「~~~~~ッッ!!」
ヤムチャが言葉にならない悲鳴のような声を上げるが、すでに意識の無くなったマーリンからは何も返ってはこなかった。
このまま『完全な死』を迎えれば、かろうじて内に留めておいたエネルギーが少女を食らい尽くすことは容易にヤムチャにも想像が出来た。
じわじわと零れ出すそれが、今もマーリンの身体を犯し、ぶすぶすと肉体を炭化させつつあった。そしてマーリンという存在が完全に死を迎えたとき、彼女の身体は大きく弾け飛ぶだろう。
恐らくはこの世に髪の毛一本すら残さずに…。
「~~~ッ!! マーリ……ンッ…勝手に死ぬなァっ!! そんな事は……させねぇからなッッ!!」
とっさにヤムチャがマーリンの腕を掴んだ。以前に悟空から聞いた話のように、ナメック星で悟空がフリーザを延命させたように、自分の生命エネルギーを気に変換して、マーリンに送りこむ。
だが、すでに生命体としてのポテンシャルはマーリンが大きくヤムチャを上回っている。今のヤムチャではこの行為も気休めにしかならない。少女の『完全な死』を、ほんの少し遅らせる事が関の山だった。
「ぐぅぅッッ……! 帰ってこいッッ!! マー……リ…ン…ッッ!!」
…が、しかし、ヤムチャの必死が通じたのか、あるいはマーリンの驚くべき生命力ゆえなのか、マーリンの指が、ぴくり、とかすかに動いた。
「…やった!! よし!! 今だっ……!!」
そう叫ぶと、ヤムチャは両手でマーリンの頭とあごを持ち、力任せに口を開かせた。そして、あらかじめ口に含んでおいた仙豆を……そのまま口移しで少女に含ませる。
そしてそのまま人工呼吸を行う。軽く噛み砕いた仙豆が、ちゃんと胃に収まるように、大きく息を送り込む。
「…っぷはあぁっっ!! …こ……これで…どうだぁッ!!!」
さらにダメ押しと言わんばかりに、心臓マッサージを気を送り込むのと平行して続ける。
界王拳を限界以上に使いすぎたヤムチャの気も、すでに底に近い。しかし、そんな事は関係ないとばかりに、ありったけの全て少女に注ぎ込む。
そしてついに……奇跡は起こった。
ドクンッッ……!!
力強い鼓動が、ヤムチャの耳を打った。
あるいはそれは幻聴だったのかもしれないが、事実としてマーリンの心臓がゆっくりと、しかし大きく強く、活動を再開し始めた。
急速に少女の全身に生気が蘇り、顔にも赤みが戻ってきた。あちこちにあった傷も消えていった。心停止からの回復により、仙豆の効果が現れたのだろう。
「や……やった…。よかった………」
思わずその場にへたりこむヤムチャ。まさに精も根も尽き果てた、と言った様子である。しかし、その表情は達成感と喜びに満ち溢れていた。
「………」
やがて、ゆっくりとマーリンの瞼が開いていった。強張ったままの表情で、のろのろと少女が身体を起こす。
「マーリンっ! 大丈夫かッ?! 無事なんだな?!」
「……なぜだ…。どうして…だ? なぜ……わたしは……生きてる………?」
男の声を無視するように、ぽつり、ぽつりと、生き返って最初に少女が切れ切れに発した言葉は、疑問だった。
確かに自分の意識が闇に溶けていったのをマーリンは感じていたのに、無理やりその暗黒から引き戻されたような気分だった。
しかし答えなど判り切っている。目の前の男…ヤムチャがどうやってかは判らないが、自分を再びこの世に呼び戻したのだ、と。
「…………っっ…」
顔を伏せ、うつむいたままでマーリンが立ち上がった。そのままヤムチャに背を向け歩き出す。まるでヤムチャの前には居られないとでも言うかのように。
「お…おいっ!! なんだってんだよ…! 人がどれだけ苦労したと思ってるんだ……! それを…お前……!」
最初はすぐに立ち上がるほどの回復を見せたマーリンに対して、素直に喜びを見せていたヤムチャだったが、あきらかに理不尽なマーリンの態度につい言葉を荒げる。
「……なんなんだお前はよ! なんとか…なんとか言ったらどうなんだよ!!」
「……………」
「…ッッ!! あのまま死んでた方が良かったってのか!? 生き返りたく無かったとでも言うのかよ!!??」
「…………っ……」
ヤムチャのもっともな言葉にも、少女は何も答えない。ただ、かすかに首を振ってみせるだけだった。
「……っ…! じゃあ、何が不満なんだ…!何が気に入らなくてそんな…」
九死に一生を得る、どころの話ではなく、まさに死からの復活を経た感動の再会。普通ならこれほどドラマチックなシチュエーションはそうそう無いであろうはずなのに、マーリンの態度は明らかにそれを喜びと感じていないようだった。
「……………」
ふたりの間の空気が徐々に険悪になっていく。しかし、突如としてヤムチャが、少女のただならぬ異変に気が付いた。
「…?………… え………?」
…つい先ほどまでマーリンの身体の中を吹き荒れていた気が、ものの見事に収まっていた。しかし消えた訳ではなく、少女が完全にそれをコントロールしているのだ。それどころか、戦闘力というものを器に例えれば、それが一回り、いや二回りも大きくなっている。先ほどの暴走した気を全て呑み込んでも足りないほどの器…。
気の性質も、以前とは何かが、どこかが違うように男には感じられた。
「……な……?…、なんだ……?……」
不意にヤムチャの脳裏に、かつて仲間たちから幾度も聞いた話が蘇った。瀕死の重傷から回復するたび、大きく力を上げる戦士の血脈の話。それによって度々窮地を救われたり、逆にピンチに陥ったりとクリリンなどは語っていた。
…同時に、ふいに男の脳裏に、以前あった、つまらない、どうということのない日常での、不謹慎で下らない少女とのやり取りが蘇る。
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『おい…マーリン…。これ……、美味いか?』
『……? 何を言っている…?』
『そ、そっか…。俺は…もういいわ。良かったら全部食ってくれ…』
『い、いいのか?! 後で返せなどと言われても…不可能だからな! 本当に良い
んだな?!』
『言わねぇよ!!』
この意地汚さ…。こいつ…もしかして自分もサイヤ人なんじゃないのか……?
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不謹慎で下らない、半ば嫌味のようなあの時の印象が、知らず知らずのうちに男の口から零れ落ちかけた。
「…お…おまえ…、…まさか………」
「……やっぱり…、…判ってしまったか……」
「………っっ……!」
呆然としたままのヤムチャだったが、背を向けたままぽつりと漏らしたマーリンの言葉だけで、全てを理解してしまった。
「そう…わたしも…、…サイヤ人なんだ…。正確には…半分だけだが…な…」
そう言って、ようやくマーリンはヤムチャに向き返った。泣きそうな、それでいてどこかさばさばとした表情で。
「知られたくなかった…。…知られると判っていたから…あの時…拒否したんだ…」