悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
FFI。
それは少年サッカー世界一を決める夢の祭典。
栄光そのもの。
そんな舞台にいるはずなのに、私はなんで……。
「……なんで工事なんてしてるのかなぁ!?」
ズドドドドドッ! という削岩機の音が木霊する。それ以外にもクレーンや作業員たちの声もあって、イタリアエリアは夜にも関わらず大変賑やかになっていた。
そんな中、私はライトセーバーのおもちゃみたいな棒を振り回し、指示を出している。
誘導棒って言うらしいねこれ。初めて知ったよ。
現在の時刻は朝三時。そう、三時である。
鬼か! 鬼かあの人は!
なんで終業時間間近に新しい仕事増やしてるんだよ! しかも時間のかかる工事! これを明日の朝までに終わらせろとかクソすぎる!
実際私以外の作業員たちの目も死んでいた。でもやるしかないのだ。やらなければきついお仕置きが待っているのだから。
「姉御、ゴンドラの細工終わりました!」
「じゃあゴンドラ班は落とし穴班と合流して!」
「姉御、ここの木材はどんな風に設置すれば!?」
「設計図あったでしょ! そっちは鬼道君用なんだから丁寧に設置してよね!」
「姉御、落とし穴このままじゃ全然終わりません!」
「気合で穴空けて!」
ああもううるさいなぁ!
こっちだって眠くて仕方がないんだよ! というか現場監督ぐらい雇え! なんで中学生の私がこんな工事の指揮しなきゃならないんだ!
そんな心の叫びを押し殺し、作業を進めていく。
結局、工事が終わったのは四時ごろだった。
起床時間まであと二時間と三十分。
私はベッドにたどり着くと、風呂にも入らず泥のように眠りについたのだった。
♦︎
翌日。
私はイタリアエリアにある空き地に向かっていた。
たどり着くと、そこにはグレーと紺色のユニフォームを着た十人もの選手たちがいた。
「おっ、みんな揃ってるね」
「遅すぎるくらいだ。数分とはいえ遅刻とは……総帥の秘書としての自覚がないのか?」
「ぐぬぬ……あのねぇ! 私はサッカーだけしてればいいあなた達とは違って忙しいの! 今日だって二時間ちょっとしか寝てないんだよ!」
「ふっ、それも全ては総帥のためなら俺は喜んでやれるさ」
紛い物風情が……!
このデモーニオ、どうやら総帥にえらく忠誠心を持ってるらしく、それゆえにその隣にいる私が目障りらしい。
私は別に秘書なんてポストに魅力感じてないけどねー。
まあ彼らはイタリアの野良チームとしてうろちょろしてたところを総帥にポンって力与えられたらしいし、崇拝する気持ちも分からなくはないけど。
でもあの人の秘書なんてやったら絶対幻滅するよ? その業務内容じゃなくて、主に勤務時間で。
ブラック企業KAGEYAMAの真の闇を、彼らは知らない。
「さて、じゃあ行こうか」
私がそう言うと、フンと鼻息を鳴らしてデモーニオは歩き出す。それに選手たちは続いていった。
一応私がキャプテンのはずなんだけど……。
まあ仕方がないか。チームKとなる前はデモーニオがキャプテンだったらしいし、選手たちが彼に従うのも無理はない。
そもそも私は鬼道君みたいに指示を出すタイプじゃないしね。司令塔の言うことを聞くんだったら普段はそっちに任せたほうがいい。
さて、私たちが向かうのはイタリアグラウンドだ。
ここで次からの段取りを教えよう!
まず一足先に車でグラウンドに着いた総帥が現イタリア代表たちに顔出し! そんでもって状況説明をする!
そのあとに私たちチームKがババーンと登場して、彼らを驚かせるって寸法だ!
……うん、その演出いる? とか言わない。わざわざ二手に分かれてまでやること? とかも言わない。
残念ながらうちの総帥はこういうことにはとことん細かい男なのだ。じゃなきゃ今まで散々あの人の芸術センスに手を焼いていないよ。
むしろ今回はお金を使わずに演出だけなのでラッキーなまである。
っと、ようやく着いた。
私は物陰に隠れて耳を澄ます。
「ではさっそくお前たちに報告することがある。……お前たちはクビだ」
『なっ!?』
ひ、酷っ!なんの説明もなしに『クビ』の二文字で終わらせたぞあの人!
