悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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才能

 手鏡を持ち、映る自分の顔と睨めっこすること数十秒。

 ……よし! 鼻血は完全に止まった。 顔がまだちょっと赤いけど、これは仕方がないことだろう。

 

「やーやー、お見苦しいところを見せちゃったねー。もう大丈夫だよー」

「……さっさとしろ。俺は早く点を取り返さなきゃならないんだ!」

 

 デモーニオ、荒れてるねえ。

 Xも止められたし、点も取られた。たしかにピンチだ。

 でも惜しい。

 こういう時があるからこそ、サッカーは最高に面白いのに。

 

 キックオフと同時にデモーニオから声がかかる。

 

「なえ!」

「わかってるって!」

 

 私はデモーニオへパスを出した。

 ここから展開して、一気に攻める!

 しかし現実はそうはならなかった。

 

 デモーニオは突如足を止め、棒立ちになってしまった。

 そのせいでボールは膝に当たり、跳ね返ってフィールドの外に出てしまう。

 

「……デモーニオ?」

 

 不審に思ったチームKの選手たちが彼の下に駆け寄る。

 デモーニオの様子は明らかにおかしくなっていた。

 まるで暗闇をかき分けるように腕を振りまわしており、足元もおぼついていない。

 やがて、絞り出すようにその口からその言葉が出た。

 

「ボール……ボールは……どこだ……!?」

「デモーニオ、お前もしかして、目が……?」

「拒絶反応だな」

 

 彼に起きた異変を、総帥は興味なさそうに断言した。

 その感情のこもっていない、ひどく冷たい声に彼は一瞬体を震わせる。

 

「拒絶……反応……?」

「貴様には鬼道を超えるようプログラムを設定した。しかし貴様の才能と体はそれに耐えられなかったようだな。拒絶反応が出たのはそのためだ」

「そんな……!」

 

 ガクッとデモーニオが膝をつく。

 

 怖っ!?

 えっ、なにっ!? RHプログラムって計容量以上の力送ると失明したりすんの!?

 うわ……なんか今まで見たドーピングの中で一番副作用が強いような気がする。うまい話はどこにもないってことかあ。

 私のほうは多分大丈夫……のはず。電極で体をいじくり回された彼らと違って私の力はスパルタトレーニングによって手に入れたものだから。

 

 とはいえ、こんな副作用があると知って、彼らのモチベーションが下がらないか心配だ。

 しかしそれは杞憂だったようで、デモーニオは静かに、しかし狂ったように笑い始めると、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……くくく、大丈夫です総帥。まだやれます……!」

 

 異常なまでの忠誠心からか。はたまた力への執着か。

 彼は三日月に口を歪めると、ゴーグル越しでもわかるその鋭い眼光を鬼道君へと向けた。

 

「やめろ! まだわからないのか! あいつはお前を利用しているだけなんだぞ!」

「構わないさっ」

「なに……?」

「お前らにはわからないさ。俺たちがどんな思いでここにいるのかを……っ」

 

 デモーニオは語り出す。

 己の内に秘めた思いを。どうしてこうなるに至ったのかを。

 

 彼らチームKの選手たちは代表に憧れる健全な少年たちだったらしい。

 しかし代表になれるのは選ばれた者だけ。

 実力も、実績も何もない彼らは候補生にすら選ばれなかった。

 そんな時に総帥に出会い、力と夢を叶えるチャンスをもらえたらしい。そうして今に至る、と。

 

 ……うーん、悪いけど共感しづらいわ。

 だって実力なくて選ばれないなんて当然じゃん。

 ないんだったらつければいいのに。

 死に物狂いで特訓すれば代表になるなんて誰でもできるように思えるんだけどなあ……。

 

「総帥は俺たちに世界と戦える力をお与えになった。その代償というのなら……くくっ、この程度の苦しみ、耐えてみせよう! 俺は究極っ! 俺こそ最強っ! 誰も俺に勝つことなどできないぃっ!」

 

 なんかだんだんラリってきたぞ。

 勘弁してよー。もうヤク中は佐久間だけで十分だって。

 

 でも、その狂気的な叫び、気に入った。

 サッカーに命を懸けるというのなら、私は喜んで力を貸そう。

 

「アハハハハッ!! さあドンドン行こうよ!」

「……不動、あの技をやるぞ」

 

 スローイングから試合が再開。

 ボールを受けた鬼道君は不動と並走していく。

 

「……今だ!」

 

 ボールを浮かせ、鬼道君が指笛を吹く。すると姿が陽炎のように揺らいではいるが、紫色のペンギンたちが地面から現れた。

 それを引き連れ、二人同時にシュート。

 紫色のオーラを纏い、ペンギンたちを引き連れてボールは飛んでいく。が、ゴール前でそのオーラとペンギンたちは描き消え、失速した。

 

 今のシュートは……?

