悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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サッカーアイランド上陸!

『まったく円堂君たちには驚かされるよ。まさかカオスブレイクまで止められてしまうとはね』

「決勝戦、残念だったね」

 

 耳に当てているスマホから『まあ相手はあの円堂君だし、仕方ないとは思うけど』と中性的な声が聴こえてくる。

 電話相手は私の数少ない友人の一人であるアフロディだ。私たちはアジア地区予選の決勝戦の話をしていた。

 

 その試合内容はまさしくカオスだった。見覚えのある冷気系中二病患者からの感染によってか、韓国代表は実に痛々しい発言ばっかりするし、円堂君は序盤出ないし、文字通りカオスなブレイクが炸裂するし、初めて不動出たと思ったら好き勝手やり始めるし。まあその分見てて面白かったけど。

 というか、バーンとガゼルも韓国人だったのか。アフロディが誘ったらしいけど、絶対にあの二人を入れたのは失敗だったね。ガゼルなんて進化して「恐れ慄くがいい……龍の目が見据える凍てつく闇に……」なんて言っちゃってるし。のちに絶対に黒歴史になる原因を健全な韓国少年たちにばら撒いたあいつの罪は重い。

 

『これからは円堂君たちを応援するつもりさ』

「えー私はしてくれないのー?」

『出てたらするさ。だけど円堂君たちがいる以上影山の作戦は絶対失敗するからね。次の手を考えておくことをおすすめするよ』

 

 じゃあねという言葉を最後に、電話が切れた。

 言われちゃってますよー。少し離れた場所じゃ総帥が高級そうな椅子にふんぞり返っていた。私は目の前に広がるサッカーグラウンドの光景を眺める。

 

皇帝ペンギンX!」

 

 まるでミサイルのような勢いでボールが飛んでいき、ゴールネットに突き刺さる。

 あれが総帥が開発した新必殺技『皇帝ペンギンX』。1号以上の破壊力があるくせに負担は2号以下とかいう壊れ技だ。どこぞの1号好きな眼帯君が知れば涙目だろう。

 まあ佐久間はかなり役に立ってくれた。あの真・帝国学園で佐久間に1号を覚えさせたのは、手っ取り早く強化すること以外にもデータを採取するという目的があったらしい。結果的に不動のクソみたいな指示のおかげで佐久間がバンバンシュートを撃ったので、十分なデータが集まったようだ。そしてそれを元に作られたのがこの技。

 

「それにしても、いくら新型でもすごい威力だよね」

「やつ、デモーニオには鬼道を超えるプログラムを入力している。しかし予想以下の数値だ。やはり奴には無理か」

 

 あんのーすんごく不安になる言葉が聞こえた気がするんだけど。やっとチーム完成したってのにそりゃないわー。

 そんなことを言われているとも知らず、デモーニオと呼ばれた男はこちらをドヤ顔で見ている。

 

 デモーニオ・ストラーダ。日本語に直訳すると鬼・道。ないわー。容姿も総帥の趣味によってマントとドレッドポニテにゴーグルと変態仕様になっているし、総帥ってば鬼道君のこと大好きすぎでしょ。

 まああの人にとって鬼道君は自身の全てを詰め込んだ究極の作品だからね。言ってしまえば息子のようなものなのだ。可愛がるのも無理はない。

 ……私? しょっちゅう外に飛び出しては教えてもない芸を次々と覚えてくる犬を自分の作品と呼べるのかって言われたよちくしょうめ。

 

「貴様にはこれを習得してもらう」

 

 総帥はそう言ってきた。

 たしかに、この技は使えそうだ。私はRHプログラムのおかげで身体能力は上がったけど、それに時間を使っちゃったせいで新技の開発ができていないんだよね。ベースは皇帝ペンギン1号だし、秘伝書を読むだけで九割以上の内容が理解できた。

 

 グラウンドに入ると、例のデモーニオが声をかけてくる。

 

「見せてもらおうか。総帥の秘書の実力ってやつをな」

 

 あ、こいつ完全に舐めてるな。見てろよ見てろよー。

 ボールをセットし、深呼吸。そして一気に力を溜めて、口笛を吹いた。

 地面から飛び出してきたのは、五匹の黒いペンギン。それが振り上げた右足に噛み付くと、膨大なエネルギーがそこに集中していく。それを解き放つように、思いっきりボールを蹴った。

 

皇帝ペンギンX!!」

 

 赤黒いオーラに包まれて、ボールは風を切り裂き直進。そしてゴールネットに突き刺さり、ゴール全体を激しく揺らす。

 

「ほう……さすが、と言ったところか。やはり素晴らしい技だ。これさえあればどんな敵にも勝てる!」

 

 デモーニオがなんか言ったけど、私の耳には入ってこなかった。

 この技は……。

 撃っただけでわかった。この技はまだ未完成なのだと。この技がなんのために作られたのかと。

 この技は、言わば進化前の原型だ。幻の皇帝ペンギン……『皇帝ペンギン3号』を生み出すための。

 

 『皇帝ペンギン3号』。それは昔から帝国学園で噂される理論上の技だ。1号を超える威力と2号以上の安定性を持つ技。2号は鬼道君が編み出したものと思っている人も多いけど、あれは総帥が捨てたデータを参考に再現しただけのもの。

 この条件だけだと皇帝ペンギンXは完成系のようにも思えるけど、計算によると3号は2号の数十倍の威力を持つらしい。その点ではこの技は劣っている。

 

