悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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決戦は近い

『決まったぁ! ここで試合終了! オルフェウス、無敗のままリーグ最終戦まで駒を進めました!』

 

「勝ったぞぉぉぉっ!!」

 

 大歓声が湧き上がる。

 オルフェウスのメンバーはそれぞれが叫んだり飛び上がったりして喜びを表現した。一番貢献したなえはアンジェロなどの彼女を認めるメンバーにもみくちゃにされ、楽しそうに笑っている。

 

「ちぇっ、完敗だぜ」

「まさかグランフェンリルまで防がれるとはね。さすがだよ、なえ」

「そっちもいいプレイだったよ。土門は地味だったけど」

「うぐっ、仕方ねえだろ! 俺だってお前以外が来てたらバンバン止めて大活躍できてたさ!」

「ディフェンスが敵を選り好みしてどうするのよ、このっ」

「ごぼっ!?」

 

 土門の鳩尾に深々とボディブローが突き刺さる。それによって体がくの字に曲がったところで、なえはその頭をペチンと叩いた。

 おそらく身長差で頭をはたきたくてもはたけないからこうしたのだろうが、それにしても酷い扱いだ。

 何か言うと自分もあれをくらいそうなので、一之瀬は心の中で合掌することにした。

 

「ともかく、いいゲームをありがとう。()()()()()()()()()()()()()

「大袈裟だね。まだリーグ予選だよ? それに次はイナズマジャパンじゃん。勝って決勝に行くってぐらいじゃないとこの先やってけないよ?」

「……この先、か。この翼が折れてなければ、見てみたいものだよ」

 

 その一之瀬の言葉はやけに重みを感じた。

 どういう意味だとなえが聞いても、彼は無言で頷き、グラウンドを去っていく。違和感を感じたが、すぐに仲間に話しかけられたことでそれがなえの頭の中に残ることはなかった。

 

 

「勝ったか……」

 

 一方、ブラージは静かに歓声降り注ぐ空を見上げていた。

 色々なことがありすぎて、試合があっという間に感じられた。そのせいなのか、彼には勝った実感がまだ湧いてきていない。

 いつも通りなえに啖呵を切って、シュートを止めたり入れられたりして、そしてなし崩しになえと協力したりして……。

 今でも信じられない。切羽詰まってたとはいえ、自分があんなに嫌っていた相手と組むなんて。

 

「何やってんだか、俺」

「でも、嫌な気分はしないだろ?」

 

 声をかけられた方に振り向くと、フィディオが笑みを浮かべて近づいてきていた。

 フィディオは信じていたの。いずれ二人が協力する時が来ることが。

 そしてそれが実現したのがたまらなく嬉しいのだ。それこそ今日の勝利以上に。

 

「……さあな。必死になりすぎてあの時何を思ってたのかなんて忘れちまったよ」

「素直じゃないな、君は」

「うっせぇ! 変な勘違いをするんじゃねえぞ! 俺はあいつと仲良くしていくつもりなんて今後もさらさらねえからな!」

 

 とか言って、いざピンチとなったらまた二人は協力するだろう。とは笑いながらに思う。

 なにせ二人ともサッカーが好きなのだから。負けたいと思うはずがない。

 

 フィディオは視線をブラージからなえへ切り替える。

 彼女はチームメンバーにまだもみくちゃにされていた。

 その顔はみんな笑顔だ。

 一時期はバラバラだったけど、いいチームになった。これなら、絶対に世界を掴める。

 彼はそう強く確信した。

 

(俺たちは負けないぞ、マモル)

 

 次の試合で待ち構えているであろう最強のライバルの姿を思い浮かべ、フィディオは静かに闘志を燃やした。

 

 

 ♦︎

 

 

「はい、じゃあ作戦会議始めるよー!」

 