 

ハイビーストファング!」

 

 インディゴが苦もなくそれをキャッチする。

 鬼道君たちは悔しそうな顔を浮かべる。

 

 ……失敗したけど、あの技は紛れもなく皇帝ペンギン3号だ。

 同じものを会得しようとしている私にはそれがわかった。

 しかし、彼らのも未完成か。

 皇帝ペンギン3号は理論上でできるとされている幻の技。しかし理論上という通り、それを放つ方法は確立されていない。

 だから私と彼らとで人数の差があってもおかしくないんだけど……どうやら単純に人が多くいればいいってわけでもないようだね。

 

 ともかく、これ以上は危険だ。

 未完成といっても、雷門関係の人たちはそれを試合中に完成させてしまうことがよくある。

 万が一撃たれてもいいように、今のうちに差を広げておかなくちゃ……!

 

 キーパーからのボールを胸で受け、前を振り向く。

 そこにはすでにスライディングの体勢に入っている不動がいた。

 

真キラースライド!」

「甘い!」

 

 すぐにジャンプして回避。

 しかしそれを読んでいたかのように、着地地点には鬼道君がいた。

 その足には青い光が灯っている。

 

スピニングカット!」

「っ、まだまだァ!」

 

 回避は不可能。

 なら力尽くで破るするしかない!

 私は体当たりをぶちかまし、衝撃波の壁と激突した。吹き飛ばされそうになるのを耐え、ジリジリ前へ進んでいき……声をあげて突破する。

 その青い光を超えた先で——円堂君がいた。

 

「うぉぉぉおおおっ!!」

「きゃっ!」

 

 突然の不意打ち。

 不安定な体勢になっていた私は円堂君と激突し、地面に倒された。

 ぐぅ……! まさかこんな短時間に二回もゴールキーパーが上がってくるなんて……!

 

 衝撃でこぼれたボールを、フィディオが拾う。

 

「俺は究極なんだ! 究極でなければならないんだァ!」

「究極なんて存在しない! みんな究極のプレイを目指して努力する! 努力するから進化するんだ! 自分を究極と認めたら、進化はそこで終わるぞ!」

「っ、黙れェェェェェ!!」

 

 思考も視野も狭まってしまっているデモーニオに、フィディオを止められるはずがなかった。

 白い流星が、彼の横を通り過ぎる。

 

「いけ、鬼道!」

 

 センタリングが上がった。

 それを受け取ったのは鬼道君。その横に不動、佐久間が並走していく。

 

「お前たちのシュートには高さが足りないんだ!」

「高さ……そうか、高さか!」

 

 佐久間の一言で何かに気づいたようだ。

 鬼道君はボールを高く上げ、三人が同時に空へ跳び上がる。

 

 高さ……そういうことか!

 横のつながりと縦のスピード。

 これが今までの皇帝ペンギンに必要なもの。

 それをさらに進化させるには、そこに高さを加えて三次元にすればいいんだ!

 

 空中で紫色のペンギンたちが泳ぎ回ることによって渦が発生。そのエネルギーは段々と渦の中心にあるボールに集中していく。

 そして十分に溜まったところで、三人は同時に踵落としでボールを撃ちだす。

 

皇帝ペンギン3号!!』

 

 膨大なエネルギーを宿しているはずなのに、荒れ狂うことなくまっすぐゴールに飛んでいっている。

 1号を超える威力と、2号以上の安定性。

 それはまさに芸術品の領域だった。

 思わず私はそのシュートに見惚れてしまう。

 これが……これが、皇帝ペンギン3号……!

 

デーモンカット!」

ハイビーストファング! ——がぁあああああ!!」

 

 私のシュートブロックも、キーパーの技も、もはや全て悪あがきでしかない。

 ペンギンたちは壁を貫き、牙を打ち砕き、そしてゴールに突き刺さった。

 

 地面に転がるボールをじっと見つめる。

 高さ、かあ……。

 ふふっ、ふふふっ……!

