悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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未知なる殺気

 イギリス戦が終わった次の日。

 私は今日も今日とてボール磨きに勤しんでいた。

 マネージャー業もやんないと生活できないからね。敵の情報も集めなきゃいけないし、忙しいもんだよ。

 

 あれからオルフェウスの一部の人たちは話しかけてくれるようになった。たいていはまだ警戒しているのか長続きしないけど、それでも挨拶とかはしてくれるようになったし進歩してると思う。

 特にフィディオとアンジェロちゃんはよく話しかけてくれる。

 アンジェロちゃんかわいいよアンジェロちゃん。

 小柄で金髪で輪っかみたいな髪飾りつけてるところとかマジで天使だ。

 え……性別? 黙ってなよ口縫い合わすよ?

 

 まあ、もちろん私をまだまだ受け入れてくれない人もいるけど。

 

「ナイスキャッチだブラージ!」

「もっと強く撃ってこい! こんなんじゃアメリカ代表のシュートに及ばないぜ!」

 

 ラファエレのフリーズショットを止めたブラージが叫ぶ。

 燃えてるなぁ、彼。

 イギリス戦で一点取られたことでさらにやる気を出しているようだ。あと私への対抗心ってのもあるかな。

 けっこうきつい態度を取ってくるけど、私は別に彼のことが嫌いなわけじゃない。

 なんというか、雰囲気が似ているのだ。染岡君に。

 強面で努力家っていう部分なんてそっくりだ。だからこそ嫌いになれないのかもしれない。

 

 その後もブラージはシュートを止め続けたけど、どこか不完全燃焼ぽかった。

 フィディオはキャプテンとして別のメンバーの指揮を取ってるし、シュート練を頼み込むわけにはいかないってところか。

 ……しょーがないなぁ。

 私はボールを転がしながらゴール前まで歩いていった。

 

「あ? 練習の邪魔だ、そこからどけ!」

「いや〜、弱っちいシュートばっか止めて調子に乗ってるブラージ君に現実ってものを見せてあげようと思ってね。優しいでしょ、私?」

「ああん? 上等だ! お前のヘナチョコシュートなんざ何本でも止めてやらぁ!」

「……吐いた唾飲まないでよ!」

 

 ゴールに向かって思いっきりシュートを叩き込む。

 コースは左ポストギリギリ。ブラージは反応して手を伸ばすも追いつけず、ボールはその横をすり抜けた。

 

「くっ……まだまだ!」

 

 二本目。これまたブラージは得点を許してしまう。

 この後何本もシュートを撃つも、ブラージがボールに触れることはなかった。

 しかし十一本目。とうとう彼は体の中心でガッチリとボールを捕らえることができた。

 

「ぐっ、うぉぉぉっ!?」

 

 でもそれだけじゃ足りないんだけどね。ボールの勢いに負けて結局ブラージはその巨体ごとゴールに押し込められてしまった。

 

「はいざんねーん。くすくすっ」

「くそっ! もう一本だ! 今度こそ止めてやる!」

「いいよー。その自信を木っ端微塵にしてあげる」

 

 そんなこんなで小一時間、私はシュートを撃ち続けた。

 えっ、何回止められたのかって? それは彼の名誉のために言わないでおこう。

 

 

 ♦︎

 

 

 練習が終わり、シャワーを浴びたあと全員はミーティングルームに集まる。

 部屋はどことなく日本の大学の教室に似ており、机と椅子が半円を描くように設置されている。

 黒板にあたる場所には巨大モニターが設置されており、その前に私は立っていた。

 

「はーい。じゃあアメリカ代表ユニコーンの研究会を始めるよー」

「わかっていると思うけど、前回のイギリス戦で苦戦した理由の一つは情報不足だ。相手がどんなプレーをしてくるのかもわからないまま闇雲に戦ってしまった。もし研究してたら、無敵の槍の弱点を試合前に看破して最初の一点も防げたかもしれない」

 

 フィディオは今回の研究会の意義を簡単に説明してくれた。

 彼は私の補佐だ。私が直接彼らに正論を言うよりは彼が緩衝材となってくれた方が説得力が増すだろうと思ってあらかじめお願いしておいたのだ。

 

「だからってよ。そいつの集めた情報で大丈夫かよ」

 

