悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
『さあ、フットボールフロンティア予選二回戦の開始ですッ!』
実況の声をスイッチに、観客たちが盛り上がりの声をあげる。
ちなみに実況とは言っているけど、たかが地区大会の二回戦でそんな大層なものがつくわけがない。では誰がやっているのかというと、尾刈斗のときも実況をしていた雷門の角馬君だ。
野生のときも来てたらしいし、とんでもない熱意だ。ある意味尊敬しちゃう。
私は鬼道君といっしょに御影専農対雷門の試合を見に来ていた。
ちょうど休日と試合が奇跡的にかぶってくれたのである。
神様にはホント、マジで感謝! だね。
「シミュレーション通りなら御影専農が勝つだろうけど……どう思う?」
「さあな。だが面白い情報が入って来たのは目にしてるだろう?」
「イナビカリ修練場だったっけ。明確な情報は来てないけど、イナズマイレブンが使用した特訓場らしいね」
私たちが以前御影専農を訪れた次の日に、稲妻町の河川敷で雷門との決闘があったらしい。
結果は御影専農の圧勝。
下鶴が円堂君からゴールを奪い、杉森が豪炎寺君のシュートを見事止めてみせたという。
そのときのままなら敗北は必然。
でも円堂君たちが進化していないわけがない。
どんなプレイが見られるのかワクワクしてると、キックオフの笛が鳴った。
ボールは雷門から。染岡が豪炎寺君と並行して御影陣地に攻め上がっていく。
それに対して御影のフォワードたちは動く様子を見せなかった。
『ディフェンスフォーメーション、ガンマ3!』
御影の監督である富山の声が、左耳につけたイヤフォンから聞こえてくる。
彼のネットワークは選手たちのみならず、私のスマホや帝国学園にいる総帥のパソコンにまで繋がっている。
これにより瞬時に指示を送ることが可能となっているのだ。
染岡からのパスを豪炎寺君が受け取る。
しかし彼の目の前にはミッドフィルダーを含め大量の選手たちが立ち塞がっていた。
まずは一番攻撃力の高い豪炎寺君から封じるつもりか。
でもそんなにマークをつけたら当然染岡がフリーとなる。
彼はボールを受け取った後、右足を振り上げた。
「ドラゴン……クラッシュッ!」
染岡の必殺シュートが放たれる。
しかしそのシュートコースにはいつのまにか四人の御影の選手たちが立ち塞がっていた。
彼らはドラゴンクラッシュにそれぞれ一回ずつ蹴りを入れ、威力を減少させる。
キーパーの元に届いたときにはそれはすでにシュートじゃなくなっていた。
あっさりと杉森がボールをキャッチする。
『すごいぞキーパー杉森! 的確な指示によって、開始早々のピンチを防いだァ!』
「……いや、すごいのは杉森だけではない」
「指示を寸分違わずに実行する選手たちもハイレベル、か……」
データを基にした正確な動き。
まさにサッカーサイボーグだ。
杉森から投げられたボールは前線へ。次の指示が彼の口から飛び出す。
「オフェンスフォーメーション、ベータ2スタンバイ!」
まるで変形ロボットのように御影のフォーメーションが一瞬で組み変わる。
だけど雷門ディフェンスも負けていない。
俊足を生かして飛び出した風丸がスライディングをしかけ、御影フォワードからボールを奪った。
その走りはデータ上で見たときよりも明らかに速くなっている。
だからこそ、精密機械の計算を狂わすことができたのだろう。
残念ながらボールは再び御影に奪われてしまったけど、データを超えた彼らなら……。
『ああ、逆サイドに山岸が走り込んでいる!?』
「ふっ!」
「させるかぁ!」
雷門ディフェンスの裏をかいて、フリーとなった山岸がバーとポストの間という、非常にいやらしい角度へシュートを放つ。
円堂君はとっさに飛び込んでそれをキャッチしてみせた。
今のもそうだ。
シミュレーションならこの時点で点が決まっていた。
なのに円堂君は予想以上の身体能力を見せて得点を防いでいる。
イナビカリ修練場の成果が明らかに出ている。
「ファイアトルネード!」
ゴールから繋がれたボールがとうとう豪炎寺君まで届いた。
炎を纏ったボールが御影ゴールに迫る。
「シュートポケット!」
ゴール前に空気の壁が展開。しかしボールは勢いをかなり殺されながらもそれを突破し、杉森に直接ぶつかって弾かれた。
こぼれ玉を染岡が拾う。
「まだだっ! ドラゴン——」
「——トルネードッ!!」
「っ、シュートポケットォッ!!」
赤竜がボールと一緒に突撃し、空気の壁を食い破る。
