……ズォウッッ!!!
言い終わるやいなや、悟空の全身からも気が立ち昇った。しかしその様に、明らかな不満の色を少女が浮かべた。
「……どういうつもりだ…? なぜ超サイヤ人にならない……?」
少し怒気をはらんだ声を、マーリンが男にぶつける。
「へへっ…そう焦るなよ…。オラ、こんな戦いは久しぶりなんだ……」
界王拳による激しい戦闘力の上昇による、真っ赤なオーラに身を包みながら、悟空がなおも穏やかな口調のままにマーリンに答える。
「…おめぇの界王拳は見せてもらった。正直すげぇと思ったぞ。だったらオラの界王拳とおめぇの界王拳…、どっちが上か勝負してぇじゃねぇか。武道家としてはよ?」
確かにそれも紛れもない悟空の思いではあった。しかし本当の…本音はやはりそこには無い。
この少女の力は確かに凄まじい。自分の読みが正しければ、例え超サイヤ人になったとしても、楽々と手を抜いて倒せるような相手ではないと悟空は感じていた。しかしその危ういバランスは、展開の次第によっては本当に一瞬で終わってしまいかねない。戦いに飢えていた悟空にとって、それは到底受け入れられる話ではなかった。
「ふん…。まぁいいだろう…、…だがすぐに後悔する事になる…。最初から超サイヤ人になっておけばとな…!」
ヴォゥ………ッッッ!!!
マーリンの身体からも、再び赤いオーラが大きく噴き出す。そしてゆっくりと構える。しなやかな肉食獣が今まさに獲物に飛びかからんとするかのように。
じり、じり、と両者が近づく。噴き上がるその二人のオーラも少しづつ、少しづつ近づいていく。
…パァンッ……!!!
二人のオーラが触れた瞬間、激しいスパークが起きた。同時に悟空とマーリンの二人も閃光のように弾けた。
悟空の左拳が唸りを上げてマーリンに襲い掛かる。それを軽くかわしてカウンターの蹴りをマーリンが打ち込む。しかし悟空もすかさずガードし、受けた右足を払いのけるように腕を振るう。
ブゥゥッッンン!!
「………ふっ……!!」
「…ッッッ?!」
だが、受けの反動を利用し、ぐるりと回転したマーリンの左足が、今度は悟空の顔面を襲う。これにはさすがに反応し切れず、悟空はもろにそれを食らってしまった。
……ガッッ!!
ぐらり、と悟空の身体が揺れる。だがその両足はしっかりと地面を捕らえたままで、それ以上のマーリンの追撃を許さなかった。
「…なるほど…。ホントにたいしたもんだ…。前とは別人みてぇだ……」
蹴りを受けた頬をさすりながら、そう悟空が賞賛の声をあげる。実際、以前に戦った時とは何もかもが違う。闇雲にパワーだけで気功波を撃っていた、稚拙とも言える戦い方をしていた少女と同一人物とはにわかには信じがたいほどだった。
「でも…まだキレが足りねぇみてぇだな…。付け焼刃じゃオラは倒せねぇぞ…!」
「…強がりはそれぐらいにしておくんだな…。…今のお前ではわたしには勝てない。絶対にな……」
そう言いながらも、す…っと再びマーリンが構えを戻す。マーリンもまた、前回の戦いでは感じ取る事すらできなかった悟空の実力に、内心で舌を巻いていた。
さっきはうまく一撃を入れる事は出来たが、それは偶然に近い、たまたまのようなものだ。格闘技術は悟空の方がはるかに高いことは疑いようもなかった。純粋な格闘では、いまだヤムチャにさえ及ばなかったマーリンなので、仕方ないとは言えるのだが。
…超サイヤ人にならなくとも、この男、孫悟空はただならぬ強さだと、マーリンは改めて実感する。体捌きや判断力、どれをとっても今まで戦った相手とは次元が違う。むろんヤムチャとも。
わずかな太刀合わせで、少女は瞬時にそこまでを認識する。そして。
「……遊びは終わりだ…。次は少し本気で行く。…死ぬんじゃないぞ…」
そう言ってからマーリンが大きく息を吸い、裂帛の気合と共に吐き出した。同時に、少女の身体から、さらなる巨大なオーラの嵐が巻き起こる。
確かに今の悟空も『強敵』ではある。しかしマーリンの目的はあくまで超サイヤ人に勝つ事だ。そのためにはこんな『遊び』に付き合っている余裕などないのだ。
一分一秒でも早く、悟空の本気を引き出すために、マーリンは賭けに出ることにした。
ズゥアォォォ!!!!
