Saiyan killer   作:北江

76 / 79
75話、神意

「……本当に……勝った……? わたしが…ソン・ゴクウに……?」

「そうさ。立派な勝利だった。もっとも、おまえも突っ立ったまま気を失ってたけどな…。でも悔しそうだったぜ? 悟空のやつ! あははははっ!!」

 

「…………」

 少女にはにわかには信じられなかったが、言われてみれば確かに、拳には最後のパンチの感触がかすかに残っていた。そして同時に途切れていた記憶が蘇る。あの最後に、半ばヤケクソで放ったパンチのことを。それがどうやってかは判らないが当たったらしい、とマーリンは知った。そして、それがたとえ偶然や手違いによるものだったとしても、運も実力の内と常々考えているマーリンには、紛う事なき勝利に違いなかった。

 …少しづつ、少しづつ勝利の喜びが少女の身体を満たしていく。しかし同時に、まったくの相反する感情にもマーリンは襲われていた。

 

「……ふぅ……ぅっ……」

 勝利の喜び、目的を果たした達成感、すべてを終えたあとの開放感と、しかしすべてを終えてしまったという寂寥感を覚えながら、やや辛そうにしてマーリンがようやく立ち上がった。

 そう、これで少女には、もはや地球に居る意味も理由も無くなったのだ。

 

「…悪いな…。もう仙豆は無いんだ……」

 マーリンの辛そうな表情をそう解釈して、すまなさそうにヤムチャが詫びる。実際、あれほどの激闘の後である。少し寝ていた程度で回復するはずなどなかった。だが。

 

「…仙豆なら、あるぞ」

 

 

 突然響いた声に、とっさに緊張が走った二人だったが、静かに近づいてくる気には覚えがあった。そしてすぐに見えてきた姿に、ヤムチャたちがほっと安堵した。

 

「…なんだ…。神様とミスター・ポポか…。どうしたんです? 急に…」

 ふわふわと絨毯に乗って舞い降りてくる神様とその付き人に、ほっとしながらヤムチャが声を掛ける。

 

「ふっふっ……驚かせたようだな。だが許せ。この仙豆に免じてな……」

「え!? で…でもそれは無理って話だったんじゃ……」

 そう言いながらヤムチャに向けて、神様が何かを投げてよこした。予想外の申し出に喜びを隠せないヤムチャだったが、しかし受け取った手のひらの中のモノを見て、思わず呆気に取られた。

「…は…? こ…これ……?」

 

 …それは仙豆とは名ばかりの、小さな「かつて仙豆だったもの」の欠片だった。

 

 

「…そんな顔をするでない。私にも立場と言うものがあるのでな……」

 苦笑いをしながら神様も地面に降り立つ。そして改めて仙豆の欠片を飲むように促す。半信半疑のまま、それをマーリンの口に含ませるヤムチャだったが、欠片とはいえさすがは仙豆だった。みるみる内に傷がふさがっていく。もっとも、体力まで完全には回復はしなかったが。

 

「…すべて見させてもらっておったよ。見事な戦いだった…。…これは私からのせめてものプレゼントだ。最後まで望みを捨てず、勝利を掴んだ真の戦士へのな……」

 しわに覆われた顔からはよく判らないが、神様は笑みを浮かべているようだった。

 

「実に…素晴らしい戦いだった…。…正直なところ、お主が勝つ見込みは一割も無いと思っておった。だが、お主はその予想を見事にくつがえした…。本当に……大した娘だ…お主は」

 そう目を細めて神様がマーリンを称賛する。だが。

 

「………どうしてだ……?」

「…んん……?」

 

「…わたしには理解できない。ソン・ゴクウはあなたの弟子なのだろう? そして今はこの星の守護者でもある。しかも自分の予想が外れてなお、何故わたしの勝利を祝ってくれる……?」

「………っ……」

 自分を賞賛する神様に、思わず浮かんだ疑問をマーリンが率直に口にする。そして、突然投げ掛けられた問い掛けに一瞬言葉を失った神様だったが、再び破顔すると大きく声を上げて笑い始めた。

 

「………?…」

「…ふはっはっはっ…。……そうだな……。ま、いずれ判るだろう…いずれな…」

「「…………?? ……???」」

 

 神様の謎めいた言葉に、狐につままれたようにぽかんとするヤムチャたちだったが、所詮神ならぬ身には判るはずも無いと、二人は早々に考えるのを諦めたのだった。

 

 そして。

 

 

 …ピピピピッ! ピピピピッ!

