悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
リアルがいろいろ立て込んでしまいまして……。チビチビ書いていたのですが、たぶん二月中にはもう無理です。次の投稿は三月の始めあたりだと思うので、気長にお待ちください。
では、どうぞ。
書類仕事や特訓が終わった夕方ごろ。私は軽い手荷物を持って日本エリアに来ていた。
このライオコット島は出場チームの国の街並みをエリアで区切って再現するかもという馬鹿みたいにコストがかかることをしている。次回の開催どうするんだよって思ったけど、ガルシルドのことだから派手に作り直すんだろうなぁ。さすが金持ち、金持ち汚い。
そんで日本人エリアだけど、まんま和風な外観だね。京都の町にきたみたい。そしてなんと言ってもこの町、銭湯があるのだ。別にホテルに風呂がないわけじゃないけど、なんというかね? こう、でっかい風呂に入りたいというのは全日本人に共通する感覚じゃないだろうか。
そんなわけで私は仕事の合間を縫ってはるばる銭湯に入ってきたのだった。
うん、いい湯だった。最近はこんなふうにのんびりできなかったし、また通いたいものだ。……もっとも、あのブラック企業でそんな暇ができるのか疑問だけど。
気分が良いので鼻歌を歌いながら町を散策することに決めた。若干濡れ残って艶が増した髪をサラサラと揺らしながら歩き出す。
しばらく進むと、一際大きな建物が目に入った。
あれは……イナズマジャパンの宿舎だ。掲げられた看板でわかった。
思わず身を物陰に隠してしまう。今はまだ顔を合わせるタイミングじゃない。せっかくだったらとびっきりのタイミングで出てきて驚かせたいのだ。しかしかなりの人数がいるはずなのに、声が中から聞こえてこないので、訝しんで覗いて見ることにした。
なんだ、どうやらみんなは不在のようだ。中には誰もいなかった。ホッと一息つく。
その瞬間、聞き覚えのある声が宿舎前のグラウンドから聞こえてきた。
「すげーぜお前たち! これが世界のレベルか!」
円堂君、そっちにいたのか……。気になってバレないように身を隠しつつ、グラウンドを覗く。
そこでは数人の選手たちが円堂君とサッカーを……って、ふぁっ!? なんかすっごい豪華メンバー集まってる!?
アメリカ代表のマークにディラン、アルゼンチン代表のテレス、そしてこの前会ったフィディオまで……。全員名指しで注目されるほどの世界トップクラスの選手たちだ。なんでこんなところに?
フィディオたちが軽やかにボールを奪い合い、そして勝者がシュート。それを間一髪で円堂君がセーブするという流れが何回か繰り返される。
うぅ、混ざりたい、超混ざりたいよぉ……! でも円堂君がいるからサプライズできないし……! 頭を抱えて悩んでいると、場違いな白いドレスを着た誰かがグラウンドの方に向かってるのが見えた。
あれは……秋ちゃん? なんでまたそんな格好を?
「やっぱりここにいた! 円堂君、もうパーティー始まっちゃうよ!」
「……ああ! 忘れてたぁ!!」
ふむ? パーティー? 開会式も終わって試合前にパーティーが開かれる場所なんて……。スマホで単語を並べて検索すると、すぐに見つかった。イギリスエリアだ。
なるほど、イギリスはイナズマジャパンの初戦の相手だ。相手のパーティーに参加するのも偵察を兼ねているのだろう。
円堂君はフィディオたちに一言断りを入れると、グラウンドを飛び出して秋ちゃんと一緒に走り去っていった。
あの円堂君がパーティーか……燕尾服とかすっごい似合わなさそう。それ以上に似合わなさそうなモヒカンがいるから目立たないだろうけど。……って、そうじゃなくて!
すぐに視線をグラウンドに向ける。円堂君がいなくなった。それに今日は長ズボンをはいているので性別バレの心配はない。つまり、今なら彼らと遊べるのでは?
……ヒャッホーイ! 私は心の中で歓喜の舞を舞いながら、グラウンドを囲むように設置されているフェンスを飛び越えて、彼らの輪の中に落ちていった。
♦︎
それは突然のことだった。
円堂が走り去っていった後のこと。突然のことでフィディオたちは顔を見合わせ、互いに首を傾げる。
「どうする? あのジャパンのキーパーはどっか逃げちまったしよ」
「あの慌てぶり、たぶん先に用事があったんだ。マモルが逃げたわけじゃないさ」
「ふむ、しかしキーパーがいなくなっては……ここいらが潮時か」
「そうだね。ミーも汗をずいぶん流せたし、大満足さ!」
それなりに長い間ボールを蹴っていたので、フィディオたちは解散するという意見で一致する。しかしボールに目を離した次の瞬間、空から何かがボールの上に落ちてきた。
巻き上がる砂煙。それに驚いて振り返り、全員が煙の中を凝視する。そこから出てきたのは、非常に長いピンク色の髪を下ろした少女だった。
フィディオはその少女に見覚えがあった。
たしか、ルシェと一緒にいた……。
彼女はフィディオたちを見て緩やかに微笑む。しかし何故だかフィディオたちは背筋が凍るような感覚を覚えた。
「……へいガール、サインならお断りだぜ? 俺たちも忙しいんでな」
「待てテレス。彼女、どうもそんな感じじゃ……っ!?」
フィディオがテレスに声をかけようとする。しかし次の瞬間、彼の目に映ったのは自分に迫り来るボールだった。
体を捻り、踵落としのようにそれを打ち落とす。
「危ないじゃないか!」
「ヒュー、やるじゃん♪」
フィディオの苦情を聞いても少女は笑顔を浮かべたままだった。
そしてその姿が一瞬にして、かき消える。
「っ!」
体が反応したのはほぼ反射だった。無意識で横に飛び退けば、先ほどまで立っていた場所に少女の足が。しかし止まったのは一瞬だけで、次々と四方八方から足が迫ってくる。
このままだと凌ぎきれない。そう判断し、フィディオは一度距離を取ろうとした。しかしそれも読まれていたようで、飛び退いた先には少女が。そして高速で振り抜かれた足がボールを掠め取った。
「っ……!」
ポーン、ポーンとリフティングしながら少女は残りの三人を見つめる。そして不敵に笑いかけた。
「……いくぞディラン」
「オーケー、マーク!」
二人が動いたのは同時だった。オフェンスで磨かれたスピードで散開し、左右から挟み込むように少女に迫る。
しかし、その足がボールに触れることはなかった。
少女が移動したわけではない。逆に、彼女はその場から一メートルも動いていなかった。
それなのに、触れられない。それは何故か?