あんまりな一言に驚愕の表情を見せる新入社員(現イタリア代表)たち。それを聞いてチームのみんなは愉快そうな顔をしてた。
おーい、他人事じゃないぞお前たちー。お前たちだって新入社員なんだからなー。
特にうちの会社は業務内容の問題から使えない新入りが切られやすい傾向がある。それにベテランだって下手やらかしたら処分しかねない。
明日は我が身だ。
そう思うと、彼らの扱いに涙してきた。
まあ実際流さないけど。
ここでようやく私たちの登場である。
イタリア代表たちは急に総帥の背後に並び出した私たちを怪訝そうに見る。唯一フィディオだけは私を見て驚いていたけど。
「君がなぜここに……? それに後ろの彼らは……?」
「紹介しよう。彼らは『チームK』。お前たちに代わって新たにイタリア代表となる者たちだ」
「そーゆーこと。悪いねフィディオ」
というか、相変わらずこのチーム名ダサいなぁ。
どうにかなんないのかね、ほんと。
「どういうことだなえ」
「どういうことも何も、そういうことだよ」
「答えになってない!」
フィディオはこちらを睨みつけてくる。
はぁ、しょうがないな。
私は人差し指をピッと天高く突き上げる。
「FFIで、サッカーで世界一に。それはプレイヤーなら誰もが考えること。だけど私は世界中の誰よりもサッカーが上手いっていう自信と実力があったのに、その夢の切符に触れる機会すら与えられなかった。ひとえに性別なんていうくだらない制限のせいでね」
「女子にだって似たような大会はある!」
「私は魂が燃える勝負をしたいんだよ。残念ながら男子に比べて予選レベルのチームばっかりの女子の世界じゃ力不足。だから私はここに来た。本当の世界と戦って、真に胸を張って世界一だと誇るために!」
「……っ! それでもっ、それでも俺たち全員が代表から下されるのは納得がいかない!」
「納得? そうか、ならばチャンスをくれてやろう」
チャンスウ*1ではないよ? チャンスだよ?
その言葉を待ってましたと言わんばかりに総帥が横槍を入れてきた。
フィディオは厳しい視線を総帥に向け、警戒しながら聞き返す。
「チャンス……ですか?」
「そうだ。私のチームKとお前たちオルフェウスが試合をし、勝った方を代表にする」
「それは……信じてもいいんですか?」
「ああもちろん。私は約束は守る。勝者こそが絶対、敗者に存在価値などないのだからな……」
負け続きの私たちが言っても説得力ないけど。
でも総帥のこの言葉だけは否定しちゃいけない。この言葉は総帥が長年の人生から導き出した結論みたいなものなのだ。
それを否定するということは総帥の人生そのものを否定することになる。
だから私はこの言葉に異議を唱えることは今までも、これからもないだろう。
フィディオはしばらく目を閉じ、他の代表たちの顔を確認したあと、決意した。
「……わかりました」
「ああそうだ。お前たちは他のグラウンドを使え。ここはチームKが使用するのでな」
「なんだと!?」
「よせブラージ。相手は悔しいが監督なんだ。時間の無駄だ」
「ちっ!」
フィディオたちはしぶしぶとグラウンドを出ていく。
あらら、可哀想に。そんな不用心に町なんかぶらついたら、どんな事故に遭うかわからないよー?
明日は誰が病院送りになってるんだか。でも最終的には試合ができるのは決まっているので、私的には問題なかったりする。
この事故で人数が減ったことで試合に出れなくなる。
そんな時に円堂君たちと出会ったらどうなるのか。
絶対共闘を持ちかけてくるに決まっている。
そう、これも総帥の策なのだ。全ては円堂君たちを誘き出し、イタリア代表もろとも潰すための。
ふふふ、楽しみだなぁ。
楽しみすぎて……あくびが……。
「ふぁぁあ……」
「何をしている。あくびしている暇があるのなら練習しろ」
「お、お願い……夕方は参加するからもう寝させて……このままじゃ明日に支障が……」
「断る」
駄目!? そんな! 今日は厄日だわ!
絶望した私の顔を見かねたのか、舌打ちを総帥はして、
「……今日だけは許可してやろう」
「ふぉぉぉっ! ありがと総帥! いや総帥様!」
そうと決まったらこうしちゃいられない!