 

 決戦直前にマーリンがヤムチャに託したスカウターが、突如鳴り始めた。

 

 

 ヤムチャから手渡されたスカウターを受け取り、どこかぎこちなくマーリンがそれを耳に装着する。静かに少女の指がスカウターの通話ボタンを押すと、例のノイズまみれの切羽詰った声が、その場の全員の耳に飛び込んできた。

 しかしあくまで冷静に、マーリンが向こうの近況を尋ね、いくつか言葉を交わす。そして。

 

『…ああ、問題はクリアした。これからすぐにそちらに向かう。それまで何とか持ちこたえておいてくれ』

『……○▲☓……!! □●◎○……!!!』

 かすかに漏れ聞こえた音声からは、言葉は判らなくとも歓喜に溢れている風にヤムチャにも感じ取れた。

 

 

「…宇宙へ…戻るか………」

「ああ…。この地球での…わたしの戦いは終わった。なら、また新しい戦いへ赴くだけだ。わたしは…戦士なのだから……」

 神様の問い掛けに明確に答えるマーリン。ただ、その表情は言葉ほどは明確ではなかった。

 

「…では、服は元に戻すとしよう…。そのままでは不便であろうからな」

 そう言うと神様の指が光を放った。一瞬の後、マーリンの身体は最初と同じ戦闘服をまとっていた。

 

「何から何まで…あなたにも世話になったな……」

 相変わらずの、魔法のごとき信じがたい力に苦笑しながら、マーリンがそう神様にそう謝辞を述べる。そして、ふと見ればミスターポポが傍に立っていることに少女が気づいた。その手につい先ほどまで自分の着ていた道着を持って。

 

「え…、…こ…これは…、くれるのか……?」

「…………」

 相変わらず読みにくい顔のポポだったが、どことなく別れを惜しむような表情にも感じられる。無言のまま頷くポポの差し出す道着を受け取り、マーリンが改めて二人に礼を述べた。そして、少しだけいたずらっぽい笑みを少女が浮かべた。

「……ここまでされては、わたしも何もしないという訳にはいかないな……。ぱふぱふとやら…してやってもいいぞ?」

 

 まさかの、驚くべき提案をマーリンが口にした。だが。

「ポポ、今日は止めておくと言った。だからまた今度でいい。…いつでもいい。絶対にまた地球に来い。その時まで取っておく」

 にこりともせずに、ポポがそう言い放った。感情を感じさせない口調だったが、その声色には明らかな優しさが含まれていた。

 

「………ッッ……!」

 思わず下を向き、こみ上げてきた何かを必死にこらえるマーリンの肩に、そっとヤムチャの手が乗せられる。

「…そろそろ行こう。もう時間が無いんだろ……?」

「………っ…」

 その言葉にマーリンがはっと我に返る。わずかな間の後、もう一度だけ神様とポポに礼をし、少女がふわりとヤムチャと共に空へと舞い上がった。そして、ゆっくりとこの場を後にした。何度も何度も二人の方を振り返りながら。

 

 

「…あの娘は…勝ったのだな…。ふたつの血と……宿命に……」

 一方、飛び去っていくマーリンを見上げながら、ぽつりと神様がつぶやいた。

 

「……? 神様…?」

「私も……いや、私たちもいつか…、…それを受け入れねばならん…。なぁ…ピッコロよ……」

 誰に聞かせる訳でもなく、そう神様が一人ごちる。だが自分と同じくこの戦いを見届けたもう一つの半神にも、想いは届いていると信じたかった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。