…再び荒野に夜が訪れようとしていた。すでにヤムチャとマーリンの二人は今日の修行を終え、洞窟に戻って食事を取っていた。
「……ヤムチャ…。この訓練の意図は理解しているが、それでももう少しぐらいは手加減してもらわないと、訓練どころではなくなるぞ……」
そう言ってマーリンが手をぶるぶるさせながらスプーンを口に運ぶ。腕も足も、戦闘服に隠れて見えないが、おそらくはアザだらけなのだろう。
「…眠たいこと言ってんじゃないぞ。明日はこの倍ハードに行くからな」
あれでも一応してたんだけど…と思いつつ、それは口にせずにマーリンに活を入れるヤムチャだった。
「うぅ……、倍はさすがに勘弁してくれ……」
男の容赦のない言葉に、マーリンが思わず涙目になる。
結局、ほぼ完璧な気の防御を体得したマーリンだったが、さすがにそれを戦いの最中においてまでは完全に維持する事は出来ず、再開した組手の最中にそのスキを幾度となく突かれては手痛いダメージを受け、おまけにとうとう今日は一度もヤムチャに触れる事も出来なかったのだった。
「…まぁ、それにしたって大した進歩だぜ。たったの2週間でここまで来たんだからな。俺がここまでになるのに何年かかったかを思えばさ…」
そんな風にヤムチャは改めて昼間の修行に感じた、この少女の潜在能力に感嘆し、称賛した。
戦闘中の気の移動や、スムーズな集中こそまだまだだが、それもすぐに慣れるだろう。もともと気を扱うセンスには長けているとは判っていたが、自分がかめはめ波ひとつ撃つのに費やした歳月と苦労を思うと、何だか空しさすら感じるヤムチャだった…。
「さてと……。じゃあ俺もやるかぁ……!」
食事が終わり、しばらくした後にヤムチャが自分の修行をするために洞窟を後にした。マーリンの驚異的なレベルアップに触発されたのか、いつに無くやる気満々である。
「はぁぁぁぁぁ………ッッッ……!! まずは界王拳……5倍……ッッ!!」
…一時間ほどのわずかな修行ではあったが、人に物を教えると言う事は、実は教える方にも勉強になる事が多い。何となく判っているように思っている事も、それを誰かに教えるためには、論理的に頭の中で組み立て直す、つまり完全に理解している事が必要だからだ。
実際にマーリンに教えながら、そこで初めてちゃんと意識し直した事も多い。それを改めて心に留め、初心に戻ったつもりで修行に励んだ結果、何かを掴んだように意気揚々と洞窟にヤムチャが戻ってきた。
一方マーリンはといえば、その間は実にヒマだったらしく、ぼーっと壁を見ているだけだったようだ。
「なんだ…、ヒマなんだったらまた心身統一の修行でもしてればいいだろ…」
帰るなり、そうマーリンにお説教するヤムチャ。しかし、少女がそれにぽつりと反論する。
「…ここに帰ってきてまで訓練するのは…何か嫌だ………」
マーリンの戦士らしからぬ言葉を、ヤムチャはふぅん、とただ受け流すだけであった。
「…ところで…なんだがヤムチャ。また湯に浸かりに行きたいのだが…」
「ん? …あぁ、別にいいけど……、まだ気は…」
「判っている。いつものように最低限に抑えろ、だろう? それは承知しているが…」
「………?」
「…今日はヤムチャ、お前もいっしょに来てくれ」
「……は………?」
ややあって、唐突にマーリンがまた風呂に行くと言い出した。しかも今日はヤムチャも一緒にと誘う。
「…い、いや、俺はいいって」
「お前がよくても、わたしは良くないんだ。…ヤムチャ、前に湯に浸かったのは何日前だ?」
「え、えっと……、いや、そういうことじゃなくてだな…」
必死でそれを固辞するヤムチャだったが、言われてみれば確かにしばらく風呂には入っていない。こっそり自分の匂いを嗅いでみれば、汗と使い古しの枕のような匂いが少々…いや、かなり鼻をつく。
「く……っっ…、し、仕方ないな…」
しぶしぶ同意し、ヤムチャとマーリンの二人は連れ立ってオアシスに向かったのだった。
「……ふっ………!!」
少女のかすかな気合の声と同時に、その手から気功波が放たれた。すぐにも立ち昇り始めた湯気に、満足そうにマーリンが頷く。さすがにマーリンは手馴れたもので、オアシスに着くやいなや、さっそく池の水を絶妙の温度に仕立て上げてしまった。
「…よし。いい感じだと思う。さぁヤムチャ…、もういいぞ…」
「まままま、待てぇぇぇぇっっ!! いいから! 俺はこっちに入るから!!」
そう言いながら、おもむろに戦闘服を脱ぎ始めたマーリンに、またヤムチャが焦る。とっさに自分も近くの池に気功波を叩き込むが、しかし。
ジュ……ボゥアァッッ!!!
「あ…………」
ヤムチャが呆然とした表情を浮かべる。あわてて撃った気功波は……完全に池の水を沸騰させていた。
「……く……、くく…ははははっ! お前ほどの男が…こんな簡単なものに失敗するとは…。しかし傑作だな……くく…、…ぷぷぷ……」
「…ぐ……、く…くそ……」
男のまさかの失態に、一瞬目を丸くし、ついでげらげらとマーリンが、腹を抱えて大笑いをする。笑われているヤムチャはというと、苦虫を噛み潰したような表情である。そして、この先の展開を予想して、さらにその表情が渋くなっていく。
「さて、では入るとするか。…どうしたヤムチャ。さっさと服を脱ぐんだ」
「………………」