杉森はなんとか両手を伸ばしてキャッチしようとするが、勢いを止めきれず、天高くボールが弾かれる。
「豪炎寺さん!」
状況を察した壁山がペナルティエリアまで上がってきていた。
この二人の技と言ったら一つしかない。
壁山は仰向けになりながらもジャンプ。
それを台にして豪炎寺君は高く跳び上がり、空中に浮かぶボールにオーバーヘッドキックを叩き込む。
『イナズマ落とし!』
「ロケット拳!」
落雷のように落ちてくるシュートに対して杉森が出したのは、気力で形作られた右腕だった。
撃ち出されたそれはボールを押し出し、前線へクリアしてしまう。
御影のカウンター。
ディフェンスの主力である壁山がいないため、マークが間に合わず、再びフォワードの山岸がフリーとなった。
円堂君は先駆けて跳び上がり、シュートを止めようとする。
しかし山岸がしたのはパス。
その先には壁山がいない分フリーとなっていた下鶴がいた。
ダイレクトでシュートが繰り出される。
「っ、熱血パンチ!」
気合いのこもった拳が打ち付けられ、ボールが弾かれた。
でもその先には先ほどパスを出した山岸が。
見事なダイビングヘッドが決まり、円堂君の横をすり抜けてボールがゴールに入ってしまった。
「先制点は御影か……。雷門の動きは決して悪くはなかった。ただ杉森の守りが予想以上に固かった」
「うん。全国にいても違和感ないレベルのキーパーだよ、あれは」
まさか雷門のシュート技を全部連続で止めてみせるとは。
それにフォワードの連携も抜群に上手い。
御影専農、データデータ言ってて軽く見てたけど、普通に試合しても強いぞここは。
「それにしても、イナズマ落としが止められたのは痛かったな。現状の必殺技では力押しは不可能。ということは、どうやって杉森の意識をズレさせるかがこの試合の鍵になる、か……」
「いや、たぶんそんなまともな試合展開にはならないんじゃないかな」
「なんだと……?」
あ、ほら。
御影はボールを奪った途端にバックパスをし、攻めもせずにボールをひたすら回し始めた。
さすがは汚さに定評のある総帥支配下のチーム。
彼らはこうやって残り時間を潰して勝利するつもりなのだろう。
ゲロ臭いサッカーだ。
そうこうしているうちに前半が終わってしまった。
観客席は最初の盛り上がりはどこへやら、すっかり冷めてしまっている。中には御影のプレイにドン引きして帰り始める人たちまでいた。
「ったく、吐き気がするようなサッカーだぜ」
静まり返った観客席に、その言葉はよく響いた。
どこかで聞いたことある声だと思い視線を向けると、雷雷軒にいた新聞おじさんが立っているのが見えた。
げっ、警察だ……! あまり視界に入らないようにしとこ。
さりげなく立ち位置を変えていると、後半戦が始まった。
とは言っても特に変わったことは起きなかった。
御影は全員がハーフラインから下がっており、守備に徹している。
けど前半とは違うようで、根性で食らいついた豪炎寺君がボールをなんとか奪ってみせた。
そのままゴールまで駆け上がっていく。
でも御影のラフなスライディングが入り、豪炎寺君は倒れてしまった。
審判が駆け寄り、イエローカードを見せつける。
「フリーキックか……流れが雷門に来たかもしれないな」
「いや、これも作戦でしょうね。フリーキックの方が止めやすいって思ってるんだよ」
「なんだと? 総帥はどこまでサッカーを……!」
どこまでサッカーを侮辱しているんだ。
そう言いたそうにしてるのが丸わかりだ。握り拳を作り、怒りに震えながら御影の選手たちを睨みつけている。
あーあ、最近は総帥の活動も派手になって来たからなぁ。
不信感持たれちゃってるよ。
私はあえて何も言わなかった。
たしかに私もこんなサッカーは嫌いだ。
でもさっきの豪炎寺君みたいに突破することは不可能じゃない。
つまり、悪いのは敵じゃなくて、ボールを奪うほどの実力がない雷門なんだ。
御影のペナルティエリアから少し離れた箇所にボールが置かれる。
幸いというか、角度と距離は悪くはない。
でも問題はどうやってゴール前に立ちはだかる御影ディフェンスの壁と杉森を打ち破るかだ。
ボールの前に豪炎寺君と染岡が立つ。
どっちがボールを蹴るのか。
「普通は豪炎寺だろうな」
「でも普通じゃこの局面は突破できそうにない。てことで私は染岡君が蹴ると予想」
ホイッスルが鳴った。
染岡君が走り込み、右足を振るう。しかし彼が蹴ったのはボールではなく土だった。
てことは、蹴るのは豪炎寺君か!
