「……っっっ!!」
「ん、気がついたか?」
少女が目を覚ますと同時に、辺りを見渡した。そこは先ほどの荒野の洞窟の中だった。そして、さっきまで死闘を繰り広げた男もいた。慌てて飛び起きたものの、さっきの謎の攻撃のダメージが抜けきらないのか、ずきずきとした後頭部の痛みに少女が顔をしかめた。
「無理しない方がいいぞ。一応加減はしたけど、直撃だったからな」
「貴様…どう言うつもりだ…」
ふと腕を見ると、包帯が巻かれてあることに少女は気づいた。どうやら手当てをしてくれたらしい。そして戦闘服が脱がされているのはそこだけで、他に何かされた形跡は無かった。
「…どう言うつもりか聞きたいのはこっちだぜ。いきなり襲い掛かってきて、人の話も聞かずに、自爆みたいな攻撃までしようとしやがってよ…」
「……………」
…少女の頭に、段々と記憶が蘇る。確かこの男は自分はサイヤ人ではないと言っていた。痛む頭をさすりながら先ほどの会話を思い出す。
「お前…、本当にサイヤ人じゃないのか…?」
「だから何度も言っただろ。俺は地球生まれの地球育ち、生粋の地球人さ」
「…………」
普段ならばこんな話をまともに取り合う少女ではない。異常とも言える戦闘力、そして黒髪。目の前の男はどう見てもサイヤ人以外の何者でもない。
……が、しかし、この男がサイヤ人にしては不自然すぎるのも確かなのだ。戦いを止めようとした事、なにより戦った相手を介抱するサイヤ人など、聞いた事もない。
ということはつまり……。
これまでの違和感と情報を総合し、少女はようやく自分がとんでもない勘違いをしていた事を突きつけられたのだった。
「あ……あの…、そ、その…、す…すまなかった…。確かに……わたしの勘違いだったようだ…」
照れたような、苦虫を噛み潰したような表情で謝罪の言葉を少女が口にした。
「…まぁいいけど。じゃあ、とりあえずメシでも食うか?」
「…………」
必死の思いで絞り出した謝罪を軽く流され、微妙にショックを受けた少女だったが、言われて確かに空腹である事に気がついた。
「……ほら、食えよ」
少女の体調を感じたのか、男が器によそった、得体のしれない物体を少女に向けた。しかし。
「……いや、いい。自分の分は自分で用意してある」
そう言って、小さなブロックのようなものを取り出し、包装を外す。
「…それがメシ? 女の子は小食だっていうけど、そいつは小さすぎるんじゃないか?」
得体の知れないモノがぐつぐつ煮込まれ、あやしい匂いを放つ鍋をかき混ぜながら男がつぶやく。
「…問題無い。1日2回食べれば、必要なエネルギーは全て得られる」
そう言いながらブロックにかじりついていると、ふと男が自分を見つめている事に少女は気がついた。と言うか、ブロックを見つめていた。
「……な、…なんだ?」
「…それ、俺にも一口くれない?」
「何を言っている…。お前にはその食料があるんだろう」
「けち臭い事いうなよ。命の恩人に向かってよ」
「む……」
そこまで言われては仕方がないと諦めたのか、少女が懐からもう一つブロックを取り出した。
「…いいか、わたしもそんなに多くは持って来ていないんだ。だから一つだけだ。そもそもこれは…」
「能書きはいいって。宇宙食ってのがどんなのか味見したいだけだから」
「…………」
あきれたように少女はブロックをちぎり、男に投げて寄こした。少女の冷ややかな視線など全く意に介していないのか、男は興味深そうに匂いをかいだり、つついたりしている。
そして………おもむろに丸ごと口に放り込んだ。
「まっ……、まず~~~~~~~~っ!!!!!」
少しして、洞窟内に男の絶叫が響き渡った。目を白黒させ、口は魚のようにぱくぱくとしている。その様子に、逆に少女が目を丸くする。
「まずー? あぁ、確かに味は良くないな。これでもマシな方だが」
「…………」
ようやく落ち着いたのか、男ははぁはぁと荒い息をしながら鍋に向かい、改めて器に中身をよそい始めた。少しして、暖かな湯気をたてる器を両手に持って男が戻ってきた。そして一つを少女に差し出す。
「…食えよ」
「……………?……」
急な男の言葉に、半分ほど食べ終えたブロックを握りながら、少女がぽかんとする。見れば器には親指が少し漬かっていた。熱くないのだろうか、と少女は思った。
「…いや、必要無いと言った筈だが。それに他人からの食料は信用できな……」
「いいから食えってんだ!! ガタガタ言うともう一回気絶させて、その間に口に突っ込むぞ!!」
「……っっ…」
少女がとっさに戦闘服の内側の、懐にある解毒剤を確認する。どんな毒物をも瞬時に無効化する、惑星戦士の必須アイテムだ。この男が何を考えているかは判らないが、仮に毒を盛ろうとしていても、これさえあれば心配ない。
…しかし、実力で勝るこの男が、自分にそんな姑息な手段を使うとも思えないし、する意味も無いことも少女は理解していた。ゆえに少女の頭には?マークが満ちていく。
「……??……??…」
しばらく考え、しかしいくら考えても無意味だと悟った少女は器を受け取った。
とりあえず匂いをかぐ。毒物の類いは感じられない。男はその少女をじっと見つめている。口には出さないものの、早く食べろと訴えているようだ。
「………っ…」
男からの無言の圧力に耐えかね、意を決して少女がスプーンを口に運んだ。その次の瞬間……少女の身体が揺れた。
「…………ッ…??!!」
…それは今までに経験した事の無い、恐ろしいほどの甘美な感覚だった。舌の先から身体がとろけるような、圧倒的な快感…。…一瞬意識が無くなったような錯覚さえ覚えるほどだった。
弛緩し、倒れそうになる身体を、少女はすんでのところで制御し意識を集中して状況を分析した。だが答えはいつまで経っても出てこない。
「どうだ? 結構イケるだろ? 俺も荒野暮らしが長かったから、料理にはちょいと自信があるんだ」
ぐらぐらと揺れる少女を見ながら、満足そうに男が満足そうに声を掛ける。
「…いけ…る……?」
…自分を支配している、生まれて初めての感覚の正体。その言葉にならない感覚を男が教える。
「……美味いだろって事さ」
「これが…美味い…、おいしい……」