Saiyan killer   作:北江

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53話、神様

 

「…それじゃ忘れ物は無いな? そうそう来れる場所じゃないからな。ちゃんとチェックしろよ」

「大丈夫だ。おまえの方こそどうなんだ? いろいろ持って来ていたが……」

 

 …あれからさらに2ヶ月が過ぎていた。そして、ついに二人は決断した。ここでの修行を終え、いよいよ悟空との戦いに挑むことを。 

 合計で約4ヶ月間の修行期間は、ヤムチャが予想していたよりもやや早い。だが。

 

「よーし! やるべき事は全てやった! 後は勝ちをもらいに行くだけって事だ!」

「…おまえが戦う訳じゃないんだぞ…。気楽に言ってくれる……」

「ふふん…。…でも自信が無い訳じゃないんだろ?」

「……まぁ…な…。ふふっ…」

 

 男の言葉に、やや緊張の面持ちを浮かべていたマーリンの顔に笑みが浮かぶ。

 

「…ところでヤムチャ。これを預かっていてはもらえないか…?」

 そう言ってマーリンがスカウターを取り外した。この半年間、片時も手放したことのなかったものだ。

 

「……前にも言ったが、これは特注で高価なものなんだ。しかし今度の戦いでは無事に済むとは思えないからな…」

「…あぁ、いいぜ。お預かりさせてもらう」

 

 そして4ヶ月ぶりに、精神と時の部屋の重い扉がゆっくりと開かれた。

 

 

 

 ……ギィィィ…ッ…

 

「え………?」

「…………」

 

 開いた扉の先にあった、思ってもみなかった光景にヤムチャが驚く。扉の向こう側には、なぜかミスターポポと、神様までが待っていたかのように佇んでいた。

 

「あ…神様…、どうもご無沙汰してます」

 とっさにヤムチャがぺこりと頭を下げた。しかしそれも到底「神」に対する挨拶とは思えない、あまりに普通の挨拶だ。だが気にする風でもなく、神様がうんうんと頷いていた。

 

「……ふむ…。そうとう腕を上げたようだな、ヤムチャ」

 これはヤムチャにしても意外というか、マーリンとの修行の副次効果だった。圧倒的に力を増したマーリンと修行を続けるうち、ヤムチャ自身のパワーも大きく上がっていたのだ。おそらくは界王拳全開で100万近くはあるだろう。

 

 そして、「神」が次に、じろりと傍らの少女を見やる。

「…異星の娘…、…マーリン…だったか? お主の目的が何であるかは知っておるが…、いい目をしておるな…。フフ…」

 

 どうやら全てを知っているらしい神様に、思わずヤムチャが尋ねてしまう。

「あの…、俺が言うのもあれですけど、いいんですか…? 止めたりしないんで…?」

「…ふん…。今の私の力では止めたくても無理だろう。それに……この星の神としては不謹慎極まりないが、実のところ、少しこの戦いに興味があるのでな」

 

「……………?…」

 神様が何に興味を引かれているのかは判らない。だが、少なくとも邪魔をしようとはされていないらしい。ならば今のヤムチャたちにはそれだけで充分である。

 

「……じゃあ、まずは俺が悟空の家に行って、果たし状を叩きつけてくるぜ。おまえはその間に例の場所に行ってろ」

 そう言ってヤムチャが神殿を後にしようとする。しかし、それを神様が突然呼び止める。

 

「…待つがいい、ヤムチャ」

「……え?」

 

 さっきはあんな風に言っていたものの、急に神様が不安にでもなったのかとヤムチャは思った。

 だが、ここまで来て止めるなどは出来ない。焦り、逸る心を抑えてしぶしぶ振り向いたが、そんなヤムチャの心を知ってか知らずか、微笑を浮かべたまま、まったく意外な事を神様が申し出た。

 

「…まぁ待て。その格好で行くのは余りに無作法というもの。んッ……!」

 確かにあまり気にはしていなかったが、この数ヶ月に及ぶ修行で二人とも服はボロボロだった。だが、そのヤムチャのボロ服が神様の気合と共に、あっという間に新品同様になってしまった。

 

「………な……っ…」

 『奇跡』を目の当たりにしたマーリンも、さすがに目を丸くして驚く。

 

 

「さて…。娘、お主もそのままではな。本来ならば戦いに赴く戦士に、仙豆の一つでも渡したいところだが…この星の神としてはそれは出来んのだ。だが、せめてこれぐらいはさせてくれ」

 そう言って再び気合を込めると、みるみる内に少女の戦闘服の破れや破損が修復されていく。

 

「…あなたは…すごい力を持っているんだな。さすがに神と言われるだけの事はある…」

 あっけに取られつつ、修復された服の感触を確かめるマーリン。だが。

「…服を直してくれた事には感謝する。だが、その力を見込んでもう一つだけわがままを聞いてはくれないか? わたしも…ヤムチャと同じ服にして欲しいんだ」

 

