Saiyan killer   作:北江

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45話、過去

 …しばらくの後、あれから口を開こうとしないマーリンを連れて、ヤムチャたちはこの部屋…精神と時の部屋の基点にある、寝室を含む生活のための場所に戻っていた。

 もっとも戻ったとは言え、二人は夕食も取ろうともせずにベッドに腰掛け、ただうつむいたまま、時間だけが過ぎていった。

 

「なぁ…マーリン……」

 どれほどの時間が経ったのだろうか、ふいにヤムチャが口を開いた。

「その……こんな事…聞くのはアレだし…今更かもだけど…、…お前の事をもっと……ちゃんと教えてくれないか?」

 

 そう言ってヤムチャはマーリンに視線を向けた。問われたマーリンは少し驚いた風だったが、ややあって薄く笑い、ヤムチャに向き直る。

「……そうか。…お前には何の関係も無いし、つまらない話だが……、…聞きたいのなら教えよう……」

 

 そう言って、ぽつり、ぽつりとマーリンが口を開いていく。これまでの少女にまつわる数奇な運命の物語を。

 

 

 

 …惑星マリーン。かつてそう呼ばれた、宇宙でも屈指の美しさを誇る水の星があった。人々は穏やかで平和を愛し、高い科学力を持ちながらも、他星への侵略などとは無縁の、まさに宇宙の宝石のような星があった。

 その星は長く続く王家が統治し、そして国民はその王家を愛し、支持しているという、まさに理想的とも思える政治が行われていた。

 

 

 だが、そんな平和な世界に、突如として暗黒に陥れる者たちが訪れた。言うまでも無くサイヤ人たちだった。

 

 もちろん惑星マリーンにも軍隊は存在する。他星からの非道な侵略から身を守るため、平和国家ではあったが、高い科学技術によって作られた数々の兵器を持ち、それなりの戦力ではあった。

 

 しかし、サイヤ人はあまりにも強力すぎた。

 あっという間に軍は壊滅し、地上は殺戮と略奪、恐怖と死が支配する暗黒の世界へと変貌を遂げた。一般国民はすでに数十分の一にまで減り、生き残った者も次々と奴隷として運び去られ、もはやこの星が死の惑星になるのは時間の問題だった。

 

 王家でも議論は分かれていた。徹底抗戦を唱える者、あるいは逆に降伏し、たとえ奴隷となっても生きのび、再び再興を目指すべきだと言う者。

 そしてそんな議論の果てに、最終的に王が選んだのは……降伏だった。

 

 王の決断により、戦いは終わった。宮殿には王家の人間だけが残り、静かに最後の時を迎えようとしていた。しかし、たとえ一般の国民は奴隷としてでも生き延びられはしても、王家の人間はそうはいかない。この星の次の支配者が誰かは判らないが、前の王を生かしておく理由など無いからだ。

 そうして一切の抵抗の無くなった都を、思い思いにサイヤ人が蹂躙して回る。わずかに王に従い続けた衛士たちも殺され、王家と、その血族に最後の時がいよいよ訪れようとしていた。

 

 

 

「さ…こちらです…! お急ぎをッ!!」

 宮殿の地下、そこに隠され、何百年も閉ざされてきた秘密の通路を、二つの影がひた走る。恐ろしい死神の魔の手から逃れるべく、長かった平和の時代には無用だった隠し通路を、一心不乱に駆け抜ける。

 

 降伏し、一族の断絶は覚悟していたものの、やはり王も人の親であった。まだ成人にもなっていない皇女を連座させるには、あまりにも忍びない…。そう思い、この星の最強の衛士を付け、密かに宮殿から、この星からの逃亡を、たった一人の娘に命じていたのだった。

 

 そのたった一人の王族、皇女の名はアローワナ。王の一人娘にして、この星の唯一の王位継承者でもあった。

 

「…もうすぐです…! 外には船も用意されているはずです…!」

「はぁ……っ! はぁっ………!!」

 

 破裂しそうな胸を押さえ、アローワナが必死に衛士に付いていく。

 残してきた父母や一族の事を思うと、さらに胸が張り裂けそうになるが、今は自分が生き残る事を優先しなければいけない。それが王家の血族である皇女としてでは無く、一人の娘として自分に託された両親の願いだったからだ。

 

 衛士の先導の元、走り続けた先にやがて、暗く長かった通路にようやく光が戻り始めた。うっすらと見え始めた出口に、皇女はようやく安堵した。今とは違う新しい世界が、その先にあるのだ。

 

「はぁ…はぁ…。あ…あそこまで行けば……!!」

 希望を力を変えて、必死にアローワナが足を進める。だが、あとわずかと言うところで、皇女は絶望的なまでにどす黒い声を耳にした。

 

「くっくっく……! こりゃ驚いた…。…こんな場所にお客さんとはな…!」

 

 

 突然アローワナの耳に下卑た声が……耳障りな男の声が突き刺さった。同時に、カツ…カツ…と音を立て、ゆっくりと通路の向こうの光から、黒い影が近づいてくるのが見えた。

 

「くく…こんな場所で見回りなんざ、貧乏クジだと思ってたが…、どうやらオレは運がいいらしいな。…くっくっくっ……!」

「はぁぁぁぁっ……!!!」

 

 男の黒い笑い声を遮る様に、前を走る衛士から裂帛の気合がほとばしった。

 逆光に浮かぶ黒い影を、いや、闇そのものの何かを切り払うかのごとく。

 

「……うおぉぉぉぉッッッ……!!!!」

 

 彼もこの星では1、2を争う程の実力を誇る戦士である。例え勝てはしなくても皇女を逃がす時間稼ぎさえ出来れば、それで彼の任務は果たされた事になるのだ。

 ゆえに一切の迷いも無く、己の身体を顧みることもなく、ただ全身の気を拳に集中して『敵』に肉薄し、衛士は全身全霊を賭けた拳を『闇』に向けて放った。

 

 …それは極限的な状況が生み出した、彼の生涯において究極に高まった、まさに至高の一撃だった。

 

 

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