 アメリカ戦から数日後。

 私は集めたデータを見せるために、朝食後にみんなをミーティングルームに呼んでいた。

 みんなはぐてーっと、机に突っ伏したり椅子にもたれかかったりしている。

 まったく、朝だからかみんなだらしないなぁ。一部は寝癖とか治してないし。

 その点フィディオは完璧だ。一度も私は彼の髪が崩れているところを見たことがない。さすがイケメンは違うってとこか。

 

「お前、なんか合宿所に来てからやけに髪とか整えてねえか? 前はもっとボサッて……」

「い、いいだろ別にっ。俺にだって心境の変化とかあるんだ」

 

 む? ブラージとフィディオは何を話してるんだ? さっさとこっちに来てみんなをまとめてもらわなきゃ発表できないんだけど。

 と思ってたら、ブラージからいつも通りの文句が飛んできた。

 

「ていうかなんで朝なんだよ。こっちはねみぃってのに」

「私は今日朝三時から仕事してるけど、文句ある?」

「お、おう……いやなんだ、すまん」

 

 私の睡眠事情を聞いたとたん、ブラージがらしくもなく謝ってきた。

 私だって寝れるなら寝たいわ! でも三つも仕事かけ持ちしてるとやることが多すぎるんだよぉ! 世界大会にいるはずなのに、なんで帝国にいたころレベルで働いてるんだ私。

 

 まあ私のことはこの際一旦置いといて。さっさとミーティングを始めなきゃ。

 近くに置かれていたパソコンを操作し、昨日のうちに作成したグラフをスクリーンに表示する。

 

「はいちゅうもーく! これが今現在のAグループの戦績とポイントだよ。今のところうちとイナズマジャパンは全勝中。そして残った試合はイタリアVSジャパン戦、アルゼンチンVSアメリカ戦ってとこかな」

 

 FFIのリーグ予選は勝ち点3、負け0、引き分け1で総当たり戦を行い、その総合得点から上位二チームを選出する仕組みになっている。

 そこで改めてグラフを見て、全員はあることに気づいたようだった。

 

「なあ、これって次の試合の結果に関わらず決勝トーナメントにはいけるってことでいいのか?」

「正解。ラファエレにしては賢いじゃん」

「なんだと!?」

「お、抑えて抑えて!」

 

 勢いよく立ち上がったラファエレをフィディオが必死になだめようとする。

 このチーム沸点低い人多いなあ。まあ、その分いじりがいがあって楽しいけど。大人しくなったラファエレに笑いかけてあげたら、またキレられた。

 

「なえ、いちいち挑発するのは勘弁してくれ。朝からじゃ俺が持たない」

「はいはい」

 

 さすがに彼のゲッソリした顔を見て可哀想になったので、笑うのはやめてあげた。それでもラファエレはめっちゃこっちを睨んでいるけど、無視だ無視。

 私はグラフの解説をし始める。

 

「現在の戦績じゃうちとジャパンは9点、イギリス3点、アルゼンチン0点、アメリカ3点ってなってる。で、最後の試合を控えているアルゼンチンとアメリカのどっちが勝っても私たちの今の点数には届かないってわけ」

 

 先日クジャクスタジアムで行われたジャパン対アメリカの一戦、勝ったのはジャパンだった。

 試合内容は素晴らしいの一言に尽きるだろう。この時の一之瀬は限界を超えた力を出し続け、誰よりも輝いていた。

 それだけ頑張ったのは、これが彼にとっての最後の試合になるかもしれなかったから。

 実はこの大会が始まる前から、彼は命に関わる爆弾を抱えていたのだ。

 その状態で私や円堂君と戦ったのはもはや凄まじいなんてものじゃなく、執念と呼んでいい。

 彼は、まさしくサッカーに命を懸けていた。

 残念ながら監督にそれを見抜かれて途中で試合を抜けることになってしまったが、それでも私はあの全身全霊が込められたプレーを忘れることはないだろう。

 

 話は変わって、イギリスは全試合をすでに終えているので予選敗退が決定してしまっている。

 

