悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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忍び寄る影

 鉄塔広場へ続く階段を上っていくと、鈍い音が何度も聞こえてきた。

 まさか、この時間までやってるとはね……。

 階段を上りきり、奥にいる人物に声をかける。

 

「ヤッホー円堂君。こんな時間に練習だなんて精が出るね」

「ん……ああ、なえじゃないか! なんでこんな時間に?」

 

 円堂君はこちらに気づき、タイヤを止めてこちらに向かってくる。

 

「仕事のついでだよ。円堂君こそ、練習頑張るのはいいけど、身体休めとかないと試合のときに力が出せないよ?」

「いやぁ……ははっ、今日あんまり練習ができなくてついな……」

「練習ができてない? なんで?」

 

 はて……冬海はもういないし、今妨害はしかけていないはずなんだけど。いったいなんのトラブルが起きたのだろうか。

 

「実はちょっとした問題があって俺たちの監督……冬海先生がやめちゃったんだよ」

「それは知ってるよ。本当にごめんなさいね」

「ああ、それはもういいんだ。でもフットボールフロンティアに出るためには監督が必要らしくて、それでみんな必死になって新監督を探してたんだけど……なかなかやってくれるって人がいなくてさぁ……」

 

 はぁ、と大きなため息を円堂君は吐く。

 そういやフットボールフロンティアの規約にそんなものがあったな

 

 監督は副監督とは違って成人じゃなければならない。

 だからこそ私のようにチームの誰かを監督にするわけにもいかず、困っているということか。

 

 おそらく総帥はそこまで見越して冬海をけしかけたんだろうね。

 こんな陰湿なトラップをしかけるなんて、ほんと悪知恵が働く人だ。

 

「誰か目星はついてないの?」

「雷雷軒のおじさんが一番やってくれそうだったんだけど、すぐに断られちゃったんだよな……」

 

 雷雷軒? あの店員さんのことか! 

 もしかしたら円堂君はあのおじさんが何者なのか知っているのかもしれない。

 そう思い聞いてみると、

 

「前にあのおじさんがイナズマイレブンの秘伝書がある場所を教えてくれたんだよ。だからサッカーにも詳しいだろうなって」

 

 なるほど。

 円堂君の言葉を加えて、あの人がイナズマイレブン関係者であることは間違いないでしょうね。

 監督をやりたがらない理由はおそらく総帥を恐れているから。

 なんせイナズマイレブンを破滅に追いやったのは他でもない総帥なのだから。

 

「はぁ……そんなんで私たちとの試合に間に合うの?」

「今日鬼道にもそんなこと言われたな。でも大丈夫だ。間に合わせてみせる!」

「んっ、鬼道君が稲妻町に来てたの?」

「あれ、なえは知らなかったのか?」

 

 初耳だ。

 放課後はデスクワークに夢中になってたから、気がつかなかった。

 私が練習に加わったのは六時ころだから、その間に行っていたのだろう。

 

「あいつ、けっこう思いつめた表情してたけど……大丈夫か?」

「鬼道君はけっこうプライド高いからね。今までの勝利も総帥の手によるものだったんじゃないかと思ってナーバスになってるんだよ。それに、こんな汚い手で勝って妹さんを連れ帰っても胸を張れないなんて思ってるのかもしれない」

「妹? どういうことだ?」

「あれ、聞いてないの? 君のチームのマネージャーの春奈ちゃんと鬼道君は実の兄妹なんだよ」

「えっ……音無と鬼道が……!?」

 

 円堂君が目を見開いて戸惑いと驚きが混じったかのような声を漏らす。

 この様子じゃどうやら知らなかったみたいだ。

 二人の関係は今でも覚えている。

 孤児院時代のころから仲が良い兄妹という印象だった。

 お兄ちゃん大好きっ子だった春奈ちゃんならてっきり教えてると思ってたけど、なんかあったのかな。

 

「教えてくれ。二人が兄妹って、どういうことなんだ? 俺はサッカー部のキャプテンとして、マネージャーのことも知っておく必要がある」

 

 そう聞いてくる円堂君の目はまっすぐだった。

 本当はペラペラ他人に話すようなもんじゃないけど……まあ円堂君ならいいか。

 夜空を見上げて本人から聞いた話を思い出しながら、口をゆっくりと開く。

 

「鬼道君と春奈ちゃんの両親は昔、飛行機の事故で亡くなったらしくてね。二人はその後孤児院に預けられたんだ。そして別々の家に引き取られた」

「あいつらにそんなことが……」

「鬼道家は跡継ぎが欲しかったから鬼道君が欲しいのであって、妹の春奈を引き取る理由はない。でも鬼道君は諦めなかった。それでそのお父さんと約束したんだ。『三年間フットボールフロンティアで優勝し続けたら妹を引き取る』ってね」

「そんな……じゃあ俺たちが勝ったら二人は……」

 

