悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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一番恐ろしいのは、目に見えぬ裏切りである

「率いるチームを決勝戦まで進めるとは、さすがだな冬海」

『も、もうしわけございませんっ。まさかやつらがここまでやるとは……』

 

 パソコンの画面から冬海先生の声が聞こえてくる。

 うちの総帥の部下いびりは今日も絶好調のようだ。される方はたまったもんじゃないけど。

 

「とりあえず、私からは雷門決勝進出おめでとーって言っておくね」

『あ、ありがとうございます……?』

「ほう、この状況で喜ぶか。貴様もずいぶん偉くなったものだな」

『ひぃっ、す、すみません! 今のは誤解です!』

 

 あっはっは。たーのしー。

 やっぱストレス発散は部下いびりだね。

 さっきの言葉は取り消しておこう。

 

 二回戦の御影専農を破ったあと、雷門は3対0という華々しいスコアで秋葉名戸を下していた。

 これによって雷門の決勝進出が確定。だからこそ、スパイである冬海は焦っているというわけだ。

 

「どんな手を使ってもいい。雷門中を決勝戦に参加させるな。いいか、どんな手を使ってもだ。もしも失敗したときは……」

『わ、わかっております……。なんとしても、不参加にしてみせます……』

「それでいい」

 

 プツンという音がして、通話が切れた。

 

「あーあ、残念だなぁ。私、雷門と戦いたかったんだけど」

「我慢しろ。雷門程度の実力のチームなど、この世にはゴロゴロいる」

「そういうんじゃないんだけどな……」

 

 たとえ実力があったとしても、そこに“熱“がないと意味ないのだ。

 例をあげるならうちのチームと雷門のように。

 

 とりわけ雷門、特に円堂君からはこれまでで見たことのないほどの”熱“を感じられた。

 だから楽しみにしてたんだけど……。

 

「総帥、私はあなたの部下、それだけは確かだよ。でも下に着くときに私が出した条件、忘れてないよね?」

 

 いつものおっちゃらけた雰囲気を取り消して、真面目なトーンで問いかける。

 

「……ああ、覚えているとも。『最高のチームを作り上げ、最高の試合をマッチメイクすること』。今日のことのように思い出せる」

 

 総帥は椅子に寄りかかったまま上を見上げていた。

 光を呑み込む漆黒のサングラスの向こうに映っているのは昔の私なのか。

 それは私にはわからない。

 

「安心しろ。プロジェクトZがコンプリートされ次第、貴様には褒美をくれてやろうと思っていたところだ」

「褒美ぃ? ケチな総帥にしては珍しいね」

「……」

「あ、すんません冗談ですっ!」

 

 無言の総帥の圧力は怖かった。

 室温が10度くらい下がった気がしたよ。

 総帥は改めてその褒美とやらのことを私に告げる。

 

「世界への切符。それが貴様への報酬だ。プロジェクトZが遂行された暁には、貴様を中心とした日本代表『シャドウジャパン』を作り上げ、そのチームのキャプテンに置いてやろう」

「えっ、ほんと!? ようやく世界の強豪たちと戦えるの!? やったぁ!」

 

 まだ見ぬ強敵を思い浮かべるだけで、胸が高鳴っていくのが感じられる。

 

 よっしゃ、燃えてきた!

 絶対にプロジェクトZを成功させてみせる!

 そのために潰れてくれ、雷門! 

 

 疲れなんて一気に吹き飛んでいき、火がついたかのようにパソコン作業をしまくる。

 その集中力は途切れることはなく、あっという間に今日の分のデスクワークが終わってしまった。

 

 待ってろよ、世界!

 置いてあったボールでドリブルしながら、グラウンドまで全速力で向かっていったのだった。

 

 

 ♦︎

 

 

 数日後、帝国グラウンドにて……。

 

 天高く打ち上げられたボールを追いかけて私、佐久間、寺門が回転しながら空中に飛び上がる。

 そのまま取り囲むと、紫色の三角形が私たちの足と足を点として結ぶように形成される。

 十分なエネルギーがボールに注入されたところで、私たちは同時に両足裏でそれを蹴りつけた。

 

『デスゾーン!』

「パワーシールド! っ、がぁっ!!」

 

 三角形から紫のオーラに包まれたボールが撃ち出された。

 ゴール前に立っていた源田は一度ジャンプしたあと、拳を地面に叩きつけて衝撃波の壁を発生させるが、デスゾーンはそれを突き破りゴールへと入る。

 

「っ、前よりだいぶキレが出てきたな、デスゾーン」

「ああ。だがこれだけでは足りない。例の新兵器を試す。全力で構えろ源田」

 

 鬼道君はそう言い、源田が構えたところで口笛を吹く。

 地面から複数のペンギンが生えてくる。

 

「いくぞ、皇帝ペンギン——」

『——2号!!』

 

 皇帝ペンギン2号発動。

 鬼道君から蹴り出されたボールに、私と佐久間が同時に足を叩き込み、加速させた。

 ペンギンたちがミサイルのように唸りを上げてゴールへと突っ込んでいく。

 

