悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
謎の暗殺者たちの襲撃から数日後。
アメリカとの対戦の日がやってきた。
本日の対戦場所はクジャクスタジアム。カラッと乾いた空気と照り付ける強い日光が特徴的なスタジアムだ。
しかしイタリアは地中海性気候。こういう暑さにはみんな慣れているはずなので、気候の違いでコンディションを乱す者はいないだろう。
バダップに蹴られた場所に手を当てる。
うん、痛みは引いている。体も動くし、今日も絶好のコンディションだ。
襲撃された情報は総帥やガルシルドにも伝えたのだが、今だに彼らの情報は集まっていない。監視カメラの映像を見ても彼らだけ姿が映ってなかったり、つくづく相手が未知のオーバーテクノロジーを持っていることがわかる。
しかしそんなことをいちいち気にしてては仕方がないだろう。ガルシルドでも特定できないんだから無理なものは無理だ。さっさと見切りをつける方が気が楽だ。
さて、試合が始まる前に一之瀬に話しかけるとするか。
一度は共闘してたので、そう邪険にされることもないはず。
あっちも私が近づいてくるのに気づいたのか、話をするためにベンチから離れていった。
「ヤッホー、一之瀬。ずいぶん元気にやってるじゃん」
「……まさか君とまた戦うことになるとはね」
「なんか嫌そうなトーンなの傷つくんだけど……」
「君と戦っていい思いをしたことはないからね」
あー、まあ納得。
基本世宇子でも真帝国でも彼、吹き飛ばされるだけだったしね。真帝国の方は不動がやったってだけで、私に罪はないけど。
そういえば、一之瀬って声が不動に似てるよね。実際二人が面と向かって話してるの見た時は私も笑っちゃったし。しかし改めて一対一で話してみると……なんかムカムカしてきた。
「よし、殺そう」
「どうしてそうなった!? だから苦手なんだ……」
「あ、この人今本人の目の前で苦手って言った! いーけないんだいけないんだ!」
「……助けてくれ円堂」
次は教祖様に祈り出したぞ。
円堂教徒の鏡だね。たぶん勝利の祈願をしているのだろう。
ゲッソリした顔とは反対にやる気十分で私も嬉しいよ。
「おいおい、二人だけで話なんて水くせえじゃねえか。俺も混ぜろよ」
声がした方向を向くと、具合が悪そうな土色の肌をした長身の男がいた。
「……ごぼう?」
「土門だ! お前絶対ワザとだろ!?」
「てへっ」
もちろん覚えているとも。
土門……下の名前なんだっけ? ともかく、雷門メンバーの中じゃ鬼道君の次に付き合いが長いやつだ。
「それで土門は何しにきたの? 観客席はあっちだよ」
「応援じゃねえよ目腐ってるのか!? ユニフォーム着てるだろ!」
「てへっ」
「それやってりゃ許されるって思ってんだろ! いいか覚悟しとけよ! 試合じゃ絶対に一点も決めさせねえからな!」
「あっはっは。……冗談はほどほどにしときなよ」
「急に声低くするな!?」
まったく、相変わらずうるさいやつだ。染岡君も合わせて雷門のツッコミ係はしばらく安泰だろう。
アメリカ側のコーチに呼ばれ、土門は一之瀬に引っ張られる形でこの場から去っていった。
ベンチに戻るとフィディオに話しかけられる。
「ずいぶん親しそうだったね」
「円堂君のいる雷門中のメンバーだよ。だから二人とも知り合いってわけ」
「マモルの仲間か。たしかにいい目をしてる」
「ふん、エンドウの仲間だろうが関係ねえ。シュートは全部俺が止めてみせる」
おっ、気合入ってるねぇ。
でも、入りすぎじゃない? 競馬でいう焦れこみすぎの状態に近いっていうか。ほどよい緊張は大事だけど、それで視野が狭まってないか心配だ。
フィディオもそれを心配して声をかけてたけど、彼の鼻息は荒いままだった。
これが今回のフォーメーションだ。
