Saiyan killer   作:北江

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66話、妙技

「ぎ……ッ…! く…くそっ……!!」

 思わずマーリンの口から呪詛の言葉が漏れる。悟空にがっちりと万力のようにヒザを掴まれ、完全に動きを封じられてしまったのだ。

 

「さて…それじゃ今度はオレの番だな…。お返しはきっちりさせてもらう…!」

 そう言って悟空が、ぎゅぎゅ…ッと音が鳴るほどに拳を握りこむと、腕ごと大きくマーリンの頭上に振りかざした。瞬間、さっ、と少女の顔に恐怖の色が走る。こんな状態でまともにパンチをもらえば…。

 

「………ッッ!!」

 とっさにマーリンの指が空中で踊る。まるで見えない楽器を操るがごとき優美な仕草だが、それに反応したのは架空のピアノでもオルガンでもなく、数多の気弾だった。

 

 ヴァウゥゥッッッ!! ヴォッ!!

 

 マーリンの指使いに従って、間髪をいれずに次々と気弾が悟空めがけて飛んでいく。

 

「…ちっ!!」

「………ッッ! やった……!」

 やむを得ず悟空がマーリンから手を離し、襲い掛かる気弾をとっさに両手でガードした。すかさず少女は後ろに飛び、悟空から距離を置いた。着地した際に、ずきんと右ヒザに痛みが走ったが、壊れた訳では無さそうだとすぐに認識する。

 まだだ、まだいける…。マーリンはそう自分に言い聞かせて、さらに操る指に力を込める。

 

 だが状況は決して楽観できるものではなかった。確実にさっきまでの攻撃で、悟空のパワーは消耗し、低下してきているが、それでもまだマーリンとの差は絶望的なままなのだ。しかもこの繰気弾もすでに見切られ始めているのだ。

 

「…さっきも言ったが…もうこの程度の技はオレには通用しない…!」

「く………っっ……」

 その言葉を裏付けるように、すでにガードするまでもなく、悟空は悠々と気弾たちを避け続けていた。ようやく現状を悟ったのか、ついにマーリンが気弾たちを全て自分の周囲に戻す。

 

「…やっと判ったみたいだな…。数が少々増えた所で、所詮はヤムチャの技…。くだらん技だ…!!」

 吐き捨てるように、そう悟空が辛辣な評価を少女にぶつける。

 

「へっ…言ってくれるじゃねぇか…悟空のヤツ。その割には結構苦戦してたくせによ…」

 

 耳ざとくそれを聞きつけ毒づくヤムチャだったが、内心はやっぱりショックだったらしい。見物している3人の間に微妙な空気が流れる……。

「い…いえ…、すごい技だと思いますよ! ヤムチャさん…! ボクは見るのは初めてだったですし……」

 

 だが、その空気を妙に敏感に捉えた悟飯がとっさにフォローに入る。これまであまり絡みはなかったが、さっき『学者に向いている』とヤムチャに褒められたのが、意外にも嬉しかったらしい。

 

 その悟飯の言葉に何やら苦い顔のまま、一応ピッコロも賛同する。

「…ふん。…まぁヤツが言うほど下らなくはないな。以前の武道会で見たものより、はるかに洗練はされているようだ。…あれも貴様が教えたのか」

 ようやく攻勢に出だした悟空の様子を見てか、さっきまでの焦燥感は消え、ピッコロと悟飯は落ち着きと余裕を取り戻したようだった。

 

「え……? ……そ…そう? やっぱすごい? へへへ…」

 そして、思っても見なかった二人からの賞賛の声に、思わずヤムチャの顔がにやけるのだった…。

 

「…ピッコロは知ってると思うけどさ、元々の繰気弾は一発だけだったんだ。しかもコントロールには右手を丸々使わなくちゃいけなかったし、それに気を取られて武道会では間抜けな負け方をしちまった訳だけど…、あれからこつこつと改良に取り組んでたと言う訳さ」

「…すごい…! すごいですよヤムチャさん!!」

「……………」

 

 突然、聞かれてもいないのに、突然ヤムチャは解説を始めた。割と真剣な態度でヤムチャのご高説を聞く悟飯と、うざそうにしているピッコロだったが、ヤムチャはマイペースで説明を続ける。そして一瞬気を入れたかと思うと、以前とは比較にならない速度で気の塊を5つ、一気に掌から練成してみせた。

 

「…それがこれ。『繰気連弾』だ。コントロールには指先だけを使うから、今までみたいな隙は少なくなってる」

「……ほぅ……」

 そう言ってヤムチャがくいくいっと指を動かすと、気弾が呼応して空中を自在に飛び回った。技の実演を目にして、ようやくピッコロも少し関心を示す。

 

「なるほどな…それで地中に潜って気配を消し、地上の孫を気だけで捉えて、両指のコントロールの限界である10個の気弾を、同時に操作していたと言う訳か…」

「ああ、実を言えば俺には10個同時に操るなんてのは無理なんだけど、あいつはそれをやってのけた。たいしたもんだろ?」

 

