悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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みんなも重度の影山恐怖症に注意しよう

 FFIの一回戦が終わった翌日。私と総帥はリゾートエリアのとある建物に来ていた。

 

 一回戦、円堂君たちイナズマジャパンは無事イギリスを撃破して初戦突破を飾った。久遠監督の采配、そして鬼道君と不動という二人の天才によるゲームメイクが光った、素晴らしい試合だった。

 それに対してイタリアはアルゼンチンと引き分けたようだ。どちらも点を入れることができず、そのまま終わったんだとか。

 まったく、これから私の戦績にもなるんだからしっかりして欲しいものだ。

 

 スマホで記事を読んでいると、総帥がこっちにやってきた。

 

「もう話し合いは終わったの?」

「ああ。まったく、前イタリア代表の監督もしつこいものだ。おかげで少し手荒になってしまった。ククク……!」

 

 ひえっ、なんて凶悪な顔だ。まるで悪魔みたい。

 私は心の中で元監督に十字を切るのだった。南無三。

 ……いやこれじゃあ仏教になってるじゃん。

 

 屋内から出ると、目の前に黒塗りの高級車が停まっているのが見える。それに乗り込もうとして、車道を挟んで反対側の道にいた不動と目があった。

 いや、なによその鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けな顔は。というかどうしてここに?

 あまりに突然のことで呆然としてると、車の中から声がかかってきた。

 

「……早くしろ」

「いやでも、あっちに不動が……」

「不動? フッ、ああ……」

 

 うわめっちゃ鼻で笑われてる。よっぽど眼中にないらしい。

 真・帝国学園での彼の指示は酷いものだったからね。勝てたかもしれない試合だったのに、私情でメインフォワードである佐久間を潰したし。勝ちにこだわる総帥が見捨てるのも仕方がない。

 でもその後の試合は心を入れ替えたのか、まともなプレーをしている。韓国戦やイギリス戦でも勝利にかなり貢献してるしね。

 

 彼を無視して乗り込もうとした時、不動のさらに後ろにこれまた見覚えのある人たちが歩いてくるのが見えた。

 

「……早くしろというのが聞こえないのか」

「いやでも総帥、今度は鬼道君たちが……」

「……ほう」

 

 いや反応違いすぎでしょ。

 鬼道君たち、というのも彼の隣にはこれまた因縁深い関係にある佐久間がいた。

 なんという巡り合わせ。もっとも、彼らにとっては二度と顔を合わせたくない相手だろうけど。

 総帥はしばらく黙り込み、口を開く。

 

「構わん。早く乗れ」

「……わかりましたよっと」

 

 ここで会わないのは何か考えがあってのものなのだろう。その理由を理解したわけじゃないけど、私がするべきなのは上司の命令を大人しく聞くことだけだ。大人しく車に乗り込んだ。

 

 鬼道君たちが追いかけてくるのがミラー越しに見えるけど、車に追いつくなんて私でもなきゃ無理だ。あっという間に見えなくなっていった。

 

 しばらくして、車が道路脇に停車した。

 はて? まだイタリアエリアには着いていないけど……。首を傾げていると、私側のドアが自動で開いた。

 

「貴様はここで降りて、鬼道をイタリアエリアに誘き出せ」

「……へっ? いや急すぎません?」

「機材はトランクに積まれている。自由に使え」

 

 全然話聞いてないし……。

 蹴り出されるような勢いで外に降ろされる。仕方がないので指示通りにトランクを開けることにした。

 入ってるのは……スピーカーやカメラ、その他機械類などなどだ。それらが一括してバックにまとめてある。

 

「いやこれでどうしろっていうのよ」

「鬼道が通るであろう道はデータとして送った。ではな」

 

 あ、行っちゃった……。とりあえずスマホで地図を開いて指定された場所に急ぐ。

 あの人は鬼道君のことならだれよりも詳しい。たぶんこの情報も、その性格を推測したものなんだろう。

 

 目的地は大きな建物二つに挟まれた裏路地だった。そこのあちこちに複数のスピーカーとカメラを仕掛け、見つからないように離れた場所で隠れる。

 しばらくすると、赤マントとドレッドヘアーがカメラに映った。

 本当に来ちゃったよ……。

 まあいいか。

 スピーカーに総帥からもらった音声を入力し、起動させる。

 