ミーティングの時、私をスタメンに入れることを考慮してみんなで改めて考えていたのだ。その結果、私は攻守好き勝手に動ける中央ミッド、つまりボランチの位置にいることになった。
まあやることは変わらない。いつも通りフォワード以上に攻めて、ディフェンス以上に守る。これを考えておけばいい。
ポジションにつくと、隣に立っているアンジェロちゃんが話しかけてきた。
「わー、やっぱ緊張するなぁ。今日はよろしくね」
「ふふっ、緊張しててもアンジェロちゃんの出番はないかもね。私が全部奪っちゃうから」
「あのぉ、僕男なんだけど?」
「何当たり前のこと言ってるの?」
「……イイエ、ナンデモナイデス」
あらら、そんな蛇に睨まれたカエルみたいにカチコチしなくてもいいのに。よっぽど緊張してるらしい。
笑いかけてあげると、白目をむかれてしまった。
かわいそうに。よっぽど怖いものが私の後ろに見えたのだろう。
キックオフの笛が鳴り、フィディオがさっそく攻め上がる。
素早く、鋭いドリブルで相手選手たちの間をすり抜けていく。白い流星らしい勢いのあるプレーだ。
「よし、このまま……!」
「させない!」
敵フォワードを抜き、一気に中盤へ彼は飛び出す。
しかしその前に一之瀬が立ちはだかる。
「フレイムダンス改!」
「なにっ!? ぐっ……!」
出たな逆さ踊り。
もはや彼の代名詞となってしまった炎の鞭がボールを絡めとり、フィディオからボールを奪った。
やっぱりだけど、私が知ってるのより進化してる。それもあのフィディオからボールを奪えるくらいに。
「上がれみんな!」
『おうっ!!』
キャプテンのマークのかけ声をかけると、ユニコーンはフォワードだけでなくミッドまでもが前線へ走り出した。
ユニコーンの恐ろしいところはこれだ。見かけのフォーメーションは4ー4ー2でフォワードが二人しかいないが、ミッドフィルダーの全員がフォワード並みの攻撃力を持っている。だから実質フォワードが六人いるようなものなのだ。
稲妻の如き素早いパス回しとドリブルでユニコーンが一気にゴールへ切り込んでくる。
ここはボランチの私の出番だな。現在ボールを持っているマークに接近し、紫色の光を放つ右足を振り抜く。
「デーモンカット!」
ハッハッハ! さあ吹き飛ばされるがいい!
……って、あれぇ? どうして私でもないのにデーモンカットより上まで跳んでるですか?
『ジ・イカロス!!』
「きゃっ!?」
うおっ、眩し!?
両手を翼のように広げて飛翔しているマークを見てたら急に眩しい光が降り注ぎ、視界が塗り潰された。
「何やってんだこのバカ!」
「うっさい! 私だって抜かれる時ぐらいあるに決まってるでしょ!」
このっ、ブラージめ。私がミスしたからって嬉々として声かけてきやがって。
マークはエースストライカーディランと並走してゴールに向かってくる。二人の連携シュート『ユニコーンブースト』はあまりに有名だ。それを警戒してディフェンスのみんなが止めに入るけど、それによってできてしまった隙間に一之瀬が突っ込んできた。
「いけ、カズヤ!」
「ペガサスショット!」
パスを受け取った一之瀬がバク宙をすると、その体から気が溢れ出し、彼の背後にペガサスが現れた。
そしていななきとともにボールが蹴られ、青白く光る弾丸となってゴールに向かっていく。
「任せろ! コロッセオガード改!」
ブラージから発せられる気が増大する。
現れたコロッセオの壁はいつもより一段と分厚く見えた。それは見かけだけでなく、見事に一之瀬のシュートを弾き返してみせる。
「カウンターだ!」
跳ね返ってきたボールを胸でトラップ。
作戦通り、中盤はほぼガラ空きだ。私は前方で走り出していたフォワード陣を追い抜く勢いで加速した。
「スプリントワープ!」
