神殿からかなり離れてもなお、ちくちくと背中に突き刺さるようなマーリンの気を感じながら、ヤムチャは悟空の家を目指して飛ぶ。
部屋の中での4ヶ月は、外界の時間にしておよそ8時間だ。午前6時過ぎに入ったので、今は昼の2時過ぎということになる。決戦の頃合いとしては丁度いいだろう。
悟空の家には何度か行った事があるヤムチャだったので、別段迷う事無く、ものの数十分ほどで到着した。
「おーい! 悟空ー! いるかーー?」
あの悟空の事だ、家の中にいるとは限らない。そう思ってヤムチャはとりあえず家の外から大声で呼びかけてみた。しかし意外な事に、家の玄関がかちゃりと開いて悟空が姿を現した。そして、続いて意外なもう一人が。
「よう! 悟空、久しぶりだな! …っと……え? ピ…ピッコロ?」
……そこには今まで見た事の無い、ありえない格好のピッコロがいた。Tシャツにジーパン姿で、帽子もかぶっている。
「オッス、ヤムチャ! でも久しぶりって程じゃねぇだろ。一月前に会ったばっかじゃねぇか」
「あ、あぁ…、そういやそうだったな……」
そういえばヤムチャに取っては5ヶ月ぶりでも、外界にいた悟空にはまだ一月前に過ぎなかった事を思い出す。だが、そんな事よりそのピッコロはいったい…?と、ヤムチャの頭に疑問符が乱れ飛ぶ。
「あ…あのさ…、ところでピッコロの奴…、あれは何なんだ?」
思わず悟空にヒソヒソ声でこっそり聞いてみる。むろんピッコロの耳にはきっちり聞こえているのだが。
「ん? ああ、オラたちクルマの免許取りに行ってたんだ。チチのやつがうるさくってよ。で、ピッコロもいっしょに行ってたんだけどよ。いつものカッコじゃ目立つだろ?」
「………あ、そう………」
…あまりの緊張感の無さに、意気込んでやって来たのがバカらしく感じたヤムチャだったが、とにもかくにも伝える事を伝えねば話が進まない。悟空はともかくとして、ピッコロも免許が取れたのかが気になるが、とりあえず決闘と言うか果し合いと言うか、マーリンが戦いを望んでいる事を手短に伝える。
「…ふーん。まぁいいけど」
「………ふーんって…、…お前………」
これまたヤムチャがひっくり返りそうなほどあっけなく悟空が承諾する。超サイヤ人になってから、軽さに磨きがかかってるんじゃないのかとさえヤムチャは思った。
しかし、すぐにその考えをヤムチャは改める。ただ軽いと言うより、それだけの自信が悟空にはあるのだ。フリーザさえ倒したほどの力…そして以前見たマーリンの実力を考えれば、負ける事などこれっぽっちも考えていないに違いないのだ。
そう見て取ったヤムチャが、心の中でそっとだけ吠える。
『後で吠え面かくなよ…!』……と。
「んじゃあ、さっそく行くかぁ! …そうだ! せっかくだしみんなで行くか! おーい! 悟飯ー! チチー! 出かけるぞーーー! ピッコロも行こうぜーー!」
「…行くのは構わんが、もうこの服はゴメンだ…」
「えー、けっこう似合ってると思うんだけどなぁ……」
ぶつぶつ言いながらピッコロが家の中に着替えに戻る。入れ違いにチチと悟飯が出てきたが、ピッコロが行くと聞いてチチは露骨に嫌そうな顔をして辞退した。
水しか飲まないとは言え、夫の友人(?)で、しかも居候に対する妻の反応は得てしてこんなものだ。チチがピッコロにあまり好意を持っていないのは明白であった。
『…舐めやがって…。ピクニックじゃねえんだぞ……』
そう心のなかで毒づきながらも、ヤムチャは三人を先導して、あらかじめ決めておいた場所に向かったのだった。
タッ……!
まずヤムチャが見慣れた荒野に降り立つ。続いて悟空、ピッコロ、悟飯の三人が並んで降りる。
「………ん……? ここは……」
降りてすぐに、悟空が周囲の状況を把握する。そう、ここはマーリンとヤムチャが1ヶ月ほど修行をしていた所だ。そして初めて二人が出会った場所でもある。マーリンと悟空の初戦もここだった。
そして最初に悟空と戦った時に出来た、直径200メートルほどのクレーターの中。その中心に少女はいた。静かに目を閉じ、秘められた力を解放する時を待っているかのように。
そこからほんの数十メートルの所に、悟空たち三人が降り立った。
「へぇ…。ちょっと見ない間に、ずいぶんと腕を上げたみてぇだな…」
気はほとんど入っていないにも関わらず、少女の力を見て取った悟空が感心する。
「…今のあいつなら…悟飯、おめぇとならいい勝負かもな」
「え……、そ、そうでしょうか……」
そう言われた悟飯も、確かにあの年上の少女からは並々ならぬ力を感じていた。しかしそれだけでも無い。何か近しい……そう、どこか『姉』のような匂いをも悟飯は感じていた。
「ふん…確かにな…。しかしあの程度ならば今の貴様とでは勝負にならん…。それが判らんヤムチャではあるまいに…。…何を企んでいる…?」
そう言いながらも、半神としての直感か、ピッコロはこの戦いに何かを感じていた。
不安……などではない。ただ、何か言い知れぬ運命のようなものを感じるのだ。だが当の本人の悟空は、相変わらず飄々としているだけだった。
「よっし! じゃあ、いっちょやってみっか!」
そう悟空が声を上げ、ぶんぶんと腕を振り回しながらマーリンに近づこうとした瞬間、間に割って入るように一人の男が姿を現した。少し遅れて近くに着陸した小型のエアカーからも女性が降りる。
先に降りた男がマーリンに問う。
「貴様…何者だ。この星の者じゃ無いだろう。言え!」
ふいに、ゆっくりとマーリンが目を開ける。別に無視しても良かったが、考えてみれば前回の戦いの時も、自分は名乗りを上げていないことに少女は気づいた。
ゆえにこの無礼な男に対してではなく、戦士『孫・悟空』に向けて、マーリンが朗々と名乗りを上げる。
「わたしは…戦士・マーリンだ! 惑星マリーンの生き残りにして、最後の王家の血を引く者でもある! 故あって超サイヤ人、ソン・ゴクウに、戦士として尋常なる勝負を申し込む!」
「……何っ……!! マーリン…だとッ!? 貴様が…あのマーリンだと?」
目を剥いて男が驚く。そこへすたすたと近づいてきた悟空が声を掛ける。
「なんだ、ベジータ。……知り合いか?」
それには答えず、ただベジータと呼ばれた男はじっと少女を睨み、ぼそりとつぶやいた。
「カカロット…。…あの女はオレがやる…。貴様は下がってろ…!!」