『ハハハッ! 全部予測済みだ!』
富山のうるさい笑い声が耳に響いてくる。
まずい、このままじゃ止められる。
そんな思いも虚しく、彼は全力で蹴り出した——土を。
「へっ?」
「なんだと……?」
『なにィィィ!?』
豪炎寺君もまさかの空振り。
じゃあ、いったい誰が蹴るっていうの……?
その答えは、雷門ゴールから近づいてくる、地響きのような音ですぐにわかった。
「え、円堂が来ただとォォ!?」
そう、円堂君だ。
ガラ空きになったゴールを放っておいて、円堂君が走り込んで来ていた。
ここで始めて杉森が動揺の声をあげた。
「バカな、キーパーが蹴るだと!? 確率的にありえない!」
「たとえ確率が0%だったとしても、やってみなきゃわからない! ——それがサッカーだっ!」
振り上げられた円堂君の右足に青いオーラが集中していく。
これは……必殺技!?
「グレネードショットォッ!!」
弓引くように放たれた青い弾丸は、御影ディフェンスの股をすり抜けて杉森へと迫る。
「シュートポケットッ!」
本日三度目の空気の壁が展開。
しかし完全には間に合わず、ボールは上へ弾かれてしまった。
「ここだ! 決めるぞ、豪炎寺!」
「おうっ、円堂!」
二人はボールの落下地点めがけて同時に走り込み、同時に蹴り出した。
バリバリというスパーク音とともにボールが稲妻を纏い、閃光のように発射される。
「ロケット拳ィッ!!」
杉森の右手から気力で固められた拳が撃ち出されたが、稲妻はそれを打ち破り、ゴールネットに食い込んだ。
一瞬の静寂。
ボールがコロコロとゴール内に転がっているのを見て、観客たちは決壊したかのように大歓声をあげた。
「キーパーが撃ってくるとは……御影も予測不能だったでしょうね」
「だが、それが結果的に御影の計算を根本から覆すこととなった。円堂守、面白いやつだ」
鬼道君は口元をつり上げていた。
やっぱりサッカーはこういうのでなくちゃ。
ボールがセンターラインに置かれる。
『ぐっ……こうなったらっ! 潰せ! 雷門を再起不能にまで叩き落とすのだ!』
「っ……オフェンスフォーメーション、シルバー1!」
『なにっ!?』
イヤフォンから相変わらずうるさい声が聞こえてくるけど、杉森が取った指示はまともなものだった。
御影のゴールへと目線を向ける。彼はサッカーサイボーグの皮を取り払い、笑っていた。
さっきの円堂君のプレイを見て、感化されたのだろう。
彼の瞳からはサッカーがしたいという熱い思いが感じられた。
その後も富山はひたすら喚き散らすが、御影の選手たちが耳を貸すことはもうなかった。
彼とは別の、低く、それでいて重たい声が耳に響く。
『君たちには失望させられた。命令を守れないものは全て不要だ』
『ああっ、総帥!? そんな……!』
プツンという電波が切断された音がし、その後総帥の声が聞こえてくることは二度となかった。
ここで富山、まさかのリストラである。
同情の余地もないけど。
『しっ、白兎屋様! どうかご慈悲を!』
「……よくも私にあんなくだらないサッカーを見せてくれたね。消えろ。お前のような三流はサッカー界に必要ない」
『う、嘘だ……!』
イヤフォンを取り外し、地面に叩きつけて壊した。
これでうるさい羽音は聞こえなくなった。あとは試合を楽しむだけだ。
鬼道君はこれについて何も追及してこなかった。
ありがたいことだ。
私もこんなくだらないことを話したいわけじゃないしね。
その後、円堂君と豪炎寺君の必殺シュート『イナズマ1号』が再び決まったところでホイッスルが鳴り、試合は雷門の勝利となった。
鬼道君は一足先に観客席を抜けていた。
帰ろうとして、最後に一度だけグラウンドに背を向ける。
御影側のベンチに富山の姿はなかった。
マズイね……さっき見た新聞おじさんが警察関係者の可能性は高いし、へんに探られたら私の情報も漏れちゃうかも。
しばらく悩んだあと、結論を出してスマホを耳に当てる。
しょーがない。やっちゃうか。
「あ、もしもし黒服さん? 待機させてたトラックの手配を頼みたいんだけど……」
次の日、朝のテレビでは富山新一郎が交通事故に遭い死亡というニュースが流れていた。
死因は酒に酔いすぎたことによる不注意。警察の方でもこれは事故として処理することに決まったようだ。
一部では意図的なものだったのではないかという意見も出ているらしいけど、決定的な証拠は出ていない。
犯人ね……さあ、誰なんでしょうか?
なえちゃんぇ……。
それと宍戸、すまん。でも仕方ないんや。ゲーム版1じゃ円堂もグレネードショット覚えるんや。だからさらに影が薄くなったとか泣かないで。ねっ?