ズガァッ!! ガガガッッ……! ドォォォンンンンッッ!!!
太陽が容赦なく照りつける荒野で、二つの影が激しくぶつかり合っていた。
「もらったァッ…!! くらえっ! ヤムチャ!!!」
「まだだ! 甘いっ!!」
マーリンの渾身の一撃のパンチを残像拳でかわし、その一撃の後の隙にヤムチャが至近距離からかめはめ波は放つ。しかし、マーリンもそれをある程度は読んでいたのか、右手に集中していた気をとっさに開放して、かめはめ波にぶつけて相殺する。
お互いに一瞬の隙も見逃さない両者の攻防は永遠に続くかに思えたが、幕切れはあっけなく訪れた。
「な…に…っ!!」
かめはめ波の相殺は完璧だった。しかし、ヤムチャはさらにその先を読んでおり、撃つと同時に自分もマーリンに突進し、相殺の爆光を目くらましとして利用したのだ。
…光の中から、ヤムチャの拳が自分に向かって伸びてくるのが少女には「見えた」。
しかしもはや防御も回避も不可能な状況だった。いわゆる『死に際の集中力』で無駄にはっきりと拳の軌道が判るのが、逆にうっとおしいとマーリンは思う。そして次の瞬間、少女の意識はあっけなく落ちた。
…あれからまた2週間が過ぎ、ヤムチャとマーリンの少し奇妙な師弟関係は、早くも一ヶ月に及んでいた。
抜群のセンスで見る見るうちに戦闘力も伸び、それ以外の戦術、格闘技術の向上も目を見張るものがあったマーリンだったが、やはりまだまだヤムチャには及ばないようだ。
もっとも、いまやマーリンの戦闘力は13万を超えており、その上、日に日に技術も進歩しているので、さすがのヤムチャも素のままでは苦しいらしい。2倍界王拳でほぼ互角の戦いになるまで、マーリンの戦闘能力は向上していたのだった。
もちろん互角といっても、ヤムチャがまだ界王拳の倍率に余裕を持っているように、まったく『本気』ではない。その上で、この実戦形式の組み手で毎回最後に勝つのはヤムチャなのだ。
桁違いに実力が増したとはいえ、まだ少女はヤムチャにも遠く及ばないと言わざるを得なかった。
バシャッ…!
「……ッッ……っ!!」
気付けの水を顔に掛けられ、ようやくマーリンが意識を取り戻す。
「ようやくお目覚めか。そんな暢気な事じゃ、悟空どころか俺に勝つのも当分…いや、永遠に無理な話だな…」
やれやれと言った風情で、まだ少しぼんやりしている少女を冷ややかに見つめながら男がそうつぶやく。マーリンも目覚めてすぐにそんな言葉を投げかけられるとは思っていなかったのだろう。ショックを受け、呆然とした表情で男を見る。
「ま、待ってくれ…ヤムチャ。もう少し…言い方というのが……」
「…寝てたいんなら好きにしていいぜ。でも、だったらもう悟空と戦うのはあきらめるんだな」
「……っ!!」
しかし、追い打ちをかけるかのように、ヤムチャがあまりに厳しい言葉を投げかける。
……もちろん本気で言っている訳ではない。しかし、完全に嘘、と言うわけでもない。
男は思う。確かにマーリンの力は以前よりも格段に増してきてはいるものの、それでも悟空…超サイヤ人には程遠い事に変わりは無い。わずか一ヶ月でこれほどの成果ではあるが、目指す領域を考えれば、「この程度の成果」でしかない。
わずか一ヶ月で4倍以上のパワーアップも、普通に考えれば凄まじい成長ではあるが、そもそも相手は普通ではない。何しろ宇宙最強の、生ける伝説である。『普通』がどうとかなど、意味が無いのだ。
マーリンは修行によくついて来てはいる。言われた事はきっちりこなすし、それ以上の結果を出す事も多い。いまや気を探る事も、割と高度な気のコントロールも、軽い戦闘力の調節すらも出来るようになっている。その技術はすでに自分と近いレベルにまで達しようとしていた。しかしそれでは自分が絶対に悟空に敵わないのと同じに、彼女もまた、当然のように悟空には絶対にかなわないのだ。
思うように行かない現実への苛立ちと、何か得体の知れないマーリンへの不満が、つい態度に出てしまうのを抑えきれないヤムチャだった。
「…5秒だけ待ってやる。それで立てなきゃ、修行はもう終わりだ」
「……っ…」
男のカウントに合わせるように、のろのろとマーリンが起き上がる。
確かにショックではあったものの、彼女もまた、ここまで一度もヤムチャに勝てない現実に、半ば諦めに近い感情があった。
むろん何度と無く一撃程度は浴びせられるようにはなっている。だが、所詮それ止まり。しかも、それとてヤムチャが手加減しての事だと言う事はマーリンも判っている。
本当にこのまま、この修行を続けていていいのか。ふとした瞬間に、そんなことがマーリンの頭をよぎる。しかし、他の方法がある訳でも、思いつく訳でもないのだ。
とにかく修行を続ければ、いつかは……。そう信じることだけが、希望をつなぐただ一つの道だと思うしかなかった。
そうして今日の修行も終わった。口数も少なく、洞窟に引き上げる二人。そしてそのまま食事を摂りながら、とりとめない会話をする。いつの間にか、洞窟に帰ってからは修行の話はしない。それが二人の間の暗黙のルールになっていた。
「…っと、もういいのか? まだちょっと残ってるぞ?」
「いや、もう結構だ。残りは……どうする?」
「そうだなぁ……、明日の朝に雑炊にでもするか」
「…ゾウスイ? ほぅ、それはどんな食べ物なんだ?」
「こいつに炊いた米を入れて、また煮込むんだ。鍋の旨味がぎゅっと詰まったスープが米に染み込んで……仕上げに溶き卵を入れるんだが、これがまた…」
「……ううむ、聞いているだけで美味しそうだな……! いっそ今からそれを作るというのはどうだ?」
「……お前、もう腹いっぱいじゃなかったのか……」
「…む。た、確かにそうだ…。…しかし…美味いものは別腹なのだろう?」
「…それを言うなら甘いもの、だろ……」
などと、他愛もないやり取りに二人がどっ、と笑う。修行中は鬼のように厳しいヤムチャだが、ここに戻れば素に、いつものヤムチャに戻る。
オンとオフをきっちりと使い分けている。傍からはそう見えるかもしれないが、しかし決してそれだけではないことは、本人たちにはよく判っていた。
だから、これからの事にも触れない。無意識のうちに、二人ともそれに触れるのが怖く、避けているのだ。
ただ修行を続けてさえいれば、その不安からは逃れられる。しかし、それが永遠に続けられるものではない事も判っている。とりわけヤムチャの焦りは深刻だ。
約2年後に控えた人造人間との戦いに備えての、自らの修行を棚上げしてマーリンに付き合っている訳で、このままの状況が長く続くのは、自分にも、そしてマーリンにとっても決していいものではないと感じていた。
「はは………は………」
「っ………」
「………………」
…ひとしきり笑った後に、少し重めの沈黙が訪れた。何か…どこかに突破口は無いのか…。口には出さずとも、共通する意識の二人の間に重苦しい空気が流れる。
その時。
ピピピピッ…ピピピピッ……!
ふいにマーリンのスカウターが、突然に鳴り響いた。