 肘を机につきながらラファエレが言い出す。フィディオはその文句を予想していて、顔色一つ変えず冷静に対処する。

 

「ナエとアメリカ代表の映像は関係ない。そして仮に嘘の攻略法を教えられても、映像をよく見て自分で考えていればそれが嘘だと分かるはずだ。ラファエレ、君はそれが判断できない程度の選手なのかい?」

「……ちっ、わかったよ。もう文句は言わない」

 

 若干挑発じみてたけど、彼とかのプライド高そうな人たちにはそれくらいがいいだろう。ここで文句を言えば『自分は代表なのにそんなこともできない』と認めてしまうことになるからね。

 その効果はあったようで、ラファエレをはじめとあいた反対派の人たちは黙り込んだ。

 

「みんなも異論はないな」

 

 確認のためフィディオが全員を見渡す。

 意見を出す人はいなかった。

 私は近くに置いていたパソコンを操作して、一番最近のアメリカ代表の試合を再生した。

 

 そして数十分後。

 ところどころ早送りして見終えたあと、私は注目選手のデータを表示する。

 

「今見た通り、アメリカは攻撃力が高いチームだよ。キャプテンのマーク、フォワードのディランは当たり前として、ミッド陣のイチノセなんかも積極的に攻撃に参加してくる」

「まさに『速攻』って感じだな。ボールを回収してから攻め入るまでの間がほとんどない。ディフェンスは少しでも隙間があれば一瞬で攻め入られてしまいそうだ」

 

 フィディオの懸念をよそに、私は別のことを考えていた。

 『カズヤ・イチノセ』。

 知っての通りFFの時からいる雷門のメンバーだった男だ。もちろん私とも戦い、共闘したことがある。

 彼はもともとアメリカに籍を置いていたらしく、その関係で日本ではなくアメリカ代表となったらしい。なんかこれまでも二回ぐらい聞いた話だ。

 でもその実力は私が知ってるよりも遥かに成長している。こうやって注目選手の一人として紹介しているのはひいきでもなんでもなく、それほど脅威だからだ。下手したらアメリカで一番危険かもしれない。

 

 ……そういえば試合の映像見ている時、ちょくちょく不気味な小枝っぽいものが映ってる気がしたんだけど、あれはなんだったのだろうか。あれを見てるとなんか一人忘れてる気がするような……。

 まあ気のせいか。他国の代表にそんなにちょくちょく私の知り合いがいるわけないしね。アハハ。

 

「幸いディフェンスは平均的でそれほど厚いというわけじゃない。だから一番いいのは攻め続けてリズムを握らせないことだ」

「二番目はカウンターだね。ボールを奪われても全員が戻らず、フォワード陣は待機しておくこと。リスクも高くなるけどその分リターンも大きい。練習じゃそのリスクを減らすことを意識してやるといいよ」

 

 みんなはそれぞれ次からする練習のイメージをしているのか、真剣に考え込んでいるように見える。

 特にブラージはいつにも増してしかめっ面をしていた。

 まあ前の試合も一点取られたのを気にしてたし、守備が重要になるという話を聞いて責任を感じているのだろう。

 プレッシャーに押し潰されるタイプには見えないけど、ちょっと心配だ。

 

 しばらく他の試合の分析結果を語っていると、誰のかはわからないけどグ〜という音が聞こえた。

 疑問とかは特になさそうだし、今日はこんなもんでいいかな。

 私は説明会を終了することを言い、パソコンの電源を切った。

 

 

 ♦︎

 

 

 全員が部屋を出て行く中、フィディオの目には今だにイスに座っているブラージが目にとまった。

 彼は会議が終わったことに気づいていないのか、ひたすら机に目線を落として考え込んでいる。

 フィディオはそんな彼が気になり、声をかけた。

 

「どうしたんだブラージ?」

「っ、なんだフィディオか……。いや、ちょっとしたことだ。なんでもねえよ」

 

 ブラージはいじっぱりで、弱気なところは仲間にもなかなか見せようとしない男だ。フィディオは長年の付き合いからそれをよく知っていた。

 どうしようかと悩んでいる時に、出口の前に立っているアンジェロから声がかかる。

 

「あれ、フィディオもブラージも行かないの?」

「ああ、先に行っててくれ。あとで追いつく」

「わかった!」

 

