とりあえず鬱編に何があったかを簡単に書きますと、
1,修行中にいろいろあってマーリン死にかける。
2,仙豆で復活するも、マーリンがサイヤ人ハーフであることが判る。
3,ヤムチャとイチャラブでさらにパワーアップ。
ここからはほぼほぼ鬱展開はありません(戦闘描写で極微量のストレスはありますが)。どうぞ安心してご覧くださいませ。
「………ん…っ…」
翌朝……と言っても、昼も夜もないこの空間では意味の無い概念ではあるが、とにかく夕べの一件以来、いろいろと消耗し切った体力を回復させたヤムチャの目がようやく覚めた。
隣にいたはずの少女の姿が見えない事に、一瞬まさかと思ったものの、ふいに部屋の外から感じられた気に、ヤムチャはほっとする。
のろのろとベッドを這い出るように後にし、彼も外に出る。無限とも思える広大なただ白い世界。その入り口に少女はひとり佇んでいた。
「…遅いぞ…。お前はわたしの師なんだろう? そんな事ではこの先が思いやられるな……ふふふっ……」
背を向けたまま、それでもヤムチャの接近を感知したマーリンが、あいさつ代わりと言わんばかりに、非難の言葉を口にする。しかし、表情こそ見えないが、それはむしろ楽しそうな口ぶりですらあった。
「……っ……」
何も言わずに少女の言葉をヤムチャは受け止めた。いや、むしろ唖然とし、言葉を失っていた。まるで蛹が蝶へと変わったように、昨日までのマーリンとはまるで別人のようにすら思えたのだ。
昨日の臨死状態からの復活後でもあきれるほどのパワーアップを果たしたと思っていたのに、今のマーリンからは、それをもさらに上回る力を感じられるのだ。
…別に気を入れている訳ではない。そんな静かな状態でなお、以前とは比較にならない力が、もはや自分が界王拳を自滅覚悟の倍率で使っても届かないほどの差が、たったの一日で生まれたことにヤムチャはただ息を呑んだ。
「…悪ぃ。でも、もう俺じゃお前の師匠は務まらないかもな……」
自嘲気味に、思わずヤムチャが率直な感想を口にする。だが、それには触れず、相変わらず背を向けたままのマーリンが、やけに晴れ晴れとした声で歌うように続ける。
「……なぁ…ヤムチャ……。わたしは…昨日……はじめて生まれてきて良かったと思ったんだ……。それも…女として生まれてよかったと…」
ヤムチャからは見えないが、ほんの少しマーリンの頬がかすかに赤く染まる。
「わたしは…ずっと自分が嫌いだった…。サイヤ人の血を引く自分が憎かった。許せなかった。でも、昨日……はじめて…、そうじゃないって風に…思えたんだ…」
「……だってそうだろう? もしわたしが生まれていなければ、わたしのこれまでは無かった…。もしわたしがサイヤ人の血を引いていなければ、地球に来ることも無く、おまえと出会う事も無かっただろう…」
そう言いながら、少しづつマーリンの気が高まり始めた。以前とは比較にならない大きさとなった器が、少しづつ気で満たされていく。ゆっくりと、たゆたうように。
「……わたしはわたしだから、このわたしだから…おまえに出会えた。だから…この生まれに…、この血に…、今はむしろ感謝しているぐらいだ……」
「………ッッ……ッ!」
戦ってもいないのに、マーリンから感じられ始めた気にヤムチャがびりびりとした衝撃を受ける。
だが、少女の独白は続く。黙って男はそれに聞き入る。
「…以前…おまえはわたしに教えてくれただろう? 精神と肉体、その両方を一致させ、協調させなければだめだと。…それは…わたしに取っては…2つの血の事だったんだな。父の……サイヤ人の血をねじ伏せたり、無視したりするのではなく、受け入れ、そして協調する事が……はじめて出来るようになったんだ。おまえのおかげで…」
…修行を始めてからはずいぶんマシになったものの、以前からマーリンの精神と肉体のバランスが悪いのは判っていた。それはこうした理由によるものだったのかと、改めてヤムチャにも納得がいった。
今の自分を肯定できるようになって、同時にこれまで心の中で否定し続けてきたサイヤ人の血を受け入れられるようになったことが、この急激なパワーアップの理由だったのか、と。
…しかし。それならば。あの目的など、もはやどうでも良い事なのではないのか?
「…そっか…。よかったな、マーリン…。でも、それならもうサイヤ人を追いかける…と言うか、悟空と戦う必要は無いんじゃないのか?」
おそらく今のマーリンには、もうサイヤ人に対する憎しみは無いだろう。それならば戦いを取り止めて、すぐにでも宇宙に戻るべきだ、そう思わなくは無い。
いや、そうするべきだとヤムチャは思う。少なくとも理性では。
だが。男の言葉に少女がようやく振り向いたかと思うと、真剣な表情を浮かべて言い放った。
「…いや、ソン・ゴクウとは戦う。彼は……最強であり、究極のサイヤ人だ…。その彼と戦い、そして勝つ事で、わたしはより完全に二つの血を一つに出来る気がするんだ…」
「…お、お前……。で…でもよ…」
しかしそんな戦いに意味があるのか。そうヤムチャが言い掛けた瞬間、真剣そのものだった表情をマーリンが急に崩した。
「…いや、違うな。そんなことより……何より負けっぱなしでは腹の虫が収まらないだろう? ふふっ…」
悪戯っぽく、くすりと少女が笑った。思わず釣られてヤムチャも笑う。
「………ふ……っ…、く…くく……っ!」
そうだ、まだ何も終わっちゃいない。始まってすらいないのだ。最初から何から何まで間違いだらけのこの計画に、今さら道理や理屈などの出る幕などない。
「…だから、そのためにヤムチャ…もう少しだけわたしに力を貸してくれ。力だけじゃない。おまえはわたしに取って…必要な…ひとだから…」
マーリンがはにかむような笑顔をヤムチャに向ける。気はすでに少女の身体を一杯に満たしていた。その戦闘力は、もはやヤムチャには読み取ることも、測ることも出来なかった…。
「……よーし!! それじゃ今日もバリバリ行くぞっ! 覚悟はいいなっ!?」
「あぁ!! 望むところだ! ヤムチャ!!」
…再び二人の関係が元に戻る。昨日までのは一夜だけの夢。だが、誰もそれを後悔などしてはいなかった。