Saiyan killer   作:北江

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42話、自傷

 

 苦しそうに、今にも倒れそうな表情のまま、静かにマーリンが口を開く。

 

「……本当か? 本当に…お前の負けでいいのか…?」

「ああ…俺の負けでいい……」

「……なら、また今までどおり……わたしの訓練に協力してくれるんだな?」

「ああ…いくらでも協力してやる…。だから…!」

 

「…ふふ……勝ったわたしが負けたお前の願いを聞くなど…何だか妙な話だが…いいだろう……。…受け入れよう…」

 そう言うとマーリンは、突然支えを失った人形のように、その場にがくりと崩れ落ちた。

 

「…っ! ま、マーリンっっ!!」

 あわててヤムチャが駆け寄る。そしてマーリンを抱き起こして必死に叫ぶ。

 

「っ……! ばか! 何してる! 早く気を下げるんだっ……!!」

「あ…れ…、おかしい…な…。うまく…コントロール……できな…い…」

 

 ヤムチャに抱きかかえられたまま、途切れ途切れにマーリンが声を出すが、その弱々しさとは裏腹に、少女の身体から荒れ狂うエネルギーが収まる気配は無く、むしろますます激しさを増していった。

 

「…まずい…、やっぱり完全に暴走しちまってる…。このままじゃ………っ」

 直接触れたことで、より正確に少女の身体の状態を読み取ったヤムチャの顔色が蒼白になる。

 予想した通り、いやそれ以上にマーリンの体内で際限なく増幅された気が、行き場を失ったかのように少女自身の身体の中を暴風のように荒れ狂っていた。圧倒的なまでの破壊のエネルギーが容赦なく彼女を内側から削り、破滅へと導こうとしているのが、男には触れたその手から嫌というほど伝わってくる。

 

「が…はッ……!!」

「……ッッ……!!」

 突然、ヤムチャの腕の中にあった少女の口から、鮮血がほとばしった。腕や足どころか、身体さえすでにボロボロの状態なのだろう。

 今のこの状態が長く続けば、まさに命に関わる。いや、仮にこの状況を脱したとしても、命の保障が無いところまで、マーリンの身体は限界を超えた危機的な水域に陥っていた。

 

「………ッ………」

 

 ヤムチャの顔にも絶望の色が浮かぶ。どう対処していいのか、彼には全く判らなかった。ここまで暴走した気を扱い、再び制御する事など、自分自身にもできるかどうかも判らないのだ。ましてや気を扱いはじめてから日の浅いマーリンならばなおの事である。

 

 …だが時間は待ってはくれない。一刻も早くこの状態からマーリンを解放しなければ…、…確実に、間違いなく取り返しのつかないことになる。

 

 意を決し、苦しそうに目を閉じたマーリンに、ヤムチャが静かに語りかけた。あくまで穏やかに、不安を与えないように淡々と静かに。

「…いいかマーリン。そこまでなっちまったら…もうコントロールして下げるのは無理だ。だからそのエネルギーを全部、外に出すしかない……!」

 

「…………っ……」

 はぁはぁと荒い息を吐きながら、マーリンがヤムチャの言葉に頷く。

 わずかに開いたマーリンの目は今まで通りの、いつも通りのヤムチャを完全に信頼しきった、あの眼差しだった。

 

「…どう…すれば…、…ごふっ…、いい…んだ……?」

 またしても血を吐きながら、マーリンがヤムチャに問う。もはや一刻の猶予も許されない。冷静を装いながら、男は半ば一か八かの賭けに出ることを決めた。

「ああ……暴走してると言っても、完全に制御不能になった訳じゃない。その身体の中の気を、反転して全部外に解放するんだ。簡単…だろ?」

 

 そう言って、男がにっ、とマーリンに微笑んでみせる。しかし、マーリンの表情は変わらない。簡単だと言うヤムチャのその言葉の意味するものが、卓越したセンスを持つ少女には理解出来てしまったのだ。

 

「…しかし……それは…、それでは……」

 

 そう、それはすなわち「自爆」に他ならない。チャオズがナッパにしてみせた、あれである。全身の気を限界以上に高め、内側に留めたまま臨界を越えるまで圧縮し、その後、一気に解放させる。そうすると制御から解き放たれた純粋なエネルギーは、使い手の肉体をも呑み込み、大きく弾けるのだ。周りの全てを巻き込みながら。

 

 無論、今の状況とは少し異なるが、しかしもたらされる結果に違いは無い。このままでは少女は間違いなく、自身のエネルギーに内側から引き裂かれて死ぬだろう。下手をすれば、跡形も残らないままに。

 ヤムチャもそれは判っている。だから不安を悟られぬよう、無理矢理に笑顔を作ったまま続ける。

 

「…心配すんな…。…俺の言う通りにすれば大丈夫だ…! だから……俺を信じろ…!!」

 

「………」

 こくり、とマーリンが無言で頷いた。ようやく少女の顔にも、苦しそうな中にもわずかな笑みが浮かぶ。途切れそうになる意識を必死に繋ぎとめながら、男の指示に備え、再び精神を研ぎ澄まして集中する。

「よし……じゃあ行くぞ……」

 

 そう言うとヤムチャは大きく息を吸い……少女の身体をその腕でしっかりと抱きしめた。

「……!?…… ャ…ヤム…、…?」

 

 突然の抱擁に、思わず身体が強張り、せっかく高めた集中力が驚きで失われそうになる。だが、そんなマーリンの心情などお構い無しに、ヤムチャが耳元で説明する。

「いいか…よく聞け。自爆技にならないためには、一気に放出さえしなければいい。タイミングは俺がここで指示するから、お前はそれに従って気を放出するんだ…!」

 

「……な………っ……」

 その言葉にさらに驚くマーリン。こんな至近距離で気の放出を受ければ、いくらヤムチャでもただでは済まない。ましてや今のマーリンの体内に蓄積されているエネルギーは、戦闘力にしておよそ40万以上なのだ。単純な気の放出と言っても、この距離で直撃すればダメージは必至である。

 

 少女の瞳に再び不安の色が宿る。しかし、それもやむを得ない事ではある。

 マーリンひとりではタイミングは掴めず、さりとて離れてしまっても気の嵐の真っ只中では、ヤムチャの指示など聞こえるはずも無い。男が選んだこの状態が考えられるベストなのは、一点を除いて今の少女にも容易に理解できた。

 

 …ただひとつの、ヤムチャが最後までそれに耐えられるのか、という不安……恐れ以外は。

 

「…………っ…」

 苦痛と不安が重く重くマーリンの身体と心にのしかかる。仮に自分が死ぬのなら、それは残念だし無念ではあるが仕方が無い。しかしヤムチャは違う。ここで自分につきあって傷つかなければいけない理由など、何一つ無いのだ。

 が、そんなマーリンの葛藤を見て取ったのか、ヤムチャがぼそぼそと耳元でささやく。

 

「…大丈夫だって…。……こうしながら俺も界王拳全開でガードする…。だからお前のへなちょこ自爆もどきなんかじゃ、間違ったって死にやしねぇよ…」

 自分を抱きすくめるヤムチャの顔は少女からは見えない。しかし、きっとその顔はいつものあの笑顔なのだと思うと、自然とマーリンの顔にも笑みが浮かぶ。

 

 

「わかった…。…頼んだぞ…ヤムチャ……」

 

 

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