……それは白い、ボールのようなエネルギーの塊だった。それが視界ゼロの中、少女の顔面すれすれに砂塵を切り裂いて飛んでいったのだ。
「…今のは警告だ。誰だか知らないが、死にたくないなら今のうちに帰るんだな」
「な……ッ……」
急に聞こえてきた男の言葉に、少女は一瞬パニックに陥ってしまった。しかもスカウターも無しに居所を当てられ、さらにはサイヤ人が敵を見逃すと言う、少女の常識、知識からすれば、あまりにあり得ない状況に。
「ふ…ふざけるなーーーーっ! お前を殺すまで帰れるものか--ッ!」
とっさに少女が叫びながら声の方向へ突撃する。もはや作戦の事など、少女の頭からは消し飛んでしまっていた。
「…やれやれ…。そんな恨みを買うような事は記憶にないんだけどな…」
声の主がそうつぶやきながら、少女の突撃を難なくかわす。しかしかわされた少女も、着地を狙った男の攻撃を読み、タイミングをずらす。
お互いの姿を目で見る事も出来ない朦々たる砂塵の中、激しい戦いが続く。
「はぁはぁ…、くそ…なんて強さだ…。それに…どうして……っ!」
しかし戦いは明らかに少女が劣勢だった。スカウターもなしに、なぜか正確に相手の位置を知りえるような立ち回りを行う男に、少女は精神的にも押されていた。スカウターを装備していない相手には有効なはずの目眩ましの砂塵も、むしろ少女にとってマイナスになっていた。しかも元々少女の方が戦闘力は低いのだ。
…疲労と絶望に押し潰されそうになる少女を、気力だけが支えていた。
「…お前、宇宙人か? 地球を征服とか侵略に来たってんなら諦めた方がいいぜ。その程度の腕じゃな…」
「何を抜けぬけと…それはお前の方だろうが! 貴様らサイヤ人を根絶やしにするまで…わたしは死ねないんだ!」
「…は? 俺が…サイヤ人? お前…何か勘違いしてないか? 俺は地球人だぞ…」
思わず男がぽかんとした表情を浮かべる。しかし少女は取り合わない。
「見え透いたウソを…。この星の人間がそこまでの戦闘力を持てるものかっ!」
「そりゃあ、俺も結構修行したから…」
「黙れっ! サイヤ人は殺す…! 貴様もだ!」
「い、いや、ちょっと待て! だから俺はサイヤ人じゃ……」
どうやらこの戦いが誤解によるものと気がついた男が、少女にこの戦いをやめるように説得を始めた。だが冷静さを著しく欠いている少女には、その言葉は一向に届かない。
「貴様の口車には付き合えない…。…これで……最後だ…!」
「………っっ……!!」
少女の手から再び閃光が溢れ出す。全身のエネルギーを集中させ、かつてない輝きと、尋常ならざる気の集中…高まりに、それまで余裕の表情を浮かべていた男も、思わず息を呑む。
「…覚悟はいいか…。…いかに貴様でも、これを食らえばタダでは済まん。もちろん、これを放てばわたしも無事では済まないがな…」
「………ッッ……!!」
その言葉どおり、少女の腕は集中し過ぎたエネルギーに耐え切れない様子だった。見る見るうちに皮膚が裂け、いくつもの血管から血が噴きだす。
これほどのエネルギーを解放した瞬間、彼女の腕がどうなってしまうか、男にも容易に想像がついた。ついてしまった。
「食らえ!! ファイナル・グランスピアード!!」
そう叫ぶと少女は腕を高々と振り上げた。そしてとてつもないエネルギーが放たれ…………なかった。
ふいにぐらり、と少女の身体が揺れる。
「な…、ど…どこか…ら…?」
……恐らくは攻撃を受けたのだろう。技の発動の瞬間に、後頭部に強い衝撃を受けた。しかし、少女に判ったのはそれだけだった。
何による、どんな攻撃だったのか、想像も考える間もなく、少女の意識は闇に沈み、同時に周囲を覆っていた砂塵も、さぁぁと薄れ、消えていった。
「……危ない危ない。…さっきの繰気弾をキープしておいて助かったぜ。…しかし…何者だ? って、お、女の子かよ!!」
「……う……うぅ………」
………少女は夢を見ていた。遠い遠い。古い記憶の夢を。
幼い自分を連れ、街から街を、星から星を渡る母親。何かから逃れようとしていたのか、いつも何かに怯えていた母親。そして…。