大慌てで扉を閉めたヤムチャの背後には、無表情な男が立っていた。神様の付き人、『ミスター・ポポ』である。
「え…、いや…何って…その…、…そう! 修行だよ! ほら、人造人間の件は聞いてるだろ?」
動揺を隠しきれないまま、突如現れたポポの質問に、どうにかヤムチャが答えた。この答え自体は決して嘘ではない。
「修行? お前がここで?」
「や…やだなぁ…、へへ…俺以外に誰がいるって言うんだよ…」
「だったらどうしてコソコソしている? 修行の話、神様はご存知なのか?」
「あ…、いや……、何ていうか…、そ…その……、そう! 隠れてさ、皆が知らないうちにうーんと強くなって、それで…驚かそう…なーんてね…!」
「…………」
とっさに出てきた割には、まぁまぁの切り返しだ。そしてこれもやはり嘘ではない。ただ主語をぼかしているだけだ。
相変わらずポポの表情からは何も読み取れないが、何事かを考えている様子だ。ならこのまま押し切れる、とヤムチャは思った。しかし。
「…さっき誰か先に入ったみたいだけど。もしかして変な事に精神と時の部屋を使うつもりか?」
「…は…? ばっ…バカ言ってんじゃ…! 俺とマーリンはそんなんじゃ…!!」
「そうか。マーリンと言うか。あの娘」
「しまっ………た…」
ヤムチャがあわてて口を塞いだが、時既に遅し、だった。無表情なままのミスター・ポポだったが、気のせいか薄く口元が笑ったようにも見えた。
…ポポにバレたということは、すぐに神様も知るところになるだろうとヤムチャが悟る。そしてマーリンを鍛えること、ましてそれが悟空を倒すためのものだと神様が知れば、認めるはずがないことも。
「ぐ……くそ………っ…」
…ここまでは、途中までは完璧だった。しかしマーリンの存在を知られてしまった以上、自分の企みがここで終わってしまったのだと、ヤムチャは絶望した。
そう、ヤムチャの計画とは、ここで1年とはいかずとも、半年は修行して力をつけ、それで悟空に挑み、その後でマーリンを例の星へ向かわせる、というものだった。
精神と時の部屋で半年ならば、外の世界では半日に過ぎない。それなら悟空と戦った後でも、また明日連絡すると言っていた、あの星の人間からの依頼に応える事が出来る…。そう思っていたのに、こんなところでこんなヤツにまんまとしてやられるとは…と、己の間抜けぐあいに、情けなさにヤムチャは歯噛みするしか出来なかった。
一瞬の気の緩みで、自分は全てを台無しにしてしまった。うっかり口を滑らしてしまったヤムチャは、最後にして最大のチャンスを潰してしまった事を、心の中でマーリンに詫びた。
……そして同時に、何が変な事するつもりか? だ。神様の付き人のクセに、妙に俗っぽい発想しやがって…。…このムッツリニセインドめ……と心の中でひたすらミスター・ポポを罵るヤムチャだった。
「…………そうか。判った」
「…へ……っ?」
だが、いきなりミスター・ポポはくるりと背を向けると、そのまま来た道を戻ろうとした。意表を突かれ、ヤムチャが思わずポポを呼び止める。
「…お…おい! わ…判った…って…、ど、どういうことだよ?!」
「……? 言葉通りだ。神様にも伝えておく。ヤムチャとマーリンという娘が修行のために部屋を使うと」
「……え…、……は? お…俺たちを放っておくのかよ…?!」
「なんだ? 修行するんじゃないのか?」
「い……いや…、そりゃするけど…」
「修行するならポポ止めない。変な事に使うなら止める。それだけ」
「え…、で、でも……、いいのか…?……」
「良いも悪いも無い。あそこはそう言う部屋。それより早く行かなくていいのか? もう中で1日ぐらい過ぎてる」
「…!! ありがとよ、ミスターポポ!! 戻ったら礼にマーリンにぱふぱふさせてやるよ! ははっ!」
そう言うとヤムチャは扉を開け、中に飛び込んでいった。ポポをムッツリと決め付けた、訳の判らない約束を残して。
「…あの娘には無理……」
ポポもそう小さくつぶやき、その場を後にする。ぱふぱふが無理なのか、それとも何か別の未来が無理なのか。ポポの真意は、やはり表情からは読み取る事は出来なかった…。