「…おい…マーリン! …いい加減に起きろ……!」
「…………ん……んん……」
どこからか聞こえてきた自分を呼ぶ声に、少女がゆっくりと目を開ける。寝ぼけ眼で声の方を見上げると、まだ明け切らない朝の薄明かりの中に、すでに出かける用意を整えたヤムチャが、すぐそばに立っていた。
「……? ヤムチャ…?」
どうやら、昨日はあれほど眠れないと思っていたにも拘らず、いつの間にか眠りに落ちていたようだった。しかしまだ寝足りないとばかりに、寝袋に包まったまま、マーリンがあたりをゴロゴロと転がる。
「…なんだ…、まだこんな時間じゃないか…。もう少し寝かせて…」
「……ったく、毎度のことながらどうしようもない寝起きの悪さだな。…昨日言っただろ。今日は出かけるんだから、さっさと用意しな」
「………? ……??…」
言われてみれば確かに昨日、寝る間際にそんな事を聞いた気もする。徐々に意識がはっきりと覚醒していくと、同時に昨晩のヤムチャの不可解な言葉がマーリンの頭に甦ってきた。
「ヤムチャ…。いったい…何を考えてるんだ……? こんな時間に…どこへ行こうと言うんだ…?」
ようやく寝袋から抜け出て起き上がり、改めてヤムチャに問う。しかし色々な物が詰め込まれているのだろう、やたらと大きな麻袋を背負ったままのヤムチャは、まぁいいから、とか、とにかく着いて来い、としか言わず、まともに取り合わない。
仕方なくマーリンは数分で顔を洗い、歯を磨き、適当に支度を整えて二人が洞窟を後にする。
「………いいな。とにかく気は限界まで下げて飛ぶんだ。見つかると面倒な事になるかもしれないからな…」
「ヤムチャ……。それはいいが、そろそろ理由を教えてくれても……」
「しっ! いいから黙って飛べ!」
「…………」
訳が判らないまま、限界ギリギリの飛行を1時間ほど続けた先に、ふいにマーリンの目にある物が飛び込んできた。
だが、しかし。
突然目の前に現れた、かつて見たことのないような『異様』に、思わずマーリンが声を失う。
「な……なんだ……、これは…」
少女の眼前にあったのは、いかなるテクノロジーの産物なのか、空中にぽつんと浮かぶ、半球型の建造物だった。
いや、浮かんでいると言うよりは、空中のその場所にまるで元からあったかのようにはめ込まれてると言った印象をマーリンは受けた。何かそこだけが、異なる次元…異世界のようですらある、とも。
「よし…ゆっくり降りよう…。気は目いっぱい下げたままだぞ…」
何故か声までヒソヒソと小声で話すヤムチャ。異様な光景と相まって、マーリンも緊張感が高まっていく。いったいヤムチャはこんな場所で、何をしようと言うのか、と。
そうして二人は音も無く異様に降り立った。そしてそのまま、静かに静かに中に、奥へと進んでいく。
「よし…ここだ…。作戦大成功…だぜ…!」
目的だったらしい扉の前でようやくヤムチャは振り返り、にやりと昨日と同じ
笑みを浮かべながら、マーリンに口を開いた。
「ようこそ、精神と時の部屋へ…!」