 タタタッと可愛らしくアンジェロは去って行く。

 これで部屋は二人だけになった。

 

「さあ、これでいいだろ? 話してくれよ、俺と君の仲じゃないか」

「はぁ……仕方ねえな。誰にも言うんじゃねえぞ。特にあの女には」

 

 あの女、とブラージが言うのは一人しかいない。

 フィディオの脳裏に小悪魔めいて笑うなえの顔が浮かび上がった。

 ブラージは何度か咳払いをすると、やや低い声でぽつりと呟いた。

 

「……ちょこっと、自信がねえんだ。アメリカ代表からゴールを守れるかが」

「イギリス戦のことなら気にするな。そもそもキーパーの失点はチームの失点でもある。俺たちが敵にボールを回させなかったり、シュートを撃たせなかったりすれば点を決められることはないんだ。最後の砦である君が気にやむことはないさ」

「……それでもゴールを守らなくちゃならねえのがキーパーだ。だから今日あいつに勝負を挑んでみたが……」

 

 結果は惨敗。

 ブラージはなえのシュートを一つも止めることができなかった。

 それで自信をなくしてたのかと、フィディオは納得する。

 

「イタリアに俺以上のキーパーはたぶんいねえ。けど、ジャパンのエンドウとかを見てると自分が井の中の蛙な気がして仕方がねえんだ」

 

 ブラージの目には今でもチームK戦でのエンドウの活躍が目に刻み込まれている。

 とてつもない威力のシュートを前に、咄嗟に機転を効かせてみせる想像力と決断力。そしてチーム全員を鼓舞するカリスマ力。

 単純な技能の話ではない。円堂というキーパーはブラージにとって、自分のほぼ全てを上回っているように思えた。

 

「だったら、仲間の力を借りるってのはどうなんだ? シュートを止めるだけがキーパーの仕事じゃないだろ?」

「仲間、か……」

 

 一瞬、イギリス戦で見た少女のディフェンス姿が浮かぶ。

 あれ以上のディフェンスはイタリアにはいない。ゴール前に立っていれば大抵のシュートは防げてしまいそうだ。

 しかしとっさに我にかえり、頭をブンブン振ってその考えを振り払う。

 

「ちっ、仲間って聞いてあいつが思い浮かぶなんて、つくづく自分が嫌になるぜ。普段はあんなに拒絶してるってのによ」

「もしかして君はなえのことを、本当は認めているんじゃないのか?」

「バカ言ってんじゃねえよ! たしかにあいつはすげぇけど、仲間として認めるかは別問題だ。俺はチームメイトを傷つけたあいつを絶対許さねえ」

 

 たしかに彼の言うことはもっともだ。しかしフィディオは前までは彼女を悪人だと理解していながらも、何か胸に突っかかるようなものを感じていた。

 そしてイギリス戦を経験してわかったのだ。

 サッカーをしている時、彼女に一切悪意なんてものがないことに。むしろ彼女は誰よりもサッカーというものに真摯に向き合っているように見えた。

 だからといって彼女が罪を犯していることに変わりはないが、サッカー選手としての彼女は信用できると考えている。

 だからフィディオはブラージに、彼女の一面だけでなく全体を見てほしいと思った。

 

「サッカーの時だけでも彼女を信じることはできないか?」

「ああん? だから言ってんだろ、俺は……」

「このチームにだってもともと敵だったやつがいっぱいいる。でも俺たちは今では代表として団結できているじゃないか。俺はいつかなえもそうなれると思ってる」

「ってもなぁ……」

「難しいのはわかってる。でもサッカー選手としての彼女を見てやってくれ」

「……やっぱり俺の考えは変わらねえよ」

 

 ブラージはしばらく考え込むとそう言い、部屋を出ていった。

 フィディオはしばらく立ち上がらず、ため息を吐いた。

 

 ……失敗したか。ちょっと強引すぎたかもしれない。

 キャプテンだったらうまく説得できただろうか。

 そう思うと自分が情けなく思えてくる。

 しかし、なえとの和解。これはオルフェウスがこの先勝ち続けるために必要不可欠なものだ。

 

 ミーティングルームを出て、自室に戻ったあとでも寝るまでフィディオは思考を働かせて続けた。

 しかしいい案が出ることは結局なく、そうやって思考の海に没頭している間にうとうとし、彼の意識は闇の中へと沈んでいった。

 

