真っ白な異空間に、さながら台風のような嵐が巻き起こってた。しかし台風と違うのは、中心こそが最も苛烈で恐ろしい場所であるという事だ。
「よし…!…いいぞ…そのままのペースであと10秒だ…!」
密着した少女の身体から伝わる気を読み、タイミングを計って伝える。奔流する力に吹き飛ばされる事を恐れるかのように、ヤムチャの少女を抱く腕にも力がこもる。
…マーリンの手前、ああは言ったものの、それでもこの放出され続けている気の嵐は、界王拳無しでは数秒と持たない威力である。5倍でもわずかにダメージを受けるほどなのだ。
肌に突き刺さるような痛みは、まるで裸で砂嵐に巻き込まれたようだと男は感じていた。
「はぁ……はぁ………っ」
一方で息も絶え絶えに、マーリンも必死にコントロールを続ける。無軌道に増幅され、自身の制御をも受け付けずに、ただ荒れ狂う純粋な破壊の力と化した己の気は、一気に放出すればただの自爆になる。自分の身体も、下手をすればヤムチャの身体すらバラバラになって、骨すら残らない可能性すらあるのだ。
さりとて小出しにしすぎれば、自爆の恐れは無くなるが時間が掛かりすぎて、全てを出し切るまでマーリンの体力は持たない。
ゆえにかろうじて自爆にならない程度に、勢いを抑えた気の放出を続ける。限りなくギリギリの線をヤムチャが指示し、少女がそれに従っていく。
「くぅっ…は…ぁぁ……あっ……」
…だがすでにマーリンの身体は、ヤムチャの想像以上にダメージを受けていた。ようやく半分ほどを放出したところで、少女の身体は限界を迎えようとしていた。
「……ッ…? お、おい…どうした…?」
「は…っ……、っっ………っは…」
途切れ途切れの呼吸の間隔が、だんだんと荒く、不規則なものになっていく。同時に、静かに、少女の気がゆっくりと低下していく。しかしそれは暴走した気ではない。彼女自身の『命』そのものの気が、である。
「……お…おい…! マーリン…しっかりしろ!! 集中しろ!!」
「すま…ない……ヤムチャ……わたしは…もう…」
「変な事言うなっ! 謝ったりすんなっ! お前は…お前には…やらなきゃいけない事があるんだろうっ! そいつを放り出すのかよ…!!」
マーリンの意識を繋ぎとめようとヤムチャが叫ぶ。その肩を抱く力にも一層の力がこもる。そんなヤムチャに、少女は今にも泣き出しそうな……笑みを浮かべてつぶやいた。
「………ヤムチャ……頼みがある…。もし………わたしが死んだら…、…あの星からの依頼…、…お前が代わりに…行ってくれないか……?」
「ふざけるな…ッ! そんな…そんなこと…。出来るわけ無いだろ!!」
「…大丈夫…だ。行き先は…すでにスカウターに…セットしてある。船に乗り込めば……自動でリン…クして航路が……」
「そんな話じゃねぇよ…! あれはお前の仕事だろうっ! お前がやるんだ!! 悟空を倒して…行けばいいだろうがっ……!!」
「すまない…。それは無理らしい……。だから…頼む……」
男の目の前で、マーリンの身体からみるみる内に生気が失われていく。暴走した気に飲み込まれていく。マーリンの命の火は、もはや風前の灯だった。
「ぐ……っ! くそっ! くそっ! ど…どうすりゃいいんだ……ッ!!」
年甲斐も無く、みっともなく取り乱すヤムチャだったが、似たような状況が数ヶ月前にもあったことをとっさに思い出す。
「…!! そうだ…仙豆……! …確か持ってきてたはずだ……!」
超特急で部屋の起点である寝室部分に戻ると、ヤムチャが最後の一粒を握り締めて少女の元に駆け戻った。
「はあっ! はぁっ! ま、間に合った! マーリンっ!! 早く食うんだ!!」
うつろな視線でそれを見ながら、マーリンが弱々しく口を開いた。
「…それは…以前にも…」
「そうだ!! これさえ食えば、例え死にかけだってすぐに元気になる! だから早く…早く食え…! 食ってくれ……!!」
「……っ、…………」
だが、男の言葉にマーリンはわずかに肩を震わせると、ゆっくりと首を横に振った。
「…!? なんで……どうしてだよ…!」
「……………」
マーリンは答えない。しかし、はっきりと拒絶の意思を全身から表していた。
なぜ少女が拒否するのか、ヤムチャにはまるで意味が判らない。実際、以前に仙豆を食べさせた時は、あれだけ自分に感謝をしていたというのに。
しかしヤムチャは少しだけ思い違いをしている。あの時はマーリンは気絶していて、有無を言える状態ではなかったこと。そして理由はもう一つあった。
「……ッ、…どういうつもりか知らんが、無理やりにでも食ってもらうぞ!」
強硬手段に出ようとしたヤムチャが、少女の頭をつかみ、口を開かせようとする。が、どこにそんな力が残されていたのか、マーリンが驚くほどの勢いでヤムチャを突き飛ばした。
…もはやヤムチャには訳が判らなかった。あわてて起き上がりながら、泣きそうな顔で懇願するしかなかった。
「頼む…。食ってくれよ…! 俺は……お前に死んで欲しくないんだ…」
「………っっ……!!」
その言葉に一瞬目を見開いたマーリンだったが、すぐにまた目を伏せる。しかしゆっくりと少女の唇が動いた。もっとも声は聞こえず、ただぱくぱくと口を動かすのが精一杯のようだった。
「…マー……リン…っ! おまえ…おまえ……ッ!!」
そして。少女の身体から力が完全に失われたのが、はっきりと男に感じられた。ごとり、とその腕が、冷たく白い床に落ちた。
3週間ほど突っ走り、さすがに息切れしてきましたので、昨日はお休みさせてもらいました。
と言っても絶賛鬱展開中なので、たぶん誰も読んでないのでセーフ!
(そもそも誰も読んでない説)