悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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決戦前日

 イナズマジャパンとの決戦前日。

 フィディオたちは例のマシンでの特訓を続けていた。

 

 私がボタンを押せば、弾幕とも言えるほどのボールが連続で射出される。

 一つ、二つ。軽やかなステップで彼はそれらを避けつつ、私に近づいてくる。彼の動きは以前よりも明らかに磨きがかかっており、もはやボールを見なくてもそれを避けている場面もあった。

 しかし残り数メートルのところで彼の体は弾かれてしまう。

 

「ぐっ……!」

「だぁぁ! 惜しい!」

「でもやっぱり無理ゲーだぜこれ。()()()()()()()()()()()()()()()()なんてよ」

 

 ラファエレの愚痴に内心頷く。

 この特訓のなによりも厳しいところはそれだ。

 前に進めば進むほどマシンと選手との距離は縮まっていき、その分ボールが選手に到達する間隔も短くなっていってしまう。特にラスト数メートルはコンマ何秒での動きが要求される。

 

「まだだ! もう一回!」

 

 しかしフィディオは諦めず、また挑んできた。

 

(もっと……もっと空間を把握しろ……!)

 

「ぐあっ!」

 

 何回も何回も吹っ飛ばされる。ブラージたちからも静止の声が上がったが、それでも彼は折れない。

 彼はたぶんわかっているのだ。総帥を助けるためには最低これをクリアしなければならないと。

 そんな彼の決意に応えようと、私は何も言わずにボタンを押し続ける。

 

 流星の如く彼は進み続ける。

 そのあまりの速度にグラウンドが焦げ付き、ドリブルを切り返すたびに黒い線が刻まれる。

 とうとう残り数メートルにまできた。避ける暇も与えないと砲身からボールが射出される。

 

「あぁぁぁあああああっ!!」

 

 あわや当たる……というところで、フィディオはさらに加速した。

 その速度にボールはついていけず、彼の残した残像を突き抜けるだけで終わっていく。そして彼は最後の力を振り絞り、飛び込むようにマシンの真横に飛び込んだ。

 

 砲身は真横に向けるように設計されていない。彼の今の位置を撃つのは不可能だ。

 彼は見事に、この特訓をクリアしてみせた。

 

 みんなはワアッと大騒ぎし、彼のもとに駆け寄っていく。

 

「うぉぉぉっ! すげぇぜフィディオ!」

「ハハッ、まさかあれを本当にクリアしちまうとはな」

「やったね、フィディオ!」

 

 はぁ……まったく無茶しちゃって。でも、大したもんだよ。

 他のみんなもクリアには至らないものの、空間把握能力自体は飛躍的に上昇している。

 カテナチオカウンターはこれで完成するだろう。

 

「ちょうどいっか。今日の練習はここまでにしとこう」

「今日は最終日だぞ。カテナチオカウンターの練習はやんねえのか?」

「つってもね……もう七時に近いじゃん。疲労した体で今から練習やったら確実に明日に響くよ」

「じゃあどうすんだよ」

 

 いや察しなよ。

 それすら考えられないからお前はブラージなんだ。

 

「本番中に完成させるしかない」

 

 私に代わってフィディオはそう言ってくれた。

 

「イナズマジャパンの試合は見ただろ。彼らはピンチになると即興で必殺タクティクスを編み出してきた。だったら俺たちも同じことぐらいできなきゃ彼らには勝てない」

「どうしても不安だって言うなら、ベストコンディションを保つためにさっさと寝ることだね」

「……たしかにな。今日ばかりはそこの女に同感だ。よし、帰るぞみんな!」

 

 私たちの会話はみんなも聞いていたようで、特に不満もなさそうに彼らはグラウンドを去っていった。

 その後ろ姿をフィディオは微笑ましく見つめる。

 

「……いいチームになったな」

「私が入った時は崩壊寸前だったけどねー」

「いや、そこがいいんだ。チームってのは仲がいいだけじゃ強くはなれない。君という起爆剤がいたからこそ、俺は彼らの知らない一面を見ることができたし、そして負けたくないと高め合えた」

 

 あれからそんなに時間が経ったわけではないのに、なんだか懐かしく感じてきちゃうな。

 初めて会ったのは……そうそう、ルシェと散歩してた時だっけ。

 あの時は特に何にも感じなかったのだけど……のちにこうやって肩を並べて立っているのを考えると、あれは運命だったのかもしれない。

 とはいっても紆余曲折はしたけどね。

 敵としてフィディオたちの前に立ちはだかったり、加入したあとでもメンバーといがみあったり。

 でも、フィディオはそういえば私を一度も否定したことはなかったな。

 たぶん私はこの時に、彼を円堂君に重ねていたんだろう。私が雷門に来た時も、彼は鬼道君やシロウなんかと違って身内でもないのに受け入れてくれたし。

 

「競い合い、高め合い、そして協力し合える。大丈夫だ、このチームなら勝てる」

 

 確信に満ちた様に彼は言った。

 彼はそれほど私たちに期待しているのだ。

 だったらそれに応えなきゃ、サッカー選手じゃないよね。

 

