悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
親指によって弾かれたコインがデモーニオの手の甲に落ちる。
それは裏を示していた。
「俺たちボールでキックオフだ」
フォーメーションは以下の通りだ。
まあ、デモーニオ以外記憶には残らんだろうけど。恥ずかしいことに私ですら若干あやふやなのだ。
それにしても、長袖のユニフォームは初めてなので新鮮に感じる。慣れないというかなんというか……。
『さあ、いよいよここイタリアグラウンドにてイタリア代表決定戦が幕を開けようとしています!』
……いや、なんで実況の人いるんだよ。
しかもあれ角間君——雷門の試合で実況してた子のお父さんじゃん。
あの人もあの人でFF本戦やアジア予選の実況をしてたから腕は確かなんだろうけど……突っ込んだらおしまいな気がする。
っと、ここでキックオフ。
ビオレテからボールが来て、さっそく私は前に——。
「待て。まずは俺にやらせろ」
「むー、しょーがないなぁ」
デモーニオの要求に応え、バックパス。彼は私たちフォワード陣を引き連れて駆け上がっていく。
軽快なパス回しで相手フォワードを避けていき、その先にいる鬼道君を見据える。
出鼻をくじくという意味ではデモーニオに渡した方がいいでしょうしね。
さあ、存分に楽しんでいってよ。
「真イリュージョンボール!」
「なにっ!?」
複数に分裂したボールが鬼道君を惑わし、その隙にデモーニオは前へ。
鬼道君は抜かれたというのに呆然としていた。
まあそりゃそうか。だってこれ君の十八番だもの。
「抜かせるかよ!」
「肩に力が入りすぎているぞ?」
「っ!?」
デモーニオは次にヒールリフトを繰り出し、華麗にオルフェウスのディフェンスを抜き去る。これも彼の動きだ。
RHプログラムでは身体能力だけでなく知識も植え付けることができるらしい。デモーニオには他の選手以上にある情報がインプットされていた。
それは、戦術。
どのように選手を動かせばいいのか、どのようにすれば敵味方を操れるのか。それが帝国式でみっちり詰め込まれている。
デモーニオは元々そんなものに縁はなかったらしいが、機械は偉大かな、今の彼はどっから見ても一流のゲームメイカーだ。
「なえ上がれ! ビオレテは左だ!」
味方の立ち位置で描かれる三角形を意識してプレイする、帝国お馴染みの組織的プレイ。
慣れないメンバーのオルフェウスにはそれに対抗する力はなく、あっという間にミッドまでもが鋭いパス回しに翻弄されて切り刻まれていった。
しかし相手も世界レベル。
特に鬼道君たちはすぐにこの戦術の内容に気がついたようだ。
「フィディオ、俺に指示を任せてくれ! 俺はこの戦術を知っている!」
「そうか、頼んだぞ!」
「ほう、面白い……まずは本物らしくゲームメイクで勝負をしてやろう」
フィールドに二つの声が絶えず飛び交う。
選手たちはその指示に合わせて動いていく。
まるでチェスだ。
私は鬼道君とデモーニオがグラウンドを盤面として、私たちを操っている姿を幻視した。
デモーニオが動かす兵の進路を鬼道君は先読みしてことごとく潰していく。
しかしデモーニオも負けていない。
潰された兵は囮。
敵を誘導することでディフェンスラインに小さな穴を作り出していた。
そこにロッソが突っ込んでいく。
「佐久間!」
「わかっている!」
しかしこれもデモーニオによる罠だ。
敵の穴部分に突っ込んでいく選手をあえて囮に使うことで、さらに大きな穴を生み出す。
この場合は中央ミッドのロッソと見せかけて、左サイドミッドのベルディオ……と思ってたでしょうね?