 

 ♦︎

 

 

 夜、イタリアエリアの街にて。

 私はまだ乾き切っていない髪を揺らしながら、夜の街を散歩していた。

 

 いくら宿舎が同じといえど、お風呂までみんなと同じ場所というわけにはいかない。シャワールームは誰がいつ入ってくるかわからないし、時間をズラすということもできない。というか私、あの十数人が同時に入ることを想定しただだっ広い作りが好きじゃないんだよね。個人的空間がないというか……。

 だから私は毎回イタリア街のレンタルシャワールームを利用することにしている。

 本当はジャパン街の温泉がいいけど、毎回通うのは大変だしね。

 

 もうすっかり星空が見えるけど、さすがは観光島。夜でも通行人が多い。むしろ酒なんかが入ってる分、昼よりも騒がしいかも。

 

 そんな人だかりの中に紛れていると、突然背筋に悪寒が走った。

 

 ……っ、今のは……!?

 

 この身の毛もよだつ感覚、久しぶりに感じたよ。

 これは間違いなく『殺気』だ。

 

 どこだ……どこにいる……?

 

 警戒して、相手に気づかれないよう辺りをゆっくり見渡す。

 そして車道を挟んだ隣の通路で立っている、フードを被った怪しげな三人組が目に入った。

 こいつらだ。さっきから私の方を見ているし、ちらっと見ただけで殺気の密度が上がった。間違いない。

 

 仕事柄、私を恨む人はけっこういる。あれはそういう人たちが差し向けた刺客か何かだろう。

 どっちにしろ、こんな大切な時期に厄介ごとはごめんだ。今は複雑な道に逃げ込んで撒くか。

 私はできるだけ曲がり角と死角が多い場所へ走り出す。

 右、右、左、三つある分岐を右、左、左……。

 そうやって全速力に近い速度で走る。

 

 ここまで来れば大丈夫でしょ。

 そう思い後ろを見ると、そいつらがまた視界に入った。

 どういうこと……!? 私の走りについてくるなんて!

 

 まずい、複雑な道を選んだせいで人混みがまったくなくなってしまった。まさに犯罪を起こすにはうってつけの場所だ。

 逃げるのはたぶん無理だ。ここで走り続けて体力を切らしたらそれこそゲームオーバーだし。

 

 こうなったら……!

 スカートの上から太ももを触り、硬い感触を確かめる。

 殺られる前に、殺る。裏社会の鉄則だ。

 

 私は裏路地に続く角を曲がり、あちらから見えないように壁に背をつけるとスカートの中からナイフとハンドガンを素早く取り出した。

 チャンスは足音が近づいてきた時。そこで飛び出して、速攻で撃つ!

 

 コツン、コツンと足音が複数近づいてくる。

 緊張で冷や汗が垂れる。

 唾を飲み込み、その瞬間を待ち続ける。

 3……2……1……今だ!

 

「死ねっ!」

 

 私は勢いよく通りへ飛び出し、ハンドガンを構えた。

 そして引き金を引こうとした瞬間、衝撃が銃から手首に伝わって、ハンドガンが弾き飛ばされた。

 

「……っ!?」

 

 嘘でしょ……!?

 一瞬で飛び出したはずの私の銃を、寸分違わず撃ち抜いた?

 どんな精密射撃してるのさ!

 

 硬直してる時間はない。

 敵がハンドガンらしきものの銃口をこちらに向けたのを見て、咄嗟に路地裏に飛び込んだ。

 

 銃声はない。

 というか、一発目も音がまったく聞こえなかった。

 色々銃は見てきたけど、そんなことは現代技術じゃ不可能だ。多少は消せても、ここまで近づいていれば聞こえないわけがない。

 それにあのハンドガンも見たことがないものだった。

 

 凄腕に未知の兵器。鬼に金棒ってレベルじゃないよ。

 自分の握っているナイフがやけに小さく見える。

 でも、殺るしかない! でなきゃ殺られる!

 

 敵が現れた瞬間、全力でナイフを振るう。

 しかしそれは敵が左足を振り上げただけで簡単に防がれてしまった。むしろナイフは弾かれ、それを握っていた私の手が体ごとあまりの衝撃で一瞬浮かび上がってしまう。

 腕が痺れて……ガードが……!