『待ってたぞ鬼道……』

「っ、影山!?」

 

 おおっ、雑な仕掛けだけど案外バレないものだね。鬼道君はすっかり総帥が近くにいると思い込んで、辺りにくまなく目を向けている。

 ちなみにそれを見た通行人が怪訝そうに鬼道君を見てるけど、彼はそれに気が付いていない。

 よし、この調子でドンドン流してこー。

 

『鬼道、お前は私の作品だ……』

『帰ってこい鬼道、私の下に……』

『鬼道』

『鬼道』

『鬼道』

『鬼道』

「くそっ、全員影山に見える……!」

 

 いやどんな幻見てるんだよ。

 なんか何もないところに拳を振るったり蹴ったりしてるし。

 通行人の目がさらに可哀想なものを見るようになっていくのがいたたまれない。

 さすがにこのまま続けると彼の尊厳に関わるので、ここら辺にしておこう。

 

『イタリアエリアで待っているぞ、鬼道よ……』

「待て影山! どこに行く! 逃げるな!」

 

 私が音声を切った途端、鬼道君はいないはずの総帥を追いかけてどっかへ行ってしまった。

 ふふっ、面白いものが撮れたね。もちろん今のは録画済みである。のちに彼の黒歴史として公開してあげるのだ。

 くふふっ、お主も悪よのう……!

 

 ……む? 鬼道君がどっかへ行ったあと、不動が何故かここに辿り着いた。

 でも彼用の音声は預かってないしなぁ。無視だ無視。そう思った時、スマホが私の手から滑り落ちてしまった。

 そしてポン、という再生が始まった音が聞こえた。

 

『鬼道、お前は私の作品だ……』

『帰ってこい鬼道、私の下に……』

『鬼道』

『鬼道』

『鬼道』

『鬼道』

「俺は不動だっ!!」

 

 名前似てるしいいじゃん。

 それにしてもやっちゃったな〜。スルーするつもりが逆に話しかけちゃった。

 不動は冷静に辺りを観察している。

 むー、しょうがない。融通の効かない総帥ボイスに変わって、この私がアドリブでこの場を切り抜けてやろうじゃないか。

 

『バナナ……』

『ベンチウォーマー……』

『半分ハゲ……』

『白髪……』

『ホモ……』

『お猿のシンバル……』

「ただの罵詈雑言じゃねぇか!?」

 

 バカめ。お前にくれてやる言葉なんてこれで十分だ。むしろこの私に罵倒してもらったんだから泣いて喜んでほしいものだよ。

 いやー、相手の手が届かないところから一方的に煽るのって楽しー。

 

「ぜってぇ殺す!」

『ぎゃー!? カメラが!』

 

 手が届いたぁ!?

 やめて! 不動渾身のヤクザキックでカメラを打ち壊されたら、財布が繋がってる私に賠償請求が来ちゃう! って、アアァァァァァァッ!! また壊された!

 

「クックック。あのケチな影山がこんだけのカメラの損失を気にしねぇはずがねぇよなぁ?」

 

 ぐっ、このやろ……! さすが元部下なだけあって、総帥と私の関係性をよくわかってる……!

 そして不動は残された最後のカメラを見つけ出し、足を上に置いて……。

 

『やめろぉぉぉぉっ!!』

「オラよっ!」

 

 接続されてた画面が真っ暗に染まる。

 

 そして わたしの めのまえも まっくらになった

 

 

 その後、案の定帰社した私には機材破壊に対する請求書が届いてた。

 嗚呼、悲しきかな、我が財布……。

 

 

 ♦︎

 

 

「こいつは……影山!?」

 

 リゾートエリアで買い物を楽しんだあと、日本代表のメンバーや監督たちは鬼瓦刑事に呼ばれて会議室に集合していた。

 そこで彼が見せた写真の人物には、恐るべき男の面影を感じられた。

 

「でもよ……金髪じゃねえか。人違いじゃねえのか?」

 

 染岡が認めたくないとばかりに否定しようとする。

 

「いや、この顔は間違いなく影山だ。俺は幼少のころから一緒だったんだ。見間違えるはずがない」

「さらにこいつは別の情報源からだが、こんな写真も見つかっている」

 