 歓喜の思いが抑えきれなくなり、笑い出してしまう。

 

「ふふふっ、アハハハハッ!!」

「なにがおかしい!?」

「おかしい? 違うよ、私は嬉しいんだよ。なにせ……()()()()()()()()3()()()()()()()んだからね」

「なんだと……?」

 

 あの3号を見た瞬間、私の中に欠けていたピースがピッタリはまった感覚がした。

 おそらくじゃない。私は今、自身がその技を撃つことができると確信している。

 

「デモーニオ! 私にボールを回して!」

「……俺は究極じゃなかったのか……?」

「デモーニオ?」

「あっ、ああ!」

 

 デモーニオ、なんか元気ないなぁ。

 まああれだけXにこだわっていたからね。それを超える技を見せられたらああなるか。

 でもこの技を使えば、きっとこの悪い雰囲気を払拭できるはず。

 

 キックオフで私にボールが渡る。

 

「みんな、あれやるよ!」

 

 私が呼びかけると、フォワードとミッドの全員がセンターサークル内に集まった。そして私たちは一斉に指笛を吹く。

 すると、地面から十数匹ものペンギンたちが飛び出してきて、ミサイルのように鬼道君たちに向かっていった。

 

「必殺タクティクス—— ペンギンカーニバル!」

「ぐあぁぁっ!」

「ガハッ!」

「みんなっ!」

 

 ペンギンの群れは進路上にいる選手たちを次々と倒していった。

 さすが総帥考案の必殺タクティクス。前線から中盤がこれだけで全滅しちゃったよ。

 みんなが倒れている間に私は悠々とそこを通り過ぎ、ペナルティエリアに侵入した。

 

「よーく見ててね。これが私の新しい皇帝ペンギンだよ!」

 

 ボールを両足で挟み、デスゾーンの要領で回転しながら真上に跳躍。ある程度の高さまでいったところでボールを離すと、それを中心として六芒星(ヘキサグラム)のような桃紫色の魔法陣が出来上がった。

 その真上に浮かびながら、指笛を吹き、六匹の桃色のペンギンを呼び寄せる。そして彼らとともに落下していき、両足で魔法陣の中心を蹴った。

 

 彼らの3号は1号というよりも2号寄りの進化系だ。

 だったら、単独の私が撃つこの技の名は——。

 

皇帝ペンギン零式(ゼロしき)ッ!!」

 

 魔法陣から桃紫の極太の閃光が放たれた。同時に魔法陣を通過したペンギンたちもそれぞれ小さなレーザーとなり、閃光の周囲を飛んでいく。

 

バーバリアンの——がぁぁぁっ!!」

イジゲン・ザ・ハンド! ——ダメだ、抑えきれない……!」

 

 巨大な盾や結界が出現するも、閃光たちは全く速度を落とさずにそれらを突き破った。

 自分で言うのもなんだけど、すっごい威力だ。明らかに鬼道君たちの3号を超えている。おそらくもう一回円堂君が技を使っても止めきれないだろう。

 

ダークトルネード!」

 

 最後の最後に鬼道君が黒い竜巻を纏った蹴りを繰り出す。

 そういえば、あのシャドウって人雷門に入ったんだっけ。たぶんその時に教えてもらったのだろう。

 でも、無駄だ。

 

「っ、ぐっ……!」

 

 鬼道君の足がだんだん折り畳まれていく。それでも粘ろうとしたけど、最後には体ごと吹き飛んでいった。

 そして、閃光はネットに七つの穴を空け、奥の壁を粉砕した。

 

 ゴール。二対二であっという間に同点だ。

 グラウンド中が沈黙に包まれていた。みんなあのシュートの威力に呆気に取られている。

 

「……やった! 完成、完成したよ総帥!」

 

 そんな中一人、私はぴょんぴょんと飛び跳ねて無邪気に喜んでいた。

 総帥のところに駆け寄ってみるけど、その表情はいつも通りのしかめっ面だ。

 むー、たまには褒めてくれてもいいのに。

 しかし次の言葉でその理由がわかった。

 

「……壁の修理代はお前の給料から出しておこう」

「……あっ」

 

 ギギギッと首を動かす。

 ……あー、煉瓦造りの壁に見事な大穴が空いちゃってるね。こりゃ完全修復は難しそうだ。

 誰だこんなはた迷惑なことしたのは!?

 私だよ!

 

「お願い総帥待って! グッズとかユニフォーム買いすぎて今月本当にヤバイんだって!」

「……」

「嘘だドンドコドーン!!」

 

 総帥は後ろを向いて顔すら見せてくれなくなる。

 ……ん? 横顔が一瞬見えた時、ちょっと口が動いたような……まあ、気のせいか。

 ガックリって項垂れ、今後のことを考えてため息をついた。

 

「……何故だっ!?」

 

 デモーニオの叫びが背中から突如聞こえた。

 振り向くと、彼は砕けそうなほど強く歯ぎしりして、こちらを睨んできている。

 ……はて? フィディオとかならともかく、なんでデモーニオがこんな表情を私に向けるんだろ?