 自分の事では無いのに、どこか誇らしげにヤムチャが語る。

「それに…まだまだこんなもんじゃないぜ…? あいつと俺が磨き上げた究極の繰気弾は…。へへっ…まぁ期待して見ててくれよ」

 

 ヤムチャが先ほど出した気弾たちを消しながら、真剣な眼差しを再びマーリンに戻す。

 

『…そうだ…見せてやってくれ…。おまえの…そして俺たち二人の力を!』

 

 

 

 

 そして舞台は再び、悟空とマーリンのいるクレーターへと戻る。

 

 

「今……くだらん技だと言ったか? この繰気弾を…」

「ああ…さっきまでならともかく、お前が姿を見せた今、そいつはハッタリ以下の技に過ぎん。こんなものは無視して、お前自身を攻撃すれば良いだけなんだからな……」

「…………」

 

 確かにそれでヤムチャは天下一武道会でシェン…神様に敗北した。術者が気弾の制御に掛かりきりになるのが繰気弾最大の弱点であり、当然それは舞台の袖で見ていた悟空も良く知っている。ましてや10個の気弾の同時制御など、よほどの集中力が無ければ不可能である。技を発動させたが最後、術者が完全に無防備になる事は、悟空にも容易に想像できた。

 

「ふっふっ……なるほど…。しかし…果たしてどうかな…?」

 悟空の繰気弾に対する辛辣な評価など気にする風でもなく、マーリンが余裕とも取れる微笑を浮かべる。それはその評価が誤っているからなのか、それとも絶対的な自信によるものなのか。

 

「…言っても判らねぇみたいだな…。だったらはっきり教えてやる…!!」

 

 ダァッッンンンッッッ!!!

 

 言うが速いか、悟空が恐るべきスピードでマーリンに突撃した。その全身に凶悪なまでのオーラをまとって。だが。

 

 

 

『……見える…!』

 感じることさえ叶わなかった最初の一撃とは違って、マーリンが超サイヤ人の動きを捉えた。

 悟空のパワーが低下したせいか、あるいは地中で息を潜めてずっと悟空の気を捉え続けたせいで、より正確に気を読めるようになったのか、あるいはその両方なのか。

 ともかくすかさず繰気弾で迎撃体勢を取り、命令を受けた無数の気弾が迫る悟空に降り注いだ。

 

「うりゃりゃりゃりゃーーーーーーッッ!!」

 しかし、それらの気弾をことごとく悟空が避け、あるいは弾き返す。殴りつけられ、木っ端微塵に破裂する気弾すらあった。そしてついにマーリンの眼前にまで迫る。

 最後の繰気弾をかわしつつ、悟空が少女の顔面に回し蹴りを放つ。それは完全に不可避のタイミングの攻撃に思われた。

 

 

 

 

 ガギイィィッッッ!!

 

 壮絶な打撃音が、またも荒野に響いた。勝利を確信し、悟空の口元が軽く歪んだが、次の瞬間、その表情が一変する。

 

 ギッ……ギギッ…

 

 …悟空の放った蹴りは、マーリンの顔面を捉えてなどいなかった。少女の細い腕によって、それは呆気なく阻まれていた。

 

「な…バカな……っ」

「……そんな腰の入っていない蹴りなど…いくら貴様が超サイヤ人であっても、受けるぐらいは出来るさ…」

 

 少女の言葉に、違う。そんな事を言っているのではないと、思わず悟空が言いかけた。

 確かに繰気弾をかわしつつ放った蹴りは、充分な威力とは言い難いものだった。だが、この状況はそれ以前の問題だ。なぜ気弾を操りながらガードが出来たのか、だ。

 

 とっさに悟空はガードされたマーリンの腕を凝視した。そして見た。少女の指がいまだかすかに動いている事を。

 

「チィっっ!!」

 あわてて飛び退き、マーリンから距離を取る。次の瞬間、さっきまで自分が居た場所に、凄まじい速度で気弾が通過していった。

 

「な…んだ……?」

 まぐれか? と一瞬悟空は思った。しかし目の前でゆっくりと構え始めたマーリンの様を見て、その己れの考えが間違いだったと直感する。

 …突き出された腕から見えるのは、まるで肉食獣の鋭い牙に見立てたように指を開く独特の拳。見覚えのあるようでいて、どこか違うその構えを少女が取っていた。

 

「…では見せてやろう…。…繰気弾、二之牙…『狼牙繰気拳』を…!!!」

 

 




ちなみにですが、ピッコロが対17号戦で使った「魔空包囲弾」は、この時の繰気連弾を参考にして開発したのかもしれないと、こっそり妄想しております。一つ一つの気弾を個別にコントロールはせずに、敵のいる一点に向けてまとめてぶつけることで精神的な疲労やリソースを軽減しているのでは、と。
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