Saiyan killer   作:北江

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71話、剛拳

 

『…なぁヤムチャ。この技…、名前はどうする?』

『この技…ねぇ。まぁそう言うことにしておくけど……』

『むっ……、どういう意味だそれは』

 

『そんな不安定で、しかも1分も持たないようなのが「技」と言えるかよ……。だいたい、そんなもん使わなくても、繰気弾シリーズと界王拳で勝てるさ』

『それは…確かにそうかもしれないが、以前おまえが言っていたように、わたしも念には念を、と言いたいのさ』

 

『…ったく。そう言われちゃ仕方ねぇなぁ…。じゃあ…スーパー界王拳…ってのはどうだ?』

『…安直すぎるだろう! もう少し真面目に考えろ…!!』

 

『まぁ…確かに。それにこいつは界王拳とは似て非なるものだしな。界王様から直接教えてもらった訳でもないし、界王拳を名乗るのも…違う気はするな』

『ふむ……、では…どうする?』

 

『じゃあ……「海皇拳」ってのはどうだ?!』

『カイオウケン…だと? 何も変わってないじゃないか! ふざけて…』

『ままま、待て待て! 音は一緒だけど、意味が違う! 海皇ってのは海の王って意味だ。お前の星の…惑星マリーンは、この地球みたいに綺麗な水の星だったんだろ?』

『あぁ…。わたし自身は見たことはないが、母さまが…母がよくそう言っていた』

 

『だったらさ、その星のお姫様だったお前が使うには、もってこいの名前じゃないか?』

『ふむ……。しかしわたしは…今さら王位や王家のことなど、別にどうでもいいのだが…』

『……本当か? 本当に…そうか…?』

 

『あぁ。今のわたしはただのマーリンだ。もちろん、母の…王家としての責任と、父の……サイヤ人としての罪滅ぼしとして、散り散りになった同胞を救いたいぐらいは思っているが…』

『…だったら充分さ。おまえには名乗る資格がある…ってか、そう言う事ならむしろ名乗るべきだと思うぜ?』

『……どういう…意味だ?』

 

『さぁてな……。そいつは戦いの中で自分で見つけてみせな』

『………? …………??…』

 

 

 …ふと、マーリンがあの部屋を出る少し前にあった、ヤムチャとのやり取りを思い出す。ヤムチャの言葉の意味は結局分からずじまいだった。なぜこんな事を急に思い出したのかも少女は判らなかった。

 しかし、限界を超えた力を絞り出す自分を支えているのは、もしかしたらこの名なのかもしれない。そう頭の片隅で、ふいにマーリンは思った。そしてさらに残されたすべての力を絞り出す。

 

 ズゥア……ッゴゴゴゴゴゴゴ………!!!

 

 それは冷たい炎と形容するしかない、不思議なオーラだった。熱など感じさせず、それでいて温度は赤く燃え盛る火などとは比べ物にならない熱量の炎。燃焼の極限とも言える、バーナーを思わせる蒼い海皇拳のオーラをまといながら、マーリンが一直線に悟空に迫る。

 

 ヴォウッッッ!!!

 

 少女の拳が唸る。とっさにそれをガードしたものの、受けた瞬間、悟空の表情が一変する。

 

 ミシィ……ッッ!!

 

『な……なんて重い…パンチだ……ッッ…!!!』

 マーリンの体格からは想像もできない重い重い拳。それがガードした悟空の腕に、くっきりとした跡を残す。

 

 ブ……ンッッ!!

 

「ぐぅ……ぅッっ!!」

 さらにもう一撃。再び悟空の腕に衝撃が走る。骨の髄にまで響くその威力に、悟空が混乱する。

 そしてさらに一撃が放たれる。だが今度はそれを悟空は上空に飛んで避けてみせる。狙いは……空振りの後の一瞬だ。

 

 ブゥゥンンンッッ!!!

 

「ちぃ……ッ! はッッ!!」

 案の定、大きな空振りの後にマーリンがバランスを崩す。そこへ今度は悟空の気功波が放たれた。

 

 ヴァッッッ!!!