ベルディオに向かって出されたパスを佐久間がカットしようとしたら瞬間、ボールは軌道をカーブさせ、敵味方誰一人いないところに飛んでいった。
そしてボールがラインを越える瞬間、私は足でそれを捕る。
「なっ、馬鹿な!? どうして彼女が左サイドのラインギリギリにいるんだ!」
「なえのポジションは攻めを中心としたフリースタイル『逆リベロ』だ。このフィールド全域があいつのポジションだと思え!」
「なんだって……!」
うん、めちゃくちゃだね。自分でもよーく理解してる。
フィディオの新鮮な反応を見ると、将棋盤を蹴ってひっくり返したような爽快感を覚えた。
そもそも、帝国の戦術をそのまま使うはずがないのだ。
いくら強くても帝国はナショナルチャンプレベル。世界クラスのフィールドで使用するには力不足だ。
だから、デモーニオには総帥によって書き加えられた新たな戦術が与えられていた。
それを見抜けなかった鬼道君の戦術負けだ。
さっきサッカーをチェスで例えたけど、両者の持ち駒は最初から同じであるはずがない。ルークやナイトの数が違っていたり、いなかったり。
私は言わばクイーンだ。そして彼らにはそれがいない。
そんな彼らに、
「スプリントワープ!」
私の体から紫の混じった桃色のオーラが溢れ出した。
そして複雑な軌跡を描きながら、加速。
ジグザグという単純なものではない。時に緩く、時に鋭く角度をつけてのカーブ。それを目に見えない速度でやれば、私を止めるはおろか動き出せた者は誰もいなかった。
「なんなんだ……今の動きは……!」
「速い……! かつて見たことないほどだ……!」
あっという間の三人抜き。私は左サイドのゴールラインにまで辿り着き、センタリングを上げる。
そこにはデモーニオがフリーな状態で待ち構えていた。
「俺こそが究極。そして見ろ! これが究極の……ペンギンだ!」
「あれは……!」
いや究極のペンギンってなんだよ。
デモーニオが口笛を吹くと、五匹の黒いペンギンが地面から出現し、空へと飛翔する。その後急旋回したあと、天に向かって振り上げられた右足に噛み付いた。
そして彼の足が禍々しい赤黒い気に包まれる。
「皇帝ペンギンXッ!!」
それを放出するようにボールを蹴る。すると、赤黒い砲弾とボールは化し、円堂君に迫る。
「怒りの……速い!?」
砲弾を止めようと、円堂が跳び上がる。しかしシュートのあまりの速さに技が追いつかず、ボールは円堂君の脇腹に直撃したあと、抉るように彼ごとゴールに押し込んだ。
『ゴール! 先制点はチームK! 円堂、不安な倒れ方をしました!』
「あれは皇帝ペンギン1号……?」
「皇帝ペンギンX。皇帝ペンギン1号を元にして作られた改良版だよ。つい最近どこぞの誰かさんが大量に撃ったおかげで、ようやくデータが集まって完成したんだって」
「っ、貴様……!」
佐久間が凄まじい形相になる。
あれだけ嬉しそうに撃ってたくせに。私もかれこれ百回以上は撃ってるけど、あんな変態みたいな顔はしなかったぞ。
というか佐久間の数回で改良できるんだったら、私が使ってた時にもできたんじゃ……。
……いや、下手に探るのはやめとこう。
どうせ突き詰めたら財政難が原因で、それを指摘した私が痛い目に遭うだけなんだから。
まあ本当は数十年前からずっと研究してて、ようやく完成したとかかもしれないけど。
とりあえず、先制点だ。
だけど、まだまだ油断できない。
円堂君が強くなるのはこれからなんだから。
円堂君はチームメイトに声をかけて、立ち上がる。
どうやら怪我とかはないらしい。
呆れるほどに頑丈な体だ。彼らしい。
「まだまだ一点! 取り返すぞ!」
「あ、ああ……」
円堂君が発破をかけるけど、鬼道君の反応が鈍い。
まるで苦虫を噛み潰したような表情でずっと総帥を見ている。
キックオフしてもどこか上の空だった。
……踏ん切りがつくはずもないか。
私にとって総帥は恩人。それは鬼道君にも言えることだ。
たとえ今までの行いを知って裏切られたとしても、あの人を憎むと同時にどこか心の奥底では信じている彼がいるのだ。
それを自覚していて、でも認めたくなくて頭の中がグチャグチャになっている。そんな感じか。
ほら、二人を見ているだけで彼らの心の声が聞こえてくるよ。
『私の下を離れたお前に私を倒すことなどできん。戻ってこい鬼道』
『ふざけるな! 俺はあんたとは決別したんだ!』
『果たしてそうかな? そのドリブル、そのフェイント、そのゲームメイク。誰が与えたものだ? ——私が与えたものだ』
『っ……!』
鬼道君の動きがみるみるうちに鈍くなっていく。
もはやゲームメイクもしなくなり、彼はノロノロと走るだけになってしまう。
その顔はフルマラソンでも走り切ったかのように真っ青で、唇も震えていた。
『俺は、円堂たちと出会って真の勝利を、仲間と分かち合うことの喜びを知ったんだ!』
『仲間などお前には必要ない! お前はフィールドの帝王、鬼道有人だ。あるのは駒のみでいい!』