 

「俺とお前は同じ力を与えられたはず! なのにっ、なのになのにっ、なのに何故お前はたやすく俺の先をいくっ!?」

「そりゃ、成長のタイミングなんて人それぞれでしょ」

「結局は才能が全てだと言いたいのか!?」

「ちょ、ちょっとどうしたのデモーニオ? 仲間が点を決めたんだよ? もっと喜ぼうよ」

「お前など仲間でもなんでもないっ!」

「……へっ?」

 

 仲間じゃないって……どういうこと……?

 ハッとし、周りを見渡す。

 チームKの選手たちはみんな、デモーニオみたいな表情を私に向けていた。

 

「や、やだなぁみんな、そんな感じの悪い顔しちゃって……具合でも悪いの?」

「お前に俺たちの気持ちなどわかるものか! 『才能』のあるお前にはな!」

「っ……!」

 

 この感じ、本気だ。

 彼らは今心底私を嫌っている。

 

「才能って……チームメイトにそんなこと言う必要ないじゃないか!」

「そうだ! それになえは顔には出さないけどスッゲェ努力家なんだ! 仲間の俺たちはそれを知ってる! それを才能なんて悲しい言葉で一括りにするな!」

「うるさいうるさいうるさぁぁいっ!! お前らも同類だ! 所詮『才能』のあるやつには俺たちの気持ちなんてわからないんだ!」

 

 見かねたのか、フィディオや円堂君が擁護しようとしてくれたけど、デモーニオはただ騒ぐばかりだった。

 『才能』。

 その言葉を聞くたびに自分の中の何かが削れていくのを感じる。

 ついに私は耐えきれなくなり、声を荒げた。

 

「才能、才能って……代表なんだから強い人が来るのは当たり前でしょ! なんでなの!? みんな、何しにここに来たの!? 世界を相手に戦うためじゃないの!?」

「……」

「答えてよ! 本気だったのは私だけなの!?」

「……俺たちのじゃないサッカーで世界を取って、なんの意味があるんだ……」

 

 その言葉で、はっきりとわかってしまった。

 ああ……こいつらは世界なんて目指してなかったんだって。

 こいつらはあくまで身内の仲良しこしで気持ちよくサッカーできればいいのであって、世界ってのはその快楽の口実でしかなかったんだ。

 彼らの顔が灰色に染まっていく。

 声も、雑音のようになって聞こえなくなっていく。

 ……ああ、もういいやこんなやつら。

 こんなのの仲間なんて、まっぴらごめんだ。

 

 気がつけば、私はボールを目の前の男にぶつけていた。

 彼は数十メートル吹っ飛んだ後、頭から地面に落ちてそのまま五、六回バウンドし、宿舎の窓に突っ込んだままピクリとも動かなくなる。

 この手応え、全身の骨がバラバラになってることだろう。よくて全治一年ぐらいか。

 

「デモーニオ! ……このやろッ!?」

「ガハッ!!」

「ぐがァァッ!!」

 

 突っ込んでくる暴漢どもに、跳ね返ってきたボールを撃ち出す。

 それはピンボールのように男たちに当たって跳ね返っては、また別の男に当たり、を繰り返していく。

 そいつらを殲滅するのに最終的に一分すらかからなかった。

 全員どこかしらの骨を折っておいた。これで邪魔をすることはできないはずだ。

 私はクルッと振り返り、笑顔を浮かべる。

 

「ごめんね、円堂君、フィディオ。さあ、試合を再開しようか」

「彼らは……?」

「人数が足りなくてごめんね。私が分身でもできればよかったんだけど……でも、諦めるつもりはないよ」

「君一人でやるつもりなのか?」

「たとえ一人になっても、私は一度始めた試合を投げ出したりなんかしない。私はサッカー選手なんだから」

 

 一人で十一人を相手にするなんて無謀を通り越して相手を侮辱してるようなものだということは理解してる。

 でも、負けたくない。負けたくないんだ。

 試合を続行するかいまだためらっているフィディオに頭を下げる。

 

「……フィディオ、続けるぞ」

「しかし鬼道、これじゃあ試合に……」

「言って聞くようなやつじゃない」

「……わかった」

 

 フィディオはようやく頷いてくれ、ボールをセンターサークル内に設置した。

 ありがとう。

 心の中でそう言い、ちらりと掲示板を見る。

 これが最後のプレーになりそうだ。

 パスを回されれば勝ち目は薄いだろう。

 いくら私でも世界クラスの選手たちのパスより速く動くことはできない。

 だったら初手は……!

