「…くくくくくっ……あはは……ははははっ……!!」
「………??……」
突如、大声で笑い声をあげ始めたマーリンに、思わず悟空は呆気に取られたような表情を浮かべる。
ちらりと一瞬、少女がそんな悟空を見やったが、なおも声を上げて笑い続ける。しかもどこか嘲笑めいた色を帯びた笑い声に、徐々に悟空の神経が苛立ち始めた。
「…何を笑ってやがる…。…さっきので頭でも打ったのか…?」
もしもヤムチャに聞こえていれば、「お前が言うんかーい!!」と突っ込まれるであろう発言だった。しかし一向に止まらない音に、悟空の眉間に寄せる皺がにわかに濃くなっていく。明らかに不快を感じている悟空に、さらにマーリンは無遠慮に嘲笑の声を浴びせ続ける。
「貴様…どういうつもりだ…。ふざけてい……」
「…ふざけてなどいないさ、ソン・ゴクウ。なに、伝説の超サイヤ人とやらの力がこんな程度だったとは……と思ってな。笑うな、と言う方が無理ではないかな? くっくっく………」
「なに……ぃ……?」
ぴしり、と今度は悟空のこめかみに血管が走る。たった今、その超サイヤ人に為すすべも無く倒し伏され、今もまだ足元がおぼつかないような者が、口にして許される言葉では到底ない。
しかし悟空の憤りなど意に介さないように、マーリンがさらに畳み掛ける。
「…ふっふっ……。確かになかなかのパンチだった…。が…、一撃でわたしを仕留められないようでは……ずいぶんと伝説とやらも誇張されたもののようだな…。…あぁ…それとも、お前が超サイヤ人にしては弱い方なのかな……?」
「…………ッッ……」
ひとつ、またひとつ悟空の額に血管が顕わになる。だがそれも当然の事と言えよう。宇宙の帝王であるフリーザとの死闘を制し、事実上、宇宙最強となった悟空をここまでコケにしたものなど居るはずが無いのだから。
…悟空の心に残されていた理性が、自制心が、少しづつ闇に溶けていく。
ズゴアァァァッッ!!!!
「う……ぉ……ぉっッ……!」
「………ッッ……!!」
悟空の身体から再び先ほど以上の金色のオーラが噴き上がる。離れた場所のピッコロたちですら恐怖を感じるほどの。
「…この期に及んでたいした減らず口だ…。…そいつもヤムチャから習ったのか?」
淡々とした口調で悟空が問う。しかしそこには、先ほどまでには無かった、かすかだが確かな殺気が込められていた。
「…ふっ…、これは生まれつきでね。それにヤムチャから学んだものは…こんな程度じゃない。すぐに判るさ…すぐにな……!!」
ズゥオゥッッッ!!!
マーリンの身体からも再び赤いオーラが巻き起こる。界王拳の理論限界点である10倍だ。
……戦力比は甘く見積もっても2倍以上。普通に考えれば到底まともにやりあえるレベルではない。
だがマーリンには勝算があった。そして漠然としていたその勝算は確信に変わろうとしていた。先ほどまでの太刀合わせと、今の悟空から感じられる気の性質に。
「いくぞっッッ!!!!」
一際大きく、激しくオーラをスパークさせるマーリン。だが、次の瞬間、少女は意外な行動に出た。
「はぁぁぁぁぁぁっッ!!!」
ズババババババッッ!!
「な……にっ……!!」
最大限にまで高めた気を、何を思ったのかマーリンは、そのまま周囲にめくら撃ちに放った。あっという間にクレーターの中が濛々たる砂塵に包まれ、一瞬困惑した悟空だったが、即座に意図を理解する。『目眩ましだ』と。
「…こんな小細工がオレに通用すると思ってるのか!!」
たとえ視界が失われたとしても、そもそも悟空ほどの武道家にとっては、さほどのマイナスにはなり得ない。それはさっきの戦いで証明済みである。
すかさず目を閉じ、悟空がマーリンの気を探る。しかし。
「……っ!? なんだっ……、気…気を感じねぇ…!!」
渦巻く砂塵の中で悟空が狼狽する。マーリンの気は、この場から完全に消え失せていた。
一瞬、少女が逃げたのか、とも思ったが、ここまでの戦いを顧みればそれはあり得ないとも。
「……く…、何だ……。……!!」
混乱する悟空だったが、さらに追い打ちをかけるような現象が起きた。消えたはずのマーリンの気を捉えたのだ。しかしそれは一瞬大きく膨れ上がったかと思うと、次の瞬間にはまた完全にゼロになった。しかも空中に現れたかと思えば地中からも。
一連のマーリンの行動が、悟空にはまるで意味も意図も掴めなかった。
「ちぃッ…!! ………ッッ!!」
ボッ…!!
とっさに感知したところへ気功波を放つ。しかしまるで手応えなど無い。何発かを放ったところで、ただ砂塵を余計にかき混ぜるだけに過ぎないことを悟空が悟る。
そして同時に、これが決して楽観視できるものではないことも悟空は理解した。砂塵で視界を奪われ、さらに気でも捉えにくいこの状況はつまり、悟空にはマーリンの位置は判らないが、マーリンからは悟空は丸見えである事を余儀なくされる状況を作られたのだ。
「……ち…っ、考えやがったな。だが……!」
それならば自分自身も、と考えた瞬間、悟空は意外な、しかし衝撃的な事実に気が付いた。
「まずい…。このままじゃ…オレは気が消せない……!」
そう、超サイヤ人となった悟空は、その桁外れな戦闘力を完全にコントロールする事ができないのだ。気を最大限に抑えれば、それは自動的に超サイヤ人の状態を解除する事になる。そんな状態を狙われれば、いかに悟空といえどひとたまりもない。
「く……っっ……」
そう焦る悟空に、さらなる驚きが畳み掛ける。
「………っ?! なに……何だ……?」
いつの間にか、自分の周囲から感じられる気が増えていることに悟空が気づいた。移動しながら時折大きくなるマーリンの気が、そのままそこへ残像のように置かれたまま次の場所に移動しているのだ。そしてその度に置き去られた残像が増殖していく。
「くっ…なんだ…。…どういう事だ……っ」
訳の判らない状況に悟空が動揺する。そしてそんな悟空に、今まで置き去りにされていたマーリンの残像…幻影たちが…、一気に動き出した。