 ふむ、とだけ神様がつぶやいた。そして一呼吸置いて。

「…いいだろう。飛びっきりのをプレゼントして差し上げよう」

 再び神様の指が光る。次の瞬間、少女がまとう服はヤムチャの着る道着そっくりのものになっていた。

 

「ふふ…少しデザインは違うがな…」

 

 

 …その背中には、大きく染め抜かれた『狼』の文字があった。

 

 

 

 

 

 

「よし! それじゃ今度こそ行くぜ!」

「…待て。ヤムチャ」

 少し時間は取られたものの、これで準備は万端。いざ決戦へ!……と思いきや、今度はミスターポポがヤムチャを呼び止める。

 

「っ……、何なんだよ。こっちは急いでるんだけど…」

「…ヤムチャ、約束忘れてないか?」

「………? 約束って……?」

 

「この部屋に入る時にヤムチャ、ポポに言ったことある」

「……? …え、ま、まさか…、…もしかして…、…ぱふぱふの事…かぁ!?」

 

 ほんのかすかに、常に無表情なはずのポポの口元がニヤついた。一方ヤムチャも今の今まですっかり忘れていたが、確かにそんな約束をしたような覚えがある。

 

「……? どうかしたのかヤムチャ?」

 思わず固まってしまった男にマーリンが声を掛ける。

 

「え…いや…その…、……ちょ…、ちょっとこっちに来い!」

 マーリンの腕を掴んで、少し神様たちから離れた場所でひそひそと経緯を説明する。ヤムチャとお揃い…と言うか、ほとんどペアルックのような道着に妙にご機嫌だったマーリンだったが、表情が段々と険しくなっていく。

 

「……おまえは…わたしを丸一日放置しておいて…、…そんなくだらない約束をしていたのかっ……!!!」

「い…いや、だから…それは外じゃ5分ほどだったって言っただろ…」

「そっちには5分でもわたしには一日だ!! …だいたい…あんな変な奴に……。絶対に断る!!!!!」

 

 怒り心頭、といった風情のマーリンを必死にヤムチャがなだめる。確かに約束とは言えない様なものではあったが無視はできない。なぜならポポのような奴は絶対に根に持つタイプだからだ。

 これを反故にしてしまったら、この先の自分の人生に大きなトラブルをもたらす事になりかねない。自分の分の仙豆だけ渡さないとか忘れるぐらいは平気でやりそうだと、ヤムチャはかすかに恐怖した。

 

 だがマーリンにしてみても、あんな得体の知れない男に身体に触れられるなど願い下げだった。ヤムチャにならそれぐらいは構わない…というか、望むのならいくらでもしてあげたいと思うが、あの感情が全く読めない真っ黒な顔をこの胸で挟むなど、考えただけで寒気、怖気がする。

 

「~~~~~~~~ッッ!! ~~~~~~~!!」

「ーーーーーーっ! ーーーーーーーーーっっ!!!」

 

 ぱふぱふを巡る、お互い一歩も譲らない、譲れないふたりの白熱したバトルは、永遠に続くかのように思われた。

 

 

 

 

「く……っ…。判った……。馬鹿馬鹿しいが…仕方ない……」

 …しかしついに、とうとうマーリンが折れた。こうしている間の時間の無駄に嫌気がさしたのだろう。ほっと胸をなでおろして、ヤムチャが足取りの重いマーリンを引きずるように連れて、ポポの前に戻る。

 

「…よっ、待たせたな! それじゃ気の済むまでぱふぱふしてくれ!」

 相変わらず無表情で無言のままのポポだったが、心なしか嬉しそうだ。だが、マーリンの前に立った瞬間、その表情にあきらかな動揺が浮かんだ。

 

 

 …ズズ……ゴゴゴゴゴゴゴ………!

 

 

 

 

 両の手で胸を掴み、空ぱふぱふをしながらマーリンがポポを待ち受ける。その全身からすさまじい気を放ちながら。

 

「…さぁ…いつでもいいぞ? 遠慮なくかかってこい…!!」

「……………」

 ごくり、とポポの喉が鳴った。あの胸に挟まれては、いかにポポと言えど、己が頭蓋をぺしゃんこにされる戦慄を覚えた。いや、本当にマーリンはそのつもりなのかもしれない、とも。目の前の少女からは、明らかにシャレにならないパワーを感じるのだ。

 

 

 

「……ポポ…、今日は止めておく……」

 それだけを言い残し、すごすごとミスターポポが神殿の奥に戻っていった。その様子を不思議そうに眺めていた神様だったが、やがて彼も後を追うように、消えるように神殿の中へと戻っていった。

 

「……すまん…ポポ…」

 いったい何が起きたのか、薄っすらと理解したヤムチャは、思わずポポに同情したのだった。

 

 

 一方、無言のまま、変わらず射るような視線でヤムチャを非難し続けるマーリンだったが、それには気づかないふりのヤムチャが、不自然なテンションで逃げるように叫びながら飛び去った。

 

 

「よしっ!! それじゃ改めて行くぜ!! じゃまた後でなー!!」

 

 

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