『違う、俺はそんなんじゃない!』
『違わないさ。なぜなら私がそういうふうに作り上げたのだからな! 私の意思は確実に貴様の深層心理に刻まれている!』
『俺はっ、俺はっ……!』
「いつまでも昔のこと引きずってやがる! 俺たちは人形でも作品でもねぇぞ!」
「っ、がっ!?」
その時、信じられないことが起きた。
なんと不動が突然、放心状態の鬼道君にスライディングをしかけたのだ。
うわ、やりやがったぞあいつ。やっぱバナナはダメだね。
「正体表したな!」
「ああ?」
「俺はお前が裏切ることはわかっていた!」
「バカが、勘違いしてんじゃねえぞ。俺は影山に見せつけてやりたいだけだ。もう俺はお前なんて必要としてないってことをな!」
たぶんあれ絶対に総帥に『二流』って呼ばれたことを根に持ってるよね。その後無様に逃げちゃったし、相当悔しかったみたい。
まあ、同情はしないけど。
「お前はどうするんだ鬼道君? このまま人形のままでいるか、それとも……」
「俺は……影山の人形では断じてない!」
鬼道君は立ち上がり、不動からボールを奪い返した。
……迷いが消えたね。
不動なんかもたまには役に立つもんだね。
……彼ですら人を立ち直せることができたことに、ちょっと胸が痛んだ。
「佐久間、不動! 俺に力を貸してくれ!」
「ああ!」
「へっ、お前が俺を助けるんだよ!」
はー、ようやく終わったようだ。
心優しく待ってあげた私を褒めて欲しいものだよ。
鬼道君たちは先ほどとは見違えるような動きとコンビネーションで、次々とディフェンスを抜いていく。
そうこなくっちゃ。
私は彼ら三人の前に立ちはだかる。
「真イリュージョンボール!」
鬼道君の周りを三つに分裂したボールが、衛星のように回る。
前に見た時よりも精度が上がっている。しかし何回も見た技だ。
私は瞬時に本物を見抜き、飛びついた。
そして
「ぐうおぉぉぉぉおおっ!!」
「ちっ!」
本物を見抜いたのは私だけではなかった。
不動は私のボールカットを妨げるために、私に対抗して蹴りを入れた。
しかしキック力の差は明らか。
不動は雄叫びをあげて踏ん張るも、甲斐なく吹き飛んでいく。
しかしそのせいでボールは私のコントロールを逃れ、歪な方向に飛んでいってしまう。
「あとは任せたぞ、フィディオ!」
それを佐久間が拾い、フィディオにつなげた。
彼は凄まじいドリブルでディフェンスを抜き去り、そしてシュート体勢へ。
「決める! —— オーディンソードッ!!」
彼が足を振り上げると、光り輝く魔法陣がボールの真下に展開された。
そこにエネルギーが集中し、蹴りを入れると、ボールは光り輝く剣となって、真っ直ぐにゴールに突き進んでいく。
さすが世界最高クラスのフォワード。見てるだけで凄まじい威力なのがわかる。
でも、そう簡単には入らせやるつもりはないよ。
一瞬でフィディオの前に立ちはだかった私は、足に気を溜める。
すると紫色の光が宿り、それを横一閃に振り抜いた途端、地面から同じ色の激しく燃え盛る炎の壁が出現した。
「デーモンカット!」
くらえ、ヘンクタッカー君直伝の技!
オーディンソードが壁に突き刺さる。数秒間拮抗した後、壁に穴が空いた。
さすがに止めることは無理だ。でもパワーダウンさせれば……。
チームKキーパーのインディゴは不敵に笑いながら、胸を抑える。そして周囲に聞こえるほど大きく彼の心臓が振動した瞬間、その目は真っ赤に染まり、背後に見覚えのある獣が気で形作られた。
「あの技は、まさか……!」
「ハイビーストファングッ!!」
インディゴは野獣のように前に駆け出すと、その両手を牙に見立てて、一気に突き刺した。
光輝く剣がガラスのように砕け散り、ボールが彼の手に収まる。
『ハイビーストファング』。
名前通り、ビーストファングを進化させたものだ。
こっちも皇帝ペンギンX同様、負担を大幅に減少させ、さらに威力を高めることに成功している。
我がブラック企業影山の開発力は世界一ィィィ!! できないことはないィィィ!!
「な、なんなんだあのキーパーは……? イタリアのいったいどこにこんなすごい選手たちが隠れてたっていうんだ!?」
ふふふ、驚いてる驚いてる。
さあ、こっからが本番だよ。エースストライカーのシュート、見せてあげる。
私は厳しい顔をしている円堂君に、目をギラギラ光らせたまま笑いかけた。
新技紹介
♦︎『スプリントワープ』
イナイレGOとGO2最強の無属性ドリブル技。凄まじい速度で複雑な軌道のドリブルを行い、相手を抜く。
ちなみに紫と桃色のオーラが出るのはオリジナル仕様。
たぶんドリブル技まとめの動画とかを探せば見つかるかも……?
♦︎『デーモンカット』
ヘンクタッカーの技。一度だけどアニメにも出ている。知らない人はスピニングカットの紫版と考えればOKです。
♦︎『ハイビーストファング』
アレス登場の必殺技。詳しいアニメでは出されていないので、今作品ではビーストファングの上位互換にしている。
たぶん動画で調べれば出てくるはず。