ここでお知らせ…というか、重要なことをお伝えいたします。しばらくの間、大変、非常に、ストレスフルで鬱全開、なおかつキャラ崩壊で、あるいは原作無視なストーリーが続きます。
そのような展開に抵抗のある方は、52話まで飛んで頂いても大丈夫です。
当面の鬱パートは読んでも読まなくても、話の大筋には影響ありません。そのように調整、改訂しますので。
それではどうぞよろしくお願いいたします。
…精神と時の部屋に二人が入ってから、ほぼ二ヶ月が過ぎた。連日の修行に次ぐ修行。そしてそれに黙々と従うマーリンだったが、事態は深刻な状況に陥っていた。
ここのところでマーリンの戦闘力が、15万を境にぴたりと上昇しなくなってしまったのだ。
そして、この事実に最も衝撃を受けていたのは、当のマーリンではなく、ヤムチャだった。
次の段階として、ヤムチャは近いうちに界王拳をマーリンに教えるつもりだった。ここ、精神と時の部屋ならば、そしてマーリンのセンスなら会得は十分に可能な時間もある。あるはずだった。しかし…。
しかしたったの15万では、界王拳の上限とも言える20倍でも300万にしかならない上、常時発揮できるのは10倍で150万程度である。これではやはり勝負にすらならないのだ。
自分の恐れていた事が現実となった。そうヤムチャは感じていた。
……修行によるパワーアップの限界…、しかしそれがこんなに早くに訪れるとは考えてはいなかった。そこが彼の誤算だった。
あえて言えば、修行してパワーアップするのではなく、超サイヤ人のような、何か「違う存在」に変化するしか可能性は無いのかもしれない、と考えたこともあった。しかし、そんなものにどうやってなればいいのか。彼には想像も見当もつかない。
苦悩するヤムチャをよそに、今日もマーリンは黙々と修行に励む。自分がこのところ伸び悩んでる事は判っているが、ヤムチャが命じた事に間違いなどない、と言わんばかりに、少女は完全に心から彼を信頼し、課されたメニューをこなしていた。
「…999…1000…! …終わったぞヤムチャ……、ヤムチャ? どうした?」
「ん……あ、あぁ…。じゃあ…いつも通り組手だな…」
「ふふっ! 今日こそは勝たせてもらうぞ! ヤムチャ!」
「…………」
そして基礎鍛錬の時間が終わり、組み手の修行が始まった。バンドの重量はすでに10キロから30キロへと増えていたものの、マーリンはすでにその事など意に介さないほどの練達を見せるほどになってはいるが、それは単にコントロールが上達しただけで、パワーそのものがバンドの存在を無視できるレベルになった訳ではない。それを見て、改めてヤムチャはもどかしく思う。これほどの気のコントロールが可能なら、間違いなく界王拳だってマスターできる。だからこそ…と思わざるを得ない。
あと少し…せめてあと10万、いや5万が、何とかならないのかと。
「……はあぁっ!」
「…っちぃッ!!」
ズガッッ…!
ガギィッッ……!!
苦悩と焦りを抱えたまま、ヤムチャがマーリンとぶつかり合う。実戦稽古による破壊のエネルギーが、この白い空間を震わせる。
ヤムチャの界王拳は4倍だ。18万以上の凄まじいパワーが少女を容赦なく襲う。無茶な事だとは理解しているが、もはやそうも言っていられる余裕などなかった。限界ギリギリのところから、更なるパワーを引き出す以外、少女に、そしてヤムチャには道はなかった。
「ーーッッ!! ーーーーッッ!!!」
「ぐ……くく…ッ! まだ…止まらない…だと…ッ」
ズガッ…!! ガガガガガッ……!!!
