「………ッッ…?!」
それほど大きな音では無いが、静まり返った洞窟内ではむやみに大きく響く。突然の事に驚くヤムチャだったが、マーリンの様子を見ると、どうも誰かが近づいてきた訳では無さそうだった。
いつもの、相手の戦闘力を測る操作とは少し異なる動きで、マーリンがスカウターを操作する。
『…誰だ。どこでこのコールサインを知った…?』
「…………? ………」
急にヤムチャには判らない言葉で少女が話し始めた、それはまさに、宇宙からの通信だった。どこか不機嫌そうな声でマーリンが通信に応じる。どうやら相手は既知の人間では無いようだ。
『ザザッ…お…おぉ…、よかった…。ザ…ッ…あなたがマーリンさん…ですね……。突然のご無礼、どうかお許し…ザ…いただきたい…』
『…そんな事はどうでもいい。わたしに何の用かと聞いている…』
あまり明瞭でない通信と相手に、少しイラつきながらマーリンが静かに問う。
『これは…ザザ…申し訳ない…。私は惑星ドーバのヂギンと申します。惑星テンマウンのジーフさんはご存知でしょう? 彼からの紹介でご連絡させて頂いた…ザッ…のです』
『ジーフか…、確かに知っているが、それでわたしに一体何の用だと言うんだ』
何の用か、と一応は尋ねたが、実のところはどういった仕事かは聞くまでもない。
この世界ではマーリンはちょっとした有名人なのだ。その少女を頼る『仕事』となると、ほとんどが侵略者に対する抵抗、反撃である。マーリンは個人でありながら、一国…いや、一つの星の軍事力に匹敵する戦闘力の持ち主なのだから。
『…わたしは今、少しやっかいな案件に関わっている。「仕事」ならまた今度にしてもらおう』
淡々と、しかしはっきりと拒絶の意思を伝える。しかしそれも当然のことだ。彼女はまだ、ここでするべき事が残っているのだ。それを置いて宇宙に戻るなど出来るはずもない。
『ザッ…それをおしてお願いしたいのです…どうか…我々を助けて頂けないでしょうか……報酬は…ザザッ…いくらでも構いません…何卒…』
『くどい…! だいたいジーフがいるのだろう?! あいつの力なら、大抵の事はどうにでもなるはずだ!』
あまりにしつこい相手の懇願に、いいかげん少女は苛立ちを隠そうともせずに声を荒げた。
確かにこれまで、幾度と無くそういう依頼を受けては、宇宙を又にかける荒くれ者や罪人、あるいはフリーザ軍のような私兵集団から、マーリンは星々を救ってきた。むろん報酬はきっちりと頂いていたが。
そしてそんな戦いの中で、他の傭兵戦士とも知り合う事もあった。少女が先程口にしたジーフという男もその一人だ。
戦闘力は2万を軽く超える実力者で、この世界では知らない人間はいないとまで言われる男である。しかも戦闘能力だけではなく、戦略、戦術、統率力にも優れ、指揮官としての能力も兼ね備えた、長く宇宙傭兵界のトップだった初老の戦士である。
…ふっとマーリンの脳裏に、かつての戦いの記憶が蘇る。
まだ駆け出しだった頃、ある星でのゲリラ戦に参加した際に、マーリンはジーフに初めて出会った。同じように参加していた他の傭兵たちが自分に奇異の目を向ける中、たった一人だけ力を認めて、戦士として扱ってくれたのだ。
そして駆け出しだった自分がどうにかその戦いに生き残れたのも、ジーフが影に日向にフォローをしてくれたお陰だった。
その後も何度か、ジーフとは戦場で会うことがあった。しかしジーフは常に、初めに出会った時と変わりなく、強く、頼もしかった。
…そのジーフがいるのなら大丈夫だ。彼と彼の指揮による用兵ならば、例えギニュー特戦隊のメンバークラスが来たとしても、おいそれと負ける事などあり得ないと少女は確信していた。
マーリンの強い拒絶の裏には、ジーフに対する信頼があった。しかし、何万光年も離れた場所からの言葉が、少女のその思いを粉々に打ち砕く。
『その……ジーフさんは…すでに奴らに…ザッ…殺されてしまったのです…』
『…っ…な……に…………?!』
見も知らぬ異星の者からの信じがたい言葉に、思わずマーリンが言葉を失った。
なぜなら、あのジーフが倒されるなど、尋常の事ではないからだ。
確かに加齢で以前より衰えはしていたのだろうが、それでも依然実力はトップクラスのはずなのだ。そのジーフがいったい、どうやって、誰に……?
あまりにショックが大きすぎて、頭がうまく働かない。しばらく茫然自失となっていた少女だったが、少しして我に返ると、あわてて詳しい状況を聞く。
『ま…待て。ジーフが倒された…とすれば、他の奴らはどうなんだ。ジーフの部下の…アーカギーやミョウッコは……』
『…皆さんもすでに…敵の手によって…死にました。…ザザ…ッ…ですからもはや我々には……ザ…ほとんど戦力と呼べるものは残ってはいないのです…」
『……な…………』
『…ジーフさんは出撃の前、万が一、自分に何かあれば…ザ…ここへコールしろ、とメモを残していかれて…。…ザザッ……あなたが我々の最後の希望なのです…どうか力を……』
『……………ッ………』
マーリンはその場では決断できず、少し考えさせてほしいとだけ告げた。どう考えても事態は急を要する。即決をしてもらわない余裕など彼らには無いだろうが、マーリンの力を当てにする以外に、状況を脱する方法も無いのだろう。それではまた明日、この時間に連絡するとだけ言って、再びスカウターは沈黙した。
「………えー…っと……、で、今のはいったい……?」
「…………………」
何がどうなったのか、完全に蚊帳の外だったヤムチャにはさっぱり判らないが、とにかく少女の表情から、何か深刻な事態が発生した事だけは理解したのだった。