を打ち砕くように、マーリンの身体に衝撃が走った。
一瞬、マーリンは何が起きたのか判らなかった。気づくと自分が地面に転がっていた。
「っっ!!!???」
あわてて飛び起き、そして起き上がった自分の直ぐ側に……ヤムチャがいた。
「…修行の最中に何をニヤニヤしてやがる。……足元がお留守だぜ」