 予選突破は確実。

 その事実を聞いたみんなはワッと盛り上がった。

 しかしそれを諌めるようにフィディオが手を叩く。

 

「みんな落ち着け。たしかに予選突破は嬉しい。でも、俺たちは世界を取るんだ。だからこの次の試合も油断せずに勝って、堂々とリーグ一位通過をしよう!」

『おうっ!』

 

 ナイスだよフィディオ。私にとっては次の試合は決勝戦と同じくらい楽しみなものなのだ。気が抜けて全力じゃなくなるなんて冗談じゃない。

 

「じゃあそのためにも、次の試合の作戦を聞かせてくれ」

「……いやぁ、こんなに盛り上がってるとこ悪いんだけど……ジャパン対策、まだできてないんだ」

「えっ?」

 

 ちょっとの間の気まずい沈黙。

 

「……てへっ」

 

 次の瞬間、罵詈雑言で部屋は溢れた。

 

「お前呼ぶんだったら対策ぐらいちゃんと立てとけよ!」

「笑顔で誤魔化すな!」

「こっちは朝から眠いんだよ!」

「うっさいバーカ! 基本脳筋な私にそもそも作戦なんて立てられるわけないでしょうが!」

「前はちゃんと立ててたじゃねえか!」

「あれは総帥のを丸コピしただけだよ! 今回はまだ指令が送られてきてないの!」

「じゃあやっぱり今やる必要なかったじゃねえか!」

「このあと用事あるんだよ私!」

 

 くそっ、あー言えばこー言う! 大人の深い事情すら読み取れないなんて中学生かお前らは!

 ……中学生だったわ。

 

「それにイナズマジャパンに明確な弱点とかはないの。だから対策立てづらいんだよ」

「どういうことだ?」

「これ見ればわかる」

 

 フィディオが聞いてきたので、ポチッとパソコンをいじり、スクリーンの画像を変更することで答える。

 そこにはイナズマジャパンの大雑把なデータが載っている。

 

「なんだ、ちゃんと調べているじゃないか」

「調べるぐらいはできるんだよ。イナズマジャパンの特徴は柔軟な対応力と爆発的な進化。そんでもってバカみたいに多い攻撃のバリエーションだよ」

 

 私はみんなに説明を始める。

 ジャパンは紛れもなく攻撃寄りのチームだ。

 選手枠十六人のうちFWは六人。これでも十分攻撃的だが、ジャパンはMFやDFもたいていがシュート技を持っており、隙があれば積極的に上がってきてシュートを撃ってくる。鬼道君とか壁山とかね。

 そして極め付けは必殺タクティクスの種類と数だ。

 私がその部分をピックアップすると、全員が息を呑んだ。彼らの気持ちを代弁するようにブラージが叫ぶ。

 

「必殺タクティクスが三つって、マジかよ!」

「おまけに全部オフェンス系。こんだけ攻めのバリエーションがあったらいくら対策立てても仕方がないんだよ」

「じゃ、じゃあそんだけ攻撃に偏ってんなら防御は甘いとかねえのかよ?」

「あのねぇ、あっちキーパー円堂君なの忘れたの? ザルなわけないじゃん」

「げっ、そういえばそうだった……」

 

 円堂君が強いのなんてチームK戦を見てた全員が知ってる。

 おまけに彼、声をかけたりするだけで選手全員にバフみたいなのかけてくるからなぁ。

 勢いに乗った彼らはまさに無敵。中盤まで圧倒的優勢であっても、終盤で一気に切り崩されるなんてよくあることだ。

 ……うん、たとえば後半戦半分切った状態で3点リードしてても、ものの数分で逆転されるとか、ね。

 

「とにかく、今日みんなを呼んだのは相手がどれだけ強いか改めて理解してもらうためなんだよ」

「なるほど。でもどれだけ完璧に見えても、勝てないチームなんてない。俺たちが着実に成長していけば次の試合も絶対勝てるはずだ」

「そうだな。んじゃさっそく練習に行こうぜ」

「あ、さっきも軽く言った通り、私はこの後予定があるから今日は練習はお休みさせてもらうよ」

 