 暗殺者は間髪入れずに、回し蹴りを私の横っ腹に叩き込んだ。

 

「カハッ!!」

 

 何十メートル飛んだだろうか。突き当たりの壁に背中からぶつかり、その場に倒れる。

 ハハッ、まいったな……後ろ行き止まりじゃん。ついてない、や……。

 触った感じ、骨は折れてないけど吐血しちゃった。目の前の地面にはそれが飛び散っていて、けっこうな量だということがわかる。

 

 さっきの蹴りの反動か、フードがめくれて暗殺者の素顔が露わになる。

 褐色の肌に、銀髪の男。その額には紋章のようなものが刻んであり、どこか不気味さを漂わせている。

 しかしそれ以上に印象的だったのは、私ぐらいの年齢の顔つきだということだ。

 あれだけすごい動きをするのだから熟練した暗殺者かと思ってたから、予想と違って驚いた。

 

 しかしこの男が若いかどうかなんてどうでもいい。どっちにしろ私以上の力を持っているのだから。

 せめてもの抵抗をと、余裕を装うように不敵に笑いかける。

 

「ハ、ハハッ……何か私に用かな? こっちは次のアメリカ戦の練習で疲れてるんだけどなぁ」

「黙れ。貴様のようなクズと話していると虫唾が走る」

「酷いなぁ。ちょっとはお話しする余裕があった方がモテるよ?」

「……死ね」

 

 男は私にさっきのハンドガンを向けてきた。

 ……諦めない。一か八か飛びついて、あれを奪ってみせる。

 失敗したら死ぬ。そう覚悟を決め、飛び出そうとした時、暗殺者の男の腕を別のフードの人物が掴んだ。

 

「待てバダップ。こいつは世紀の大罪人だが歴史の重要なターニングポイントだ。ここで殺すのは俺たちの世界にも影響を及ぼしかねない」

「……ちっ!」

 

 バダップと呼ばれた男は大きく舌打ちをすると、ハンドガンを引いてくれた。

 しかし代わりに私の襟首を掴むと強引に立たせ、そのまま壁に押しつけきた。

 

「ぐぅっ、世紀の大罪人だなんてっ、大袈裟だなぁっ。そんなことを言ったら総帥は宇宙一の罪人だよっ」

「サッカーを捨てろ、白兎屋なえ。そうすればこの先の未来で何億もの命が救われる」

「私に死ねと? お断りだよっ」

「返事は聞いていない」

「ガッ!?」

 

 今度は投げ捨てるように手を離してきた。

 私は頭を壁にぶつけて意識が朦朧としてしまう。

 

「今は殺さない。だが時が来れば俺たちはお前を殺す。生き延びたければ、その前にサッカーを捨てることだ」

「待ち、なよ……っ。意味が、わからない……」

「警告はした。任務完了、これより帰還する」

『ハッ!』

 

 バダップは耳に手を当てる。よく見れば彼はそこに何かの機械をつけているようだった。

 それを彼が弄ると三人組は謎の光に包まれ、そして次には姿を消していた。

 

 辺りに静寂が舞い降りる。

 何分経っても何も起こらない。

 どうやら、私は生き延びたようだ。

 

「ハァァ……」

 

 ようやく緊張の糸が途切れ、私は壁にもたれかかった。

 いつつ……まだ腹が痛いよ。でも顔じゃなくてよかった。腹だったらいくらでも誤魔化せるからね。

 

 休んでいる間、バダップたちの言葉が頭の中で何度も再生される。

 正直、何を言ってるのかさっぱりだ。

 私が世紀の大罪人だとか、サッカーを捨てれば多くの命が救われるだとか。胡散臭くて仕方がない。

 でも、次会ったら殺されるのは事実だ。それだけはやつらの殺気を感じればわかる。

 

 かといって、サッカーを捨てるわけないけど。

 私はサッカーが好きだ。好きで好きで好きで大好きだ。試合のたびに命がけでやってるし、その結果として殺されるのだったら惜しくもない。

 

 だけど、せめてこの大会の優勝までは生きてたいなぁ……。

 私は神にも縋りたくなる思いになり、柄にもなく星に向かってそうつぶやいた。




 今回はいつもの1,5倍くらい文字数多いです。
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