 

 それはたいした威力を込めたものではなかったが、同時に回避できるようなものでもなかった。だが、それはそもそもマーリンの動きを止め、その後に機先を制するためのつなぎだったのだ。だからガードさせられればそれで良かった。悟空はそのつもりだった。しかし。

 

「うぉぁあああああああッッ!!!」

 

 その気功波を少女は…崩れた体勢のままで跳ね返した。そしてお返しと言わんばかりに、体勢を崩すであろうと予測し、それに対する攻撃の態勢に入ろうとしていた空中の悟空に、連射で気功波を放つ。

 

「くっ……!! やばい……ッッッ!!??」

 何とか初弾をギリギリでかわし、すかさず瞬間移動で地上のマーリンの背後に移動する。マーリンも気がついたものの、さすがにどうしようもなかった。

 

 ドギャアッッッ!!!!

 

 超サイヤ人の剛拳をしたたかに食らい、マーリンの身体が大きくぐらりと揺れる。

 

 …ようやく終わった。そう思った瞬間、拳から伝わってきた感触に悟空が愕然とする。

 マーリンが揺れたのは一瞬だけだった。今の一撃はダウン必至で、悪くすれば殺していたほどの威力を込めていたのだ。

 しかしそれを少女は耐えた。その事実にこそ、悟空は愕然としていた。

 

「……っはぁぁぁッッ!!!」

「くっ…! …ちぃ…ッィィっっ……!!!」

 

 そして間を置かずにマーリンが反撃に出た。どれもこれも、これまでとは全く正反対な、大振りな雑なパンチだったが、その一撃一撃が、直撃すれば今の自分であっても危険なレベルであることを悟空は直感する。

 

『こ…いつのパワーは本物だ…ッ!! 今のオレ並みか…それ以上…!!』

 まだこれほどの力を隠していたのか、と驚嘆すると同時に、悟空からはさっきまでの心理的な優位はあっけなく霧散していた。あまりに信じがたいマーリンの拳の威力、勢いに、飲み込まれそうな自分を繋ぎ止めるのに、悟空は必死だった。

 

 もはや状況は振り出しに、まったくの五分にまでなっていた……。

 

 

「……うぉぉぉおおおりゃあああッッッ!!!!!」

「てぃりゃあああああああーーーーーーッッ!!」

 

 …紛れも無く、宇宙で最強の力同士がぶつかりあっていた。伝説の超サイヤ人の力と、ひたすらに練り上げた珠玉の力が。それはまるでお互いにぶつかりあう事で、さらに強く結びつこうとする何かの意思すら感じさせた。

 

「おおおおおぉぉっ!!」

「はぁあああああぁぁっっ!!」

 クレーターの中央…と言っても、すでにそれは崩れて形を成してはいないのだが、かつてクレーターであった場所、その中央の位置からは離れた場所で、死闘は続いていた。

 

 それはまさに死闘と呼ぶにふさわしい、極限の戦いだった。もはや悟空も、そしマーリンさえも、それまで見せていた技術、技巧など関係ないとばかりに、ただただ持てる力を振り絞る。

 

 ズガァッ!! ドズゥッ!! ベギャッッ!!!

 

 吹き荒れるその拳のひとつひとつさえが、一撃で星をも砕くエネルギーを秘めている。それらをまるでキャッチボールのようにやり取りする二人。想像を絶するレベルの戦いに、呼吸する事も忘れたように、ヤムチャたちはただ見入っていた。

 

「…っりゃああッッ!!」

「っが……ッッぁ!!! っぎ……ぃっ!!」

 

 マーリンのボディフックが悟空のわき腹に突き刺さる。身体をくの字に曲げて、その顔に苦痛の色が浮かぶ。だが、歯を食いしばってすかさず反撃に移る。己にほぼ密着した形のマーリンの、その隙だらけの頭が誘うように揺れる。かすかに迷いながらも、そこを目掛けて悟空が拳を振るった。

 

 メギャッッ!!

 

 まるで避ける素振りも見せないマーリンの顔面を、易々とそれは捉えた。今度こそ確かな感触をその拳から受け取った悟空だったが、意に介した様子も無く、マーリンがさらに悟空のボディを激しく穿つ。

「ぐ…くっ…!! な……ばかなッ……!!」

 

 執拗なマーリンのボディ攻撃が続く。右へ左へ、悟空の腹に容赦なくパンチが叩き込まれる。浴び続けたパンチが横隔膜を痙攣させ、呼吸困難すら引き起こしかけていた。悟空の表情が苦痛から苦悶へと変化していく。

 

「くっ…そぉぉっッ!!」

 

 

「……ッ!!!」

 

 ブゥゥゥッッッンン!!

 

 マーリンの拳が空を切った。狙いを違えた訳ではない。しかし、悟空の姿はもうそこには……無かった。

 

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