 席を立ち上がったみんなにそう伝える。

 フィディオは首を傾げる。

 

「予定?」

「総帥に呼ばれてるんだよ。もしかしたら攻略法も聞けるかもしれないし、いい機会だと思うよ」

 

 正直私たちだけじゃ手詰まりだったしね。

 総帥の話が出てきてブラージを含む数人が顔を歪ませる。

 

「ちっ、ミスターKか……練習も全く見にこねえし、やっぱり信用できねえぜ」

「おいブラージ、それじゃあそこのピンク髪はいいみたいに聞こえるぞ」

「なっ、んなわけねえだろ! 喧嘩売ってんのか!?」

「ああもう、ブラージとラファエレ(バカ二人)は黙ってて!」

『うっせえチビ!!』

 

 ちっ、チビ!? 地味に私が気にしてることを!

 私が小さいんじゃない! お前らが大きすぎるだけだわ!

 この後時間いっぱいまで言葉でお互いを殴り合った。

 アンジェロちゃん、影で三馬鹿とか言ってたの忘れないからね? 兎は耳が長いんだから気をつけなきゃ……。

 

 

 ♦︎

 

 

 で、やってきましたよ総帥部屋。

 現在はお昼時。しかし窓がないここには関係ないことだ。

 常夏の国にいるはずなのに、空気が異様に冷たい。

 うぅ……この部屋の作り緊張するからやめてほしいんだよね。客用の椅子とかもないから足が疲れるし。

 総帥はいつも通り部屋の奥に設置してある玉座に腰をかけている。

 

「それで総帥。今日のご用はなに?」

「その前に、やつらにデータは提供したな」

「指示された通り、バッチリ不安を煽っておいたよ。たぶん今ごろみんな必死になって特訓に明け暮れてるんじゃないかな」

「それでいい。せっかくのイナズマジャパンを潰す機会だ。手駒が腑抜けていたら笑い話にもならん」

 

 そこは同感。

 個人差ももちろんあるけど、イタリア人の気質は陽気で大雑把って言われているからね。決勝進出なんて聞いたら気が緩むやつが一人二人出てきてもおかしくはない。

 

「でもどうやってイナズマジャパンと戦うの? 私は別に熱い勝負ができればなんでもいいけど」

 

 今のままじゃ勝率は五分五分ぐらいなのは総帥もわかっているだろう。

 もちろん私はそれで構わない。円堂君も言う通り、1%でも可能性があるなら何をやってもそれをもぎ取って勝つつもりだ。

 でも総帥は違う。

 総帥が求めるのは確実な勝利。

 だったらこの現状で総帥が納得しているわけがない。

 

 総帥は不気味な笑みを浮かべたまま語り出す。

 

「雷門の弱点はディフェンスの必殺タクティクスがないことだ。攻撃を封じ込め、そこをうまく突けば点を取るのは容易い」

「でも肝心の攻めを封じるって難しくない? いくら私でもあのバリエーション豊富な攻撃を全部防ぐのは無理だよ」

「問題ない。その全てを解決する必殺タクティクスなら考案してある」

「そんな簡単に必殺タクティクスなんて……って、マジ!?」

 

 驚く私。

 総帥は立ち上がり、私の横をすり抜けて出口へ向かっていく。

 

「車を出せ。今からイタリアグラウンドへ向かう」

「な、何をしに?」

「ククク、決まってる。駒のチューニングと……調教だ」

 

 後ろ姿しか見えていないのに、雰囲気だけで邪悪な笑みを浮かべているのがわかる。

 総帥、珍しくやる気に満ちてね? いつもより超ノリノリじゃん。

 そしてこういう時、だいたい苦労するのはその選手なのだ。

 あとに付き従いながら、フィディオたちが潰れることがないよう心の中で祈った。

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