「フルパワーシールドッ!!」

 

 源田は両手に溜めた気力を右手に集中させると、先ほどのように地面を叩いて衝撃波を発生させる。

 それはパワーシールドよりもずっと大きいものだった。

 

 ペンギンのくちばしが衝撃波の壁をガリガリと削っていく。

 しばらくの均衡。

 それは壁にヒビが入ったことによって崩れた。

 

 ガラスのように壁は砕け散り、源田は反動で吹き飛ばされる。阻む物がなくなったゴールにペンギンとボールが突き刺さる。

 

「ぐっ……さすがだな、皇帝ペンギン2号。凄まじいパワーだ……!」

「ああ、これならゴッドハンドも打ち破れるだろうな。だが、果たして使うときがくるかどうか……」

「なんだと?」

 

 どういう意味なのかと、源田たちは聞き返す。

 鬼道君は少しだけ俯く。

 

「……総帥が雷門のバスに細工をした」

「な、なんだって!?」

 

 私を除いた全員に動揺が走った。

 一番早く立ち直ったのは佐久間だった。

 彼は鬼道君に質問を投げかける。

 

「雷門のバスに細工って……お前は何も言わなかったのか?」

「言ったさ。だがあのお方は聞き入れてくれなかった……」

「くそっ、そんなことしなくても俺たちは勝てるのに……!」

 

 みんなの顔に怒りが浮かび上がる。

 当然だ。

 彼らは誇り高い帝国サッカープレイヤーなんだ。

 身内に、しかもよりによって監督に自分たちの力が信用されていないと知れば、当然怒るに決まっている。

 

「お前の方はどうにかできないのか、なえ?」

「ムリムリ。あの人超頑固だもん。ああなった総帥は誰にも止められないよ」

「一応、俺が潜り込ませていたスパイも今回の件には疑問を抱いていたようだが……どうなるかはわからない。やつが上手くやってくれればいいのだがな」

 

 あ、これ重要情報ゲットだわ。あとで妨害工作を取らないと。

 

 ここにいるメンバーは鬼道君を含めて全員、私が総帥側の人間であることを知らない。

 無論、私だって総帥のやり方は嫌いだ。

 あくまでサッカー選手はサッカーで。それがこの世界の掟でしょうに。

 でも、女子である私がこの世で輝くためには総帥の力を借りるしかないのだ。

 だから私は、何も言わずに黙っていることにした。

 

「俺は総帥のやり方を否定する」

 

 鬼道君はそれだけ言い残すと、グラウンドを去っていってしまった。

 

 あれはかなり思いつめている様子だった。

 彼、たしか去年の全国大会決勝で豪炎寺君が不参加だったときも違和感を覚えていたらしいからね。

 今までは証拠隠滅が効く範囲だったからなんとかなってたけど、雷門が現れてから派手に動きすぎたか。

 

 鬼道君が去り、辺りに気まずい雰囲気が流れる。

 このままでは練習に身が入りそうにないので、今日は中止することとなった。

 

 着替え終えてスマホを確認。総帥が今夜稲妻町に出張する予定らしく、それについてこいとのことだ。

 顔文字で了解と返事をして、私は駐車場を目指した。

 

 

 ♦︎

 

 

 黒塗りの高級外車の座席に座りながら、たった今来たばかりのメールを確認する。

 差出人は帝国学園暗部所属の黒服君からだ。

 どうやら冬海が失敗して雷門を追放されたらしい。

 

 あーあ、せっかく鬼道君から有益な情報をゲットしたばっかだってのに。その直後に追放されるもんだから妨害工作を入れる間もなかったよ。

 

「これで冬海はお役御免か……私たちに泣きついてこないかちょっと心配だね」

 

 言っていると、車の車線に横から誰かが飛び出してくるのが見える。

 運転手の人が勢いよくブレーキを踏み、車が止まった。

 

 あっぶないなぁ……誰だよこんな迷惑行為するやつは! 

 

 ライトに照らされ、犯人の姿が見えるようになる。

 それはついさっき頭で考えていた冬海その人だった。

 

 助手席に座っていた総帥が眉をひそめながらも、鬱陶しそうに車の窓を下ろす。

 夜の冷たい風よりも早く、耳障りな声が入ってきた。

 

「総帥っ、お許しください!」

「許す? 何をだね? 君が勝手にやったことだ。許すも何もないだろう」

 

 アスファルトに頭を擦り付けるように、冬海は土下座した。

 総帥は目もくれずに、淡々と冬海を見捨てることを告げる。

 

「そんなぁ……! 総帥、私が今まで誰のためにあんなことをしたと思っているんです!?」

「自分のため、ではないかね?」

「そ、そんな……!」

 

 がっくりとうなだれる冬海。

 それでも諦めきれないのか、今度は私の方の窓に向かって叫んでくる。

 会話しないと帰ってくれなさそうだからなぁ。

 仕方なく窓を下ろす。

 