右へ左へぐにゃりと曲がる超高速のドリブルに追いつける者はいない。そのままディフェンスを次々と突破していく。
けっこう私の方に敵さんが寄ってきてるね。じゃあここは……。
ある程度引きつけたところで、横一直線にパスを出す。
そこにフィディオが走り込んできて、ボールを受け取った。
「ナイスだナエ! オーディンソード!」
宝剣炸裂。
黄金の光剣が発射される。私は次の瞬間にゴールネットに剣が突き刺さるシーンを想像したが、そうはならなかった。
「ボルケイノカットV2!」
ゴールを覆い隠すように、突如炎の壁が地面から噴出した。それはシュートを完全に止めるには至らずとも、かなりの威力を削ってみせる。
「グレート、ドモン! フラッシュアッパー!」
キーパーは深く腰を沈めると、ボクシングでいうアッパーを繰り出した。そしてインパクトと同時にボールは真上に打ち上げられ、勢いを失ったまま自由落下して彼の手に収まる。
「ちっ、ごぼうのくせに生意気な……」
「どうだ! 伊達に帝国時代からお前のプレーを見てたわけじゃないぜ!」
今回のは私のミスだ。私のプレーが読まれる可能性を考慮すべきだった。
口に出したくはないけど、土門も確実に成長している。むやみにシュートを撃っても無駄になりそうだ。
キーパーからのスローイングが、戻ってきたミッド陣に渡ってしまう。
しかし二回も速攻させるつもりはない。私は執拗に投げられたボールを追い続け、受け取った選手の間近にまで接近していた。
「デーモンカット!」
「がぁっ!?」
蹴りにより地面に弧を描くと、ボルケイノカットにも似た紫のオーラがそこから噴き出し目の前の選手を派手に吹っ飛ばす。
よし、今度こそは成功した。
毎回空飛ばれちゃたまったもんじゃないしね。あれはやはりマークだけにしか使えないと見ていいだろう。
「げっ、また来やがった!?」
「ハッハッハ! さあ、お返しだよ!」
「このっ、ボルケイノカットV2!」
地面から再び炎の壁が噴き出してくる。
それに対して私は——無雑作にボールを横へ出した。
その先にフィディオが回り込み、ダイレクトで土門の背後を通すように撃ち返してくる。
「あっ? ……あっ」
サッカーの基本、ワンツーがポンポンとリズミカルに私に繋がった。
あまりの呆気ない突破のされ方に、土門は呆然としてしまう。
スピニングカットとかボルケイノカットの弱点として、発動すると自分の視界が遮られるというのがあげられる。だからこんなふうに壁の向こうでパスを出されても気づくことができないのだ。
相手が私のことを知っているのなら、私が相手を知っててもおかしくはない。
お互い様ってやつだよ。
ゴール前でペンギンたちを呼びながら、天高く跳び上がる。そして構築した六芒星の魔法陣の中心部にあるボールを両足で蹴った。
「皇帝ペンギン零式!!」
「フラッシュアッパー!! ——ノォォォォッ!?」
極太の閃光一つとその周りの小さいのを合わせた計七つの桃色の閃光が魔法陣から放たれる。
キーパーはさっきみたいにアッパーを撃とうとしたけど、拳が閃光に追いつかず、顔面を強打してしまう。そしてネットを通してゴール全体がガタガタ揺れるほどの衝撃が発生した。
『ゴール! 先制点はオルフェウス! ナエ、前試合の期待に違わぬ強烈なシュートが炸裂ゥ!』
「ナイスシュートだ!」
「さすが
その称号で呼ばれるの恥ずかしいんだけど……。でも目をキラキラさせているアンジェロちゃんを見てると注意するのが悪いように思えちゃう。
まったく、どこの記者かは知らないけどわざわざ帝国時代の称号を載せたりしなくていいのに。おかげで新聞とかに載る時は必ずそれをつけられるようになってしまった。
何はともあれ、まずは一点。でもまだまだ前半だ。
アメリカ側の闘志は全然衰えていない。
ギラギラしている彼らの瞳を見て、これは厳しい戦いになりそうだと思った。