 鬼瓦はさらにもう一枚写真を取り出す。そこにはサッカーボールを大事そうに抱えて道を歩いている桃色髪の美少女が映っていた。

 それを見た虎丸はほんのりと顔を赤らめる。

 

「わぁ……すごい綺麗な人ですね……」

 

 しかしこの少女の正体を知っている人物たちは苦々しい顔をする。

 

「なえがいるってことは……」

「影山がいるのはほぼ確実だな……」

「……? 響木さん、影山ってのはそんなに悪いやつなんですか?」

 

 重苦しい雰囲気に包まれる中で、飛鷹のような雷門とあまり関わりのないメンバーたちは首を傾げていた。

 それを察した響木は、影山の今までの所業を語り始めた。

 四十年前から今に続く、その闇の歴史を。

 

 全てを語り終えたあと、飛鷹たちは恐ろしいものでも見たかのような目を写真に向けていた。

 

「そしてこの少女。白兎屋なえは影山の配下だ」

「……じゃあそいつも悪いやつなんですか?」

 

 飛鷹の純粋な質問に、事情を知っているメンバーは微妙そうな顔をする。特に鬼道や円堂などは。

 

「いや、悪いんだけど、悪くないっていうか……その……なんか上手い言葉が見つからないなぁ」

「……なえ自体は素晴らしいプレイヤーだ。類を見ないスピードに圧倒的なキック力、そして繊細なテクニック、全てにおいて完成されたサッカープレイヤーと言えるだろう」

「そんなすごいやつが、なんで……?」

「だが、問題はやつのサッカーに対する深すぎる愛情だ」

 

 鬼道のこの言葉でさらに飛鷹たちは困惑してしまう。

 

「サッカーが好きならいいんじゃないですかね?」

「ああ、普通はな。だがやつが抱く感情はもはや狂信的と言ってもいい。やつはサッカーを愛しすぎるあまり、サッカーを楽しむためには手段を選ばないんだ。たとえ犠牲を出そうともな」

 

 犠牲という言葉を聞いて、佐久間が反応を示した。

 真・帝国学園においての犠牲者は佐久間と源田だった。禁断の技を使わされ、体をボロボロにされて……なによりもその技を使ってもなお狂ったように笑い続ける少女の姿を思い出し、身震いをしてしまう。

 円堂を含む雷門メンバーは一度仲間として共に戦ったことがあるため、なえをあまり悪く見ることができなかった。そのため、円堂が鬼道に提案をする。

 

「なあ鬼道、なえを説得することはできないのか?」

「無理だ。あまりそういう素振りを見せないが、影山はやつにとって父親代わり、言ってしまえばお前にとっての大介さんのようなものだ。裏切ることはないだろう」

「……そっか」

 

 鬼道は昔を想起する。

 孤児院時代のなえは、決して明るい性格ではなかった。むしろ暗い顔をしていた。それを変えたのは影山だ。そして自分も……。

 かつてあの男に抱いていた感情を思い出し、嫌悪感を示す。

 

「……やはり、見間違いでも幻聴でもなかったんだな」

「どうしたんだ?」

「……さっきリゾートエリアで、やつらしき男を見かけたんだ。そして声を聞いた。……断ち切れないのか、この因縁は……」

「……鬼道」

「へっ、縛られてるねぇ鬼道君」

 

 呪いにも似た縁を彷彿とさせ、拳を握りしめる。それを煽るような声がかけられた。

 

「不動、お前もだ。俺と佐久間はあの時、お前も影山の近くにいたのを見た。もしお前がまた影山に与しようとするなら……」

「……するなら?」

「許さん。絶対にな」

 

 鬼道はそう言い放ち、部屋を出て行く。それを追いかけるように佐久間を始め次々と人が出ていき、ミーティングは次第に解散になった。




 イタリア対アルゼンチンの戦績をイタリアの勝利から引き分けに変更しました。
 理由は、アニメじゃアルゼンチンって一回戦負けてるにも関わらず二回戦じゃ『これまでの試合で無失点』って言われてるんですよね。これは単純な製作側のミスだと思いますけど、さすがに矛盾したままなのはどうかと思いこうするに至りました。
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