Saiyan killer   作:北江

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31話、混迷

「…なるほど…、そりゃヤバいな。で……、どうするんだ?」

 先ほどまでのやり取りを聞かれ、マーリンが経緯をかいつまんで説明すると、ヤムチャがそうぽつりと問い掛けた。

「………どうすればいいか…など、わたしにも判らない…。…確かに『敵』は強大なようだが、今のわたしなら勝てると思う……。…でも…」

 そう言葉を濁すしかなかった。

 

 どうしても迷いから抜け出せないマーリンに、ヤムチャが適当に言葉をかける。

「…良くは判らんけど、要するに、その悪者をぱぱっとやっつけて、ぱぱっと帰ってくればいいんじゃないのか? まぁ、少し修行は遅れるけど、その間は俺も自分の修行が出来るし、そんなに悩むもんでもないんじゃないのか?」

 

 少女の心を映すように、どんどんと暗くなる表情のマーリンを気遣ってか、妙に明るく提案するヤムチャだったが、やはり一向に少女の表情は変わらない。

「…いや。それは…、それが…無理なんだ…」

 そう、搾り出すようにマーリンがつぶやく。

 

「…さっきの依頼人の星…惑星ドーバは、ここから約28万光年の彼方のところにある。わたしの宇宙船でも、普通に飛べば3ヶ月は間違いなくかかる距離だ…」

「お、おい…、それじゃ今からすぐに行っても間に合わないんじゃないのか…?」

 

「いや、でもある航法を使えば、一週間ほどで着く事も出来るんだ。ただ、それをすると、宇宙船のエネルギーはほとんど空になってしまう。そうなれば、再チャージに少なくとも1年は掛かってしまうんだ……」

 

「……なるほど…」

 科学的なことはよく判らないヤムチャだったが、飛ばせば飛ばすほど自動車だって燃費が悪くなる事は知っている。それのようなものか、と勝手に推測した。

 

「…しかも、わたしの宇宙船は特注で、使ってるエネルギーも特殊で高価なものだ。どこででも手に入る、という代物じゃない。惑星の組成が違うあの星系で、それが手に入るかも判らない…」

「…え! そ、それって……」

 

 ヤムチャにとっては増々ちんぷんかんぷんな話だったが、それでもはっきりと一つだけは理解が出来た。

 …要するに今、マーリンがその星へ向かうと言う事は、地球に再びやって来れるのがいつになるか判らない、という事なのだ。あるいは、二度と来れない可能性すらあるのだと…。

 

 マーリンの暗い表情の理由…懸念とは、この依頼を受ければ、それはすなわちヤムチャとの生活も、修行も、そして何よりも悟空との再戦を諦めなければならない事に他ならなかった。

 

 しかし、少女は葛藤していた。

 孫悟空というサイヤ人ともう一度戦いたいという、あまりに利己的な動機と、一つの星の生き死にが掛かった依頼。これはそもそも天秤にかけるようなものなのか。

 

 自分が戦おうとしているサイヤ人はまるで世界の脅威にはなり得ない、むしろ英雄のような存在だ。それと戦い、倒したいなどと考えるのは完全にエゴである。何万、何億という人間の生と引き換えにして良いものなのか、と。

 

 こうしている間にも、その星では何人もの命が軽々と踏み潰されていってもいるのだ。戦友と呼べる男の仇も取りたくないと言ったら嘘になる。誰がどう考えても、優先順位は明らかだろう。

 

 だが、一方でマーリンはこうも思う。結局のところは彼らは他人でしかない。こうしている間にも、どこかで自分に助けを求める事すら出来ずに滅んでいく民族や星も、絶対に存在はしているのだ。

 

 そうやって滅んでいく星の人々と、今回たまたま連絡をする事が出来た彼らと、何が違うと言うのか。もし自分のエゴよりも惑星ドーバを救うことを優先するのなら、それ以外の星をも、全てを救わなければいけない。そうでなければ、それは性質の悪い偽善に過ぎない。

 憐れみや同情だけで、自分はこの『仕事』をしている訳ではないのだ。

 

 ジーフの事にしてもそうだ。運よくそんな事にはならなかったが、傭兵という仕事柄、いつか、どこかで敵同士として戦う可能性は常にあった。そして、もし自分が敵として立ち塞がったのなら、ジーフは間違いなく、容赦なく自分を倒そうとしていただろう。そしてそれは自分にも同じことだった。自分もジーフもプロなのだから。

 

 …自分とジーフとの関係も、しょせんはその程度のものだ。そんな男の仇を討つ事に、どれほどの意味があると言うのか。

 

 

 

「ふぅ………う…ッ……」

「…………」

 …重苦しい表情を顔に貼り付けたまま、時間だけが過ぎていく。気がつけばすでに日付が変わる時間になっていた。

 

「……っふ…ぅ……・・っ。…はぁ………ぁ…っ…」」

 もはや何度目かも判らないため息をマーリンが漏らす。しかし、いくら考えたところで、本当の気持ちは最初から決まってはいるのだ。ただ、それが本当に正しい決断なのか、その自信が持てないだけの事だった。

 

 ちらりとヤムチャを見やる。ヤムチャも難しい顔をしてはいるが、結局決めるのはマーリン自身だと、その目が語っていた。

 

「ふぅぅぅ………っっぅっ・・・・・」

 

 再び、もう何度目だったか判らない、大きなため息を吐く。肺の中を空っぽにするように、全ての空気を絞り出すような長い長いため息の後、意を決したようにマーリンがヤムチャに自分の決断を告げた。

 

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