ホテルなんかに戻ってる時間もないので、私は宿舎裏の日陰で寝っ転がる。
そしてあっという間に眠りにつくのだった。
♦︎
フィディオたちイタリア代表は途方に暮れていた。
フィディオの後ろには六人の選手。数時間前グラウンドから出た時の半分もいない。
何者かの作為を感じられずにはいられなかった。グラウンド探しで別行動を取っていたメンバーたちが次々と事故に巻き込まれていったのだ。
結果八人が病院送りとなり、残ったのはフィディオを含めて七人だった。
しかし、神はフィディオを見捨てなかった。
偶然知り合いになっていた日本代表の円堂守と出会い、手を借りることができたのだ。
そして試合当日となり、円堂たち助っ人を含めた十一人がミスターKの前に並び立つ。
ミスターKはグラウンドを見つめたままフィディオたちに背中を向けていた。そこから感じるオーラに若干気圧されながらも、フィディオは話しかける。
「ミスターK、約束です。俺たちが勝ったらイタリア代表の座は返してもらいます」
「よかろう。しかしそいつらは?」
「彼らはイナズマジャパンからの助っ人です。負傷したメンバーの代わりに、彼らが試合に出てくれます」
「ふっ、そうか……帰ってきたか鬼道。私の下に」
『っ!?』
その声、その顔、なによりもその言葉。
それを聞いた時、鬼道たちの背に冷や汗が垂れた。
鬼道はミスターKの正体が影山だと、フィディオから話を聞いた時から半ば確信していた。
試合前に事故。散々聞いてきた話だ。
だからこそ、確かめにきた。
そしてどうやら最悪にも、その直感はビンゴだったらしい。
ミスターKは、影山だった。
「影山ァ!」
「案の定か……!」
我を忘れて詰め寄ろうとした鬼道を佐久間が制する。
一度は冷静さを取り戻すも、影山がそれを見て不気味な笑みを浮かべていることに気づき、再び激情が腹の奥から上ってくる。
「何を企んでいるんだ!」
「私の目的は変わらん。常に勝てる最強のチームを作ることだ」
「そのために今度は誰を犠牲にするつもりだ影山!」
「総帥はK。ミスターKだ」
聞き覚えのない声が聞こえたあと、シュートが鬼道に向かって飛んできた。
かろうじてそれを足で受け止める。しかしあまりの威力に足が弾かれ、鬼道は膝をついてしまう。
「くっ……なっ!?」
ボールを蹴った人物を見上げる。
そしてその目に映った姿を見て、驚愕した。
赤いマント。
ドレッドヘアーによるポニーテール。
赤いゴーグル。
そう、そこにいたのは鬼道そのものだった。
「なんだこいつは……鬼道にそっくりじゃないか!」
「……そこまでやるかね」
「私の新しい作品を紹介しよう。デモーニオ・ストラーダ。鬼道を越えるようにデータをインプットされた者だ」
「くっくっく……」
まるでドッペルゲンガー。
しかし先ほどの蹴りから、鬼道を越えるという話がまったくの嘘ではないのがわかる。
デモーニオと呼ばれた男は自信に満ち満ちた表情をして鬼道を見下ろしていた。
「鬼道、貴様には今日ここで消えてもらう!」
「はぁ、なんで私のチームメイトはいつも相手と会うとボールを蹴るのかなぁ」
そんな間の抜けた声が影山の隣から聞こえた。
いつのまにか、そこにはなえがいた。
彼女は円堂たちを見ると一変してニコニコと笑みを浮かべる。
「ヤッホー円堂君! それに不動を除いたみんなも! 今日は思いっきり楽しもうねー!」
「はぁ……やっぱりお前なのか」
「またお前なのか……」
「まだお前なのか……」
「おいそこのバナナ! 『まだ』って何よ『まだ』って! これから先私が消えるみたいなセリフやめてくれる!?」
不動となえが睨み合う。
しかし不動の小馬鹿にしたような笑みに耐えきれなくなり、なえは飛びかかろうとした。
そこでミスターKに足を引っかけられ、頭から転倒する。
「まかろんっ!?」
「グラウンドに連れて行け。うるさくてかなわん」
「お任せください総帥」
「あちょっ、襟首掴むな引っ張るなー!」
尻をついたままグラウンドに連行されていく。
辺りは一気に微妙な雰囲気になった。
「では、イタリア代表決定戦を始めろ!」
しかし影山は表情一つ変えずに宣言した。
場数が違うのだ。なえに空気を乱されるのはこれが例外ではない。
そして両チームがポジションに着き、試合が始まった。
最近ウマ娘にハマってます。
アニメもゲームもいいですよねぇ。
史実は知ってますけど、ライスちゃんには幸せになってほしいなぁ。