彼女はリフティングによって二人のディフェンスを翻弄していたからだ。
「ぐっ、このボール磁石でも入ってるのか!?」
「蹴ってみないとわかんない、ねっ!」
まるで糸でもついているかのように。
ボールは生物のように自由に動き回り、二人の足を避け続けていた。
原理は、回転だ。少女は繊細なんて言葉じゃ言い表せないほどのコントロール力で回転の速度、向きを調整し、ボールに命を吹き込んでいるのだ。
圧倒的な光景だった。世界クラスの選手は自分のポジション以外でも一流の動きをみせる。決して二人の実力がないわけじゃない。
少女は数分ほどそれを続けていたが、突然飽きたようにボールを踏んで静止させた。
そして踏み込んだ瞬間、突風が発生して二人を吹き飛ばした。
少女はそのまままっすぐに駆けていく。その先にはテレスが。
彼は円堂にしたような侮りを見せず、真剣な表情で少女を見ていた。
激突は、しない。寸前で少女が踏みとどまり、力ではなく技術による勝負が始まる。
フィディオたちにはボールがまるで分身しているように見える。それほどまでに少女は小刻みに動いてフェイントを仕掛けている。しかしテレスはそれら全ての虚と実を見抜き、彼女を押さえ込んでいる。
「互角か……?」
「……いや、違う。テレスの手前の地面を見てみろ」
言われてフィディオは目をやる。あったのは、深く刻まれた無数の靴の跡だ。その上に少女の小さな靴が乗っかっている。
あれは、少女の動きに対応しようと小刻みに踏み込んだ跡だ。それがテレスの前にある。それはつまり……。
「テレスが……押されている……」
テレス・トルーエ。中学サッカー最強のディフェンスという呼び声も高いあの男が。
じわりじわりと、後退していた。
苦い顔をテレスはする。このままやっていてもゴールに押し込まれるだけだ。しかしそれを見透かし、小馬鹿にしたように少女は笑うと、宙返りしてあえてテレスと距離を取ってみせた。
そしてバウンドしたボールを見た瞬間のテレスの判断は早かった。
「っ、アイアンウォール!」
彼が腰を落とすと、まるで要塞の一端のような鉄の壁が出現。しかし顕現とほぼ同時に、その壁から爆発音にも似た轟音が響いた。
蹴った瞬間が、見えなかった。
砂煙が再び巻き上がる。
しばしして、一部の煙が晴れる。
テレスは、立っていた。
「テレス! さすがだな!」
「……」
「テレス?」
「……ただのシュートで、アイアンウォールが半壊した」
煙が完全に消え去る。
そこで見えたのは、ひび割れ、中心に砲弾でもめり込んだ跡のようなものが残る鉄の壁だった。
そこに始め垣間見た強固さは見当たらない。テレスが解いたのか、傷に耐えきれなくなったのか、壁はしばらくすると崩れ落ちて消えていった。
気がつけば、少女の方も消えていた。
なんとも言えない雰囲気に、四人は押し黙る。
完敗だった。不意を突かれたフィディオやディフェンスではないマークたちはともかく、テレスをあそこまで追い詰めた謎の選手の実力を認めていない者はここにはいなかった。
テレスがぽつりと口を開く。
「あいつ、どこの代表だ?」
「えっ? でも君、さっきガールって……」
「あれだけの実力持った女がいてたまるかよ。それにこの時期にこの島にいる、それだけでも大会に出てくる可能性は十分高い」
「色白だけど、たぶんジャパニーズだよね。じゃあイナズマジャパン?」
「いや、ディラン。俺たちは初めからカズヤが目をつけていたあのチームを開会式で観察してた。あれだけ目立つ容姿だったら記憶に残らないのはおかしい」
謎の少女の出現。四人はそれについて考察しながら、帰路についた。
♦︎
……ふぅ、危ない危ない。まさか日本宿舎に人がいたとは。
テレスとの勝負中に偶然気づいたことだ。窓際から誰かの視線を感じたのだ。ちらりと見た感じ、たしかあれは久遠道也。イナズマジャパンの監督だったはず。
その経歴は一切謎。……ってわけじゃあもちろんない。我らブラック企業KAGEYAMAに調べられないことなんて五条さんくらいだ。
ゴホンゴホン、話を戻そう。かの監督は桜咲木中サッカー部をFF決勝にまで導いた天才だ。しかしその対戦校の選手に部員が
ワー、なんかよくきくはなしだなー。
まあお察しの通り、その事件うちの上司が招いたことっす。本当にもーしわけございません。
そんなわけで、あの人も総帥ひいては私に因縁があるわけである。ここで私たちの存在に気づかれては不都合なのだ。
本音を言えば、もっと遊びたかったけど……まあいいか。さっさとイタリア代表になって公式戦でやればいいだけだしね。
私は鼻歌を歌いながらバスに乗り、イタリア街のホテルへと帰るのだった。