 私とフィディオはみんなの後を追い、宿舎に戻った。

 

 

 ♦︎

 

 

 そしてその夜。夕飯を食べ終わって少ししたころ。

 私とフィディオはいつも通り秘密の特訓をしていた。

 

『ハァァァァァァッ!!』

 

 オルフェウス二大ストライカーの蹴りを同時に受け、ボールは凄まじい勢いでゴールネットに突き刺さる。

 しかし私とフィディオは浮かない顔をしていた。想像してた威力が出てなかったからだ。

 

「やっぱり三人技を二人で練習するって無茶じゃない? いくら蹴ってもしっくりこないんだけど」

「でも、キャプテンからの頼みごとだしなぁ。それに切り札が増えるならそれに越したことはないし」

「そもそも、ぶっつけ本番でどうにかなるもんなの?」

「カテナチオカウンターだってぶっつけ本番だろ」

 

 いやまあそれを言われると痛いけどさ。

 私たちはヒデナカタが手紙に書いていた必殺技を身につけるために特訓をしていた。

 でもこれが無茶苦茶なのよ。

 普通連携技って連携する人全員が協力してやるものでしょ。でもあの人、練習までにこっちに来れないから形だけでも覚えていてくれって書いてあったのだ。

 

「キャプテンはすごい選手だからね。俺たち2人の息が合っていれば、自然とそれに合わせてくれるはずさ」

 

 キャプテン信者のフィディオはそう言ってるけど、ねぇ?

 私はあいにくと、直接話した人しか信用できないタイプなのだ。映像でヒデナカタが素晴らしい選手なのはわかるけど、それだけで人柄を判断できるわけがない。

 

 おまけにチームがガタガタになってたり、試合があったりしても世界中をフラフラするばかり。

 私からしたらヒデナカタなんてキャプテン失格だ。

 少なくとも私がそんなことやられたら間違いなく旅行先まで行って殴るね。

 そしてそう言った負の印象は連携技に支障をきたす。だから早めにあって出来るだけ話したかったのに。

 

 まあ今は泣き言を言ってる場合じゃない。

 時間は有限なんだ。

 

「ハァァァッ!!」

「ウォォォッ!!」

 

 私とフィディオの気が満遍なく注がれ、ロケットのように尾を残しながらボールは空へと昇っていく。

 それを見届けてから、私たちは跳躍。

 そして空中で同時にボールを蹴る。

 

 その時、私たちの足から青白い線状の衝撃波が放たれた。

 それはボールを中心にXを描くように交差し、ボールの勢いを加速させる。

 そしてゴールはその衝撃波をもろに受け、大きく揺れた。

 

「今のはいい感じ……なのかな?」

「たぶん大丈夫だと思う。これでキャプテンが揃えばこの技は完成するはずだ」

 

 自信がないのは完成系を想像できないから。

 ほんと、こういう時に盲目的に信頼できる人がいるってのは羨ましいよ。

 

「それにしても……この技、どっかで見たような気がするんだよね……」

「日本に行った時に見た技を参考にしたんだってさ。たぶんどこかでそれを見たんじゃないか?」

「うーん……」

 

 X状の衝撃波……だめだ、全然心当たりがない。

 Xといえば皇帝ペンギンXだけど、あれX要素皆無だし。強いて言うなら数学で使う未知数を表してるとか?

 まったく、誰だよこんな名前つけたの。

 ……総帥ですねごめんなさい。

 

 その後、練習が終わったあともしばらく考え続けたのだけれど、結局何かを思い出すことはなかった。

 

 そして次の日となり——宿命の戦いが幕を開けることとなる。

 

 

 ♦︎

 

 

 OPの映像とともに、FFI公式の曲がスタジアム中に響いている。

 しかしそれすらもかき消してしまいそうなほどに、観客たちは盛り上がっていた。

 

 私たちはスタジアム内に一列になって並んでいる。

 薄暗いこことは違って、グラウンドへの入り口は光に満ちている。

 このトンネルを抜けた世界が、決戦の場所だ。

 

 いよいよ来た……!

 心臓の鼓動が高鳴る。ドキドキしすぎて息苦しい。

 私は今までにないくらい緊張していた。

 でも、これでいい。

 ここは世界戦。これだけの緊張感を持って戦える機会は今後もそうそうないだろう。

 だから、この緊張も味わわなきゃもったいない。

 無意識に舌なめずりをしていた。

 

「よっ。久しぶりだなフィディオ。それになえも」

「……円堂君」

 

 ふと横に目をやる。

 イナズマジャパンは私たちに遅れて整列をしていた。

 その戦先頭の円堂君もこの緊張感を感じてるはずだけど、彼からはそれ以上に『楽しみ』という感情が伝わってくる。

 さすが、私の最強のライバル。

 

「今日は俺たちが——」

「私たちが——」

『——勝つ』

「ああ。勝負だ!」

 

 長い言葉はいらない。

 私たちは互いに視線を切って、光の世界へと足を踏み入れた。

 




 新必殺技はオリジナル技じゃありません。
 ヒントは、イナイレ2のヒデナカタの技といえばわかるでしょうか?
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