「白兎屋さん、貴方たしか帝国学園に私のポストを用意していただけると言っていましたよね? ねっ?」

「もちろん用意してたよ。でも命令を満足にこなせない不良品はうちには必要ないんだよ」

「それはないですよ! 白兎屋さん、元はと言えば貴方から持ちかけてきた話じゃないですか!? だったら責任の一つや二つ取ってくださいよ!」

「責任? なんの責任があるっていうのさ? そんな他人のことを気にするよりも、自分のしでかしたことについて責任を持ったほうがいいと思うんだけど」

「ふ……ふざけるなぁ!」

 

 ついに堪忍袋の緒が切れたのか、冬海は空いた窓の奥にいる私に殴りかかってきた。

 

 すぐにドアを勢いよく開ける。

 金属の板が冬海の顔面を打ち付け、車に敷かれたカエルのように無様に倒れた。

 その額を踏むように押さえつける。そうすることで重心を持ち上げられなくなり、結果立ち上がることが困難となる。

 冬海は四肢をバタバタと動かしてもがき始めるが、私の足が動くことはなかった。

 

「無駄な抵抗はしないほうがいいよ。私、こう見えて総帥の護衛として軍隊格闘術やってるから」

「ひっ……!」

 

 その一言で冬海は黙った。

 子羊のように震える様子が嗜虐心をくすぶる。

 自然と口が三日月に歪んできた。

 

「せめてもの慈悲として、殺さないでおいてあげる。これからはどこに行くも自由。……だけど、くれぐれも私たちの邪魔だけはするなよ?」

「はっ、はいぃ……!」

「オーケー。じゃ、しばらくの間お休み」

「えっ? ……がっ!?」

 

 足をバレリーナみたいに高く上げて、かかと落としを食らわせる。

 冬海は衝撃で一度跳ね上がったのち、白目を向いて動かなくなった。

 このままじゃ交通の邪魔になりかねないので、歩道まで真下のオブジェを蹴り飛ばす。

 

「ゴミ掃除完了っと。運転手さんももう出発していいですよー」

 

 車に乗るとエンジンがかかり、窓からの景色が後ろに流れて行く。

 しばらく進むとイナズマのシンボルが掲げられた鉄塔が目に入った。

 

 ようやく稲妻町に着いたみたい。

 それにしても総帥はこんなチンケな町に何の用があるんだろうか。

 私の疑問をよそに、車は商店街にまでやってきた。そして見覚えのある看板を前にして止まる。

 

 看板には『雷雷軒』と書かれていた。

 

 店の前では以前会った店員さんがシャッターを下ろしている。

 が、近づいてくる不審な車に気づいたようでこちらに視線を向けてくる。

 総帥は不気味な笑みを浮かべながら外に出て、店員さんに声をかける。

 

「何年ぶりだろうな……」

「っ、お前は……!?」

 

 店員さんは驚き、数歩後ずさった。

 

 この反応、もしかしなくても二人は知り合いだったようだね。

 もっとも店員さんの表情から、あまりいい関係じゃないようだけど。

 

「帝国は無敵だ。それだけ言いにきた」

 

 総帥はそうかっこよく宣言すると——すぐに車へ引っ込んでいった。

 そして車が走り出す。

 

 ……えっ、それだけ? それ言うためだけにわざわざ稲妻町まで来たの? 

 

 ちらりと前の席に座っている総帥の顔を伺う。

 なんかずいぶんスッキリしたような表情だった。

 

 どうやら本当に、これを言うためだけに来たらしい。

 

 さすが総帥! 嫌がらせにだけは決して手を抜かない!

 そこに痺れもしないし憧れもしない。

 

 それにしてもあの店員さん、何者なのだろうか。

 総帥を見てあんな顔する人は限られているから、簡単に調べがつくとは思うけど……。

 

 また総帥に目を向ける。

 直接聞くのも手段だけど、果たして答えてくれるかどうか。

 下手したら嫌味を言われかねないので、放っておくことにした。

 

 ここで総帥のスマホが鳴り出す。

 通話の相手は鬼道君のお父さんかららしい。なんでも鬼道君の様子がおかしくなったとか。

 十中八九、総帥のせいでしょうねぇ。

 それで元凶に頼るんだから本末転倒だ。

 

「鬼道邸へ向かってくれ」

「あ、総帥。私ここで降りていい? せっかくだから寄りたい場所があるんだ」

「いいだろう。貴様がいると邪魔だからな」

 

 連れてきたのアンタでしょうが! 

 あまりの理不尽にそんな言葉が出そうになったが、押さえつける。

 車は商店街の出口で止まった。

 降りた場所からは暗いせいで見づらいが鉄塔が見えた。

 

 せっかくだから、また円堂君の特訓場にでも行くか。

 今は八時だけど円堂君のことだからまだ特訓してるかもしれないし。

 

 




 前回に引き続き、腹黒兎がどんどんその本性を表してきるなぁ。
 哀れ冬海、リストラ。
 もちろん帝国学園暗部はブラック企業なので、退職金は出ません。

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