「……ッ…! こ…こりゃ…とんでもねぇ気だ…っ!!」
さしもの悟空も、目の前の少女から放たれる想像以上の力に圧倒される。
「こ…ここまで力を隠してたのかよ…。へへ…ホントに後悔するかも…な」
だがそう言いながらも悟空の顔は笑っていた。自分を超える力の相手に、針の隙を突くように逆転し、勝つ。そんな戦いを経験してきた悟空にとっては、想像以上の少女の力は、むしろ嬉しい誤算だったのかもしれない。
「いくぞッッ!!!」
ヴァオッッッ!!!
マーリンが大地を大きく蹴り、悟空との距離を一瞬にしてゼロにする。蹴られた大地は大きく陥没し、クレーターの中にさらにもう一つクレーターを作りだす。
「……!!!!????…」
悟空の目にはマーリンの姿は消えたようにしか写らなかった。先ほどまで少女がいた場所が大きな砂煙を上げ、べこり、と陥没する瞬間を捉えた時、同時に体に強い衝撃を感じた。
「ぐっ……はあああぁぁぁぁッッ!!!」
悟空がたまらず叫んだ。消えたように見えたマーリンは目の前にいた。その小さな拳が自分のわき腹に突き刺さっている。みしり、と音を立てて。
「ぐ…くあぁぁっッ!!!」
痛みをこらえてマーリンに反撃する。焦りのためか、やや大振りなパンチをマーリンに向けて送り込む。
だが、少女はそのパンチをさらにかわすと、今度は回転しながらの肘を悟空の腹に潜り込むようにして叩き込む。
「~~~~~~ッ!!」
声にならないうめき声を上げつつ、よろよろと悟空が後ずさる。だがマーリンはいたって涼しい顔のまま、そんな悟空を見つめていた。
「…さすがにタフだな…。だがもういいだろう? さっさと超サイヤ人になるんだ。今のお前ではわたしには勝て…っ?!」
今度はマーリンが絶句する番だった。かなりのダメージを受けたはずなのに、それを意に介さないように再びマーリンに悟空が迫る。先ほどの攻撃を受けて、これほどすぐに反撃に出られるとは思ってもいなかったのだ。
「まだまだぁァァ……!!!!」
口から血を流し、それでも悟空の顔は笑っていた。何か鬼気迫るものを感じつつマーリンは悟空の放つ攻撃を易々とかわしていく。だが。
ぴッ…
「な…にッ…!?」
悟空のパンチがかすかにマーリンの頬を捉えた。掠っただけに過ぎなかったが、それでもマーリンは驚きを隠せない。そしてまた一つが掠る。今度は先ほどよりも深く。
「ば……バカな…ッ。こんな程度の攻撃が…完全にかわせないだと…ッ!?」
パワーやスピードが決定的に増したようではなかった。それなのに何故か避け切れない悟空の攻撃に、少女の表情にかすかに焦りの色が浮かぶ。
「ちぃっ……ッ!!」
一瞬攻撃がやんだ瞬間、マーリンが反撃に出る。受けに回るだけではまずい。劣勢を挽回しなければ。そんな思いで放った蹴りを悟空はたやすく避け、お返しとばかりに蹴りを打ち返してきた。
ガツッ!!
何とかガードが間に合ったものの、受けたマーリンの腕にびりびりと痛みが走る。いったい何が起きているのか理解できない少女の顔には、もはや焦りではなく、かすかな恐怖の色さえ浮かんでいた
「………っ……!!!」
「へへっ…だから言っただろ? 付け焼刃じゃオラには通じねぇって。…おめぇの動きはもう見切っちまったからな……!」