「……わたしは…地球に残る。残って、ソン・ゴクウと戦う…」
そう小さく、感情を押し殺したような口調で少女の口から出た言葉を、ヤムチャはただ、そうか、とだけ受け止めた。それが意外だったのか、あるいは予想通りだったのかは、男の表情からは読み取る事は出来なかった。
「…それじゃ、明日もまた修行だな。ちょっと夜更かしが過ぎちまった…。いい加減に寝ないと明日が辛いぞ」
そう言ってヤムチャが寝る準備を始めた。自分の決断を否定も肯定もしないヤムチャに不満を感じながらも、マーリンも丸めてあった寝袋を広げた。
昼間の過酷な修行により、疲労は身体の芯にさえきている。身体は正直に睡眠を欲していた。しかし気持ちが治まらない。寝袋に入り、横になっても少しも眠くはならなかった。
うとうともせずに、思考がぐるぐると頭の中を回る。もう終わった事なのに、マーリンは何度も何度もさっきの決断をなぞっていた。
やがて、1時間ほどが過ぎた。少女が寝袋から顔だけを出して、ふとヤムチャを見た。
……驚いた事に、ヤムチャも眠ってはいなかった。毛布に包まりながらも、目だけははっきりと開いて中空を見つめているのが、熾になりつつある焚き火の炎に照らされ、見えた。
「ヤムチャ…眠れないのか…?」
思わずマーリンがそう小さく声を掛ける。
「…………」
しかし返事は無い。一瞬だけマーリンの方をちらりと見て、すぐにまた男の視線が何も無い空間に戻る。
「……っ…!!」
何かが…叫びのような声が喉から出掛かったが、それをぐっ、と抑える。すると、今度はヤムチャの方から声がかけられた。
「……早く寝ろって言っただろ…。それとも何か、眠れない理由でもあるのか…?」
「………ッッ……!!」
当たり前だ、とマーリンは思う。自分はエゴのために一つの星を見捨てたのだ。それが心にのしかからない方がどうかしている。それが理解出来ないヤムチャではあるまいに、と。
ともすればそのことを大声で叫びだしたくなる気持ちを抑えて、どうにか少女は冷静に、逆にヤムチャに問うた。
「…お前こそ、どうして眠らない…。…わたしが眠れないのは判ってるくせに…」
そうぽつりとだけ返す。
「何でだよ。お前が決めた事なんじゃないのか。…たったの1時間で後悔するような決意なんかするんじゃねぇっての」
「……っ!! こっ…後悔なんてしてないっ! でも…、でも…わたしは…」
思わずマーリンが顔をくしゃくしゃにして、ヤムチャに反論する。
「…大きな声出すなよ。ご近所迷惑じゃねぇか」
そう言うとヤムチャはようやくマーリンに向きなおり、にっ、と笑う。
「……お前、本当はその星の人たちも助けたいんだろ? でも悟空とも戦いたいと。まったく欲張りな…まるでどこぞのお姫様みたいだな、お前は…」
「………」
確かにそれが出来れば、どんなにいいかと少女は思う。しかし、それは絶対に不可能だと判っているのだ。だからこその苦渋の決断だったのだ。そんな事を今更言い立てるヤムチャの気が知れない。
「ヤム……」
だからそれ以上は何も言わないで欲しい、そう思って口を開きかけた瞬間、ヤムチャが再び毛布を被り直し、少女に告げる。
「ま……何とかしてみようじゃねぇか、そいつをさ。とにかくさっさと寝ろ。明日は日が昇ったらすぐに出るんだからな」
「え…? そ…それはどういう…」
ヤムチャの言葉の意味がつかめず、何度も問い掛けるマーリンだったが、やがて聞こえてきた男のいびきに、諦めるしかなかった。