無言のまま、男が少女を激しく攻め立てる。
果てしないとも思えるヤムチャの連撃が、狼牙風風拳がマーリンの腕、身体を打ち抜いていく。しかしどこかいつもよりも単調な攻撃に、対するマーリンも必死に防御しながら反撃の糸口を探る。
「くっ…! しかし……これでどうだっ!!」
とっさに倒れかけたふりをしながら、以前自分がされたように、少女がヤムチャの足元に蹴りを放つ。今のヤムチャとしては珍しく、攻撃に意識を集中しすぎて、防御がおろそかになっている…というよりは、むしろこの組手そのものに意識が散漫としていたのだろう。そのマーリンの蹴りが見事に当たった。
…がくん。
「…………」
蹴りの衝撃でバランスを崩したヤムチャだったが、しかし倒れるとまではいかなかった。
マーリンもとりあえず飛びのいて、距離を取りながら様子をうかがう。一方、倒れないように踏ん張った姿勢のまま、ヤムチャは固まっていた。
「…ふ…。…今のはなかなか良かった…かもな…」
ふいに、顔は下を向いたまま、そうぽつりとヤムチャがつぶやいた。だが言葉とは裏腹に、その表情は何か得体の知れないモノに執り付かれたように、ぴくぴくと男のこめかみの辺りが痙攣していく。
「ふ……ふふ……くく……」
…ふいに小さく、笑い声を男が上げた。
しかしそれは、これまでヤムチャの心を少しづつ少しづつ、静かに、密かに蝕んできた感情の発露だった。さっきのお留守な足元への攻撃で、それが一気に弾けようとしていた……。
…効果の上がらない毎日の修行、そして真っ白な、いつまでたっても代わり映えしないこの部屋。いや、それだけではない。何もかもが男の癇に障っていた。
だが一番は…マーリンの目だ。自分を信じて疑わない、あの目が燗に障って仕方がない!
「…………」
相変わらず下を向いたまま、ヤムチャの身体が小刻みに揺れる。いや、それは震えていると言った方が正しいだろう。ゆっくりと、しかし徐々にそれが大きくなる。
……そしてついに、一気にそれが弾けた。
「くくくくくっ……はは…あはははははっっ!!!」
「………!?」
突然のヤムチャの高笑いに困惑を隠せないマーリンが、ぽかんとしたまま、男を見つめる。
「ははははは……は……っ………、やめだやめだ!! もうこんな事は!!」
どこか狂気をたたえた眼差しで、射るようにマーリンを見つめる。顔は笑ってはいるが、目だけは明らかに笑っていない。
「…もう、こんな事してたって無駄なのは判ってんだろ? いくら修行したって、お前にも俺にも、悟空を倒すなんて無理なんだよ!!!!」
突然の、あまりのヤムチャの変貌に、マーリンが驚いて目を剥く。
「…ど…どうしたんだ…ヤムチャ……?」
「どうしたもこうしたも無ぇよ!! ちょっと甘い顔して付き合ってやりゃあ、図に乗りやがって…! だからガキは嫌いなんだっ!!」
「………っ……」
「はっ! 悟空を超えたい? 超サイヤ人を超えたい? んな事が出来ると本気で思ってるのかよ!! こんなもんは…こんな修行は…、単に『頑張った』って、『やれるだけはやった』って、自分に言い訳するためなんだろうが!」
「なっ…ヤムチャ! それ以上の侮辱は例えお前でも…っ!!」
「へぇ、許せない、ってか? だったらどうだって言うんだ? 俺にも勝てないくせに、許せないからどうだって言うんだ? そう言う所もムカつくんだよ!」
もはや自分でも何を言ってるのか、よく判らないほどヤムチャは興奮していた。いつもの、マーリンのやる気を誘う挑発などではない。この部屋に入る以前から感じていたものの、ずっと心の奥に押し込んできた感情が、いま爆発していた。
「…ヤムチャ…、……お前……」
何かを言いかけたが、マーリンの言葉はそこで途切れた。代わりに、少女の身体から、暴風のようなエネルギーが巻き起こった。