 

 オルフェウスがキックオフすると同時に、私は紫色の光を足に宿して飛び出した。

 

デーモンカットッ!」

「っ、鬼道!」

 

 しかし、不発。

 相手側も私がそれしかないのをわかってたようで、フィディオはダイレクトでバックパスを出し、デーモンカットを避けていた。

 ボールは相手側の中盤へ。

 ここで奪いにいけば、私側のコートはガラ空きになる。そこをカウンターで突くつもりだろう。

 オフサイドはそこら辺に転がってるゴミのせいで機能しない。

 前に進むのは間違いなく悪手だ。

 でも、それしか道はない!

 

 意を決して前へ駆け出した。

 それを見た鬼道君はすぐさま私の頭上を超え、大きく弧を描くような軌道でセンタリングをあげる。

 そう来るのはわかってるんだ!

 私は鬼道君が動き出した途端に急ブレーキをかけ、逆走する。

 相手側のフォワードはフィディオと佐久間。

 つまりパスの行先は右か左かの二択だ。

 迷いは切り捨てた。

 運を天に任せ……佐久間のいる右側に踏み込む。

 結果は……。

 

「だぁぁぁあああ!!」

「しまったっ!」

 

 私は賭けに勝った。

 佐久間よりも高く飛んで、パスのインターセプトに成功する。

 直後、加速。

 体から桃色のオーラが溢れる。

 

スプリントワープ!」

 

 あっという間に三人を抜き去った。

 しかし、ゴールまではまだまだ遠い。

 味方が誰もいないので、全員がこっちに向かってきている。そのせいでせっかく見えていたゴールへの道もすぐに閉ざされてしまった。

 

「ぐぅっ! スプリントワープッ!!」

 

 桃色のオーラをさらに引き出し、再び加速。

 今度は四人もの選手たちを抜き、ようやく中盤を抜けた。

 くっ、間髪入れずに技を使ったせいで体中の筋肉が痛い……!

 でも、まだやめるわけには……!

 

スプリントッ!!」

スピニングカット!」

「ああっ!!」

 

 二度目のスプリントワープの効果が切れた一瞬を狙ったかのように、三回目を発動する間もなく衝撃波の壁が発生した。

 この技は、鬼道君のか……!

 

「疲労しすぎだ。動きが読みやすくなっているぞ」

「ぐっ……!」

 

 鬼道君は口笛を吹き、佐久間と不動とともに空中に跳んだ。

 まさか、こっから撃つ気じゃ……!

 慌ててゴール前までに引き返そうと、足を必死に動かす。

 

皇帝ペンギン3号ッ!!』

 

 鬼道君たちが同時にかかとを落とし、紫のペンギンたちが解き放たれる。

 でも皇帝ペンギン系の技はペンギンを呼ぶため、撃つまでに十秒ちょっとかかる。その隙に私はなんとかペナルティエリア前までに辿り着いていた。

 

 まだなんとかなる!

 ほとんどあんなに遠い場所から撃ったんじゃ、シュートの威力は大幅に落ちる。

 そこに私のこの皇帝ペンギンXV3を思いっきり叩き込めば……!

 

 そう思い、前を見やる。

 センターサークル辺りで見えたのは、ボールに向かって走っているフィディオだった。

 

オーディンソードッ!」

 

 シュートチェイン。

 失速気味だったペンギンたちが金色の光を身にまとい、再び加速し出す。

 

 勝ちたい! 今日こそ勝ちたいんだァァッ!!

 

皇帝ペンギンX、V3ィィィッ!!」

 

 ものすごい衝撃が右足から伝わって、軸にしてある左足が浮かび上がった。

 私の体は支えを失い、ボールの勢いに押されてどんどん後ろに下がっていく。

 しかしゴールラインギリギリのところで踏ん張り、再び左足を地面に突き刺すことができた。

 それでも……重い……!

 体がどんどん傾いていく。

 負けたくない! 負けたくない!

 しかし体はその思いは届かず……私は弾き飛ばされて、ボールとは別々にゴールに入る。

 

 同時にホイッスルが鳴り響いた。

 試合終了。

 私はまたしても……円堂君たちに負けた。

 




 前回に続いて必殺技解説。

 ♦︎『ペンギンカーニバル』
 GO登場の必殺タクティクス。本来はディフェンス系のタクティクスだが、この作品ではオフェンス技にした。
 若干他のタクティクスに比べて超次元的な要素が強いが、GOのはだいたいこんなのばっかなので仕方がない。

 ♦︎『皇帝ペンギン零式(ゼロしき)
 今作オリジナルの技。皇帝ペンギンとデスゾーンを融合させたような技で、形成した六芒星の魔法陣から桃紫色の極太のレーザー一つと、ペンギンたちが変化した六つの小さなレーザーを放つ。
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