 あ、やべっ、円堂君ってけっこう人のこと気にするタイプだったか……。

 彼は思いつめた表情を浮かべていた。

 鬼道君が負けたら二人は永遠に離れ離れ。

 そう思い悩んでいるのだろう。

 

「迷うことはないでしょ。フィールドに立ったなら、たとえ相手にどんな事情があっても全力でプレイする。それがサッカー選手の礼儀ってものだよ」

「でも、俺たちが勝ったら鬼道たちは……」

「だーかーらー、さっき言ったでしょう? 鬼道君はプライドが高いって。そんな手加減された上での勝利なんてもらって胸を張れると思う? 鬼道君も、結果はどうなろうと真剣勝負を望んでいるはずだよ。だからお願い、試合では全力でぶつかってあげて」

 

 今度は私の方から円堂君の目を見つめる。

 彼はしばらく考え込んでいたけど、覚悟が決まったのか、顔を洗うように両手でほおを叩いた。

 

「……ああ、そうだよな。俺、目が覚めたよ。全力のプレイには全力で応える! じゃなきゃサッカーにも失礼だしな!」

 

 よかった、どうやらいつもの円堂君に戻ってくれたみたい。

 彼は走り出し、近くに置かれていたボールを手に取る。

 

「せっかくだから撃ってこいよ! 俺、あれからスッゲー特訓したんだぜ! 今度こそ止めてみせる!」

 

 彼は並べられた二つのタイヤの間に立つと、ボールをこちらに投げてきた。

 足で受け止めるけど、すぐにそれを円堂君に返す。

 

「うーん、撃ちたいのは山々なんだけど、今日はやめとくよ」

「へっ、なんでだよ?」

「試合があるからだよ。私、お楽しみはとっておくタイプなの」

 

 冬海が消えた以上、雷門はきっと決勝のグラウンドにたどり着くだろう。暗部から新たに仕掛けようにも、最近の総帥の行動が仇となり警察のマークが強くなってきているためうかつに動くことができなくなっている。

 

 つまりは帝国対雷門の試合が実現する可能性が高いということだ。

 私としても試合はしたかったしね。

 結局のところ勝てばいいのだから問題はないはずだ。

 

「そっか。じゃあ試合のときに俺の特訓成果、見せてやるぜ!」

「ふふ、期待してるよ。じゃあね円堂君、試合の日にまた会おう」

 

 そう言って背を向け、鉄塔広場を下りていく。

 数日後には久しぶりの試合だ。

 さあ、今日ははりきって寝るぞー! 

 

 

 ♦︎

 

 

「……嘘でしょ?」

「なんだ、いくら貴様でもさすがに怖気付いたか?」

 

 帝国学園に帰宅してすぐ、私は執務室に呼ばれた。

 そして総帥から直接聞かされた宣告に、絶望に打ちひしがれていた。

 

「いや、内容はどうでもいいんだよ。ただ……今九時半だよ? 今から働くの?」

「……ちっ、そういえば貴様はそういうやつだったな。鬼道の反抗期を見たせいで失念していた」

「あのー、質問に答えて欲しいんですがー?」

 

 絶えず問い続ける私に総帥は顎を少しだけくいっと動かした。

 どうやらやれと言っているらしい。

 泣く泣くデスクに座り込み、パソコンを起動させる。

 

「あーあ、それにしても残念だなぁ。せっかく雷門と試合ができると思ってたのに、結局細工するんだもん」

「優れた司令塔というのは戦う前に勝ってるものだ」

「私司令塔じゃないからどうでもいいよ。どうせそのセリフ、鬼道君に言ったのをあまりにもかっこいいと思ったから私に使いまわしてるんでしょ? バレバレだから、そういうの」

「……ちっ」

 

 うわおっかねえ。

 今の舌打ちはマジだったぞ。

 あのグラサンの下は今ごろどんな目つきになってるのか気になるけど、パンドラの箱を開けるにも等しい行為なので忘れることにする。

 

 総帥は今ので懲りたのか、しばらく口を開くことはなかった。

 その隙に電話を耳に挟み、目的の会社までかける。

 

「あー、●●建築の方ですか? 帝国学園総帥補佐の白兎屋です。責任者の方を呼んで欲しいのですが……」

 

 電話の向こうで人を呼んでいる間にふと思う。

 今まで何度もやってきたけど、まさか()()()()()()を中学生に直接使うことになるなんてね。彼らには同情しちゃうよ。

 

 

 その後、電話は無事終了し、全ての仕事から解放されたのは零時ぐらいのことだった。

 私まだ風呂とか入ってないのに。

 どうすんだよ明日。絶対臭いって馬鹿にされる。

 

 そうは自覚してたけど、中学生にこの時間までの労働はなかなかきついわけで、ベッドに寝転がった瞬間に考えていたこと全てが泡のように弾けて、私の意識は深い水底に沈められていった。

 

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