 ちらりと総帥の顔を伺う。

 あの人は私にこれを完成させろって言いたいのか。

 ふふっ、燃えてきた。絶対に完成させてみせる。

 

 私はその日から皇帝ペンギンXを鍛錬し続けた。

 しかし、イタリアを出るまでに新技が完成することはなかった。

 

 

 ♦︎

 

 

「えー、お姉ちゃんもう来てくれないの!?」

「FFIが開催される期間だけだって。だから服引っ張るのはやめて」

 

 ぶーと膨れっ面をするルシェの頭を撫でてなだめる。

 FFI本戦はライオコット島という南の島で行われる。だからしばらくはルシェに会えなくなるのだ。今日はその飛行機が出発する当日で、彼女にしばらくの別れを告げるために来ていた。

 

「Kのおじさんもフィディオお兄ちゃんも行っちゃうし、ずるいずるいずるいー! 私も行きたいー!」

「私と総帥は仕事だから仕方ないんだって。文句はフィディオに言ってあげなよ」

「むー」

「わかったわかった。おみやげいっぱい買ってきてあげるから」

「お手紙もじゃなきゃやだ!」

 

 この子、遠慮なくなってきたね。まあ親しい人物は少ないのだろうし、人と触れ合いたいと思うのも仕方がないのだろうけど。私は了承してルシェの頭をもう一度撫でた。

 

「じゃあそろそろ行ってくるね」

「頑張ってね、お姉ちゃん」

 

 ぎゅっとルシェが抱きついてくる。ぐっ、可愛い……! 思わず離れたくなくなっちゃったけど、堪えて別れを告げる。そして部屋を出て、タクシーに乗って空港に向かった。

 

 

 ♦︎

 

 

 ポーン、というシートベルト着用を義務付けるための効果音で、私の目が開かれる。

 イタリアを離れてから十時間以上が経過。私はファーストクラスの席で横になりながら、着陸の時まで寝ていた。

 

「……あれが、ライオコット島」

 

 窓から見えた島の名を思わず呟く。

 ライオコット島。別名サッカーアイランド。あのガルシルドが作り上げた夢の国だ。あそこには本島の他にもいくつか小島が近くにあり、そこに建てられたサッカースタジアムで戦っていくという形式になっている。

 

『間もなく着陸いたします。シートベルトを着用し、静かにお待ちください』

 

 ようやくか。ドンドン島の景色が近づいてくる。そして飛行機は特に問題なく島に着陸した。その後は荷物を回収して、総帥と合流して空港を出た。

 

 日差しがかなり強い。さすがは南国の島といったところか。

 あちこちにサッカーボールを模した像や、本戦出場国のエンブレムが飾られている。人々はサッカーに夢中になっており、空港に近いのにも関わらずボールを蹴っている人たちまでいた。

 

「ふん、吐き気がする光景だな」

「それただの乗り物酔いじゃない?」

「……やはりバカは死ぬまで治らんらしい」

 

 誰がバカだこのグラサン! 

 ぐぬぬ、せっかく人が気遣って冗談を言ってあげたってのに……。

 

 私たちは呼んでいたタクシーに乗り込み、イタリアエリアに向かう。

 

「それで総帥。いつから動き始めるの?」

「イタリア代表の一戦目の後からだ」

「一戦目ぇ? ずいぶんのんびりやるんだね」

「まずは出場チームの実力を見ておきたいだけだ」

 

 慎重なことで。まあこの島には総帥の仇敵円堂君がいるからね。感情には出さないけど、負け続けでけっこう恐れているのだ。

 

 タクシー内が沈黙に包まれる。総帥は無口だからしょうがない。なのでスマホを開いて先日行われた開会式の動画を見ることにした。

 今大会は予選でグループ戦を行い、それで決勝トーナメント進出チームを厳選するというプロでもよく使われる仕組みになっている。グループは二つ。イナズマジャパンとイタリア代表オルフェウスはAグループのようだ。

 解説を聞く限り、日本はそれほど期待されてないみたい。アジアは近年レベルを上げてきているけど、まだまだ西洋と比べたら発展途上だからね。まあ名前すら聞いたことのないコトアール代表よりかはマシだけど。

 各チームの行列を見ていると、染岡君と佐久間がいるのに気がついた。そういえばFFIはFFの例に漏れず試合前だったら選手の入れ替えができたんだっけ。消えたのはシロウと緑川か。たしかシロウは韓国戦で怪我しただけのはずなので、治ればすぐに戻ってくるだろう。緑川は知らん。

 それにしてもなんの因果か、総帥が動こうとする場所で元配下が集合するなんてね。運命っていうのを感じちゃうよ。

 

 タクシーが止まったのは、いかにも豪華なホテルの前だった。

 ふふっ、太っ腹なことに今回の宿泊費は全部総帥が出してくれるそうなのだ。北海道で泊まった時は普通に給料から差っ引かれてたからね。ケチられた理由はもちろんあのクソ戦艦にある。

 ちなみにデモーニオたちは別のホテルで泊まることになっている。飛行機もエコノミーだし、THE平社員って感じ。これからこき使われるであろう彼らに静かに黙祷した。ようこそ、ブラック企業へ……。

 

 そして私はチェックインを済ませたあと総帥の隣の部屋に入って、豪華なベッドで安らかな眠りにつくのであった。




 なえは皇帝ペンギンXを覚えた!
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